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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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四十六話 甘露盗難事件(一色千代子の事件簿二)

水上先輩は、俺の足元を見ると、「おや、妙なものをはいてるね」と言った。


そして俺のコートのすそを右手でつまんであげ、露わになった俺のスカートの前側を左手でつまむと、そのまま引き上げようとした。


「ぎゃーっ!」俺は思わず悲鳴を上げて制止した。乙女だから。


「何をするんですか、先輩!?人のスカートをめくろうとして・・・」


「いや、別にパンツを見ようとしたんじゃないよ」


「当たり前です!」


「君、足に変わったものをはいてるね。見せてくれないか」


足?・・・見せたくはないが、拒否すると無理矢理スカートをめくられそうなので、俺は観念して自分でコートとスカートのすそをつまんでそっと持ち上げた。


俺の膝下が露わになる。


すねにつけた白い毛糸のゲートルが、少しずれ落ちてたるんでいた。


女子小学生と武を含めた、この場にいるみんなが俺の足を見つめる。特に麗子と委員長が顔を赤らめている。・・・恥ずかしい。


「何だい、それ?ルーズソックスかい?」と水上先輩。


ルーズソックス?俺の時代の記憶によると、昔、女子高生あたりではやっていた気がするが、あまりよく覚えていない。この時代からあったのか。


「これはソックスじゃありません。毛糸のゲートルです」


「俺は足首のところを持ち上げ、ゲートルが靴の中まで伸びていないことを見せた。


「ああ、レッグウォーマーか・・・」


そういう呼び名もあるのか、と思った。


「君は時代を先取りするね」


「そうですか?」俺にはファッションの知識もセンスもないんだが。


「それにしても多人数だね。・・・ひのふの、僕を入れてこの場に三十人もいる」


水上先輩は女子小学生たちを含めて数えた。そんなにいるのか。


「ちょうど良かった。三十個入りのキャンディーを持ってきたんだ」


そう言って水上先輩はコートの大きめのポケットから、キャンディーの袋を取り出した。


「みんなに一個ずつあげるよ」


飴ちゃんを配る大阪のおばちゃんですか?そう言えば、水上先輩は大阪出身と言っていた。


もう一方のポケットからハサミを取り出すと、袋の口をハサミで切り始めた。用意周到だな。


そのとき、顔を赤くした武がマフラーを首から取りはずすと、


「暑いっ!姉ちゃん、これ持ってて!」


と言って、俺のコートの左ポケットにマフラーを丸めて押し込もうとした。もちろんポケットはマフラーがまるまる入るほど大きくない。俺のポケットはパンパンに膨らみ、しかもマフラーの端がはみ出ていた。


キャンディーの袋をハサミで切り、切れ端とハサミをポケットにしまいながら、水上先輩はその様子を見つめていた。


そして袋の中からセロハン紙で個別包装されたキャンディーを一個取り出すと、武に差し出した。


「君は美知子くんの弟さんかい?キャンディーをどうぞ」


「あ、ありがとう、お姉さん」快く受け取る武。


水上先輩はさらに美佐子たち女子小学生五人に一個ずつ渡し、俺、恵子、委員長、一色、麗子、頼子、良子、河野さんとバレー部員とファンの合計六人、そして自分の取り巻き十人にも、一人に一個ずつキャンディーを配っていった。


