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疲れた時、ちょっと笑いたい時に読んでいただけたら嬉しい作品達

詐欺みたいな自動販売機で商品を買い、イラっとしたけど、最終的には、わらしべ長者みたいになった

作者: はやはや

 今日も暑い。ここ数年、夏の暑さが年々酷くなっているような気がする。年を重ねたせいではない。地球温暖化は確実に進んでいると実感する。



 谷屋美菜子たにやみなこは、駅まで歩きながらそう思った。歩いている間にも、どんどん汗が吹き出す。まるで頭から、バケツの水をかぶったようだ。



 残念ながら、駅の手前にある信号に引っかかった。四車線が交差するその交差点は、止まる時間がイライラするほど長い。



 そのイライラ解消のために、信号が変わるまでの間、時間を測ってみたことがある。その結果、おおよそ一分半で変わることを発見した。



 今日も測ってやろうと思った時、近くに自動販売機を見つけた。その機械の側面には、〝最安値70円!〟と書かれている。

――あれ? こんな所に自動販売機なんてあったっけ? しかも70円って……

 自動販売機に吸い寄せらるように近づいた。



 それは見たことのないタイプのものだった。

 ボタンが一つしかない。そして、通常なら商品が並べられている部分には、何も入っておらず、その代わりに写真が入れられていた。


 写真の上には、こう書いてある。

【何が出るかは運次第! 今日の運勢を試してみませんか?】

 その文章の下に、この自動販売機の中に入っているのだろう商品の写真があった。


 お茶、スポーツドリンク、といった70円で買えても、さほどラッキーとは思わない商品に紛れて、果汁100%を謳っている高級フルーツジュース、最近発売され話題沸騰中のカフェオレの写真があった。

