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残りの人生を異世界で  作者: 黒檸檬
1章.異世界で冒険者になろう
3/18

3.仲間ができそうです


 ーー暫く歩くと街が見えてきた。


 街は城壁に囲まれ、門にはいくつかの馬車が並んでいる。

 どうやら門番による、入国審査のようなものの順番を待つ列が出来てるようだった。

 

 当然、目当ての塔は街の中にあるので、審査を受けるべく列の後ろについて、順番を待つことにした。


「おお、兄ちゃんも冒険者になりにきた口か?」  

 

 馬車の後方につき、順番を待っている無精髭を生やした男が話しかけてきた。

 俺の簡素な服装とは異なり、革製の防具を身につけて、しっかりとした装いだった。

 

 突然、道端で怖そうな人に絡まれた気分だ。これが元の世界での出来事なら、そそくさと逃げ去るところだが、ここは異世界。

 少しくらい勇気を出してもいいかもしれないと思う。

 

「願いが叶うっていう迷宮を目指して街に出てきた……そんな感じです」


「ははっ、大きく出たな。ーー見たところ、ろくな装備もなく1人ってとこだろ? ならまずは仲間を見つけないとだな、街に入ったら冒険者ギルドに行くといいぜ。おっと、こっちの順番が回ってきたみてぇだ、またな兄ちゃん」

 

 顔に似合わず親切な男は、俺に助言を残し去っていく。


 仲間か……、女の子が1人くらいいて欲しいところかな。人間関係がややこしくなる危険はあるが、花のあるパーティーは見栄えや楽しさが違うはずだ。


「ーーにしても言葉が通じるんだな」


 外国語教育なんて、小中と英語の授業で習った程度で話すことはおろか、聞き取ることも怪しい。


 そんな俺でも、異世界の人間と会話が出来たが……、この世界の公用語が日本語ってことはないだろう。


 あの神の言ったように、俺の魂だけが元の世界のまま運ばれただけで、脳を含めた体全部は俺のものじゃなくなって。そんな考えが思い浮かぶ……


 これじゃ顔も元のままなのか怪しくなってきたか。

 別に顔立ちが良かったわけじゃないんだけど、もし朝起きて鏡に映った顔が別人の顔であったら、誰だって恐怖を抱くはず。

 それも二度と戻らないとなれば尚更だろう。


 あるいは考えたくないが、この全てがゲームであり、終末期医療(ターミナルケア)の一種である可能性……


「はは、まさかな」


「おーい! 次の人ー! 君ー、大丈夫かー?」


 遠くから叫ぶ声が、道端で考え込んでいた俺に向けられているのに気づき、考えを中断する。

 そして俺は慌てて、声のする方向へ走り寄った。

 

「すみません」


「いや、何ともないならいいんだ。君の後ろに並んでる人もいないようだしな。だが、あとで気分が悪くなったら教会に行くといい、命魔法を使える神官さんが診てもらえるはずだ」


「なるほど、覚えておきます」


「ああ、それより君……まだ『ステータス』を貰ってないみたいだな」


「『ステータス』ですか」


 ここに来るまで色々と試しても、ステータスが出てこなかったのは単に貰えてないだけだったらしい。


 というかこの世界、ステータスの存在するタイプでいいんだな。

 強さの指針として使えて便利だし、スキルが増えてく喜びはたまらない気がする。


「そうだ。ま、本格的に広まったのは最近だからな、場所によってはまだ伝わってないか。えっとな『ステータス』ってのは自身の能力を数値にして表示してくれるものだ。それだけじゃなく、個人の身分も表示してくれるおかげで、私達の仕事も随分と楽になったものだ……」


「個人の身分を……。そしたら俺は街に」


 異世界での初日が街に入れず野宿になってしまうのか、と一抹の不安が胸を掠めた。


「いや名前を書いてくれれば、それで大丈夫。非常時でもない限り、街に入るにしても簡単なやり取りでって決まりなんだ。てことで、この紙に名前を記入してくれ」


「はい!」


 あまりに杜撰な審査に、文明レベルや人々の意識を疑うが、ここは異世界だものな。文化も違えば思想だって違うこともあるだろう。


 今は無事街に入れることを喜んで、そういうとこのすり合わせは追々やってけばいい。


 えっと、名前はグレイと。これカタカナで平気? 


