なんかよく分からんが毎週家に来ます
突然こんな事言うのも痛い奴だと思われるかも知れないが、前世の俺はそこそこハイスペックなイケメンだった。
別に自慢したいとかではない。
現世の平凡な俺が記憶を辿り客観的にそうだったと説明しているだけだ。
オマケに有名な貴族の家の子爵で父親は国の宰相だった。
宰相は息子に自分の仕事を引き継がせたいと考えていたらしいが、彼はそんなつもりは微塵もなかった。アトラーニはその頃今の俺よりもずっと頭の回る人物だった。
故に国王がその椅子に相応しくない男だと見抜いていた。
アトラーニは腐敗を招いている原因は国王だと思っていたので彼の下で働く気がなかったわけだ。
気持ちは分かる。
いくら下の人間が優秀で仕事出来ても、上が使えなけりゃ全てが台無し、モチベーションも上がらないし労力の無駄だ。
「南雲!先週やっておけって言っといたプレゼンの資料なんでまだ俺に送って来ないんだ?」
「そうですね?伺っていないからじゃないでしょうか?そもそもその仕事、俺の仕事ではないですよね?」
「なっ!お、お前・・・」
驚いてるな?
いつもだったら多少不当な言い掛かりでも聞き流して片付けてやってたからな?今回もそのノリでいける!とか思ったか?アンタの頭もメデオス並みに空っぽだな?
明らかにコレはパワハラであるが分かった上で俺も黙ってたから大丈夫だと誤解されたようだ。日に日に俺に対する要求が遠慮ないものに変わっているからな。だがな?それもこれも全ては目立たず、そこそこのポジションで気楽に仕事する為の努力だった事を一応ここで伝えておこう。
不当な扱いを受けている社会人諸君。
君達はよく耐えている。
だが、相手を甘やかし過ぎるのは良くない。
勘違いしている輩には適度にお灸を据えてやらないとな?
「俺は主任から一言もプレゼンに参加しろとも企画書を作成しろとも言われてませんよね?それに関連する資料もメールも受け取っていません。誰かと勘違いしてるんじゃないんですか?」
「そ、お、おま・・・いや・・そうか」
そう。コレはいつものお約束。
今日だけに始まった事じゃない。
このただ無駄に社歴が長いだけの対して能力のない、使えない俺の上司の得意技だ。
「俺は自分の仕事のスケジュールは常に会社の勤怠情報に打ち込んで部内で共有出来るよう記録してあります。主任にも毎週メールで報告と一緒に添付してますよね?それを確認していれば俺がいつ、どんな仕事をして、誰の仕事を請け負っているか分かる筈ですよね?それなのに、どうしてプレゼンの前日になるまで俺の業務にプレゼン資料の制作がない事に疑問を抱かなかったんですか?やっぱり誰かと勘違いしてますよね?」
「・・・そうか、そうだな。俺の勘違いだったみたいだ。お前もう行っていいぞ」
いや、間違いだってんなら一言謝れよ。
なに飼い犬に噛まれて逆ギレする飼い主みたいな面してんだ?
俺は一度たりともあんたに飼われた覚えも犬に転生した覚えもないぞ?転生したのはごく平凡な地味顔に好感を持てる地球人の男だ馬鹿野郎が。
ん?なんで言い返せるのに今まで黙って従ってたかって?
俺はしがないサラリーマン。
上司の言う事を聞くのも仕事の内だ。
多少の無茶振りも傲慢な態度もある程度は目を瞑ってやってたさ。
だがな?
「しゅにーん!何かお困りですかぁ〜?」
「いや全く?おい南雲!このもんだ・・・真島にメールの打ち方教えておけ!今月までにな!!」
・・・・・・・・・・潰す。
最初はこの顔面だけが取り柄の中身脳筋野郎にデレデレしてた癖に紗枝が余りにも仕事出来なくて誰も手に負えないのを知ると関係ない俺を巻き込んでアイツの失敗の責任を全て押し付けやがって!ただでさえ面倒臭い問題を抱え込んでるっていうのに、俺はその所為で四六時中メデオスと一緒にいる羽目になってるんだぞボケェェエエエエ!!
「ムキィーー!なんで何度やっても勝てないかなぁ?マリカだったら自信あったのにぃぃいいい!!くそぉう!」
え?何してるのかって?ここは俺の家。
それで今隣でジャージを着てゲームしてしてるのが紗枝ことメデオスで間違いない。
経緯を話すのは面倒なので端的に説明すると奴は俺との勝負、所謂デートをする金がないらしい。
そして俺も紗枝に毎回自分の大事な財布を差し出してやるつもりもない為デートはしないと言ったら、それでは話が進まないからと毎週家に押しかけて来る。
・・・住んでる場所教えるんじゃなかった。
「ねぇ〜アトラーニ〜。お腹減ったぁ〜何か作ってよぉ」
そして毎回キッチリ俺の家でご飯を食べて帰る。
まぁ俺は自炊しているし料理は得意だから別に負担というわけではないのだが、毎月給料を自制なく使い切り、呪いを解く為という大義名分を使って俺の家に押しかけ、人のジャージをクローゼットから勝手に抜き取り着替え、好き放題にゲーム三昧した挙句腹が減ったから飯を作れと当然の様に要求してくる寄生虫女にときめく男などいるのだろうか?
いるかも知れないが虐げられる事に快感を得るドMに限る。
そして俺は違う。エムでもエスでもない。
完全ノーマル人間です。
「アトラーニのご飯美味しいよねぇ?初めて食べた時はビックリした!なんで料理人目指さなかった?」
俺はそんな見えすいたごま擦りに騙されない。
ブカブカのジャージ姿であざとく見上げられたとしても俺の気持ちは変わらない。
何故なら俺はお前の中身、筋肉隆々ゴリゴリマッチョな姿をちゃんと脳味噌に記憶してるんだからなぁぁあああ!!
いっそその記憶消し去ってくれたら俺は無駄な葛藤を抱く事もないんだろうな!・・・いや、そんな事ないか。
ないない。
コレはない。
絶対ない。
「お前、絶対俺を落とす目的忘れてんるだろ?わかってるか?俺はお前と出会って一度もお前を女だと思った事はない」
「彰は眼鏡をかけた方がいいよ?視力悪いっしょ?私に惚れない男なんているの?」
本当ないわ。
「見た目が良けりゃ万事解決だと思ってるスッカスカな考えをいい加減どうにかして来い。勝負はそれからだ!」
嘘をつく気にもならない。
早く終わらせたいと心底思っているのに、俺の無駄な過去の記憶がそれを邪魔するんだ。
絶対メデオスなんぞに惚れてなるものか。
「え?私中身も最高でしょ?」
メデオス、てめぇ・・・本当にいい加減にしやがれ!