17.デートという名のお買い物
カーテンの隙間から光が差し込む。外では鳥も鳴いている。
眠気とだるさの残る体をのそのそと動かし俺は目覚めた。
ーー朝。朝だ。気づいたら朝だった。
起きて早々、昨日のディーネの言葉が延々と脳内に響く。
ーー「明日、デートしましょ」
その明日は、いまや今日だ。昨晩は色々考えてるうちに寝落ちしてしまった。
デート? デートとは? 男女が出かけるアレ?
いやいや、まさか……、ディーネとはまだそんな恋仲じゃない。
何かとセンスも合うし、良い人だとは思うけど。
「よし、起きよう」
悩んでても仕方ない。というか時間が無い。
カーテンを開けて光を浴びる。これで少しは目が覚めた。思考がクリアになっていく。
リビングに向かうと、彼女は既に起きていて出かける支度をしている最中だった。
俺も急いで支度して、2人揃って家を出る。
ここでようやく勇気が湧いた。俺は聞けずじまいだった、例の言葉の真意を問いただす。
「デートというと、どういう事?」
「それはね。私の剣、壊れちゃって。新しく作り直そうと思うの。それに付き合って」
それは果たしてデートなのかと疑問を抱きつつ、ディーネの取り出した剣を見る。
その剣は刀身が全て無くなっており、持ち手だけしか残っていなかった。
まるで金属部分全てが熱で溶けたような壊れ具合。
「じゃあ冒険者ギルドに向かおうか。俺の防具もそこで買ったんだけど、安かったぞ」
胸当てと籠手をそこで買った。モンスターを倒すための武器ほど直接的な出番こそ無いが、生存率の上昇に一役買ってる。
「そうね、とりあえず行ってみましょう」
*****
結果として冒険者ギルド備え付けの鍛冶屋を訪れたのだが、何も買わずに店を出た。
「ディーネのお眼鏡にかなう剣はなかったかぁ……」
「うーん、良さげなのもあったんだけど、いまいちね」
何本か剣を手に取っては、その硬度や重さをブンブンと振って見定めていたのだが、結局良いものは見つからなかった。
ディーネはというと理想の剣が見つからなかったせいで、すっかり肩を落としてしまっている。
「そっか、じゃあどうする?」
「うーん、職人街に行ってみない?」
「職人街?」
「そう。迷宮の周りに固まってるんだけどね。そこなら私に合う剣があるかもしれないわ、どうかしら?」
迷宮の近くは武器防具の需要が高そうだしな。自ずと職人達が集まったということか。
「まあ、この街のことよく分からないし、ディーネに任せるよ」
「決まりね、行きましょ!」
もう慣れた道を通って、職人街とやらを目指す。
天まで届く高さの迷宮の塔を目印にすれば、迷うこともない。
*****
職人街に着くと、人の多さに気圧される。大勢の冒険者が武器屋、防具屋の周りを賑わせていた。
日用品なんかを取り扱う店や、装飾品を取り扱う店も通りには並んでいる。
店を眺めながら通りを歩いていると、どこからか怒声が聞こえて来た。
すぐさまディーネと顔を見合わせ、音の出どころへと向かった。
こういう時、彼女は首を突っ込まずにはいられない性格だ。人と関わり合い、まるで物語の主役のように周りを巻き込んでいく。いわば彼女の美徳。
俺を仲間に誘ってくれたのもそうだ。だから次は俺もそうしたい。
彼女に倣って、俺も喧騒の現場へ向かう。
そこでは風格のある鍛治師らしきおじさんが、弟子ぐらいの年若い女性を叱りつけている最中だった。
「このバカがっ!」
女性に対し、おじさんの鉄拳が飛ぶ。意地を張って避けようとしない女性の顔に直撃する。