 名前を書き終えた紙を門番さんに渡す。俺の書いた文字が通じるのか不安で、つい彼の顔を伺う。


「名前はグレイか。おけ、ようこそ『アーク』へ」


 原理は分からないがカタカナでも通じたらしい。

 そして、門番さんのおかげでこの街の名前が判明する。

 『アーク』、短くていいな。この先拠点にしていくだろう街の名前だ、忘れずに覚えておこう。


「ありがとうございます。それで、冒険者ギルドに行きたいんですが、場所を教えてくれませんか?」


「ああ、それならこのまま大通りを進んで、広場まで行きな。そこにある1番でかい建物が冒険者ギルドだ」


「1番でかい建物……それなら分かりやすそうですね。ありがとうございます」

 

「いいってことよ。この仕事をしてると、冒険者を夢見て街を訪れる君みたいな奴と出会えるのが楽しいんだ。応援してる、頑張れよ」

 

 色々と教えてくれた門番さんは、昔を懐かしむような顔を浮かべていた。彼にもあの塔の頂上を目指していた頃があったのだろうか、そんな想像が膨らんだ。


 門番業務にないだろう応援までくれた門番さんに、俺は深々と頭を下げて礼を言い、教えてもらった通り広場へ向かった。

 

*****


 街の中心あたりにある広場に近づいた頃、天まで伸びる塔が、俺が歩いてきた方向の反対側にあるのに気付く。

 あの塔は、街の外れにあるのかと思考を巡らせる。

 つまり、塔を中心に街ができてるわけじゃない。


 てっきり、迷宮である塔を中心に発展して出来た街かと思ったが、違うらしい。

 まさかその逆か、誰かがあの塔を造ったと……、うーん分からん。

 生活が安定したら図書館でも探そう! ま、あるのか知らないけど

 

「と、あれだな」


 広場には、荘厳な雰囲気が感じられる真っ白な建物と、賑わいを感じる木造の建物と、大きな建物は2つあったのだが、どちらが冒険者ギルドなのか見分けるのは簡単だろう。

 

 迷宮のある街で、冒険者ギルドがお堅い雰囲気であるはずがない。


 俺は迷わず賑わいを見せる木造の建物に向かう。

 一歩、また一歩とギルドに近づくにつれ心臓の高鳴りを感じる。

 ここから、この場所から俺の冒険が始まるのだ。


 建物に入ると、その賑わいはいっそう勢いを増したように思えた。


 全身に鎧を装備した大男、さながらボディービルダーのごとく鍛え上げられた肉体を曝け出す者、杖にローブ姿のいかにもな魔法使い……

 視界に映る数多の冒険者達の姿が、俺には煌めいて見えた。

 

 入り口付近でまじまじと観察している俺を見て、怪訝な表情を浮かべるものも出始めた。

 というか、何人かと目があってしまう……とても気まずい。


 俺はそそくさとギルド職員らしき人のいるカウンターへと、逃げるように向かう。


 カウンターはいくつかあったが、その中でも優しそうな女性が業務を行ってる所を選んだ。

 色々と優しく丁寧に教えてもらいたいだけで、この人選に他意はない。

 

「本日はどうされました?」


 カウンターにつくと、オレンジ色の髪が素敵な職員の女性は、笑顔を浮かべて対応してくれた。

 声も優しくて、右も左も分からない今の俺は安心して会話を続けられる。

 

「あの、この街で冒険者になりたいんですが」


「なら、まずは『ステータス』を貰わないとですね。もうすぐ、あっちの部屋でその講習が開かれるので講習を受けてください! それと、見たところお1人のようですが、そちらで3人以上のパーティーを組んで待っててくださいね。冒険者になる試験の参加条件ですから。あぁでも心配しないでください! 皆さん冒険者になりにきた方々なので、同じ立場同士、仲間も見つけやすいですよー」


