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残りの人生を異世界で  作者: 黒檸檬
1章.異世界で冒険者になろう
6/18

6.あれはGですか。あっ違う? ならあれはGですか?

※今回は虫が出ます。


 ファットマウスという、名前通りの太ったネズミを2匹倒した俺達は迷宮の奥へと進んでいく。


 現在、試験合格に必要なモンスター討伐数は、残り3匹となる。

 2戦を終えて、パーティーメンバー誰一人として傷を負っていない。

 俺とディーネとアルムの3人による、初めての迷宮探索は順調そのものだった。

 

 感慨深く思いながら道を行くと、通路脇に生えた木に何かいるのが見えた。

 俺は目を凝らし、その何かを注視した。すると、軽かった足取りが、その存在を視認した途端に重くなったのを感じる。


「うわ、なにあれ」


 ディーネも同じく前方にいるそれを見つけたらしく、その黒光りした何かを指差し、怪訝な顔でアルムに尋ねた。


 事前に迷宮の浅い層について調べていたという彼なら、その正体を言い当てられるに違いない。


 けど、俺は知りたくない。あれはアレだ、忌むべきアレなんだよ、あの1匹見つけたら大量にいるアレだ。

 そうに違いない。あの色、光沢感、フォルム、遠目に見える情報だけで分かる、分かってしまった。


 いやまて、落ち着け。よく見ると木から角が伸びている。


 混乱して変な見間違え方をしたが、正確にはそいつの角が木に突き刺さっている。と言うべきなのだろうが。


「あれは確か、ランスビートルだ。動くもの動かないもの関係なくあらゆる物に、槍に似た角で突進する危険なモンスターらしい。木の盾くらいなら簡単に突き破る。ディーネ、防御する時は気をつけろ」


「へぇ、そうなの。りょうかい」


 念のためあれの『ステータス』を見て確かめよう。最初からそうしていれば良かったのだが、もしアレの名が出たらと思うと現実を直視したくなかった。


***

【モンスター】

名前: ランスビートル

レベル:2

***


 えっと、ランスは槍だろ。でビートルはカブトムシとか甲虫類を意味していて……

 

「勘違いだったのか、良かった……」


「ーー? よくわからねぇが、グレイも気を付けろよ」


 アルムは何の脈略もなしに安堵の表情を見せる俺を、一瞬不審がったものの、戦闘に向けての注意喚起は怠らない。


「ああ、カブトムシなら全然平気だ、いける」


 生まれてからずっと病気がちではあったが、小さい頃にカブトムシを獲った経験が数回ある。

 それに、図鑑で何回も見たことがあるので、想像していたアレとは異なり耐性がある。


 ようするに、あの虫モンスターなら触れる。なんとか斬れますってことだ。

 アルムには悪いが多分、彼が受け取った「平気」と、俺の言った「平気」は意味合いに食い違いがあると思われる。


「そ、そうか。じゃあ僕の槍で先制する感じでいくぞ、ディーネ、グレイ補助は任せた」


 木に突き刺さって、身動きの取れないランスビートルに向けて槍を伸ばす。槍はそのまま無防備な胴体に直撃するかと思われた。

 しかし槍が刺さる直前、ランスビートルは物凄い勢いで羽を揺らして木から抜け出した。

 抜け出した勢いのまま、自らに迫っていたアルムの槍をかわして、俺達から距離を取る。


「わるい! 外した」


 アルムは攻撃を外したことを詫びながら、後ろに下がる。それと同時にディーネが前に出て、次の攻撃に備える。

 

 槍のような角が特徴的なランスビートルは通路の上を滞空している。遊園地で配っている風船くらいの大きさで、見た目はカブトムシでも、こうはっきりと口の毛や関節が分かると気持ち悪い。

 

 ランスと名付けられるに相応しい角を持つランスビートルは、アルムの説明通り鋭い角を活かした突進攻撃がメインだと思われる。

 レベルは2で、ファットマウスより格上らしいが攻撃方法がわかりきってるのは幸いだ。


 予想通り、敵は空から突進攻撃をすべく、ディーネの方に向かって飛んでいった。

 