「いてぇよ親父。何も殴らなくても」
「何度言やぁ分かる! モンスターの素材から剣作るたぁ、邪道も邪道だっつってんだろ」
追い討つような罵声が、次は女の心を殴りつける。
「ーーーーなんでっ」
「金属一つで勝負できねぇ未熟モンが。モンスターの素材で剣を打ったとして、安定した修理が出来るか? 増産は? 均一性は? お前のやりてぇことは夢でしかねぇ、現実を考えろバカが」
おじさんは女性に対して、理詰めしてさらに追い込んでいった。
痛い所を突かれたのか、女は顔色がみるみる悪くなる。散々の仕打ちに抑えきれなかったものを、女はその感情のままに吐き出した。
「う、うるさい。うちにはうちのやり方がある!」
「ーーなら勝手にしろ。お前がそんな剣を作り続ける限り、うちの敷居を跨ぐことはぁ許さねぇ。頭を冷やせ」
「くそっ……」
その場で座り込んだ女は、悔しさから拳を地面に叩きつける。地面に八つ当たりした後も悔しさは治らず、歯噛みする。
話が聞こえていた人も踏み込んで良いのか悩んで、多くがこの場を離れていく。
途中で通りがかった人も気には留めるものの、関わりたくないのか、忙しいのか通り過ぎていく。
女に声をかける者はいなかった。ーー彼女を除いて。
「大丈夫ですか?」
ディーネは優しく手を差し伸べた。その手を見て女は逡巡の後、最終的に手を取って立ち上がった。
「すみません、お騒がせして」
「別にいいんじゃないかしら。私も仲間とよく騒いでるもの。みんな気にしないわ」
「確かにな。ま、騒いでるのは主にディーネだけど」
思い当たる節が多すぎる。果てには迷宮内でも騒いでた記憶がある。
ディーネが始めて、俺が乗っかって、アルムがキレる。アルムの反応が面白くて、2人して騒いでしまう……これ俺も悪いな。
心なしかディーネがジト目でこちらを見てくる。「あなたもでしょうに」と言ってもないのに、聞こえてくるようだった。
苦笑いで「悪い」と返すと、にっこりとした笑顔が返ってきた。許されたらしい。
その無言のやり取りを見ていた女は、元気を取り戻した様子で、微笑んでいる。
「仲が良いんですね。うちも少し元気が出ました」
「どう致してまして。紹介がまだよね、私はディーネ、彼がグレイ。それで、ーーあのっ!私達新しい剣を探しにきたの。貴方のお店を見せてもらってもいいかしら」
「もちろんです」
女は乱れた髪を手櫛で直し、殴られて地面に倒れたた時に汚れてしまった服をはらって「ごほんっ」と咳払いをひとつ。
最後に表情をただして、出会いを仕切り直す。今度はちゃんとした武器屋の店主として。
「改めて、ーーいらっしゃいませ、ブリギッド魔剣店へ。店主のブリギッドです。うちの店、出来たばっかで品は少ないですけど、どうぞご覧ください」
自らの店名を口にした時、言葉ひとつ一つから力強い熱を、決意のようなものを感じた。
案内されるまま、店内へと場所を移した。
剣や槍、斧に杖、各種武器が並んでいるのは他店舗と変わらないのだが、ひとつひとつに個性が溢れていた。
岩石の剣。剣の鍔に魔物の素材が使われてる剣。ぐにゃぐにゃと刀身が曲線を描くフランベルジュ。
持ち手も穂先も全部が真っ黒な槍……。
「なんだこりゃ、禍々しいにも程があるだろ。この槍なんか黒いオーラ出てるぞ」
「ああ、その槍、気に食わない客には襲いかかるんで気をつけてください」
店主兼作成者のブリギットによって付け加えられた解説を聞いて、背筋に緊張が走る。
槍が意思を持って飛んでくるだと?
