第2話 隣のツインテール
あら皆さん、またお会いしましたね。毎度おなじみテラでございます。学園に入学することとなったイロハですが、この子の謎はまだまだあるみたい……。おや、彼女の秘密について、神柴さんが誰かとお話をしているようです。
「今回の新入生の中で、“神書”をすでに二人の生徒が所有していました。」
「報告ありがとう神柴くん。もう一人についてはすでに違う先生から聞いているし、二人目の所有者、語部いろはについても、その神書を彼女に持たせたままでいいだろう。」
「……承知しました。」
「何か気になる点でもあるかい?」
「いえ、ただ、心当たりがない……つまり、得体の知れない神書を彼女達に持たせたままにしていいものかと。」
「心配性だなあ。そのための、君たち教員だろ?」
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私の名前は語部いろは(たぶん)。記憶を失った挙句、異世界に飛ばされた私は、神柴さんの勧誘のもととある組織が管理する学園に入学することになった。まだ異世界に飛ばされた実感なんてないけど、記憶が飛んで行く当てがどこにもない私は、ここで異世界学園生活を始めるしかないのだ。
私が神柴さんから学園に来ないかと誘われてから三日が過ぎ、いよいよ入学式の日になった。白に金色のラインが入ったセーラー服のような制服に身を包み、一年生を表す緑色のリボンを首元で結ぶ。ちょっと派手な気もするけど、異世界なんてこんなもんだろうし、私の顔が思ったよりも可愛い顔をしていたから良しとしている。ただちょっと胸が無いのと身長が低めなのが……いやいや、自分の体に文句言ってても仕方がない。ボブヘアの髪型を整え、寮の自室を出ていざ出発だ!
「……で、あるからにして、君たちにはこれから三年間よりよい学園生活を……」
長い……
「続いて、来賓の方々のご紹介です。」
長い……
「それでは、衆役代表の挨拶です。」
長すぎる!!
思ったよりも普通に長くて退屈な入学式だった。学園長の話なんてほとんど聞いていなかったかもしれない。これが異世界の入学式?普通の入学式と何も変わらないんですけど。
私はあくびをしながら自身のクラスの列に繋がって教室まで歩いていた。担任発表も入学式のときにされた。私が所属する一組は神柴さんが担任をするみたい。っていうか、神柴さんも先生だったんだ。
案内された教室につき、指定された自分の席に座ると、すぐに神柴さんが教室に入って来た。
「一年一組の担任になった神柴だ。これからよろしく頼む。早速だが、出席をとっていくぞ。」
一クラス当たり12人の四クラス。少人数のクラス編成ってこともあって、大人数の教室が見慣れているとガラガラって感じがする。3人の列が4列って感じで、少し落ち着かない。ちなみに私の席は窓側から2番目の列の一番後ろだ。
「この学園はこの世界を守護する組織、“衆役”によって運営されている。よって、君たちも三年間の教育を終えたら衆役に所属しその仕事をすることを勧める。もちろん、強制はしないし、二年次からは衆役に所属しない生徒用のカリキュラムも用意されている。」
神柴さんの説明を右から左にしっかり聞き流しつつ、窓の外の様子を眺めていた。さっきまで青かった空は、淡い緑色に変わっている。神柴さん曰くここら一帯の空は虹色に輝く空なんだとか。
「ねね、君、ちゃんと話を聞かなくていいの?」
左隣の子が声を掛けてきた。
「ああ、ちゃんと右から聞いてるよ。」
「大丈夫?それ左から出てってない?ちゃんとどっかで抑えられてる?」
「だって、1年後の話なんて……正直どうでもいいし……。」
そうだ、私の目的は記憶を取り戻すことと元の世界に帰ること。その目途が立つまでしばらくここに居るだけで、青春を過ごすためにここに居るわけではない。
「……なんか訳ありみたいだけど、ここに居る人はみんなそうなんだよ。」
「?」
「私の名前はコウコツ。よろしくね!」
ちょっと意味深な発言を隠すように、コウコツと名乗る少女は笑顔で自己紹介をした。見るからに私より小さくて、床に付きそうな程長いツインテールが特徴の女の子だ。なんかこう、すごくロリみを感じる。
「私はいろは、よろしく。」
「ということで、説明は終わりだ。これからみんなで神書の選定のため図書館へ向かう。」
「ねね!神書の選定だよ!」
神柴さんのセリフに、コウコツがはしゃぎだした。そんなコウコツに私は疑問符を浮かべる。
「神書?なにそれ?」
コウコツに尋ねると、コウコツは自慢げに説明を始めた。
「神書はね、1人1冊、自分だけの能力を手にすることができる魔法の本なんだよ!ほら、神柴先生も腰にぶら下げているやつ!」
言われてみれば、神柴さんをはじめこの学園の先生はみんな同じような本を腰から下げている。あれが神書?特別な能力……。あ、そういえば、ハガキ先生はあれで私を拘束したんだ。
「ああ、そういえば、先生がそれ使ってるとこ見たことある。」
「え!すごい!もう神書の力を見せてもらったんだ!」
「うん、神柴さんの前であられもない姿(泣き顔)で拘束されたんだよね。今思い出したら恥ずかしくなってきた……」
「え……。(神柴さん呼び?あられもない姿(エッチな姿)で拘束?この子、神柴先生とそういう関係なの!?)」
過去の惨事を振り返っていると、コウコツが急に顔を赤らめ始めた。この子はこの子でなんだかおかしな子のようだ。
「と、とりあえず!オリジナル能力なんてワクワクするよね!」
「そうね。男の子たちも結構盛り上がってるみたいだし。」
コウコツと他愛ない会話をしていると、神柴さんがこっちに近づいてきた。
「あ、神柴さん。」
「いちようここは学校だ。その呼び方はやめろ。」
コウコツ(やっぱりなんか新入生と先生にしては親し気だし!しかもその会話そういう関係の人の会話じゃん!)
コウコツが再び顔を赤らめる。なるほどね、この子神柴さんのこと好きなんだ。会って間もないのに好きになるってよっぽどタイプなんだろうなあ。
「語部さん。君にも先に渡しておく必要がある。」
「なにがですか?」
神柴さんの発言に私が問いかけると、神柴さんは本を私に手渡した。
「これは……。」
「君を我々が見つけた時、大事そうにそれを抱きかかえたまま気絶していたんだ。他の生徒はこれから神書の選定を行うが、君はその神書を使った方がいいだろう。」
「これが、私の神書ってやつですか?」
私は首を傾げる。
「そうだ。神書の扱いは衆役になるうえでも、この先君の目標を達成するうえでも、必ず助けになってくれるはずだ。」
そう言うと、神柴さんは他の生徒を含めて神書の詳しい説明を始めた。神書と呼ばれた図鑑のように分厚く大きい本は、表紙が硬い木のような感じで、普通の本とはなにか異様な雰囲気を放っていた。そして、そんな神書の表紙に書かれたタイトルに自然と目がいく。
「……“桃子の鬼退治”。」
桃子の鬼退治
能力:?
モデル:桃太郎
日本中で親しまれ、様々な変遷を遂げたため、派生の物語が多く存在する。その中でも香川県のとある地域に伝わる伝承では、桃太郎は女の子であり、あまりに可愛いため鬼に狙われないように“太郎”という名前を入れたという話がある。
~桃から生まれた少女が、家来を引き連れ鬼退治に行く物語~