 俺はディーネが攻撃を弾いたタイミングで、ランスビートルに斬りかかれるよう準備する。


 ディーネの剣と角がぶつかり合った瞬間、金属がぶつかり合うような甲高い音が響く。

 身構えていた俺は、遠くで別の羽音がした事に気を取られて、その隙に乗じて斬り込めなかった。


 その羽音は遠くから、物凄い勢いでこちらに接近してきている。

 音がする方向をちらりと確認する。すると、今戦っているのとは別のランスビートルが近づいているのが見えた。


 後ろに控えているアルムがそれに気づいた様子はない。しかし槍のような黒い角を光らせランスビートルが向かう先は、彼の方向だ。

 だが、それを伝えようにも時間が足りない。あの速さでは、彼に言葉を届ける間に、角は彼の体に到着して風穴を開けてしまうだろう。


 アルムは目の前の戦闘にに注意を向けている。

 ディーネは今も、槍の如き角にその手に握る剣をかち合わせて奮戦中。


 弾かれた瞬間を狙うと考えておきながら、その役割を放棄するみたいな感覚だが、ここは抜けるべきだと。そう判断した。


 俺は目の前の戦闘に背を向けて、素早くアルムのいる後方へと下がった。


 そうして、彼のもとまで来たことで分かった。

 向かってくるランスビートルの姿が、一切見えない事に。


 木々が邪魔だ。枝葉が邪魔だ。


 目にばかり頼っては負ける。

 なら耳を澄ませろ。2人が戦ってるそれと、見えないそれとを音だけで聞き分ける。


 それも羽音だけじゃなく、ランスビートルの飛行による僅かな振動で揺れる枝葉の音さえも聞く。


「そこだ!」


 音と感を頼りに剣を向ける。瞬間、木々を掻い潜って木の葉を破りながら黒く大きな虫が現れた。


 槍を思わせるランスビートルの角を、剣で迎え撃つ。

 鉄の剣と角とがぶつかり合い、甲高い音が迷宮の通路に響いた。

 

 俺は、この体の身体能力を目一杯動員して、その攻撃を弾く。

 ぶつかり合った衝撃で、剣を持つ手が痺れる。こっちの剣は金属製だというのに、なんと硬い角だと、悪態をつきたくなる。


「ちっ、もう1匹潜んでたのか……。全く気づかなかった、悪い助かったグレイ」

 

 彼の死角から迫っていた脅威を、ひとまず撃退できた。俺の逃げ出したかのような行動の真意に気付いたアルムが、槍を目前のランスビートルに構えながら礼を告げる。


「アルムはそっちに集中してろ。こっちは俺一人でなんとかしてるから、さっさと倒して手伝ってくれ」

 

「は、なんならお前が倒してくれてもいいんだがな。ーー出来るだけ急ぐ」


 それきりアルムの意識は最初のランスビートルへ向けられる。


 本当は、「俺に任せろ」とか言えたら良かったんだが、生憎1人で空を飛ぶ虫に勝てるビジョンが浮かばない。

 ひとまずは突進攻撃を剣で防ぎつつ、時間稼ぎといこう。


 そのランスビートルはというと、呑気に空中で獲物を見定めている。

 だが、攻撃してこないから安心とはならない。あの高さにいられては、いくら剣を伸ばしても攻撃を当てられない。

 ここからの戦闘が、完全に相手の動きに委ねられている状況に不安が募る。


 この体がどこまで高くジャンプ出来るか未知であるが、人間の範疇ならば届かないくらいあのモンスターの位置は高い。飛びかかるのは賭けの要素が強すぎる選択だ。


「そりゃ考える時間はくれないよな」


 この場の誰を狙うか決断を下したランスビートルが、速度を上げて攻撃を開始する。

 狙いは真正面にいる俺だ。下手に背を向けてる2人を狙われても困るので、その選択はありがたい。


 向かってくるランスビートルの角に対して、今度は剣を両手に持ち替えて迎撃を行う。


 いくら角が硬かろうと、両手の力を込められれば、あるいはという考えだ。


 しかし、そう簡単にはいかなかった。

 単純に右手と左手で力が倍になる事はないにしても、威力は少なからず上がったはず。だが、手に伝わる感覚として、奴の角に傷をつけれた気がしない。

 あれをへし折るには両手でも不足らしい。

 

 攻撃を弾かれたランスビートルは空中で転回し、再度こちらに向かってくる。

 