反射的にツッコミが口から出ていた。
「客の見えるとこに、商品に見せかけたトラップを置いとくなっ!」ーー思ったより声が出た。
「ーーなっ! あんたもうちの武器にケチつけるつもりか」
親父に続いてお前もか、と俺に向かって威嚇してくる。
「これに関しちゃ俺の意見が正しいって、せめて注意書きは添えとけ」
「そ、それはそうだが……。まぁ、お客様のありがたい意見だ。後でやっとこう」
ブリギッドは一応納得してくれたらしい。一連の様子を眺めていたディーネは楽しそうだ。
笑みを浮かべて、店内を見渡している。
「ふふ、面白いお店ね。私は好きよ。襲ってきた槍と仲良くなって、真のパートナーになる展開でしょ?」
「そこまで考えては……いや、アリですね。後で打ち直しましょう」
ディーネの適当な発言に対して少し考え込んで、閃いた様子だ。その反応からして打ち直す事で実現可能らしい。
意思を持った武器との、時間をかけての共闘、別れ含めたあれこれの良さは分かるけど。
「いや、そこまでせんでも。てか、ニッチな仕様変更も出来るんかい」
「出来ます。親父にはボロクソ言われましたけど、こと自由度に関しては自信があります」
「さいですか」
ブリギッドは先程のことを思い出したのか、小声で親父の愚痴をつらつらと並べている。完全に自分の世界に入ってしまっている。
「ますます、気に入ったわ。面白い剣も沢山あるしね」
と言いながら彼女は目についた剣を手に取る。まずは岩石の剣を試し振りし始めた。
最初は物珍しい岩石の剣に、側から見ても分かるぐらいワクワクしてたが、岩石の重さに振り回されて、満足に振れずしっくりこないらしい。
剣を元あった場所に戻した。目新しい剣を次々試しては、楽しんでいる。
そうして全ての剣を試した後、他の店と同様に頭を悩ませていた。
「うーん、惜しい物はあるけど……。そうだ! ねぇ、私用に剣を打ってもらえない?」
「本気か、ディーネ。なんか親方みたいな人にボロクソ言われてた鍛治師だぞ、理由もまぁ納得いくし」
黒い槍のやり取りから、腕の良さはあるのかもしれない。けど、どこか色物の香りがする。斬新さは魅力だが。
ブリギッドは「なにを!」と声を上げるが、少し無視させてもらう。
「いいの。モンスターの素材で作る武器って珍しくて特別感があって。それにね、一人で新しい道を進む人って好きなのよ。私も一緒だから」
ディーネは聞く耳を持たない、そこには確固たる意志があった。
そして、その共感を抱いた口振りには強い想いが篭っている。
「モンスターの素材で作った剣って強そうだしさ。気持ちは分かるけど……。一緒って?」
一緒の理由を問いただすも、彼女は悪戯っぽく人差し指を口に当てて答えるだけだった。
「それはまだ内緒。で、鍛治師のお姉さん。私に剣作ってくれますか?」
「もちろん出来ます……けど、いいんですか、店にある剣をお気に召さなかったんでしょう」
全幅の信頼を置かれたブリギッドは嬉しいものの、度重なる醜態のせいか自信が無さ気だ。
ディーネは言葉を続ける。自らが決めた道に突き進む時の顔だ。こうなった彼女から逃げることは出来ない。
「いいのよ。私は貴女に惚れたわ。何よりモンスターの素材で武器を作るなんて最高にカッコいいじゃない!」
ブリギットは拳を握って震えている。
すると堰を切ったように、歓喜の感情を口から響かせた。
「ーーーーおっしゃる通り!! モンスターの素材って、石や金属より断然カッコいいんです。生きてきた命の輝きが詰まってるといいうか。それに、迷宮のお陰でモンスターの素材が身近で手に入ります。使わないともったいないっ」
ブリギッドは人が変わったかのように、早口で自分の作る武器の「好き」を言い切った。
ディーネの抱える冒険心に似たものを感じる。
「ディーネにも負けない熱だな。俺もこの人に任せていいと思う」
「ふふん、私の目に狂いはなかったわ」
俺が意見を覆して認めたことで、得意げに笑う。
「ありがとうございます。それでは具体的な話に移りましょう。えっと、うちの在庫からでもいいんですが……。ディーネさん、何かモンスターの素材はお持ちですか?」
「あるわ、ちょうど良いのが」
そうして手渡したのは茶色の魔石。猛々しい命を石の中に秘め、宝石のように煌めく石。
「私にとって大切な魔石。みんなで初めて倒したボスモンスターの素材」
あのストレングス・グリズリーの魔石らしい。パーティのほとんどを圧倒した文字通りのモンスター。
ボスに相応しい力を有していた。最後に残った彼女がどうにかしてくれなければ、全員が死んでいた。
