06
さすがに平日の昼間というだけあって駐車場は空いていた。
というわけでこの際遠慮なく、店の正面の駐車スペースへと車を滑り込ませる。
エンジンを切って、スマホから流れるBGMを一時停止に、ぱちんとシートベルトを外し、
「着いたぞ」
一体何が不満なのか、助手席でむくれっ面を晒す中野ヒマリへそう告げる。
彼女はやはりむくれっ面で、
「何故ウニクロ……?」
そう言って、いっそ疑わしげにウニクロのモダンな店構えを睨みつけている。
ウニクロになんの恨みがあるというのだ。
「なんだ、ウニクロ嫌いか?」
俺はシートにへばりついた吉蔵を自らの肩へ導きながら尋ねる。
中野ヒマリは実に複雑な表情だ。
「いえ、好きでも嫌いでもないですけど……純粋に何故ですか、海央道でカニミソパフェ食べるという話では?」
「まさか海央道までノンストップなわけないじゃないか、せっかくの旅行だからもちろん寄り道も観光もするよ」
「ウニクロで、観光……?」
彼女が余計混乱したように眉間へぎゅっとシワを寄せたので、見るに見かねて「それ」と彼女のセーラー服を指す。
「制服で海央道まで行くつもりか?」
「あっ……で、でも、そんなこと言われましても私に持ち合わせはありませんし……」
「俺は持ってるよ、驚くなかれ5億も」
「……服、買ってくれるんですか?」
「そうだよ、吉蔵が急かしてるから早くしてくれないか」
現に吉蔵の吸盤が俺の首筋に吸い付いている。
……あ! 痛い! 地味に痛い! 跡になるからやめてほしい!
「……本当にあなたは、どういうつもりなんですか?」
「さっきからそればっかりだなぁ、買ってやるって言ってるんだから素直に買ってもらえば痛い痛い痛い! 吉蔵マジで痛い! 首の皮が剥がれる!! カニ子早く降りろ!!」
「えっ!? あ、ちょっ、ちょっと待っ……!?」
中野ヒマリが慌ててシートベルトを外し、ドアを開け放って車から飛び降りる。
俺も半ば逃げるようにして車から飛び出し、ドアにロックをかけた。
ここでようやく吉蔵の吸盤から解放され、俺は九死に一生を得る。
「ああ、マジで死ぬかと思った……さ、行くぞカニ子」
「え、ええ……うん? もしかして今、私のことカニ子って呼びました?」
「呼んでないよ」
「あっ!? ちょっと指チョキチョキしないでください! 蹴りますよ!?」
肩には吉蔵、隣にはこのクソ暑い中でも元気いっぱいなセーラー服姿のJK、中野ヒマリーーもといカニ子という世にも奇妙な組み合わせの三人組はウニクロへと入店した。