本当、面倒くさい
「大福?」
「え?何か言いましたか?南雲さん」
いや、すまない。
ついついさっきから此方を睨んでいるメデオスこと紗枝の顔が大福にしか見えない。
俺の見間違いか?
なんでアイツあんなに頬膨らませてるんだ?
まさかおたふく?今すぐ帰れ!
「悪い、なんでもない。それで?どこまで修正出来た?」
「丁度半分くらいまで。・・・本当にすみません、私のミスで南雲さんまで残業させてしまって」
そう。
俺は珍しく残業を余儀なくされている。
何故なら、クライアントから請け負っていた仕事のデータが途中で吹っ飛んでしまったからだ。
何故保存しようとしてDeleteキー押す?
そんな初歩的な間違い犯すヤツまだ存在したんだな。
「とにかく今はデータの復元が先だ。せめて明日までに出来るだけ仕上げれるように頑張ろう。今日は泊まりになるけど家の方に連絡は?」
「あ、私一人暮らしなので大丈夫です。気を遣って頂いてありがとうございます」
おかしいよな。
俺には鈴木さんがこんな初歩的なミスを犯すとは思えない。
真島紗枝ならまだしも鈴木さん仕事はそれ程早くはないけど丁寧で慎重な人だ。うっかりデータを自分で消すなんてあり得るだろうか?
あと、なんでメデオスの奴まだ会社に残ってるんだ?
正直邪魔なんだが?
「鈴木さんがマメに俺にタスクデータ送ってくれてて助かったよ。主任のPCにもデータ残ってたから、きっと間に合う」
「・・・・・・はい」
「鈴木ちゃん元気出して!人間誰しも間違いはあるって!ドンマイドンマイ」
だからお前はなんなんだ。
あとお前にだけはそのセリフ言われたくないと思うぞ!
お前はもう少し自分を顧みろ!そして深く反省しろ!!
全世界の真面目に働く社会人に土下座して謝れ!
「あ、あの。真島さん、もう遅いので帰った方が・・・」
「大丈夫!私、明日は休みだし二人が頑張ってるのに置いて帰るのもね。お腹空いてない?何か買って来ようか?」
そう言いつつ俺に手を差し出すのは最早テンプレか?
お前俺の事、便利な財布ぐらいにしか思ってないな?
いや、分かっていたがな?
この役立たずが!!
邪魔だ、俺の視界から消え失せろ!
「あ!わ、私がお金出しますから!南雲さんは出さないで下さい!」
「気にしなくていいよ。コイツの図々しさにはもう慣れた。紗枝、余計な物は買わないように」
「買わないよぉ?三人分の晩御飯と三人分の飲み物だよね?オッケー!」
何ちゃっかり自分の分まで人数に入れてやがる。
俺は一言もお前の分まで出してやるなんて言ってないぞ?
「珈琲も買って来る?この時間ならいつものお店まだ空いてるよね?」
「ああ、ブラックで。それ以外のもん買って来るなよ?」
「オッケー!ちゃんとお釣り持ってくるから」
当たり前だろが。
なにお釣りちょろまかそうとしてるんだお前。
あと、なんでまた大福みたいに頬膨らませてんだ。
新しい遊びか何かか?肌が白いから本当にムチムチだな。
忌々しいくらい無駄に可愛いな畜生め。
ん?なんだ?隣から微妙な視線を感じるような?
「・・・あ、あの。お二人って、もしかして付き合ってます?」
「いや、ない。あの女はない」
「え!?あ、そ、そうなんです?下の名前で呼んでいたし、なんだかとても気安いというか。仲が良さそうだったので。すみません変な事聞いてしまって」
しまった!
つい、いつもの調子で話してしまった。
普段はメデオスって呼んでるからつい違和感なくこっちでも名前の方を呼んでしまっていた。そもそもメデオスも二人の時、俺を名前で呼んで来るしな?お前はもっと気を遣えよ。俺一応会社の先輩だぞ。
はぁ気をつけよう。
これからはちゃんと真島さんと呼ぼう。
俺、アイツとは赤の他人です。
「すごーい!本当に仕上っちゃった!南雲さんやるぅう!」
「あ"?そうですね?真島さんがいなければもっと早く終わりましたがね?」
「え?突然どうしました?疲れすぎて人格入れ替わっちゃいました?(アトラーニと)」
・・・なんとか間に合った。
期限は明日だからもう問題ないだろ。
それにしても疲れた。普通に作成したら五日かかる仕事を、全てではないといえ短時間で仕上げたからな。
頑張ったな、俺。
「ありがとうございます南雲さん。なんてお礼を言えばいいか・・・」
「いいよ。まだ出社時間にならないから仮眠室で休んで来たら?この後主任に報告しなきゃなんないだろ?俺も一緒に話を聞くけど、鈴木さんの仕事だからな。俺は話を聞くだけだから」
「は、はい!何から何まで・・・ご迷惑おかけします。じゃあお言葉に甘えて少し休ませてもらいます」
さぁーて。
俺も仮眠を取るか。
なんだよ、お前まだ居たのかよ。
「おかしいよねぇ?鈴木ちゃんがさぁ〜こんなミスすると本当に思う?」
「まともに仕事も任されてないお前に何が分かる?まぁ確かにおかしいのは間違いないな。他の社員が来たら聞いてみる。俺もお前も外回りで事情を知らないからな」
「言わないんじゃない?もし本当に鈴木ちゃんのミスじゃないなら最初からそう言うでしょ?言えないんだよ」
メデオスの癖によく気付いたな?
転生して少しは頭使えるようになったなら幸いだ。
普段もそれくらい空気読んでくれると助かるんだが?
「週末だけじゃなくてさぁ今度は気が向いたらアトラーニの家遊び行ってもいい?」
「は?なんだ突然。そんな事しても勝負の決着はつかないと思うぞ?」
大福の次は満面の笑顔だな。
本当にコイツコロコロ表情変わりすぎだろ。
「何があったのか私が調べてあげる。その代わり週末以外にもアトラーニのご飯食べさせて」
成る程。
仕事出来ない癖に無駄にコミニケーション力は高いからな。
俺が聞いても簡単には口を割らないだろう。しかし・・・。
「これは俺の仕事じゃない。そこまでしてやる義理もないが?」
「あはは!何言ってんの?だったら最初から首なんて突っ込んでないっしょ?その無駄な正義感アトラーニっぽいわぁ」
絶対に褒めてないなそれ。
あーーーーーーーーーーっ!クッソ!
俺は極力目立ちたくないのに!
どいつもこいつも面倒くせぇえ!!