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第1話 記憶の無い私

 こんにちは皆さん。私の名前はテラ。白くて綺麗な髪がチャームポイントのピッチピチの○○歳です。今、私は大きな図書館にいます。どのくらい大きいかって?そりゃあもう、あなたの想像を遥かに超えた大きさですとも。この図書館には、人々が想像や記録をした様々な知恵が詰まっているのです。宇宙のように果てしなく、海のように底なしの知恵の数々でございます。……おっと、ごめんなさい、そんな話はどうでもいいですね。

 これから皆さんに見ていただくのは、現実の世界からこちらの世界に来てしまった一人の少女の物語でございます。どうやら、彼女にはどこかおかしな点があるようで、皆様にはお見苦しいところをお見せすると思いますが、何卒温かい目で見ていただけると幸いです。

 彼女が迷い込んだのは、異世界を守護するとある組織の学園。さて、どんな物語が繰り広げられるのでしょうか。はじまりはじまり……。




 夢を見ていたような気分だ。どんな夢だったのかは分からないけど、なんだか心にぽっかりと穴が空いてしまったような気がする。大きさも分からないそんな穴には、確かに大切な記憶があったはずなんだ。

 拝啓、掛け替えの無い君へ。いつか必ず、この世界で思い出してみせるから。見ていて欲しい。




~いろはの親書~


「ん……」


 いつから眠っていたのだろうか。目を覚ますと、私は四方を白い壁に囲まれた空間に閉じ込められていた。私が寝ている真っ白なベッドを囲むとても小さい空間だ。


「どこ……ここ……。」


 私は上半身を起こしこの部屋をきょろきょろと見まわす。どうやら、私の前方と右手の壁はただの壁ではないようだ。布のようなものでできているのか、奥の光が壁越しに伝わってきて……


「やっと起きてくれたのね!!」


「わああ!!」


 突然壁がひらりとめくれたかと思ったら、知らない女性がにこにこの笑顔で飛び出してきた!


 ごドンっ!


 私は思わずベッドから転げ落ち、頭から固い地面に衝突した。視界のホワイトアウトと耳鳴り、鈍い痛みが後からズキズキと襲ってくる。結構やばいぶつかりをした。


「あら、驚かせちゃったのね。ごめんなさい。」


 女性はそう言うと壁をレールにそって端に動かした。私が壁と思っていたものの半分はどうやらカーテンだったみたいだ。ぶつけた頭をさすり体を起こす私の前に、その部屋の全貌が明らかになる。そこは、保健室みたいなベッドが並ぶ部屋だった。


「お、目が覚めたか。」


 ベッドの他にも、大きなテーブルや椅子、棚などが置いてある。そういうところも保健室って感じの部屋だ。私が困惑していると、テーブルでなにやら小物を手に取り眺めている男の人が私に気が付き声をかけてきた。

 けど、この二人はまったく面識のない人だ。そもそもこの部屋自体も見覚えがない場所、正直、全く状況が飲み込めない。そんな中、女の人が私に不安の眼差しを向けてきた。


「きみ、頭大丈夫?」


「え、えーと……たぶん、大丈夫ですよ。」


「よかった。それじゃあ寝起きそうそう悪いんだけれど、あなたにいろいろ確認したいことがあるの。落ち着いたら、こっちに来てちょうだい。あ、何か飲む?」


「……大丈夫です……。」


 女性に促されるままに、私はテーブル横の椅子に座った。そして、女性は男性の隣に座る。ちょうど私がテーブル越しで二人と向かい合う形になっている。二人は私のことをじっくり見てきてちょっと気まずけど、負けじと私も目線を合わせないように二人を観察した。

 二人とも結構若く見える。女の人は綺麗な黒い長髪を一本結にしていて、服装はワイシャツの上から白衣といった感じの医者のような格好だ。

 男の人は短髪にかっちりとしたスーツ姿って感じ。


「それじゃあ、えーと、神柴(かみしば)先生、何から話せばいいのかしら?」


「そうですね。とりあえず自己紹介でもしときましょうか。」


「そうね!」


 女性はパチンと手を叩き私に笑顔を向けた。


「私の名前はハガキ。ハガキ先生ってよんでちょうだいね。趣味は樹木鑑賞です。」


「そんな趣味ありましたか?俺の名は神柴(かみしば)、好きな食べ物は兎料理だ。よろしく。」


 女性に続けて、スーツ姿の男性が自己紹介をした。自己紹介も挟まり場に馴れてきたからなのか、よく見てなかった二人の顔が見えるようになってきた。ハガキ先生は大人びた顔立ちで、神柴さんもシュッとしたイケメンだ。二人とも顔面偏差値が高い。


「よ、よろしくお願いします。」


 なんだか普通に始まった自己紹介、状況は未だ掴めずぽやぽやとしている。けど、自己紹介されたのならとりあえず私も返さなきゃ。せめて名前だけでも……


「私の名前は……、」






 ……あれ?






「えーと、名前は……その……」


 ……なんで?……名前が出てこないの?


「ちょっと待って下さい……名前ですよね、名前……名前……」


 ちょっとまって!なんで!?名前を思い出して言うだけの簡単な作業だよ!?なんでそんなこともできないの!?


「きみ、もしかして。」


 見かねた神柴さんが私に声を掛けてきた。私は今にも泣きそうな目で神柴さんの方を向いた。そして、肩を震わせながら力なく頷いた。


「名前……忘れちゃいました……。」


 そんな私を見て、神柴さんは眉間にしわを寄せ深刻な顔をした。


「……それじゃあ、きみの住んでいた場所とか、通っていた学校は思い出せるか?」


「えっと、学校……学校知ってます!通っていたはずです!でも、あれ……。」


 何も思い出せない!思い出そうとしても何も出てこない!友達の名前、家族構成、私に関する記憶の全てがぽっかり空いたかのように何も出てこない!


