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第十六話

「あ、あの……」


 カルラが説教という名の心配をされている中、タイミングを見計らったかのようにフードを被った少女が声をかけてくる。

 それによって我に返ったカルラは慌ててアレンの手から逃れ、少女に向き直った。


「ご、ごめんなさい、あなたを放置して」

「いえ、私の方こそご迷惑をおかけして……それと、助けていただいてありがとうございました」


 少女は手を下ろしてローブの裾を摘もうとしたが、寸前で手を止めた。

 恐らく今の自分の格好がドレスではないと気づいたのだろう。それだけで、少女がどこかの貴族の令嬢なのだと窺える。


(まぁ、いち平民があの人数の男に追われるとは思えないし、薄々予想はいたけど……)


 予想はしていたが、いざ実際にそうだと分かると気が引けてしまう。

 貴族というしがらみからようやく解放されたかと思えばの矢先である。これから平民として生きていくつもりだったのに、もう他国の貴族と関わってしまうとは。

 自ら首を突っ込んだことではあるが、どうしても辟易してしまう。


「自己紹介が遅れました―――」


 少女はフードを取る。

 艶やかな白髪が姿を現し、隠れていたあどけなくも美しい顔立ちが露になった。

 カルラは思わず息を飲んでしまう。姉も大概美しかったが、目の前の人間も劣ることはないほど美しい。


「ウルデラ公爵家息女、アリス・ウルデラと申します」

「……公爵家」


 貴族の爵位はどこに行っても同じだ。

 公国も、王国も。ならば、公爵家と名乗ったということはこの国で王家に次ぐ爵位の持ち主だということ。

 もちろん、以前までカルラがいた家よりも爵位は高い。


(っていうか、どうして公爵家の人間がこんな国境付近にいるのよ)


 視察だろうか?

 それとも、ここ一帯は全て公爵家の管轄なのだろうか?

 もう少し調べておけばよかったと、自分の知識量のなさに少しため息をついてしまった。


「……貴族様とは知らず失礼いたしました。私はカルラと申します」


 後悔していても仕方がない。

 カルラは膝をついて自分の名前を名乗った。


「そんな、頭を下げないでください。恩人にそうさせてしまうと、私の肩身が狭くなってしまいます」

「ですが……」

「やめてください」


 物言わせぬ言葉にカルラは押し黙る。

 だが、そう言われてしまえは頭を上げないと逆に失礼になってしまう恐れがある。

 カルラは仕方なく頭を上げて立ち上がった。


「そちらの執事様・・・も助けていただきありがとうございます」

「……もったいなきお言葉」


 カルラの行動を見ていたアレンは胸に手を当てて軽く頭を下げる。

 その時、カルラはふと疑問に思った。


(アレンが執事だと知っていたの……?)


 アレンの格好は現在誰でも着ていそうな平民の服装だ。執事の証である燕尾服は着ていない。

 にもかかわらず、アリスは迷うことなく執事だと口にした。

 どう考えても予めアレンが執事だと知っていたようにしか思えない。


(……いや、お嬢ってアレンが言ったからそう思っただけかもしれないわね。それに、立ち居振る舞いはやっぱり執事らしいもの)


 疑問を振り払い、とりあえず現実へと戻る。

 今は深く考えるより目の前のご令嬢のことだ。


「それにしても、どうして追われていたのですか?」

「私にもよく分かりません。ふと気がついた時にはあとをつけられていたので、逃げようとしたら追いかけられてしまったのです」

「……なるほど」


 貴族の拉致未遂をするなどよくある話だ。

 身代金目的で誘拐したり、それこそ違法な売買の商品として扱ったり。

 金に困っているゴロツキや野盗であれば、襲ってくる理由としては十分で、カルラのいた王国でもそういう話はよく聞いた。


(って思えたら楽なんでしょうけど……)


 カルラは顔には出さず再び内心で考え込む。

 せっかく疑問を取り払ったのに、今度は違和感がカルラを襲う。


(フードを外さないと貴族のご令嬢なんて分からないはず。何せ、貴族らしい身なりなんてしていないもの。もしかして逆にフードがお忍びだと山を張られる要因になった……?)


 護衛もつけていない状況で公爵家の令嬢が一人で出歩くなどお忍び以外にはあり得ない。

 あからさまに顔を隠していることから、誰にもバレたくないというのは分かる。

 だからこそ、ゴロツキに悟られてしまったのか? いや、それでもどこか違和感が残る。


 ───辻褄が合うようで合わない。

 カルラは厄介な人に絡んでしまったと、内心大きなため息を吐いた。


「お二人共、これから少しお時間はありますか?」

「……はい、これから帰宅する予定でしたので」

「では、是非お礼をさせてください」


 カルラの心情など無視して、アリスは提案を始めた。


「いえ、大したことはしていませんので───」

「ふふっ、そうおっしゃらないでください。恩人に対してお礼をしないのは公爵家の名折れになってしまいます。どうか私を助けるためだと思って、お礼させていただけませんか?」


 断りたかったカルラだが、お淑やかな笑みを浮かべるアリスに言葉を詰まらせる。

 そこまで言われてしまえば、断るわけにもいかなくなった。

 公爵家の名前を出されてしまえば、これ以上は不敬にあたる。

 故に、カルラは押し黙ってしまったとはいえすぐに肯定せざる得なかった。


「……かしこまりました」

「ありがとうございます、カルラさん」


 では行きましょう、と。

 アリスは路地裏の先を歩き始める。

 仕方なく予定が決まってしまったカルラは聞こえないよう何度目か分からないため息を吐いてあとを追った。

 その時、横にいるアレンが小さく耳打ちする。


「……気をつけてください、お嬢」

「どうしたの」

「奴ら、武器を何一つ持っていませんでした」

「……最悪だわ」


 貴族を攫おうとするなら武器は必須だ。

 途中でアリスを見つけて誘拐しようと決めたとしても脅す道具ぐらいは必ず持ってくるはず。

 たとえ傷つける予定がなかったとしても、いち令嬢が武器をチラつかされてしまえば簡単に大人しくなると分かっているから。


 でも持っていなかった。

 つまり攫うつもりはなかったのだろう。恐らく、誰かから依頼しか受けた。それも、攫うつもりもなくアリスを追いかけるように。じゃあ、どうしてそんなことを? ここから考えられる中で一番可能性が高いのは───


(目的は私にお礼を受けさせるため《・・・・・・・・・・》)


 やられた、と。

 カルラは苦笑いを浮かべた。




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