真実
5話目投稿しました。
その日の夕方、配布物などを届けるという口実に僕は島原さんの家に行った。家の場所は以前、放課後の授業で教えてもらった。
「すみません、島原叶夏さんと同じクラスの向井と申し
ます。島原さんに届けるものがあって…」
「向井さん…?」
運良く本人が出てくれた。
「島原さん…その、昨日は無神経なこと聞いてごめん。
でも信じて欲しいんだ、本当にあの噂は信じてない」
「…」
長い間2人の間に沈黙が流れた。しばらくすると、部屋着姿の彼女が家から出て来た。
「あの噂は、本当、です。私はずっと、あの人のことが
好き、でした。」
片言のまま続ける。
「彼がいなくなってからも、ずっと忘れられませんでし
た。今も少し、引きずっている、かも、しれません」
「島原さん…」
「笑っちゃいますよね、周りにイメージされてるのは、
真面目に見える生徒が実は、教師を好きになってしま
った清楚系ビッチ、だなんて」
「…」
僕はただ黙って聞くしかできなかった。
彼女は周りからの冷たい目を堪えながら必死に生きてきたのだ。たった1人で、孤独に。
「僕は、どんな君だって素敵だと思う。人を好きになる
のは悪いことじゃないよ、だって、僕は君が好きなん
だ」
「え…?」
何やら訳が分からない、という顔をしているが構わず続ける。
「君がどれだけ周りから冷たく見られてても僕には関係
ない。昔がどれだけ最悪でもその全てを含めて君なん
だから。島原叶夏さん、君が僕を救ってくれた」
「私が…救った…?」
「そうだよ、僕は君に救われたんだ。生きる意味が見出
せなかった僕に、君は光を灯してくれたんだよ」
彼女の瞳から一筋の光が頬を伝っていく。
「こんな私でもっ…!また人を好きになってもいいので
しょうかっ…!救われていいんでしょうかっ…!」
「うん、いいんだよ」
彼女は僕の体に倒れるようにもたれかかり、そしてーー
「ううっ…っ!あぁあ…っ!」
その後も島原さんは泣き続け、その小さな体がいつもの何倍も小さく見えて。こんなに誰かを愛おしいと思ったのは生まれて初めてだと、そう、伝えた。
本当のことを話す、というのはとても勇気がいることです。
皆さんも心の中のモヤモヤを解消するために本当のことを話してみてはどうでしょう…勇気を持って。
残り2話で完結します。