表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

01


 夕陽は昇らない、朝陽が照らした分だけだ。


 これは俺の死んだ爺さんの口癖で、要するに「一日の善し悪しは朝の過ごし方で決まる」という意味である。

 それを踏まえると、今日の俺の運勢は最悪となるはずであった。

 ……いや、今日も、だ。


 上司に怒鳴られる夢を見て、悲鳴とともにベッドから跳ね起き。

 出勤前に寝覚めのコーヒーでも飲もうと思ったらカップの取っ手が壊れて、結果ワイシャツを一枚駄目にしてしまった。

 極めつけは朝のニュースだ。


『今、海央道(かいおうどう)の女子高生に、クロガザミのカニミソをふんだんに使用したカニミソパフェが大人気です! 見てください! 開店前からこんな行列が……』


 やけに甲高くうるさい女子アナの声も相まって、もともと低空飛行だったテンションは急転直下、墜落のち炎上である。

 『では、食べてみましょう!』

 女子アナが興奮気味に言ったので、俺は慌ててテレビの電源を落とした。


「……朝から気色悪いもの見せんな」


 そもそも、海央道なんて車で何時間かかると思っている。

 どうせ全て関係のないこと。

 カニミソパフェだかエビミソプリンだか知らないが、そういう楽しげなことは全て俺に関係のないところで起こる仕組みになっているんだ。


 そんな俺のささやかな楽しみと言えば……


「ホント、たまには当たってくれよなぁ」


 俺は財布に忍ばせておいた一枚の宝くじに声をかけながら、スマホのブックマーク機能から「当選番号案内ページ」を呼び出した。

 一週間に一度、仕事帰りに一枚だけ宝くじを買い、月曜の朝にそのくじが当たっているかどうか確認する。

 それが俺の社畜生活の中での唯一の楽しみだ。


 ちなみに、そのくじが当たるかも? だなんてことは毛ほども思っていない。

 おまじないというか心の保険というか、社畜人生に対するせめてもの抵抗というか。

 分かりやすく言えば「退屈な日常にひとつまみのスパイスを」かな?


 まぁともかくそんな感じで、一週間のはじまりの儀礼じみたソレを、今日も淡々と消化するつもりだったのだが……


 ごどん! と鈍い音がして、テーブルの上をマグカップが跳ね、二枚目のワイシャツが犠牲になる。

 その際、少しだけ火傷をしてしまったような気がするが、それどころではなかった。

 血走った眼が何度も何度も数字をなぞる。


 嘘だ、錯覚だ、いや間違いない、これは――


「一等、10億円……っ?!」


 思わず椅子から転げ落ちる。

 さかさまになった俺を、燦々と輝く初夏の太陽が見下ろしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