【YuKi】
異変を感じたのは、マッチが中盤に差し掛かった頃だった。
上位チャット:何か敵が居ないような?
上位チャット:でも残り人数は普通なんだよなぁ
上位チャット:どうなってんだろ
上位チャット:バグか?
「確かに、おかしいね。」
”終末の嵐”スレスレに飲み込まれないスレスレの所を移動しているとはいえ、この草原エリアで敵の姿が見えないというのは、少し不自然だ。
「皆ジャングルの方に行ったのかな?」
疑問に思いながらも、とりあえず安全地帯に行くことを優先する。
上位チャット:やべぇマジで居ないじゃん
上位チャット:何か怖いなw
上位チャット:遺品ばっかり転がってるし
普段なら、今くらいには激戦区になっているのがこの草原エリアなのだが、敵影が全く見えない。
それどころか、もう既に倒されているようで、物資が点々と転がっている。
そう、点々と。
一か所に物資が固まっていないということは、乱戦にならなかったということだ。
戦闘が始まるとすぐに漁夫の利を狙って周囲から敵がやってくるこの草原エリアでは、戦いは普通乱戦になる。
だが、こういう風に乱戦になっていないということは、何か異変が起きているに違いない。
たまたま乱戦が起きなかった可能性もあるが、もう一つの可能性の方が高い。
それは、圧倒的な力を持つ一つのチームが、他のチームを各個撃破していった可能性だ。
「もしかしたら、世界ランカー級のチームが居るのかも。」
上位チャット:うぉぉ面白くなってきた
上位チャット:ユキちと世界ランカーの勝負は熱い
上位チャット:いいねぇいいねぇ!
「ちょっと集中します。口数が少なくなるかも。」
上位チャット:把握
上位チャット:把握
◆◇――――――――◆◇◆――――――――◇◆
【”終末の嵐”の移動が開始します!】
アナウンスと共に”終末の嵐”がゆっくりと移動し始める。
私たちのチームが居るビルは、残念ながら早めに安全地帯から外れてしまうので、移動しなければならない。
向こうにあるビルが丁度、最後まで安全地帯になるだろう。
あそこに1チームいたはずなので、手痛い迎撃を受けないように注意する必要がある。
「ふぅ、、行こっか。」
上位チャット:ごーごー!
上位チャット:結局世界ランカー級には合わなかったな
上位チャット:居なかったんじゃね?
上位チャット:もう死んだ説
上位チャット:いや、まだワンチャンある、、
私たちのチームは、ビルを出てゆっくりと移動を開始する。
向こうの最後まで安全地帯になるビルでは、既に乱戦が発生しているようだ。
私は、物陰に身を潜めて、スナイパーのスコープを覗いて乱戦の状況を確認する。
「うわぁ、、凄いことになってる、、、。」
どうやら、私たち以外の3チームが、あそこで一挙に戦闘を行っているらしい。
敵味方が入り混じっていて、訳が分からない状況になっている。
あそこに行くのは嫌だなぁ、、と思って見ていると、何か素早い動きの物体が、向こうのビルの上層から窓を突き破って出てくるのが視界に入った。
上位チャット:ん?
上位チャット:何か通ったぞw
上位チャット:え、、えぇ!?
「あれは、、何、、、?」
恐らく、ピストルっぽい銃が連射される音が、やたらと大きく聞こえてくる。
普通のピストルなら、あそこまで発砲音が響くことはないのだけれど、、、
「あれはっ、、、変態機動っ、、」
そこで私の脳は、一つの結論に辿り着いた。
やたらと発砲音が大きいピストル、素早い動きの物体、、、恐らくだが、あの武器を使っているプレイヤーが居る。
余りにも尖った性能であり、扱いが難しすぎるため殆どネタ武器と化している、デュアルピストルだ。
しかも、あの動きが出来るということは、エクストラモードだろう。
上位チャット:おい、、あれって、、、
上位チャット:待てよ待てよ待てよ!?
上位チャット:あの機動はっ
上位チャット:デュアルピストルだとぉ?
上位チャット:おいおいおいおいおいw
バァァァァン!!バァァァァン!!
デュアルピストルの発砲音と共に、先程と同じ物体が、高速移動をする。
狭い物と物の隙間を利用し、まるで瞬間移動しているかのような高速移動を行い、次々と敵を屠っていく。
その姿は、二年前に突如姿を消した、とあるプレイヤーを彷彿とさせるものであった。
「空の王、、【Phantom】っ!!」
上位チャット:だよなぁ!www
上位チャット:もう【Phantom】にしか見えねぇわ
上位チャット:あの機動はあの人にしか出来ねぇんだわ
上位チャット:え、【Phantom】帰って来たの?
上位チャット:失踪してたよな、、
上位チャット:おい、トレンドに載ってるぞ!!
上位チャット:は?【Order of Phantoms】完全復活だとwwwww
バァァァァン!!バァァァァン!!
「っ!!、、来るっ!!!」
【Phantom】は、空中を猛スピードで移動しながら、私の方へとやって来た。
私は、得意のライトマシンガンを取り出して、応戦する。
「クソっ!当たらないっ!!」
バァァァァン!!バァァァァン!!
味方の3人も集まって来て、必死に【Phantom】に弾を当てようとするが、殆ど避けられてしまう。
そもそも、あれほどの高速移動は、私のマウスの感度では手に負えない。
私たちは、物陰を駆使して【Phantom】の銃撃を避けながら攻撃するが、一人、また一人と倒れていく。
今はもう、私しか残っていない。
「何でっ、、そんな動きが出来るのっ!?」
せめて一矢報いようとする私の銃撃を、デュアルピストルのノックバックで飛び上がって避けた【Phantom】は、私に向けた右手のピストルの引き金を引いた。
バァァァァン!!
私のキャラクターの頭が見事に撃ち抜かれる。
【Game Over】
上位チャット:あっ
上位チャット:あの【Phantom】相手によく頑張ったゾ
上位チャット:えろいえらいえろい!
上位チャット:ナイストラーイ
上位チャット:お疲れ様
コメント欄が慰めで溢れかえるが、私の目には入っていないかった。
「はぁぁぁぁ!?強すぎでしょ!!ありえないんだけどっ!!」
ダァン!!ダァン!!ダァン!!
そして私は、この『ユキのゲームch』の代名詞とも言える特大台パンを、3発ほど机に向けて放った。
「次よ、、次、大会で会ったら、ただじゃおかないんだからっ、、、。」
その後私は、うるさいと妹に文句を言われ、家で大乱闘が発生するのであった。
11話の最後の部分を修正しました。
高評価もお願いします(´◉ᾥ◉`)