 それらは、他の自動販売機で目にした時、180円はしたはず。

 もし、そのどちらかが当たれば、2倍以上お得だ。


 美菜子は早速、財布を取り出し、70円を入れボタンを押した。


――ガコン

 と商品が出てきた。わくわくしながら取り出すと、見たことないパッケージの緑茶だった。

 自分で買っておきながら無性に腹が立つ。

 お茶なんかいらないんだよ、水筒持ってんだよ、と心の中で毒づく。


 自動販売機を蹴飛ばしてやろうと足を振り上げた時、はたと思いだした。

 少し前、自動販売機に取り付けられた防犯カメラのおかげで、とある事件の犯人が逮捕された、というニュースをテレビで見たことを。


 器物損壊で捕まるのは嫌だ。

 美菜子なら、こんな自動販売機、一蹴で凹ませることができた。なぜなら、キックボクシングを習っていたから。

 ストレス発散のために始めたのだが、どうやら尋常ではない才能があるらしく、習い始めて一ヶ月後にトレーナーに引退をさせてしまうほどの、脱臼を負わせたのだった。

 その件があって依頼、誰もトレーナーを引き受けてくれない。


 振り上げたかけた足を、そっと下ろす。

 気がつくと、信号が青に変わり、点滅し始めていた。



 全速力で走って渡りきる。あーなんかモヤモヤする、と思った時だった。


 目の前に親子がいた。母親は金髪で、ピンヒールを履き、あり得ないほど丈の短いスカートを履いていた。

 その足元には、4歳くらいだろか。モヒカンっぽい髪型にカットされた男の子がいた。

「喉かわいたぁぁーっっ!!」

 男の子はそう喚いて地面に座り込む。ピンヒールの母親は、スマホを見たまま「気のせい!!」と叫ぶ。


――いやいや、気のせいって。こんなに暑けりゃ、喉も渇くでしょうよ……

 美菜子は不憫に思いながら、地面に座り込むモヒカン男児に目をやった。母親は相変わらず、スマホに夢中だ。

 美菜子は左手に持っていた緑茶を思い出す。


 飲む気にならなかったものだ。それなら、この喉の渇きを、〝気のせい!〟にされている幼子にあげるのがいいのではないか。


 恐る恐る母親に声をかける。

「あのぉ」

 金髪がチラリとこちらを見る。何だよ、とその顔には書いてある。幼子を助けたい一心で、言葉を続ける。

「これ、よかったら。喉渇いたって言ってるし……」

 ペットボトルを差し出すと、意外にも「あ、すいません」と素直に金髪は受け取った。


 モヒカン男児は目を輝かせている。そんなに切迫詰まっていたのか。

 喜んでお茶をがぶ飲みする男児に満足しながら、その場を立ち去ろうとした時だった。


「これ、よかったら。何か結構いいもの当たるみたいです」

 金髪が差し出したのは、角がよれた小さな長方形の紙だった。

――スーパーりもり福引券

 と、そこには印字されていた。


〝スーパーりもり〟は駅前にある。美菜子もたまに寄る。個人のスーパーであるにも関わらず、結構人気がある。いつ行っても人が多い。


「あ、ありがとうございます」と、戸惑いながらも、美菜子は、金髪から福引券を受け取った。


 そして、その足でスーパーへと来た。

 福引は入ってすぐの場所で開催されていた。

〝結構いいもの〟は何なのだろう。そう思い、商品が書かれた一覧表を見る。


 三等 スーパーりもり お買い物券 1,000円分

 二等 現金掴み取りチャレンジ券

 一等 W交響楽団鑑賞ペアチケット


 福引された方全員に、当スーパーで使える、100円分の金券をプレゼント!


 とある。外れても100円はもらえるわけだな、と理解し美菜子は福引きの列に並んだ。



 五分程して美菜子の順番がきた。福引といえばこれでしょというような、ガラガラがある。

 福引券を渡し、美菜子は一回分のガラガラのチャンスを得る。


 クラシックには興味がないので、二等か三等を()()狙う。一応なのは、美菜子はこれまで福引に当たったことがないからだ。


 ぐるりとガラガラを回した。

――パランっ

 と音がしてトレイに小さな玉が落ちる。

 それは紫色だった。


 カラン! カラン! カラン!

 福引売り場にいたおじさんが鐘を鳴らす。


――え? まさか!

 美菜子の胸は高鳴る。


「おめでとうございます!! 一等が出ましたぁっ!」

 興奮気味におじさんが叫ぶ。そして、渡すのを惜しむように、細長い封筒に入った交響楽団のペアチケットと100円分の金券を渡す。


「どうも……」と受け取ったものの、あまり嬉しくない。

 クラシック興味ないんだよ。寝ちゃうんだよ と、またしても心の中で毒づく。


「いいなぁ。羨ましいなぁ」

 福引担当のおじさんは、クラシック好きなのか、しきりにその言葉を繰り返す。まるで美菜子が「じゃあ譲ります」と言うのを、待っているかのようだ。

 そうなると、譲ってやるもんか……と思う。

 また、モヤモヤしながらスーパーを出た。


 そこで、ふと思いつく。このチケット、売れるんじゃないかと。

 スーパーの隣にチケット買取の店があることを思い出す。駅に向かおうとしていた足を止め、チケット屋を目指す。


 寂れた店舗のガラスケースの中には、グルメ券や映画、美術館のチケットなんかが入っている。

 店番をしているのは、年配の男性だった。美菜子に気づいても、何も声をかけない。


 少し緊張したものの、思い切って尋ねた。

「あの! これ買取してもらえますか?」

 チケットが入った封筒を、ガラスケースの上に置く。

 おじさんはそれを手に取り、中からチケットを取り出した。それを見て目を丸くし、「本当にいいの?」と言う。


「W交響楽団だよ?」「一生に一度聞けるかどうかだよ?」「後悔するよ?」


 立て続けに確認するようなことを言われ、美菜子は一瞬怯みそうになった。

 でも、決めたのだ。売ると。


「いいんです!」

 高らかに宣言するような声になった。

 その様子を見たおじさんは、わかったというように頷き言った。

「本当はいけないんだけど。僕が個人的に買わせてもらうよ」


 しばらくおじさんは考え「これでどうかな?」と、3万円を差し出した。

――3万!! 1枚が15,000円ってことか!!

――そんなにすごいのか。W交響楽団!!


 美菜子は声にならず、ぶんぶんと首を縦に振った。震える手で3万円を受け取る。財布にそれをしまい、駅へと向かった。


 電車に乗って、自動販売機のところから振り返る。

70円が3万円になった……

 今日の私の運勢は最高なのかもしれない。

 


 毎日、暑いですね。水分補給、欠かさずに!

 読んで頂き、ありがとうございました。


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