みな、それほどキャンディーがほしかったわけじゃなかったが、水上先輩が自ら配ったので、「ありがとう」とお礼を言った。


「あら?杏子さんのキャンディーがありませんわ!?」


突然水上先輩の取り巻きの一人が叫んだ。


そう言われてみると、水上先輩の手に残ったキャンディーの袋が空だった。水上先輩自身はキャンディーを取っていない。


「おや、人数を数え間違えたのかな?・・・別に僕はいいよ。みんなで食べて」


殊勝なことを言う水上先輩だったが、取り巻きたちはそれを許さなかった。


「いえ、杏子さん、今数えなおしましたが、確かに杏子さんを入れて三十人ちょうどいますわ。誰かが杏子さんの分まで取ったんだわ!」


俺たちは慌てて手の中のキャンディーを見た。誰も、一個しかキャンディーを持っていないように見えた。


「私は一個しかもらっていない」「私も」「私も」そう囁く声が周りから聞こえる。


「先輩が手に持っている袋の中から自分でキャンディーを取り出して、一個ずつ配ったのよ。先輩の目を盗んで二個目を取るなんて無理よ」


俺はそう反論したが、取り巻きは納得しなかった。


「大勢いるから、誰かがキャンディーを一個受け取ってから、もらっていないふりをしてもう一度もらったのよ!」


「いくらなんでも、そこまでしないでしょう、キャンディーくらいで」


「いいえ、杏子さんの手からもらうキャンディーだから、そのくらいする価値があるわよ!」


そういう理屈なら、あなたたち取り巻きが一番怪しいんじゃないかと思ったが、口には出さなかった。


「これは事件だね」そう言って一色が前に出てきた。


「君は誰?中学生?」水上先輩が尋ねた。


「私は一年四組の一色千代子。探偵さ」


その場にいるみんなが凍りついたように見えた。


「三十個あるはずのキャンディーを二十九人に一個ずつ配ったら一個も残らなかった。この謎を私が解いてみせる!」


「ほう?」水上先輩がおもしろがり始めた。「謹んで拝聴するよ」


「じゃあ、まず水上先輩に確認するよ・・・先輩はキャンディーの袋の口をハサミで切ってましたね?あのとき初めて開封したということで間違いないですか?」


「杏子さんを疑うなんて!」と取り巻きの一人が声を上げたが、水上先輩はそれを制した。


「いいから、いいから。・・・ああ、あのとき初めて開封したよ」


「わざわざハサミを持ってきて?」


「手で袋を裂いて変になるのが嫌いでね、いつもハサミを使うんだ。だから、キャンディーの袋をポケットに入れたときに、ハサミも入れておいたのさ」


「そしてみんなに一個ずつ配った。・・・誰かに二個あげたということはないですか?」


「ああ。・・・僕の手元は誰かが見てたんじゃないかい?」


「ええ、えこひいきがないよう、私たちが見張ってましたわ」


取り巻きの一人がいい、ほかの取り巻きもうなずいた。そこまでするか?


「じゃあ、可能性を一つずつ当たっていこう」と一色。


「まず、袋の中に最初、キャンディーが二十九個しかなかったという可能性」


「きちんと数えない人が多いものね」と俺。


「ということは、工場の包装過程でのミス?」と委員長。さすが、俺と言うことが違う。


「でも、三十個入りと書いてあるのに三十個なかったら、社会的に大問題となる。法律違反にもなるだろうし、第一市民が黙っちゃいないさ」と一色。


「お菓子が一個少なかったら大問題だよ」と武が口をはさんだ。


「それに個数をいちいち数えなくても、全体の重さを計ればキャンディー一個分の不足でもわかるはずだから、検査も簡単よね」と委員長。「包装ミスはあり得ないわ」


「次に、誰かがもらっていないふりをして、二個目をもらったという可能性」


「杏子さんも全員の顔を知っているわけではないから可能よね。私たちにはできないけど」と取り巻きの一人が言った。


「確かに水上先輩にとっては初対面の人もいるだろう。私を含めて。でも、みんなが注目している中で二回もキャンディーを受け取ろうとしたら、水上先輩を含めて、誰かが気づく可能性は高い。・・・そんな危険を冒してまでキャンディーを欲しがる人がいるだろうか?」


武なら欲しがるだろうな、と俺は思った。だが、武が一個しかもらっていないことは、俺がずっと見ていたから知っている。見てないと、何やるかわからないから。


「関係ない人が混ざってもらっていったという可能性も否定される。藤野さんが全員の顔を知っているようだから」と一色が続ける。


「そして、水上先輩がキャンディーを配る際に、落としたり、放り投げたりしたこともなかった。・・・私も見てたから」


それも確かだ。水上先輩の一挙手一投足が注目されていた。


「じゃあ、何でキャンディーが一個少ないのさ?商品に不足はなかった、僕が配るときにアクシデントはなかった、誰も二個取らなかった、無関係の人が取っていった可能性はない・・・となると?」


