衝撃の再会
それを言葉で例えるなら、まるで全身に冷たい針を当てられた様な、そんな感覚。
彼女を初めて目にした瞬間、俺は彼女が奴だと分かった。
「・・・え?まさか、アトラーニ?」
「メデオス?なんだお前・・・その姿」
俺は南雲彰23歳。
今日俺は、運命的な再会を果たした。
「な、な、なんでお前男に転生した?私との約束は?」
その運命の相手は、俺よりもかなり低い位置から怒りの形相で俺を見上げている。小顔で、少しつり目気味ではあるものの、大きな瞳と可愛らしい口を大きく開けて。
「いや、俺にも訳が分からない。俺はてっきりお前も男に転生しているものだと・・・」
「どうするつもり?これじゃあ勝負が出来ない!」
ヒステリックに叫ぶ相手に俺は思わず顔を顰めた。
そんな事、俺に言われてもどうしょうも出来ない。
そもそも元々こんな事になってしまったのも彼女が悪いと思うのだ。
「落ちつけよメデオス。見られてる」
俺達が今いるのは地球の日本という国。
俺達が以前暮らしていたファンタジーな異世界ではない。
俺は会社員でお前は俺が働いている会社の新入社員だろ?
自分の今の立場、忘れるなよ?
俺達、周りの奴等に滅茶滅茶見られてる。
「は!?そ、そうだった・・・自分の状況を忘れる所だった・・・私いま、可愛いんだった・・・」
おい。
コイツ、今自分で自分のこと可愛いとか言わなかったか?
お前、前世は可愛いに程遠いゴリラだった癖に図々しいな。
しかも脳筋。
ここで生きている奴等が誰一人知らなくても俺は知ってるからな?
お前、その様子だと今もそれ程中身、変わってないだろ?
「なんだ?南雲・・・彼女と知り合いだったのか?」
はい。ここに生まれ変わる前、俺達敵同士でした!などと言える訳もなく、俺は適当に相槌を打った。
「ええ、昔少し話した程度ですが。ええっと、真島紗枝さん?」
「・・・本日から此方でお世話になります。よろしくお願い致します」
なん、だと?
メデオスあのメデオスが礼儀正しく俺に挨拶するだって?
お前、生まれ変わって少しは成長したんだな?
「勘違いするなよ?決してお前に屈した訳じゃない」
お前あまりにも場違いなセリフをボソリと囁くの止めろ。
やっぱり全然変わってなかった。
見た目が可愛い分前よりもタチが悪いぞこれ。
「とにかく、此処じゃ話は出来ない。仕事上がりに何処かで話そう」
「分かった。逃げ出すなよアトラーニ」
(逃げるか!俺だってこんな厄介な案件はさっさと片付けたいんだ)
俺は痛む頭を抱えながら微かに残されている前世の記憶を呼び起こしていた。
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アトラーニとメデオスは地球に生まれる前こことは別の世界に暮らす大国兵士であった。
二人は元々お互いの事を全く知らない他人同士であったが、ある時、彼等の国の王女が病に倒れた。その国の王は王女の病を治す為、危険な魔物が生息している森になる"トキウス"という実を手に入れよと御触れを出した。
ここまでなら、まだ問題なかった。
問題だったのは、王がその果実を持ち帰った者に王女を娶らせてやると発言した事である。
王女は絶世の美女である。
そして確固たる地位を手に入れたい者達も黙ってみているわけもなく、沈黙していた者達は一転その果実を手に入れる為躍起になった。
彰ことアトラーニもその実を探していた一人であり、しかし彼は王の命で動いていた。勿論自分が王女の伴侶になれるとは思っていなかったが、メデオスはどうも違ったらしかった。
「この実を見つけたのは俺が先だ。お前はそのまま来た道を引き返しな!」
アトラーニは自分と同じく王命でトキウスの実を探していたメデオスを半眼で見返した。因みにその実を先に見つけたのはアトラーニであり、その実を手に持っているのもアトラーニである。
メデオスはアトラーニがトキウスを採ったタイミングで、この場所を発見したのである。
「君は私と同じ王宮兵士だろう?何故わざわざ手柄を横取りしようなどと?恥を知れ」
呆れながらも、話によっては手柄をわけてやってもいいかとアトラーニは考えていた。
見た限り、彼は下級兵士の身なりで貴族のアトラーニと違いかなり金に苦労している様子である。
人の手柄を横取りしようとするくらいだ、何か事情があるのかも知れない。そう考えた。
「うるせぇ!俺はなんとしても姫様と結婚する!!俺のマイリトルハニーとな!!」
「・・・・・・は?」
マイ・・・なんだろう?
取り敢えず手柄をわける案は即行で脳内から消し去った。
彼の動機が不純すぎる。
「貴様、何を言っているんだ?俺達国の兵士が王女様と結婚出来る訳ないだろうが」
「お前こそ誤魔化すんじゃねぇよ!お前もあの方目当てなんだろが!わかる!姫様はこの世界の誰よりも可憐で愛らしくて・・・そしてお優しい方だからな!!あの方が俺以外と、なんて考えるだけで虫唾が走る!」
いや、お前それはこっちの台詞だぞゴリゴリマッチョ野郎。
アトラーニはメデオスを危険人物だと認識した!
「さっきから黙って聞いていれば・・・貴様そんな不純な動機で国に仕えていたのだな?そんな奴に誰が手柄を渡すと思うんだ?」
二人は当然の様に剣の抜き打ち合いになった。
そして、アトラーニとメデオスの生はそこで幕を閉じた。
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「いや〜、まさかあそこで二人して泉に落ちるとはねぇ?死んだ後、女神が現れた時は、なんの冗談かと思った!」
そして現在。
元メデオスこと真島紗枝は焼き鳥屋のカウンターにて何故かご機嫌に生ビールを飲んでいる。
「俺は、今そう思ってるんだけど?」
彰は目の前に出されたねぎまを半眼で見つめた。
そう、二人は戦って死んだのではない。
近くにあった泉に足を滑らせて落ち溺れて死んだのである。
「おかしいなぁ?私はアトラーニとちゃんと決着をつけたいって女神様にお願いしたよ?」
彰もその時の事をよく覚えている。
出来れば覚えてなどいたくなかった、というのが彼の本音であるが。