「良い魔石ですね。うちも腕がなります。ディーネさん、仕上がりに希望はありますか」
「希望ね……とにかく丈夫な剣にして欲しいかな」
「かしこまりです。2、3日したら完成しますんで、取りに来てください。料金はその時で構いません」
「お願いします!」
ディーネは元気良く返事をした。良い買い物が出来てとても満足そうだ。
「グレイさんもどうですか?」
更なる売り上げを得ようと、俺にも武器を勧める。
拒否するほどではない。モンスターの素材で造った剣に魅力もある。
悩みながら腰の剣に触れる。冒険者になる時、ギルドで貰った平凡な剣。
なのだが、愛着はある。初日から一緒に過ごして幾度となく……と言えるほどモンスターと戦ったわけじゃないが、いわば戦友だ。
「うーん、俺の剣はまだ使えるしな、またの機会にお願いするよ。いい素材も持ってないし」
「そうですか……新調する時には是非うちの剣を選んでください」
「そん時は頼るとします」
この剣が迷宮のモンスターに、不足する時には頼もう。
予備として2本目もありか? と店を出てから気付いた。良さげな素材が手に入ったらここへ来よう。
*****
ディーネの剣は完成まで時間がかかるみたいだが、これで今日のデート?の目的は果たした。
俺とディーネは帰路についている最中だ。隣り合って歩きながら、彼女を見る。
すると目が合った。俺は気まずくなって目を逸らす。ずっと見てたと思われるのが恥ずかしかった。見惚れてただなんて
「グレイ、最後に寄りたいところあるんだけどいい?」
「ん? 別にいいけど」
土地勘の全くない俺は、黙って彼女について行く。
着いたのは見晴らしのいい高台。ここから街全体が見渡せる。
高台の見晴らしのいいスポットよりかは離れた先、ディーネは体育座りで腰掛けた。
スカートの裾をきちんと伸ばして、両脚と布を腕で包むように座る。
すぐ横の地面をこっちこっちと叩いて、招かれるまま俺も隣に座った。
どこか甘酸っぱい空気が流れた。気がする。2人して言葉を発せずに、景色を眺めるだけの時間が流れる。
何かを決心した様に「スーッ」と息を吸い込み、ようやく彼女が口を開いた。
「ーーねぇ、聞きたいことがあるんだけどいい?」
「ああ。答えられる範囲なら構わないよ」
「じゃあ聞くね。ーーなんでグレイは誰も知らないはずの【詠唱】を知ってるの?」
その言葉にドキッと心臓が跳ねた。
何故そんなことを聴いたのかも気になるが、それ以上に『誰も知らない』?その言葉が引っかかる。
「誰も知らないってどういうことだ」
質問に質問で返された彼女は、一度思い悩んだ顔をしたが、教えてくれる。
「だってそれはもう失われたからよ。今や私の家族以外、誰の記憶にも残らない言葉なの。それを貴方がどうして?」
「分からない。心当たりは……ある」
他の誰にもない俺だけの秘密。
詠唱の知識の大本も、由来は同じだ。
「それってなに?」
言うしか無いか。今がその時かは判断つかないけど、
大きく息を吸って、取り込んだ空気と一緒に秘密を吐き出した。
「ーー俺はこの世界の人間じゃないんだ。別の世界で病気になって、それが特殊な病でさ。運命に刻まれた病って言うか、迷宮の頂上で願いを叶えて治しなさいって向こうの神様に機会をもらったんだ」
いくらか省略して掻い摘んで話したが、おおよそ言った通りだ。
ディーネは受け入れるのに時間がかかっていた。
無理もない。異世界から来たなんて、突然言われても困るだけだろう。
「ーーーー」
「突飛な話だよな……、ごめん」
「んーー! 最高よグレイ!」
返ってきたのは、心からの歓び。そして飛びついてのハグだった。
「へ?」
俺はというと、心底マヌケな声が溢れた。
いったん、俺の肩に巻き付いた腕を退ける。ハグされたままでは話が進められない。
「私が求めてた、ううん求めてた以上の背景! 設定!」
「設定って……、言い方よ。いや待ってくれ。誰も知らないはずの知識をどうしてディーネは知ってるんだ」
背景、設定と物語すぎる言い回しに苦笑いを浮かべる。
「うーん、それはね。私が貴族だからよ」
「それって……」
「5代貴族に入れなかった仲間はずれのヒストリア家。私は現当主の娘。驚いたかしら?」
驚くことに図書館で見た名前が、彼女の口から出てきた。
確か『五大貴族の歴史』に書かれていた。5つの家系はそれぞれ名前に関するものを管理している。との話だったはず。
「そりゃ、図書館の本に出てきた名前が出てくるってのは、驚くよ」
「その図書館を管理してるのが私のうちよ」
「またまた驚いた。重要な仕事をしてるんだな」