「それを解く鍵は」と言って一色は俺を指差した。「藤野さん、君の弟さんのマフラーにある!」


次の瞬間、水上先輩が一色千代子の小柄な体を抱き上げると、自分の唇で一色の唇を塞いだ。


顔を赤くして硬直する俺たち。声を出すこともできなかった。


一分ほどそのままでいて、そして水上先輩は一色の体を下ろした。


顔を真っ赤にしてふらつく一色。倒れそうになるのを、俺と委員長でその体を支えた。


「もういいよ」と水上先輩が言った。「僕が持ってきたキャンディーのことで、誰かを犯人扱いなんてしたくない。・・・もういいよね、一色くんだったっけ?」


「はふぃ〜」一色は声にならない声を出した。だめだ、再起不能だ。


「じゃあね、これで失敬するよ」そう言って水上先輩は帰り始めた。


もちろん取り巻きたちが後を追う。「さっきのは何ですの?」という水上先輩を責める声が聞こえていたが、まもなく人混みにまぎれて見えなくなった。


「すげ〜」と武が言った。「女どうしでキスするの、初めて見た」


その言葉を聞いて、委員長と麗子が顔を赤らめた。俺の顔も赤かっただろう。


女子小学生たちも、とんでもないものを見たという顔で硬直していたが、硬直が解けるとおじぎして、足早に去って行った。


残った俺たちも散開する。ふぬけになった一色は委員長が送って行くそうだ。


俺も武と恵子と一緒に家路につく。恵子は終始無言だ。


「武、今日見たこと、家で言うんじゃないよ」と俺は注意するのを忘れなかった。


松葉女子高が変な女の集まりと親に思われたら大変だ。・・・人のことは言えないが。


家に着くと、武はお茶の間でコートを脱ぎ、「ご飯まだ?」と母親に聞いていた。


俺は部屋に入って、まず、ポケットにぎゅうぎゅう詰めになっている武のマフラーを取り出した。そのとたん、畳の上に破れたおみくじと一個のキャンディーが落ちた。


「ええっ!?」


水上先輩にもらったキャンディーはもう片方のポケットに入っている。それと同じものがもう一個・・・?


まさか、俺が犯人だったのか?・・・いやいや、無意識でキャンディーを取るなんてできない。第一、マフラーが詰まっているポケットにキャンディーは入らない。


ひょっとして、武がマフラーを脱いだときに、もうすでにキャンディーがポケットに入っていた?・・・いやいやいや、あれは水上先輩がキャンディーの袋を切る前だったぞ。


でも、俺のコートに触ったのは水上先輩だけだ。スカートをめくろうとしたときに。


・・・水上先輩が犯人だとしたら、この事件の全容が見えてくる。


最初に、キャンディーの袋にハサミで小さな切れ込みを入れ、キャンディーを一個取り出しておく。それを何かの口実をつけて、俺のポケットに入れる。袋の口をわざわざハサミで切ったのは、その切れ込みをごまかすためだ。


それから一人一人にキャンディーを配っていく。そして一個足りないことに気づいたふりをし、みんなに確認してもらうと、俺が自分のポケットにもう一個入っていることに気づくというシナリオだ。


その場にちょうど三十人いなくても、キャンディーの残りの数を数えれば、同じ状況が作り出せるだろう。


そんなことをする目的?・・・それはおそらく、水上先輩が俺を責め、無理難題・・・たとえば漫才の相方・・・を押しつけようとしたとか。しかしその目論見が、武がマフラーを俺のポケットに押し込んだことで台無しになってしまった。マフラーの下からキャンディーが出てきたら、さすがにみんながおかしいと気づくだろう。


一色はその真相にたどり着いたので、水上先輩に口封じされたんだ。文字通りの方法で・・・。


タイトルの事件名を変更しました。

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