どうしよう
「すぅ、、すぅ、、、、。」
「はー、落ち着け俺。一回落ち着くんだ。」
どうしよう。
とりあえず、この美少女の胸に向けて伸ばしかけていた手を引っ込めようか。
俺は今、非常に困っている。
どれくらいかと言うと、高校入試の日に寝坊した時くらいだ。
全ての元凶は、この、隣で寝ている色々な意味でとんでもない紫髪の美少女である。
とりあえず、こうなった経緯を説明しよう。
二時間前。俺は、お気に入りの喫煙所でタバコを吸っていた。
あそこは殆ど人が来ない穴場で、一人でリラックスできる最高の場所だ。
そんな俺の聖域に、奴はやってきた。
美しい紫の髪をした、発育の良い、中学生くらいの美少女。
そう、中学生くらいだ。
そんな美少女が、なんと喫煙所にやってきたのだ。
しかも、とても辛そうにしていた。
美少女が出しちゃいけないような声が聞こえてくる。
彼女は設置されていたベンチに座ると、目にも止まらぬ速さでライターを取り出し、タバコを吸い始めた。
タバコを吸っている時の彼女の幸せそうな表情といったらもう、それはそれは恍惚としていて可愛かった。
でも、中学生がタバコを吸うのはいけない。
そう思って彼女に非難の視線を送っていると、「どうしたの?」と聞かれたので、思わずキレ気味に答えてしまった。
というか、この子はなんなの?女の子だよな?
イケボ過ぎないか!?
しかも成人しているらしい。
あの外見で!?
まぁいい。
そんなわけで話していると、急に後を頼むという旨のことを言われて、困惑しているうちに彼女が倒れた。
本当に訳が分からないが、多分熱中症だろう。
熱中症になるまでタバコを吸うとは凄い執念だなと感心しつつ、俺は彼女を近くのコンビニのイートインスペースまで運んだ。
救急車を呼ぼうか悩んだが、彼女の表情が次第に穏やかになってきたので、とりあえず様子を見ることにした。
そこからしばらく時間が経過し、彼女は今、俺の隣で幸せそうに寝ている。
時々ムニャムニャと寝言を言うので、その度に起きたのかと思って期待してしまう。
「はぁ、、早く起きてくれないかな。」
充電し忘れていたのでスマホの電池が無い。
スマホが使えないとなると、本当にすることが無くなるのは、現代人の良くない点だと思う。
暇なので、自分の金髪をくるくると巻いて遊ぶ。
「そろそろ長くなってきたなぁ、、切らなきゃ。」
今の長さだと、乾かすのに非常に時間がかかる。
そして、髪を乾かしている間に汗をかいてしまい、もはや風呂に入った意味が無くなる。
結構虚しいから嫌だ。
「ってか、本当にすること無いな!?」
ちょっと字数が少なすぎるぞこのままじゃ。
って何考えてんだ俺、、字数?
まぁいいや。SNSでも眺めよう。
俺は、自分のアカウントを開き、フォロワーから届いたメッセージを眺めて、時には返信をしていく。
ちなみに、フォロワー数は57万人だ。俺みたいな女装系配信者の中では多い方だと思う。
なんで女装系配信者を始めたかって?
そりゃあもちろん、承認欲求を満たしたいからだ。
俺は元々顔が女っぽくて、声も高かったので、これはイケると思った。
それで、一回ガチで化粧をして、持っていた緋色のカラコンを付けて配信してみたら、どっかの有名人か何かに似ていると話題になり、結構バズった。
そして、思ったより有名になった。
もちろん調子に乗った俺は、毎回化粧をして配信するようになった。
今では、【限りなく美少女に近い男】と呼ばれるくらい、女装を極めてしまっている。
もう俺、女でもいいんじゃないか?
最近女の子を見てもドキドキしなくなったし、何ならイケメンを見たらドキドキするし、本格的に女になってきたかもしれない。
多様性の時代だし、友達には受け入れてもらえるだろう、、多分きっと。
なんて考えていると、隣で寝ていた例の美少女がムクっと起き上がった。
「、、んー?」
「お、起きた?」
「あー、ありがとね、運んでくれて。いやー、危なかった。一人だったら多分死んでたよ。」
「うん、だいぶ危ないから、次からそういうことはしないでね。」
い、一応友達だしな、、?
死んでほしくはないんだよ。
「分かったよ。」
おぉぅい、変にイケボで言うな!!
ちょっとドキッとしたわ!
「ところで、さっき自分のことを『俺』って言ってたけど、君は男なの?」
はっ?
「いや、おまっ、、えっと、起きてたの?」
「うん。」
いや、『うん』じゃないが?
俺がどうしようか暇だなとか思い悩んでた時間は何だったんだ!!
「起きてたら教えてくれたら良かったのに。」
「いやー、ちょっと反応を見てみたくて。」
「おい」
「で、男なの?」
「あっ、、それは、えーと、、、」
待てよ、どうやって誤魔化す?
走って逃げるか?
でも俺は50m走が13秒の男だ。
逃げ切れるとは思えない。
よし、諦めよう。
「おう、男だぞ?」
見た目はめちゃめちゃ金髪美少女だけどね?
「へぇ、、声、可愛いね。」
「~~っ!?、、あ、ありが、、とうっ、、、。」
なななななんだ今のイケボはっ!!
美少女の口から出ていいものじゃないぞあれは!!
というか、何で俺はこんな女子みたいな反応してるんだ!?
待て、なぜ俺の心臓はドキドキしている?
心なしか顔が熱い気がするんだが、、あれ、耳も赤くなって、、、
おい、噓だろ、、、?
俺、恋に落ちたかもしれない。