「でしょう。それと私だけステータスが高いのも、この血が原因でしょうね」
以前、迷宮の安全地帯で休憩を取っていた時の話だ。各々ステータスの数値を共有していた時、彼女の数値だけがあからさまに高い数値だった。
俺はその時不思議に思って、心当たりを尋ねたのだがディーネはおろか、アルムまで話を逸らそうとしていた。
「だから、あの時2人とも歯切れが悪かったのか」
「ごめんなさいね。いつかは話さないとって思ってたんだけど」
「いいよ、俺も色々秘密にしてたわけだからさ。でも家の件はどうして急に?」
「グレイが話してくれたのに、こっちは秘密にし続けるのってフェアじゃないでしょ。それに、秘密の共有って仲間の醍醐味過ぎるじゃない?」
「だとしてもだ。話してくれてありがとう」
「こちらこそよ。異世界から来たなんて、私のより勇気と覚悟のいるものだったでしょ。話してくれてありがとね」
2人して秘密の会話を終えて、立ち上がるタイミングもなく、ただ黄昏る。
夕陽に照らされて、彼女の紫紺の瞳が宝石のように輝いてる。
なんでもない時間が流れる。
そんな中、ディーネは思いついたかのように突然立ち上がる。
「【詠唱】が分かるならもしかして……周りに誰もいないわよね。ね、ちょっと剣貸して」
「いいけど。何をするんだ?」
言われるがままディーネに剣を手渡した。
彼女は渡された剣の握りを確かめ、腰に佩く。
その姿は居合の姿勢そっくりだ。
「じゃあ行くよ。これは|《和声と創意の試み》第一の太刀、第一章『春が来た』の簡易版!」
剣が薄緑色の輝きを纏い、周囲に風が巻き起こる。
それはいつか見た春を告げる風。
暖かく、全ての始まりの風、四季の美しさを奏でる剣戟。その一端。
どこからか、壮大な音楽が聴こえてくる気までしてくる。
「美しい……」
「頭痛は? どこか痛かったりしない? 記憶に影響が出てたりしない?」
俺の頭に手を伸ばして、こねくり回しながら心配してくれる。だが、彼女の言う影響などは無い。
「いや、今のところそんな影響はないけど」
「やっぱり! この剣術もね、世界から失われたものなの。言わば、剣一本でMPを使わず魔法を発動させる剣術よ。これをね、昔々の勇者パーティの剣士さんが使ってたらしくてね、あのボスもこれを使って倒したのよ」
彼女の言葉で謎が解けた。あのボスモンスターを倒した秘密は、これだったのか。
剣一本で魔法を引き起こす剣術なら、あるいは1人であれを倒すことも可能だろう。
「なるほど。で、剣が壊れたと。ちょっとまて、俺の剣は無事か?」
「当たり。剣が耐えられなくて壊れちゃってね……安心して、今回は本気じゃないから壊れたりはしてないわ」
「それは良かったけど、本気じゃなくてあれだけの風が起こるのか」
「凄いでしょ! 私も剣術集の全部を覚えたわけじゃないけど、今度貸してあげる。そしたら、異世界のお話と交換こしましょ」
あの凄まじい剣術を教えてくれるってなら安いものだ。
興味を引きたくて、少しだけ話しをすることにした。
「ほんと!? 嬉しい。異世界の話なんていつでもするよ。余談だけど、異世界ではモンスターもいなくて、剣を持ったことない奴がほとんど。俺もそうだ」
「嘘でしょ!? 他には、他には!」
立ち上がった俺は、未だ興奮冷めやらない彼女を体良く交わしてこの高台の出口へ向かった。
「またの機会にな、暗くなってきたし帰ろ」
「焦らすわね、ふっ……楽しみにしてるわ」
物欲しそうに眺める彼女に、改めて俺はお礼を言う。言わねばならない。
「今日はありがとな、おかげで胸のつかえが取れたよ。アルムが退院したら、あいつにも話そうと思う。その時は付き合ってくれよな」
「どういたしまして。その時は私も一緒にみんなで話しましょ」
「ありがとう」
「帰ろっか」
「ああ」
異世界出身という素性を話せたことで、俺の人生に一つの幕が降りたと感じる。
空気が美味しい。目に映る光景が美しい。俺を取り巻く全てが心地良い。
この世界に来て初めて、地に足をつけて歩けてる気がする。
元の世界、今の異世界でどの瞬間よりも清々しく、生きてるってことを謳歌出来ている。
あぁ……、この残りの人生。否、この先の人生をこの世界で生き抜こう。
そのために、俺はあの迷宮の頂上へ辿り着く。絶対に。
1章ここで終わりです。
一度投稿が開きましたがなんとか書き切りました。
2章の間に何話か挟むつもりです。今後もお楽しみください。
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