 なら次は、趣向を変えてみることにしよう。

 このモンスターの厄介さは飛ぶ事だろう。そのせいで、ただでさえ硬い角に、スピードが乗って脅威を増している。

 なら、その飛行手段を奪ってやればいい。


 俺は、迫りくるランスビートルの攻撃をギリギリまで引き付けて躱す。

 そして敵が攻撃を外し、そのまま俺を通り過ぎる瞬間、胴体目掛けて剣を振り下ろした。


 しかし、それは更なる乱入者によって失敗する。


「いけるーー。なっ、……かはっ」


 モンスターの部位破壊の成功を確信した瞬間、無防備な体に思い切りボールをぶつけられたような衝撃が走る。

 その衝撃は内臓まで届いていて、少し気持ちが悪い。

 

 俺は初めてのダメージに、不安になって思わず『ステータス』を開いた。


***

【ステータス】

 名前: グレイ

 レベル:1

 クラス: なし

 HP:85/100 MP:50/50

***

 

 この一撃で15か。残りのHPは85、あと5回くらい耐えれる、その程度のダメージだ。

 『ステータス』に反映された数値は、俺がまだ戦えることを示している。


 ランスビートル1匹を倒すのにも手こずっているのに、もう1匹モンスターが増えるってのは納得がいかないが。


「うわ、あのフォルム。今度こそアレか……」


 戦っていたランスビートルの隣に、丸っこい虫のモンスターが滞空している。

 ランスビートルのような角は生えておらず、あの硬そうな頭を使った頭突きをくらったのだろう。

 嫌だな、あれが体に触れたってことじゃないか、気持ち悪い。

 

 けど、戦う相手を見極めなければならない。

 これまでの傾向として、『ステータス』に表示される名前から、そのモンスターの特徴を多少なり知ることができるはず。


***

【モンスター】

 名前: ランスビートル

 レベル:1

***

 

 『ステータス』通りなら、あのモンスターもランスビートルらしい。

 見た限り、誰かに角を折られたという感じではない。つまりあれはランスビートルのメスということだろう。


 オスは生きる為に、槍を模した強固な角を選んだ。ならメスは何を選び何を得た?

 俺は警戒を保ちながら、メスのランスビートルを注視する。

 オスのような角はない。体はオスより一回り小さい。

 角がないなら驚異は低い、と決断を出そうとして気付く。


「ーー羽の音がしない」


 聞こえてくる羽音は、目の前のランスビートルが1つ、後方で2人が戦っているので合わせて2つ。

 つまり、あのモンスターは生きる為に隠密をその身に宿した。


「厄介だな。こいつの相手をするなら、索敵魔法とかが欲しいところだが……はぁ、魔法の説明は受けてないんだよな」


 授業で教わってない問題が解けないのと、似たような気持ちだろうか。

 何というか、答えを書き出そうと、自分の頭を回転させようと何の糸口も掴めず虚無を味わうような、もどかしい感覚。


 使えない魔法の話は置いとくとして。

 俺に気づかれず接近し、無防備な腹部に頭突きをくらわせれた仕掛けはそれだろう。


 けど、こいつら2匹を倒せた時の達成感は良いものに違いない。

 強敵と見えたような。まだ低層だというのに、そんな気分に落ち入ってる俺はおかしいだろうか。


 まず、オスのランスビートルが先程までと同じ攻撃を開始する。

 もう1匹から目を逸らしたくはないが、迎撃のために向かってくる方に集中せざるを得ない。

 よそ見したまま戦えるほど、俺は強くない。当たり前だ、異世界に来たばかりの俺が強いはずがない。


 先程の感触から、両手で構えても意味がないと分かってる俺は、次は片手で受け流すことを試みる。ぶつかってくる角の側面に対し、剣を滑らせながらやり過ごす。

 ワンパターンな突進攻撃を受けたのは、これで3度目。慣れたものだ。しかし、向かってくる1匹に集中せざるを得なかったのは確かだった。


 必然、俺はもう1匹のランスビートルを見失う。

 