 職員の女性は、話しながら右側の部屋を指差して教えてくれる。

 言葉の所々から、彼女のおてんば感が察せられておかしかった。それが可愛らしいので、用があればまた頼ろうと思う。


 彼女との会話を終え、教えられた部屋に向かった。


 途中、彼女の名前を聞いておけばよかったかもしれないと後悔したが、そこまで頭が回るほど、女性との会話経験はなかった。残念である。


 部屋の扉を開くと、既に中には20人くらいの人が集まっている。

 いくつかグループが出来ている場所も見受けられるが、ちゃんと仲間を作れるだろうか……。


 不安になるのも仕方ないと思う。末期の病にかかる前から、病弱で学校にちゃんと通っていた記憶はない。


 別に友達が作れなかったわけじゃないが、休みがちでグループワーク等の経験がなかったので、こういう班分けは不安だ。


 とある親友は「グループが出来なかったら出来なかったで、先生が助けてくれるから何もしないで待ってるのが一番だ」とか言っていたが、全く信用できない。


 そもそも、ここは学校じゃないわけで。流石に、自分から行動すべきだろう。


「ね! これから『ステータス』を貰ってさ、私たち冒険者になるのよねー。君もワクワクしない?」


 どう動いて、どう声をかけようか悩み、落ち着きなく周りを見渡していた俺に、1人の少女が声をかけてきた。


 長い緑色の髪を揺らす、俺と同じぐらいの歳の少女。淡い赤紫色の瞳が綺麗で印象的だった。

 

「ああ、ワクワクしてるよ。で、出てきた『ステータス』の値が高くて、百年に一人の逸材だ! とか、大人にもてはやされる展開も悪くないよな」


 途中まで言ってて、頭おかしいやつだと思った。

 思ったならその時点でやめればよかったものの、異世界に来て気持ちが舞い上がっていた俺は、止まることを知らなかった。


 当然、彼女から軽蔑の視線を向けられるのだろうと、半ば諦めていたが、返ってきた反応は意外なものだった。


「なによ、分かってるじゃない! そうして、伝説の勇者に匹敵する力を得た私は、迷宮の最高到達点を次々更新する……ってね! ねえねえ、私たちとパーティー組まない? 私、君とは絶対気が合うと思うんだけど、どう?」


