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メデオスとお姫さま

そこは今彼等が暮らしている場所とは別の世界。


煌びやかな王宮の隅にひっそりとその部屋はあった。

開かれた窓からは穏やかな風と光、そして庭で手入れされた美しい花々の香りを感じて、彼女は息を吸い込んだ。


「よ!姫さま。元気かぁ?」


ふと彼女の傍に影が落ちた。

彼女は閉じていた瞼を開き其方を見る。


そこに、その情景があまりに不釣り合いな男が立っていた。


「・・・来てくれたのですね」


彼女は今にも溢れそうな涙を堪えながら横たえていたベッドから降りようとした。しかし、それを大柄なその男が手だけで制した。


「無理すんなって。俺が今まで、姫様のお願いを断った事あったかぁ?」


男が戯けると彼女はやっと微笑み頷いた。

彼女の瞳から落ちた涙はそのまま手元のシーツに落ち染みを作った。


「御免なさい。いつも私の我儘で貴方を振り回してしまって。そして今からお願いすることも。貴方は関係ないのに」


「何言ってんだぁ?俺と姫様の仲だろぉ?悪いと思うなら、いい加減俺のプロポーズ受けてくれていいんだぜぇ?」


彼女の謝罪に男は気にする様子もなく笑って応えた。

そして、彼女から少し距離を置いたその場所に膝をつき、右の拳を地面に置いた。


男の背後では色とりどりな花びらが舞い、そんな男の姿が逆に彼女の迷いを払った。


「アトラーニがトキウスを手にする前に、あの実を見つけ処分して下さい。もし万が一、彼が先に手にしてしまった時は・・・」


それは、二度と帰ることが出来ない御伽噺の夢物語。


「メデオス。貴方が彼の代わりに、その呪いを請け負って下さい」


「いいぜ姫さん。その代わり無事に俺が帰って来たその時は、俺の願いを叶えてくれよ?」




◆*****◆*****◆*****◆*****◆




あれぇ?

今、一体何時だろう?

いつもならアラーム必ずかけて寝るのに。

それに目覚ましもないのに普通に目が覚めるなんて珍しい。

なんだか物凄く懐かしい夢を見た気がするけど、気の所為かな?


「う・・・ん。うん?」


あれ?ちょっと待って?

ここ私の部屋じゃないね?

ふむふむ?見知らぬベッドだ。

これはちょっと緊急事態発生か。


・・・取り敢えず、鈍器はどこかな?


「おい。何勝手に部屋ん中漁ってんだ。起きたならさっさと帰れ!俺は猛烈に疲れてるんだ」


あ、そっか。

ここアトラーニの部屋か。

って事はこれはアトラーニのベッド。ふむ?


「もしかしてやっちゃった?」


「いつもやらかしてるのは俺じゃなくてお前だろメデオス。勝手に人のベッドを奪い取っておいてやっと起きたと思ったら開口一番そのセリフなのか?もう勝負とかどうでもいいから家に来るな!」


な、なんだよぉう。元気じゃん?

ちょっと寝ぼけたくらいで大袈裟な。

なんとなく思い出して来た。そういや昨日疲れ果ててつい目に入ったベッドに倒れ込んだんだった。


ん?なんで二人してそんな疲れているかって?

ああ、大した話じゃないの。


ほら、この前鈴木ちゃんがやらかしたって言うアレ、やっぱ

濡れ衣だったの。彼女が机から離れてる時、同じチームの奴が勝手に共有パスでデータを開いて何の承諾もなくコピーしようとしたんだけど、あろうことか会社の端末じゃないスマホにデータを移そうとしたらしくて・・・まぁ細かい事はともかく、それが原因で彼女が作ってたデータがぶっ飛んだみたいなのさ。私はその後処理に付き合わされて家まで辿り着く気力もないまま、ここにいるってわけ。


だってここなら3食昼寝付きだし?


「分かった分かった。今すぐ退くから。どうぞゆっくりお休み下さい」


「・・・いや、お前が帰らないと俺が休めないだろ」


「大丈夫。途中で起こしたりしないから。ずっと会社に缶詰め状態だったもんね?私は適当にやっとくからゆっくり休んで?」


なに?その憤懣(ふんまん)やるかたないみたいな顔して。

本当彰って固いなぁ?やっぱりどこかアトラーニと重なるよね?コイツ。


「ま、待て!せめてシーツを替えさせろ!」


「あん?どういう事よ。臭いってか?私が臭いってか?ちゃんとお風呂借りてからベッドに入ったでしょうが!!」


「お前わざとか。ちゃんと覚えてんじゃねーか!なにが"やっちゃった?"だ!!お前の辞書にデリカシーって言葉はないのか!!」


もぉ〜ちょっと、こいつどう思う?

疲れてんだから細かい事愚痴愚痴言ってないでサッサと横になれってーの!!


「っおい!?いきなり突き飛ばすな、危ない・・・」


本当に世話の焼ける奴。

あの時だって、さっさとトキウスを私に渡してくれたらこんな事にはならなかったのに。ほ〜んと私ついてない。


「いいから。とにかく何も考えずに黙って目を閉じる!!」


「・・・んな・・・ぉま・・・・・・」


ほら、やっぱり限界だったんじゃん?

横になったら即落ちだもんね。

だからさっさと休めって言ったのに何をそんなに躊躇ってたんだか。私だって寝てる間に襲う程卑怯な人間じゃないっつーの。


それにしても、なんだかんだ文句言いつつお人好しだよねぇコイツ。嫌なら外に放り出せばいいのにさ。私なら間違いなくそうするね!


「・・・う〜ん。どうしようかなぁ・・・なんか、本当のこと言い辛くなってきた」


本当の事言ったら、きっと今より怒るだろうなぁ。

でも、女神との約束は果たさないといけないだろうしぃ?


あ〜どうして女神様は私を女に生まれ変わらせたりしたんだろー!!面倒くさいよぉーーー!!


姫さまぁ〜私どうしたらいいのぉーー!!

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