「仕方ない。勘で、右! ーーくっ」


 体を右側に向きなおし、剣を構える。

 しかし勘は外れ、俺の左腕にメスのランスビートルがぶつかってきた。オスに比べて鋭く尖った角が無いからまだマシと、楽観的に言ってはいられない威力だ。


 『ステータス』を見てる暇はないが、残りのHPは70ぐらいか。着々と削られていく命を思うと、冷や汗が顔を流れる。


 あの病室で味わった、一歩ずつ死が近づいてくる感覚に似ていた。その恐怖を、このモンスター達によって心の底から引き揚げられる。

 恐怖が頭に広がるにつれて、モンスターとの戦闘に集中していた脳から血の気がひいていくのを感じた。


 戦意喪失一歩手前。

 視界の端で、ガラス瓶が俺にに向かって飛んでくるのが見えた。

 俺は飛んでくるガラス瓶を、なんとか受け止める。

 

 戦闘中に物をを受け取るという無駄な動きを見せた俺をモンスターは容赦しない。


 2匹のランスビートルが同時に飛んでくる。

 メスの方に至っては長所である隠密を意識してないようにも思えた。それほど俺は魅力的な獲物らしい。虫に魅力的に思われても全く嬉しくないが。


「こんのバカが!」

 

 接近する2匹のランスビートルを、アルムが槍を横薙ぎに振って追い払う。彼はディーネと戦っていたはずだが、一体どうして。

 

「おいグレイ! そっちに2匹いんなら、さっさと僕かディーネに伝えろ。すぐに陣形を組み直すぐらいはしてやれたんだ。少しは仲間を頼りやがれ」


 戦闘中にも関わらず、アルムはそんなもの知るかといった怒りに満ちた形相で声を荒げ、俺に説教をたれた。

 怒られるというのが随分と久しい。

 久々すぎて、何を怒られてるのか分からないくらいで、俺はポカンとした顔を浮かべてしまう。


「あ? 手に負えないぐらいの戦いが楽しいみたいな顔しやがって……。くそ、お前もディーネと同じ病気か。これだから嫌なんだバカは」


 その表情を見たアルムは、当たらずとも遠からずな結論を出す。

 確かに、モンスター2匹倒せた時の達成感に胸躍らせた瞬間はあった。


「いや、違うんだ。えっとそのー、今日会ったばかりのお前に心配されるとは思ってなくて、驚いてたんだ」


「ほんとバカだなグレイ。1匹もらうぞ。それとさっき投げた回復薬一応飲んどけ」


 よく見るとガラス瓶には回復薬と書かれたラベルが貼られていた。彼に言われた通り、俺はガラス瓶の蓋を開けて、中の緑色の液体を飲み込む。

 あ、意外と甘味があって美味しい。


「ーーディーネの方はどうなった?」


「すぐ空に逃げられちまって、決め手に欠けてる」


「なあアルム。低い層は調べてるって言ってたけど、こいつの弱点とかはないか?」


「ーーそれについては悪い。僕も低層のモンスターがこんな強いと思ってなかったんだ。くそ、今思えば迂闊だった」


 アルムは自分の努力不足を本気で悔やんでる様子だった。

 ここは温かい言葉でもかけておこうと思う。

 

「気にすんな。弱点聞いた俺が言うのもおかしな話だが、攻略法が分からないってのも楽しいぞ」


「は、常に僕は2人のバカの手綱を握ってないとダメなのか。くそ、その気持ちがわかんねえ」


 彼の口から乾いた笑いが溢れる。良かれと思ってかけた言葉がいけなかったらしい。

 もう完全に、俺やディーネのような人種が呆れられているのを感じた。

 

「分からなくていいよ、パーティーに1人くらい真面な奴が必要だしな」


 気合を入れ直し、角を持つオスの方に焦点を当てる。これまで大人しかったのは、アルムという乱入者を観察していたからだろう。


 それももう済んだのか、再び角を使った攻撃を開始する。


 それをこれまで同様、剣で迎え撃ち弾く。

 だがここまでしか抗えない。追撃しようにも空へ逃げられて、俺の攻撃は当たらない。


 とても厄介なモンスターだと、改めて思う。

 特に空を飛ぶ点。それは2層という低層に似つかわしくない。初心者向けのステージで弓か魔法か、遠距離の攻撃手段を必須とするのは少し疑問だった。


「倒す手段、それか致命的な弱点があるはずだ」

 

 思い出せ。これだけ戦いが長引いたなら、どこかにはあるはずだ、こいつの弱点が。


 攻撃方法は、速度を上げて飛行したまま角を向けての突進。ーー羽を壊せれば戦力を削げるはず。

 奴は何を狙う。ーーあらゆる物に、槍に似た角で突進する。


 あらゆる物……、そういえば最初に見かけたランスビートルは木に突き刺さっていたな。


 どうしてランスビートルは木を貫けなかった? 鉄の剣と同等かそれ以上の硬さがあるにも関わらず、木程度に阻まれたと?


