第7話 一日が終わると思いきや
テラ「あ!大変です神柴先生!間違えて“ジュラシックアイランド”の神書を語部さんたちのグループに入れてしまいました!」
神柴「なに?」
テ「ほんとはゲーム関係の神書を読み込ませたつもりなんですが、あの神書は邪役討伐のシミュレーションでも使うくらい危険な生き物を読み込める神書で……」
神「なるほど……まあ、あくまで仮想空間だから実害は無いが、死の恐怖を入学直後に植え付けてしまうのはまずいな。」
テ「申し訳ございません!いますぐ中の状況の確認いたします!……あれ?」
神「どうした?」
テ「召喚された大型古代生物の生命反応が……無くなっちゃいました。」
~その頃、フェアリーウッズの中では~
「まったく!恐竜に襲われたんだと思ってびっくりしちゃったよ!」
「ほ、ほんとにごめんなさい……。」
カナメは森の中で泡を吹いた見るも無残な姿で発見された。どうやら、カナメが絶叫したのはさっきの獰猛な肉食恐竜ではなく、四足歩行のトリケラトプスとか言う草食恐竜だったようだ。それにしても、あれを見ただけで気絶するものか?……いや、森の中から急に出てくりゃ気絶もするか。
「それは分かりましたわ。ですが、貴女二回ほど叫びましたよね。リンガルが聞いた一回はそれとして、わたくしたち皆が聞いたもう一回はなんだったんですの?」
確かに、言われてみれば悲鳴は二回あった。そんなオトギノの問いに、カナメは何かを思い出したかのように顔色を真っ青にした。
「どうしたの?カナメ?」
カナメの肩を叩いてみると、カナメはびくっと震えて口を開いた。
「気絶して忘れてました。私は恐竜さんで倒れたんじゃありません。どうやら、ここ一帯に古代の生物が大量発生しているらしくて、巨大な虫を見ちゃったんですよね……。」
カナメの発言に私は背筋を凍らせた。虫、しかも巨大な奴……。
「それってもしかして……。」
まさかと思いカナメに尋ねると、カナメは真っ青通り越して真っ白な顔で頷いた。
「はい、もしかしたらここの近くにまだ……。」
シャワシャワシャワシャワ
噂をすれば影が差すとはこのこと。私の背後から、フラグをびんびんに立てた後に絶対に聞いてはいけないカサカサ音が聞こえてきた。
「みんな、絶対に振り返らないでね。」
私がそう言うと、カナメはぶんぶんぶんぶん首を縦に振る。オトギノも表情は読みずらいけどちょっと顔が青くなってるし、何かを察したように頷いた。ただ、このグループには空気を読まないクソ野郎がいたことを忘れていた。
「なぜだ?ってか、この音……おい!こっちにでっかいムカ」
「何も言わないで!!何も言わなきゃそれがあれだってことは分からずに済むの!!」
「ったって、見た感じ一メートルは軽く超えて」
「言うんじゃねえ!!!早く逃げるよ!!!」
私の合図でカナメとオトギノは音とは反対方向へ猛ダッシュした。なんなのこの森!?最初のグループワークとしては最悪の場所なんですけど!?
「ったく、ムカデくらいに何びびってんだか……」
[みなさん!そろそろ試し開きを終わりにします。あと五秒後に仮想空間から強制送還しますね!]
「まあ、いいタイミングか。」
こうして、長くてほとんど負の思いでしかない学校の初日は幕を閉じたのだった。その日の夜、寮にて。
「ああ、疲れたあ……。」
仮想空間とはいえ、疲労は蓄積されるようで、とくにラスト五秒くらいの全力疾走にかなりの体力を持っていかれたみたいだ。神書も使うにはそれなりの体力を消耗するし、短い時間だったとはいえ、振り返ると一日マラソンしていた気分だ。さて、まだ時間は早いけど、今日はもうこのまま寝ちゃいま……
コンコンッ!
うん、七時だけど疲れたしね。今日は体の力を抜いて意識を手放すように……
コンコンッ!
おかしいな、疲れて幻聴が聞こえる。これはなおさら早めに寝……
ドンドンドンドンドン……!!
「うるっさいわね!!誰よ人ん部屋の扉連打してるやつ!?」
叫びながら扉を開けると、そこに居たのはコウコツだった。地面に届きそうなツインテールは既にほどかれ、その長い髪がストレートにおろされている。これはこれでロリっぽいコウコツには似合ってる。
「よかった!いろはもう寝ちゃったのかと思ったよ。今から一組の顔合わせ女子会やろうってなってさ、行こうよ!」
「ええ、眠いし疲れてるから正直面倒なんだけどな(へえ、面白そうだからせっかくなら参加しようかな)…………いいよ。」
「本音と建前逆じゃない?」
そんなこんなで、一組女子寮の多目的スペースへとやってきた。ソファやテーブルもついていて、既に何人かは集まっていた。そういえばこんな子見たことあるなとぼーっと眺めていたら、紫色の髪をした少女の謝罪が目に飛び込んできた。
「ほんとに今日は申し訳ございませんでした!まさかあんな本だとは思わなくて。」
「だから!いいってことよ!神書の能力なんて最初は誰にも分かんねんだし、あれはああいう能力なんだからもう仕方ねーだろ?いざとなったら俺がなんとかしてやるよ。」
「そんな、申し訳ないですよ!」
たれ目でカチューシャを付けた紫髪の少女が、鋭い目つきの青髪の少女に泣きついていた。あれ?親睦会的なあれじゃないの?来る場所間違えた?
そんなことを思っていたら、青髪の少女が、私に気付いてソファから立ち上がった。
「よ!俺の名前は縦紙絵巻。よろしくな!」
男勝りな口調だけど、髪が肩にかかるくらい長いのと結構発達している胸筋から女子生徒ってことが分かる。鋭い目が相まってちょっと表情が怖いけど、あの紫の子の面倒を見ていた感じそこまで悪い子ではないのだろう。
ってか、異世界きて苗字というか、フルネームで名乗った人初めてかも。
「私は語部いろは、よろしく。」
自己紹介をしていると、今日グループで一緒だった二人もやって来た。クラス女子全員で六人の女子会が、これから幕を開けるのであった。
学園の寮は建物ごとに性別、階層ごとに学年、同じ階層のまとまりごとにクラスで分かれています。大きなキッチンや集会スペースは全学年共有ですが、クラス単位で使える多目的室や小型キッチンなど、様々な用途に合わせたスペースが広くとられています。