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魔王の体のつくりかた  作者: おこわ
1/3

1、ハーデストマイマイ

「ぴぬ子、それは一体なんですか?」


「何かしらね? 犬の魔物の皮かしら?」


「それならどうして、ずっと命乞いをしているのですか?」


「仕留め損ねたようね。サーベル貸して頂戴」


「どうしてですか?」


「生きていては使いづらいでしょう?」


「なら私が」


「嫌よ。私が殺りたいの」


「…あなたは一度、ご自身の身分についてよーく考えて下さい」


「そうね…。花も恥じらう乙女にして、気高く美しい孤高のーー」


「あああああああ!!! あなたは一国の姫です!! 本来であれば、食器より重い物は持ったこともないような王族です!!サーベルなんて物々しい言葉、二度と口にしないで下さいッ!」


「そんなぷりぷりしてたら、眉間に良からぬシワが出来るわよ? ほら落ち着いて、ひっひっふー」


「誰のせいだと思ってるんですかあああッ!」


***************


朝焼けの空に太陽が輝く頃。

冒険者のミラルコッタは、同じく冒険者仲間のルーレフタと共に豪華な城の中庭で額を突き合わせていた。


「ルーレ、本当にやるのか?」


「もちろんですよ、ミラ。今日こそはあののほほん姫をギャフンと言わせて見せます!」


訝しげな少女ミラルコッタは長い紺色の髪で、緩く波打つ川は美しい夜闇の輝きを見せていた。

片目だけ覗く切れ長な目は夜に輝く月のようだ。

総じて理知的な印象を与えるミラルコッタとは対照的に、鼻息荒く意気込む少女ルーレフタは短い桃毛にくりっと丸いルビーの瞳。

さっぱりと切られたショートヘアは、光を受けてきらきら輝いている。


「良いですか? このとかげを投げつけて、ぴぬ子を置いて逃げるのです。あの姫はあれでいてビビりなところがあるので、きっと引っかかります!」


「わ、分かっている。風魔法で鳴き声を演出するんだろう?」


うんうんと満足そうに頷くと同時に、ルーレフタは薄いワンピースの中から精巧なとかげの人形を取り出す。

人形と言ってもそのクオリティは凄まじく、一見すると本物そのものなのであった。

すると、二人が隠れている茂みの向こうから髪を後ろで括った少女が歩いてきた。

「ふーんふーんふふーんふーん」

 楽しそうに鼻歌を歌う少女は、橙の髪に優しげな印象を与える濃い緑の瞳。上等そうなワンピースを着ているが決して堅苦しくなく、むしろ動きやすさを追求したような絶妙なデザインだった。

 悪戯を謀られているとは思いもしない少女は、尚も二人の方へ向かってくる。

 ミラルコッタとルーレフタが目を合わせ、頷きあった時--。


「覚悟ーーー!!!」


 びょえぇぇぇと不気味な断末魔? をあげて少女に迫りくるとかげ。心なしかとかげの顔は悲しそうで、妙なリアリティをもって少女の懐へ飛び込む。


「え...っっきゃあああああああああーーーーッ!!」


「やりました!」「やったな!」


二人の歓声にようやく少女の認識も追いついた。次第に少女の頬が膨らんでいき、眉が吊り上がる。


「や、やったわね〜〜」


「ふっふっふー。引っかかる方が悪いんです」


「今回ばかりは一本取られたな、ぴぬ子 」


ままあることなのか、ぴぬ子と呼ばれた少女も大して怒ることはなくやり過ごす。打って変わってもうおやつの話をしているあたり、なかなか肝が据わっているようだ。


「やっぱりマキャロンにしましょうよ! 近くに美味しそうな真っ赤な実がなってたの!」


「あ、あれは確かとてつもなく硬いんじゃなかったか?先週食べたろう 」


「そうですよ! どうせ取ってくるなら、東に咲いてた花の蜜がいいです!パンケルキにかけたら美味しそうですよ」


「東か…。我々の用事もあるし、丁度いいかもな。それでいいか、ぴぬ子?」


「分かったわ。今日必要なのはハーデストマイマイの甲羅五つ分、よね?」


ーー東の森の奥深く。

足元にひっそりと咲く花の蜜はすっかり集め終わり、本来の目的であるハーデストマイマイ狩りへと移行した一行。

ハーデストマイマイはその名の通り、とにかく硬い。並大抵の攻撃では効かぬ反面全く攻撃をしてこないというのだから、冒険者のトレーニングとしては重宝されている。

だがこの森に住むマイマイはかなり特殊で、普通であれば薄いクリーム色なのだがここでは濃い臙脂色をしていた。名前こそ同じだが、色が示す通り強さは格別だ。特別目立った攻撃は無い。が、ただ向かってきただけでも並の人間一人くらいは吹き飛ばしてしまう。

そんな危険な魔物に少女たちが向かっていくのも、ひとえにとある目的の為だった。


「準備は良いですか?!…くらえぇぇ!」


ルーレが先陣を切ってハーデストマイマイに飛びかかる。その矮躯からは想像もつかないような重い一撃を相手に入れて距離をとる。

と同時、後ろで何やら唱えていたミラが前に出て指を鳴らす。


「マイマイの殻は何よりも硬いんだってな?上手く残して焼かねばな」


ミラに操作された炎は狂いなくマイマイに向かって行き、その身だけを丁寧に焼いて燃やし尽くす。

後に残るのは綺麗に残った殻と僅かに焦げた地面の草のみ。

ほえーと呑気に手を叩くぴぬ子に、戦闘を終えた二人が声をかける。


「ぴぬ子、怖いのでもっと離れてて下さい。気が気じゃありません。」


「そうだぞ。非戦闘員なんだから大人しく守られていろ、私たちは別に気にしない。」


「むぅ……。いつも二人はかっこいいから近くで見ていたいの。私は大丈夫よ、丈夫だから!」


「か、かっこいい?そうだろうか?いやあ、こう、改めて言われると……。」


……乗せられやすいミラであった。

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