 緑髪の彼女は、先程の俺以上に興奮して話す。

 彼女の話す内容は実に俺好みで、特に最高到達点の更新には心惹かれるものがある。


 そんな彼女からパーティーに誘われる。とても魅力的な話だが。私たちとの部分がひっかかった。


「おい、ディーネ。そいつも困ってるだろ。それにそんな田舎者誘うなんてやめとけって」


 予想通りというか、彼女には連れが、それも男の連れがいた。

 俺や彼女と同じくらいの歳に見えるが、身長は僕よりも低い。

 それと、元の世界でも見かけられそうな、赤褐色の髪には、どこか同郷の人と出会ったような懐かしさを覚えた。


 その彼は、俺を見て田舎者と言う。間違いなく、そこには俺を蔑む感情が込められている。


「田舎者?」


「その服だよ。流行遅れの古めかしい服、おおかたどっかの村から出てきたばかりなんだろ、違うか?」


「あー、そんなとこ。実は街に来るのも初めてで」


 この服を用意したのは神なのだから、この異世界において、俺は田舎者の設定で生きろということか。

 でも生まれた世界が違う俺が、世間知らずなのは事実であるし都合がいいのは確かだ。


「ーーなに言ってるのよ。アルの住んでるとこだって、街の隅っこの墓地じゃない。誤差よ誤差」


 彼も痛いところを突かれたみたいで、えらくたじろいでいた。


「と、とにかく僕は反対だからな。こんな素性も知らない男をパーティーに入れるのなんか!」


「それもそうね、君の名前すら知らないわ。というか自己紹介もまだだったわね。私はディーネ、こっちは幼なじみのアルム。君は?」


 門で書いてはいたが、この世界に来て自分の名を改めて口にするのは初めてかもしれない。

 名乗った瞬間から、自分の中でも他人の中でも俺はグレイとなる。


 親が受け継いできた名字だとか、両親の両親がくれた名前だとか、そういうものとは完全にお別れになる。それがほんの少しだけ寂しく感じた。


「俺はグレイ。ただのグレイだ」


「ふふっ、アルくーん。彼、グレイっていうんだってー」


 悪戯っぽく笑って、わざとらしく彼……アルムに向かって体を寄せる。


 それを受けたアルムの顔が、傍目からわかるほど赤く染まっているのは触れないでおこう。

 さらなる難癖を回避するため、あたたかい目を向けるにとどめよう。

 でも、ちょっと物足りないので心の中で、その恋に祝福あれ! とか思ってみたりしておく。


「名前がわかったからってなんだ、僕は認めないからな」


「でも、アル。3人以上のパーティーじゃないと試験受けらんないのよ?」


「ーーぐっ。な、なら、ステータスだ! お前のステータスを見てから決めさせてもらう! それが条件だ」


 割と、この2人の痴話喧嘩を見せられているだけな気分だったが、どうにか話はまとまったらしい。


 まだ『ステータス』の仕組みは分からないが、この体を用意したのはあの神だ。


 その神が異世界に送る条件として、迷宮を攻略しろという条件を提示したのだから、最低限戦える『ステータス』が用意されているはず。


 俺はそれに賭けてみることにした。


「分かった、その条件でいこう」


「やけに自信満々だな、田舎者」


「ああもう、なんでこんな話になるのよ! 君もよ! アルの事なんてほっとけばいいのに、変な条件受け入れちゃってもう!」


「いやな。こういう展開ワクワクして、つい」


「うー! わかる。わかっちゃうから、これ以上強く言えないのよ……」


 初対面だったアルムとディーネとは、なんだかんだ楽しく話しが出来て安堵していると、音が聞こえた。


 コツコツと、部屋の前方で音は鳴っていて、見てみるとその正体が分かった。

 

 鎧を纏った女性が壇上に上がる音だった。

 しかし、鎧を纏っているというのに、一切金属音を感じさせない彼女の所作全てを、俺は美しいと感じた。


「あーあー。皆、静かに。私はギルド長のエファメラだ。此度は、冒険者になろうと、我がギルドの門を叩いてくれた事、感謝する」


 壇上に上がった女性は自己紹介を始めた。異世界だというのに、まるで拡声器越しに声を出しているような空気振動に、耳が違和感を覚える。

 が、その手には何も持っておらず、側にマイクのようなものも見当たらない。


 なんらかの魔法が使われているのかもしれないが、今の俺には分かるはずのない話である。

 早々に違和感の原因を探すのを諦めて、次は女性に注目してみる。

 

 壇上に上がった女性はクールビューティーと表現するのが適切な、いわゆる美女であった。

 その身に纏う白銀の鎧が、彼女の凛々しい顔の美しさを増長させ、聖女のごとき神聖さまで感じさせた。


 感謝の意を表すように軽く会釈をし終えた彼女は、顔を上げ、右の手のひらに光を集めながら告げる。


「では、始めよう。ーー『命の真価を示す、そのための術を我等人類に』、魔法 《ギフト・ステータス》」


 ギルド長による短い詠唱の後、彼女の手のひらに集められていた光が、淡い光の玉となってこの部屋一帯に広がっていく。


 次々に光の玉はこの場にいた人間に向かって射出され、その体にぶつかった瞬間、体の中へと溶け込んでいく。


 その様子を見ていた俺にも、光の玉が当たって体へ溶け込む。

 溶け込んだ光が全身に広がって、いま俺は薄らと発光している気がする。


 『ステータス』を貰えるという魔法を受け、俺の体はぽかぽかと、ほんの少し熱を帯びている。

 生まれて初めて魔法というものを受けたが、体が熱くなるという、なんとも不思議な感覚だった。


「これで、終了だ。『ステータス』を見たいと望めば視界に表示されるはずだ。これより、各自『ステータス』を確認する時間を暫し設ける。ギルバートあとは頼む」


「は、お任せを」


 ギルド長は傍にいた渋いおじさんを残して、部屋を出て行く。一集団の長だ、きっと忙しいのだろう。

 

 俺は早速、自らの『ステータス』を確認しようと、強く意識してみる。


 すると網膜上に文字が表示された。試しに視界を動かしても、常に文字列は視界の端に映し出されたまま、かといって文字の間から先が見えるので、邪魔にはならない感じだ。


 次は『ステータス』を見終わって、満足したことを意識すると視界から消える。


 もう一度、次は詳しく数値を見てみようと、『ステータス』を表示してみる。


***

【ステータス】

 名前: グレイ

 レベル:1

 クラス: なし

 HP:100/100 MP:50/50

***


 そこに次ページ表示や下スクロール表示はなく、『ステータス』はこれで全てだった。

 

 えっとまあ、比較するステータスもないわけで、この数値が、果たして良いのか悪いのか全く分からないが……

 あの、『ステータス』ってこんだけでしたっけ



 とある親友というのは自分の別作品から。

 どちらも人気ないのにこんなことするのはアレですが、前々からやりたかったのです。がんばります。

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