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魔王の体のつくりかた  作者: おこわ
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パンケルキ

「こほん。じゃあ、とっとと城に帰ろう」


「そうですね。割と深くまで潜りましたから迷わないようにしてくださいよ、特にぴぬ子」


「わ、分かってるわよ……。ここから朱雀宮までどのくらいなの?」


「安心してください。道なら分かるので付いてくるだけで良いです」


ーー突然だがこの世界には、知能を持った動物、つまり人族と、知能を持った魔物、つまり魔族が居る。

両文明とも同じ時期に発生、発達したため、両者の違いはほとんど無いとされている。それでも、生態系の違いによる僅かな違いから軋轢は絶えないのであった。

これから少女たちが帰るのはそんな世界の魔族の地。朱雀宮と呼ばれる、かつての魔王が住んでいた宮であった。

朱雀があるなら当然他の四神もいる。魔族の土地は、その四つの拠点からなる魔王城によって統治されていた。


「ふぅ……。この部屋、ここまで厳しく警備する必要あるのかしら?たった十メートル進むのに何個扉をくぐったと思ってるの?」


朱雀宮の地下の部屋で、探検から帰ったぴぬ子一行が両手に素材を抱えてへたりこんでいた。

存外多きいマイマイは少女たちには重労働で、一キロ弱の道のりが限界だった。


「仕方ない。私たちが作ろうとしているものを考えれば当然だよ」


「ほんとですよ、全くふざけてます」



「ーー魔王の体をつくれだなんて」



その一言で、場の空気が一瞬固まる。

そう、この少女たちは、魔王の体をつくろうとしているのだ。

とても荒唐無稽な話。一国の姫であるぴぬ子ならまだしも、平民である二人には想像もつかないものらしい。


「……。なあぴぬ子。本当にこれで魔王がつくれるのか?」


「つくれるはずよ。スノレアが言ったんだから間違いないわ」


「ふぅーん。そんなに信用出来る人なんですか?今までの感じ、そこまでなんですが」


「もちろん。私の数少ない友人だもの、いい子よ」


「それで、スノレアは何と?」


「えっとね、魔族の蘇生には魂と肉体が必要らしいの。魂の維持はスノレアの十八番らしくて、肉体は苦手だから任せるって。素材の組み立ては他の魔物に専門がいるから心配しなくて良いらしいわ」


「なら素材をさっさと置いて部屋に帰ろう。スノレアに人族のパンケルキを味わわせてやろうじゃないか。二人も私の料理を楽しみにしていろ!」


ミラの料理で全て忘れる現金な二人は、次の瞬間にはもうパンケルキの事しか頭に無かった。

……幸せな娘たちであった。


場所は変わり、魔王城朱雀宮。

ザシュッ!プチッ、プチピチッどろり……。

ザク、ザク、ブシャぽちょん……。

どろり……。ザシューー。


「ミラ?!一体扉の向こうで何が起きているんですか?!大丈夫ですか?!助けは必要ありますか?!返事してください!!」


「そうよミラ!何か悩み事があるの?私でよければ話聞くわよ?」


厨房への扉を挟み必死に声を掛けるぴぬ子とルーレ。仲間のピンチを前にして、それは必死の形相だったという。

何とか闇堕ちを阻止しようと精一杯の二人を他所に落ち着いた顔でミラが顔を出す。


「おい、何を言ってる。ちょっと花の活きがいいだけだ。もう少しだから大人しく待っていろ、心配性め」


「む……。それなら良いの。あとどのぐらい?」


「十分くらいだ。先に部屋へ行ってスノレアを構ってやれ」


「分かりました」


そう言って二人は大人しく部屋へと帰る。部屋に帰ったら何をしようかと頭を悩ませながら。


「よし、うるさいのが出ていったな。花の蜜はこのくらいでいいとして……。次は生地を焼く、と」


静かになった厨房に生地を焼く音と匂いが辺りに満ちる。香ばしくも甘い匂いに、思わずミラも口元に笑みを浮かべる。

と、不意に厨房の戸がすっと開く。

何だと振り返るミラの目に入ってきたのは、小柄なぴぬ子よりも更に小柄な少女。


「……なに……作ってる、の?」


まず目に入るのは、全ての色が抜けたような白髪。一瞬白黒の世界に入ったように錯覚させられるがしかし、赤いほっぺたや桜色の唇が色という存在を思い出させる。

初夏の季節には不釣り合いなニット帽とセーターは、彼女の雪のようなイメージにはピッタリの品。怯えたような下がり眉で上目遣いにこちらを見つめる様は、なんと言うか、同性だろうと抜群の保護欲をかき立てる。


「……スノレアか。ちょっとしたオヤツでもと思ってな。パンケルキって知ってるか?」


「……しらない」


「魔族の世界には無いんだな。パンケルキと言うのはなーー」


ルーレやぴぬ子がいては絶対になされないような落ち着いた空間がそこに生まれる。


丁寧に説明するミラとそれを素直に聞くスノレア。


まだスノレアという存在を信じ切っていないルーレとは対照的に、ミラとスノレアは相性が良いようだ。


「……おいしそう。はやく作って……」


「そう急ぐな。生焼けではお腹を壊すぞ?」


「……いや。まってる」


朱雀宮に宛てがわれたぴぬ子、ルーレ、ミラの部屋は、姫であるぴぬ子の部屋が一番大きい。だから、いつも集まるのはぴぬ子の部屋だ。先に行ったぴぬ子とルーレは早くもトランピを広げていた。

これは今人族の中で世界的な流行の最中にある人気のカードゲーム。一から十四までの絵柄があり、数多の遊び方がある。発売日から幾年と経っていないにも関わらず既にこの世界のニューノーマルと化していた。

このカードは魔族にも広まっているというのだから驚きだ。多いとは言えない魔族との交流により、魔物の間でもちらほらと人気が出始めている。


「ぴぬ子、何にします?私的にはバラックジャックがしたいです」


「良いわね!今日こそ二十一を出してやるわ!」


「というか、ぴぬ子も知ってるんですね、

バラックジャック。こんな庶民的な遊びはしないのかと思ってました」


「そんなことないわよ。王宮にいた時も、メイドの目を盗んでドラキュエしてたわ。」


「ドラキュエ……?姫が、ドラキュエ……?」


「そうよ。魔族に真っ向から喧嘩売ってる感じが良かったわ」


「ああ……。私のお姫様像が……音を立てて崩れていきます……」

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