「うう……。お母さんの名前は……友達の名前……。顔とか……。」


 なんで、どうしてこんなことに……。私は絶望感からついに泣き崩れてしまう。そして、どうしてこうなったの考え始めた。見慣れない部屋、私を知っている風な白衣とスーツの人たち……。


「そうか、俺達が来た頃には遅すぎたのか……。」


 頭の中で考えを巡らせていると、神柴さんがそう呟いた。それを聞いてた瞬間、私の中にある疑念が確証に変わり、怒りと共に爆発した。


「遅すぎたってどういうことですか!?あなた達が私に何かしたんですか!?」


 私は椅子が倒れる勢いで立ち上がり、二人を睨みつけた。そうだ、よくよく考えてみれば当たり前だ。この状況から考えて、こいつらが私の記憶を消し去る何かをしたと考えるのが自然だ。


「少し落ち着いてくれ。別に俺たちがきみに何かをしたというわけでは」


「じゃあここはどこなんですか!?あなた達はどうやってここまで私を運んだんですか!?答えて下さい!」


「それは……。今答えると君が混乱するだけだ。」


 ますます怪しい、ほとんど黒に違いない。私は二人と距離をとりあたりを見渡す。自分の身を守る武器になるものがないか、相手が不審な行動をとらないか、考えられることをくまなく観察した。


「ハガキ先生、一旦彼女を拘束して下さい。」


「はあ、これ以上険悪になっても知らないからね……。」


 ハガキと名乗る女はやれやれというふうにどこからともなく本を取り出し、その表紙を開いた。いったい何をするつもりなのだろうか、女は本を開くと突拍子もなく何か呪文のようなものを呟き始めた始めた。


「ある日、丸い鼻の親方は、話す丸太を見つけました。」


「なにふざけたことを!」


 その瞬間、私の体が私の指示を聞かなくなった。私の意志に反して、私の両手首は頭上で交差させられ、正座のような状態で床に座らされた。どんなに力を込めても体は動かない。そんな中、神柴と名乗っていた男が手帳と鏡を持って私のもとへ近づいてきた。


「やっぱり、あんたらは私の敵だったのね!」


「きみに今から三つのものを見せる。それを見てから俺たちのことを判断してくれ。」


 そう言うと、男は私の前にしゃがみ込み小さな手帳の裏面を見せてきた。そこに書いてあったのは、誰だか知らない人の住所や所属学校、名前や生年月日。これを見る限り、どうやら誰かの生徒手帳のようだ。そして、様々な個人情報の横にはこれまた見慣れない顔写真。


「なにこれ……。」


「次に二つ目だ。」


 そう言うと、男は鏡を私に見せた。


「!?」


「先に言っておくが、きみの疑いを晴らす手段は我々には説明しかない。生徒手帳(これ)についても、きみのポケットから拝借したものだ。我々は知らない。」


 ああ、ほんとに記憶が全部無くなっちゃったんだ。鏡を見て、私はそう確信するしかなかった。だって、鏡に映った見覚えの無い泣き顔は、生徒手帳に張られていた顔写真と同じ人の顔だったんだから。


「うそ……。」


「最後に、三つ目だ。」


「……なに……これ……。」


 男が最後に見せて来たもの。それは本だった。飛び出す絵本みたいにしてページの上にホログラムが形成された。そこに映し出されたのはまるで、御伽話の世界を空から眺めたかのような景色だった。歪な形に育った紫色の森、クジラのような形をした雲の大群、角やら羽やらが生えた馬が生息する草原。


「これを信じろというのが一番難しいかもしれない。しかし、これはこの“世界”で実際に撮影された立体映像だ。そして、きみの持ち物や今のその反応から察するに、きみは“この世界”の住民ではない。」


「この世界?」


「すまない、これに関しては信じてくれとしか言いようがない。君は、ここでは無い世界からこちらの異世界にやってきた転移者だ。」


「こんなの、何かのドッキリですよね……。明日になれば、一晩ぐっすり寝れば……消えた記憶も全て元に戻りますよね……。」


「それじゃあ、一晩寝てみるか?恐らく、結果は変わらない。」


 何を信じていいのか分からなくなった。何が本当なのか、どこまでが正しいことなのか何も分からない。でも、確かに記憶は無くなっている。このホログラムが信じられなくても、今私を拘束しているのは確かに不思議な力だ。最初は泣いていたけれど、なんでか涙も出なくなってしまった。


「これを踏まえてだ。きみには学園に入学することを勧める。」


「学園?」


「きみの世界には学費なるものがあったと思うが、この学園は全て免除だ。この学園は、きみのようにわけあって“役”を失った者たちが新たな“運命”を手に入れるためにやって来る。衣食住も保証する。」


 何それ、なんか新手の宗教勧誘みたいな話……運命だとか、それを手に入れるための学園だとか、そんなのもろヤバイ組織の洗脳施設じゃん。

 でも、何も分からないんだ。どうせ一人でいても何もできない。だったら、この人たちの真意を知るまで、ここに居るのも悪くない。


「語部いろは、でしたよね?」


「それは、生徒手帳にあった名前か。」


「はい、私の名前は語部いろは、マイネームイズ語部いろは!」


「お、おう(急にどうしたんだこの子は……)」


「思ったより可愛い顔してたので、ちょっとテンション上がりました。早く拘束を解いて下さい!入ってやりますよ!私のことが分かるまで、この学園のお世話になります


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