表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ダブり集

霊感少女

作者: 神村 律子

 私は小学六年生。名前は箕輪まどか。


 近所でも可愛いと評判だが、男子にはあまり人気なし。


 何故なら、私は幽霊が見えちゃう美少女だからだ。


 自分で「美少女」とか言うと嘘臭いけど、本当なんだから仕方がない。


 疑う人には写真を送りたいくらいだ。




 今日も登校途中に若い女性の浮遊霊に声をかけられた。


 霊感がない人には私の悩みは理解してもらえないと思う。


 霊には、「見えちゃう人」が確実にわかるのだ。


 だからいくら見えないふりをしても、


「てめえ、何無視してんだよ!?」


と毒づかれる。


 無視したからと言って、私には咎められる謂れはないのにね。


「鬱陶しいから、向こうに行って」


 私は立ち止まってその浮遊霊に言った。すると彼女は悲しそうな顔をして消えた。


 私はホッとしてまた歩き出した。


 ところが、「お楽しみ」はこれからだったのだ。




 教室に着くと、私はギョッとした。


 さっきの浮遊霊がいるのだ。


 しかも、私が密かに思いを寄せている男子、牧野君のそばに。


 え? 普通美少女は思いを寄せられる設定が多い?


 別にいいでしょ、私が思いを寄せても!


 私はツカツカと浮遊霊に近づき、


「あんた、何でこんなところにいるのよ? 出て行きなさいよ」


 私の突然の大声に、牧野君がビビッたのは言うまでもない。


「な、何、箕輪さん? 僕が何かした?」


 牧野君は震えながら尋ねて来た。私はサッと笑顔になり、


「ああ、違うのよ、牧野君。貴方に言ったんじゃないの。ここにいる霊に言ったのよ」


 その瞬間、クラスのみんなが教室を逃げ出してしまった。


 私はその素早さに声も出なかった。


 


 そして。


「ねえ、あんた、どうして私につきまとうのよ?」


 私は誰もいなくなった教室で、霊とサシで話した。


「貴女に私が見えるから」


「でも私はあんたの力にはなれないよ」


「いえ、なれるわ」


「どうしてそう言い切れるの?」


 浮遊霊の妙な自信に私は疑問を持った。


「それは・・・」


 その時、先生がクラスのみんなを引き連れて教室に入って来た。


 そのため、浮遊霊は窓から出て行ってしまった。




 私はこってり先生に叱られた。


 妙な事を言ってみんなを怖がらせるなと。


 いやいや、私が怖がらせたんじゃなくて、みんなが勝手に怖がっただけだから。


 そう言いたいのは山々だったが、これ以上何か言われるのは嫌なので、やめておいた。




 結局浮遊霊はその日は現れず、次の日も、次の日も現れなかった。


 どうしたのだろう?


 諦めて違うところに行ったのならいいのだが。


 そんな心配をしている自分に驚いた。



 そしてさらに次の日。


 また登校途中に彼女が現れた。


「何よ。また来たの? 私には何もできないよ」


「できるわ。一緒に来て」


「嫌よ」


「なら、牧野君に一緒に行ってもらうわ」


「何ですって?」


 こいつ、意外に狡賢いのかも。


「わかったわよ。でも、時間あまりないからね」


「ええ」




 私は通学路から少し外れた空き地に来ていた。


「あの空き地の隅のドラム缶の中に私はいるわ。警察に知らせて。犯人は私の元彼よ」


「ええ!?」


 私は霊は怖くないが、死体は怖い。


「わかった。すぐにお兄ちゃんに連絡するわ」


 私のお兄ちゃんは県警の鑑識課に勤務している。


「だからなの? だから私に頼ったの?」


 私は疑問が氷解した気がして、彼女に尋ねた。


「違うわ」


「え?」


 彼女はとても嬉しそうに私を見た。


「貴女は、口は悪いけど、本当は優しい子だって思ったからよ」


「・・・」


 私は照れ臭くなって俯いた。




 私の霊感を知っているお兄ちゃんは、すぐに現場に来た。


 そして彼女の言った通り、遺体が発見され、犯人の元彼もすぐに確保された。



 その日、私は牧野君と一緒に下校していた。


 殺人事件を解決した私をみんなが褒めてくれ、先日の事を詫びてくれた。


 私は牧野君にコクられ、付き合うことになった。


 これも彼女のおかげなのかな?


「あ」


 私は彼女が道の向こうに立っているのに気づいた。


「ちょっと待っててね」


「え?」


 キョトンとする牧野君を尻目に、私は彼女に近づいた。


「ありがとう、まどかちゃん。貴女の事は忘れないわ」


「わたしこそ、お礼を言わなくちゃ。貴女のおかげでいろいろいい事あったし」


 私はチラリと牧野君の方を見た。彼女は微笑んで、


「じゃ、私、行かなくちゃ」


「え?」


 私はその言葉に言い知れない寂しさを感じた。


「もう、会えないの?」


「何十年後かにまた会えるわよ」


 彼女は屈託のない笑顔で言った。


「そうね。でもその時は私、おばあちゃんだ」


 私は涙を拭いながら言った。


 彼女は、


「本当にありがとう」


と言い、光に包まれて天に昇って行った。


「さようなら」


 私はいつまでも手を振り続けた。牧野君の存在を忘れたまま。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 牧野くんの立ち位置微妙ですねw でもよいお話です。 これ中編ぐらいにもできますね。 僕もホラー書きますが、どうもラストはみんないいヤツにしちゃうんですよね。 なのでこういうお話大好きです!…
2011/01/24 21:47 退会済み
管理
[一言] 地の文は小学生が書いているようには見えず、違和感があります。会話文はいいと思います。 ふつうの小学六年生を主人公とするなら、地の文はもっとひらがなを多くして、小学生の目線で主観的に書く必要が…
[一言] 神村先生の作品にしては珍しく、ほんわかやさしいオーラの漂う作品でした。 最後にいつものスパンと読者の首を切るような落ちはないですが、私はこういう作品も好きです。 それではまた来ます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