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2.不思議な螺旋

「見てごらん」

 駆け寄ったディルに、司祭は相変わらず上機嫌な様子で何かを差し出す。その手の上には、掌からはみ出しそうな大きさの何かが乗っていた。

「……石?」

 ゴツゴツとした外見の少し扁平な灰色の物体は、一見してそうとしか見えない。

 司祭はにんまりと笑い、手の角度をわずかに変えて、石の上面をディルの方に向ける。

 すると薄暗い室内をわずかに照らす陽光が、その表面に当たり何かを浮かび上がらせた。

「あ……」

 思わず声をあげる。

「何か見えたかい?」

「模様……? あれ、でも盛り上がってる。渦巻きみたい……って、うわ! これ蝸牛かたつむり!?」

 それにしてはあまりに大きい造形が石に半分埋まるようにしてくっついているのを見て、ディルは飛び退すさった。

 その反応に司祭はさもおかしげに笑いだす。

「ディル、君はいかにも王都育ちだねぇ。これは石だよ。這いずってきたりしないから安心しなさい」

 気遣うように言われ、ディルは恥ずかしくなって反論した。

「蝸牛なんて怖くないけど! でもそれ、すごく大きいからびっくりしただけで……」

「おや、そうだったのか。……ふむ、君には生き物に見えるということかな?」

「え……」

 問われて、ディルはあらためてその不思議な石を覗き込む。

 石の上に浮かび上がった模様は、驚くほどに美しい螺旋を描いていた。咄嗟に蝸牛を連想してしまったものの、それよりはるかに大きく、表面には規則正しい凹凸おうとつが文様のように並んでいる。

 出来の良い装飾とでも言ったほうが納得できるくらい、完璧な造形だった。それがなんの変哲もない石から生えている……いや埋め込まれている、と表現したほうが妥当だろうか。

「……うーん、誰かが彫った……とか……?」

 とは言えこんなに精緻な彫刻など見たことがない。

 司祭はどうにも悪童を彷彿とさせる笑みを浮かべた。

「まあ、自分で彫ったと言って売りつけてきた石工がいたから、言い値の十分の一に値切って手に入れたのだけどね」

「じゅう……?」

 言葉の意味が分からず、ディルは眉根を寄せて首を傾げる。

「十分の、一。まだ難しいかな。そのうち教えてあげよう。どんな課題を出したらいいかな……君が解けるか楽しみだ」

 何やら不穏極まりない。まだ先のこと、とディルは一抹の不安を心の片隅に追いやって、石を見つめた。

「司祭さまは、そのひとが彫ったとは思わなかったの?」

「ディルは察しがいいね。私は以前、同じものを見たことがあるのだよ。東の方を旅していて、ピレスラムの石切り場に立ち寄ったときだったな。なんと、切り出した岩の断面にこれがくっついていたんだよ」

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