 何かを掴みかけた俺は、あのモンスターが初めに刺さっていた木を見る。

 木にはぽっかりと穴が空いていて、先の光景が見える。

 なら大きさはどうだ。見るとランスビートルの角ぐらいの大きさ。だがそれは、奴の胴体が通れるほどの大きさじゃない。

 そう言えば、木から抜け出す時もわざわざ角を引っこ抜いていたな。


 要するに、貫通できるのは角の部分だけなのか?

 ひとつ。ひっかかるとは思えない作戦が頭に浮かぶ。


「けど、試してみる価値はある」


 俺は迷宮の通路脇に生えている木を背にして、ランスビートルの攻撃を誘う。


 まだ、あと少し。迫ってくる角への恐怖を押し殺し、限界までこの場所に留まる。敵が方向を変えようが無いように、体一個分程まで近づいたタイミングまで引きつけてから、即座に身を屈めて攻撃をかわした。

 

 バキッと木が砕ける音がして、ランスビートルは木に自らの角を突き刺し停止した。


 俺の頭があったらへんで、身動きが取れなくなっているランスビートルの胴体を斬りつける。


 すると、いとも簡単に胴体を覆う硬そうな前羽がひしゃげた。一見硬いように見えた羽は、軽量化のせいか飴細工を斬ったような感触だった。

 

 羽が機能を完全に失い、飛ぶ事も出来なくなった哀れな敵に追い討ちをかける。

 全く同じ場所を斬りつけ、頭と胴体を切断すると、頭を木に突き刺したままランスビートルは事切れた。


 倒し終えた俺は、アルムとディーネどちらかの助けに向かおうと戦況を確認する。


 ディーネは、俺が倒した瞬間を見ていたのか、同じように木を背にして身構えた。

 迫りくる突進攻撃を、横にふわりと移動して紙一重でかわす。そして、木に突き刺って身動きの取れなくなったランスビートルの頭と胴体の間を斬りつける。


 ぽとりと胴体が地に落ちる。

 俺とは違い、たった一度の斬撃でランスビートルを両断したディーネの姿には心惹かれるものがあった。


「はあ! ーーちっ、僕が最後か」


 メスのランスビートルと戦ってたアルムも無事に倒せたらしい。足元に転がっているメスの死骸には、槍を叩きつけられた跡が残っていた。


 木で動きを止める事の出来ない相手も、1対1に持ち込めば、羽音が聞こえないだけのモンスターに成り果てる。あとは、攻撃に合わせて槍を振るう。といった倒し方だろう。

 

***

【ランスビートルを3体討伐しました。経験値を8入手しました。】

【経験値が溜まりました。レベルが1上がりました。】

***


 討伐完了のメッセージがまとめて表示された。

 ファットマウスよりも手強かった分、経験値効率も良く見えるが、そんなことは置いといてレベルアップだ。


 すぐに自分の『ステータス』を開く。


***

【ステータス】

 名前: グレイ

 レベル:2

 クラス: なし

 HP:115/115 MP:60/60

***


 レベルアップでHPとMPが上がっている。HPの方が伸びが良い気がする。それにHPが全回復しているようにも感じるが、ここらへんは自分で検証か勉強しろというところか。


「この虫つよかったぁ、グレイがいなかったら勝てなかったかも、ありがとね」


 ディーネは剣をかっこよく振り、剣についたランスビートルの破片を振り払う。

 それいいな、今度俺もやろう。


「どういたしまして。てか、見ただけで全部理解して実行できたってすごいな。それに、一度で胴体を切断できるなんてな、その剣術教えてもらいたいよ」


 『ステータス』に表示されないパラメータがあるのかもしれないが、彼女の剣はどこか剣舞に似た美しさを感じる。かと思えば、でたらめな振り方もちょくちょく垣間見えたり、不思議な技だ。


「いいわよ。ま、実は私が考えるかっこいい振り方をしてるだけだから、教えようがないんだけどね」


 ディーネと雑談を交わしていると、ナイフを取り出したアルムがそれを戒める。


「これでモンスター5匹倒せたから、さっさと素材とって帰るぞ」


 ランスビートルの頭部周りに傷をつけ、角を切り取っていく。胴体と同じく、頭部も角以外は硬くないようで、手際良く素材採取を進めていく。

 それを2匹分続けて、残ったメスの死骸の前でしゃがみ込むと、手の動きが止まった。


「メスのランスビートルか……」


「手が止まったけど、何かあったか?」


「ちょっとな。メスのランスビートルって珍しくて、こいつの素材がどれか分からない」


「思ったんだが、この鞄モンスターの死体丸々入らないのか?」


 彼の持つ鞄は、探索の邪魔にならない程度の小ささであるが、特殊な魔法によって、物を10個まで容量も重さも気にせずに持ち運ぶ事が可能だったはずだ。


 容量も重さも無視できるなら、死体ごと持って帰れれば素材全てを持ち帰れるのではと、気になった。


「ーー入らねぇ」


「容量も重さも無視できる魔法がかけられてるじゃないのかよ、使えないなあ」


「はぁ。仕方ねぇんだよ、死体が入るメリットよりデメリットの方が大きいんだから。僕が素材を取ってる間が暇で話しかけてんなら考えてろ」


 周囲を警戒してるだけで暇なのがバレたらしい。警戒も大事だと思うのだが、それ以上にこの世界の物が気になってしまったのだ。

 なので彼に言われた通りに、少し考えてみる。


「ーーメリットね。冒険者が楽できる、余すところなく素材を持って帰れる。あと道にモンスターの死体が転がらずに済む、見栄え的な? デメリットは……モンスターの死体を解体する施設やら働き手が必要になるとか?」


「メリットはまぁ、大体そんなもんだ。デメリットに関しちゃハズレだな。正解は鞄にモンスターの死体だけじゃなく、人の死体も仕舞っておけちまうのが最悪なんだ」


 そのデメリットはあるかもと思う。

 けれど、魔法のある世界で、モンスターと人の区別くらいできないものかとも思う。

 納得できてない俺を見て、アルムは説明を続ける。


「これが低級品の鞄ってのもある。安くするには、モンスターと人の死体を見分けられる機能なんてつけられない。だから、値段を抑えようってモンスターの部位とか素材とか小さい物しか入らないって、制限を加えた方が安上がりだったんだ」


「そもそもな、魔法がよくわかんねぇんだよ。MPを使うくらいは想像がつくけど、それ以外はさっぱり」


「魔法はまだだな。この迷宮の5層まで攻略するか、冒険者ランクを上げてからじゃないと教えてもらえない」


「なんだそれ、まだまだ先じゃんか」


 落胆する俺に、ディーネがそっと肩に手を置いて、分かるよと言いたげな表情で何度も頷いている。

 

「ーーお前ら、くれぐれも5層に行きたいとか言い出すなよ」


 俺とディーネの残念がる顔を見て、不安を募らせたアルムが忠告をする。


 いっそ忠告が多すぎて、振りも混じってるかのようにも感じてしまうが、真剣な感じなので馬鹿な真似はしないでおこうと思う。

 

「分かったら、さっさと冒険者ギルドに行くぞ」


 アルムの呼びかけに従って来た道を戻っていく。メスのランスビートルはというと、素材を取るのを諦めて死体丸ごと素手で持ち歩くことになった。

 残念なことに、それを持つのは俺になってしまったが……


 俺がダメージを負う場面がありはしたが、無事試験合格に必要なモンスター5匹を倒せた。

 

 モンスターを殺した感触はしっかりとこの手にあり、全く気にならなかったわけじゃない。

 それ以上にゲームみたいなモンスターと戦うという、ワクワクする気持ちが心の大部分を占めていて、考えが行き届かないだけだと思う。


 充実した異世界1日目を振り返りながら、迷宮を出て冒険者ギルドに向かった。


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