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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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三十七話 余韻

とうとうキスをしてしまった。女の子どうしだったし、しかも小説の参考にするためだったけど。


委員長が「もう大丈夫よ」と言ってくれたので、俺はぼーっとしながら委員長の家を辞した。


家に帰ってからも気が抜けた状態だった。そのまま夕飯を食べ、銭湯に行った。


銭湯から帰ってからもテレビを見る気など起きず、部屋に閉じこもって、作製依頼がたまっていたリリアン編みを黙々と行った。リリアン編みは慣れてくると何も考えずに手を動かすことができるので、ちょうど良かった。


翌日の日曜日も同じ状態だった。食事の準備や掃除、洗濯の手伝いをしたが、その他の時間はリリアン編みをし続けた。


そして月曜日の朝、俺は完成したブレスレットを小さな紙袋に入れ、カバンにしまった。


家を出ると、いつものように恵子と会った。


「おはよう、みーちゃん」


「・・・おはよう」


「どうしたの?なんか元気ないけど」


「そう?別に普通よ」


そう答えて二人でとぼとぼと歩く。いつもより口数が少ないので、恵子は心配しているようだったが、それ以上何も聞かなかった。


登校途中の四つ角に委員長が立っていた。俺たちに気づくと、そっと寄ってきた。


「おはよう、美知子さん。・・・恵子さん」頬を染めてあいさつする委員長。


「おはよう、委員長」


「おはよう。具合は大丈夫?」俺はそう聞いたが、委員長の顔がまともに見れなかった。


「もう大丈夫よ」


「何かあったの?」と恵子。


「ううん、土曜日にちょっと具合悪くなっただけ」


学校に着くと、既に部活の朝練を終えた河野さんが教室に戻っていた。


「河野さん、おはよう」


「おはよう、美知子」


「これ、バレー部の人たちから頼まれていたブレスレットだけど、昼休みか放課後に渡してもらえないかしら」


俺は紙袋に入れたブレスレットをいくつか河野さんに手渡した。紙袋に受け取る人の名前が書いてある。


「ええっ、美知子、もう作ったのかい?まだかかると思ってた。・・・ありがとう、昼休みに渡しに行くよ」


「よろしくね。・・・あと、これらはバレー部員じゃなくて、隣のクラスの子たちのだけど、こっちも河野さんから渡すと、喜んでもらえると思うの」


河野さんのファンの分も手渡しておく。


「そうかな?・・・まあいいや、美知子にはお世話になったから、私から渡しておくよ」


紙袋を受け取る河野さん。あとは水上先輩の分だが、正直言ってあの人はなんか苦手だ。できれば会いたくない。


「誰か水上先輩と親しい方はいないのかしら?」


俺は教室中をぐるっと見渡しながら、わざとらしく、やや大きい声で独り言を言った。


「ふ、ふじのさあ〜ん」


教室の入り口近くの席の子が声を上げた。以前、水上先輩が来たときに取り次いでくれた子だ。


「何かしら、三瀬さん」


確か名前は三瀬芙美子だった。若干ぽっちゃりした健康的な子だ。


「わ、私が水上先輩のところへ持って行きますけど」


「そう?じゃあよろしくね」


水上先輩用に作ったブレスレットが入った紙袋を手渡すと、三瀬さんは嬉しそうに受け取った。何人かの生徒が、「えー、ずるい」、「私が渡したいのに」とか言ったが、三瀬さんはしっかりと紙袋をつかむと、取られないように自分の席に戻って行った。


まもなく先生がやってくる時間になったので、俺は自分の席に戻った。そのとき、委員長が俺の横を通り過ぎ、何も言わずに俺の机の上に折り畳んだ紙を置いていった。


俺は「何だろう、これは?」と思って胸がどきどきしたが、誰にも気づかれないようにその紙をさっと机の中に隠した。


委員長は自分の席に着くと、俺の方をちらっと見た。目が合う。顔が熱くなる。・・・受け取った紙を見るのが怖い気がする。


一時間目の授業が始まってしばらくしてから、俺は意を決して委員長が置いていった紙を開いた。


それは折った原稿用紙数枚だった。


一枚目の冒頭に「美知子さん、土曜日はありがとう。私が書こうと思っている小説の構想を書いてみたので、意見をいただけたら嬉しいわ」と書いてあった。


俺はほっとして息を吐いた。同時に、さすがは委員長だと感心した。


俺が昨日一日中悶々としている間に、小説の構想を練っていたとは・・・。委員長の目を気にしていた自分が自意識過剰で恥ずかしい。


その次の行には「登場人物」と書いてあった。それを読んでいくと、


「さち子:主人公。富貴花女学院の新入生。眼鏡を掛けた平凡な少女。中流家庭の長女」と書いてあった。


メガネっが主人公か。自分がモデルなのかな。


「とも子:二年生の絶世の美少女。富貴花女学院の華と呼ばれ、常に取り巻きの女生徒を何人も引き連れている。元華族の娘で、女学院を卒業すると二十歳も年上の資産家に嫁ぐ運命を負わされているが、心情を漏らさず、常に凛とした態度を取っている。さち子の憧れの先輩」


これがさち子の慕う上級生か。華やかだが、何か複雑な事情を持つ少女のようだ。


名前はとも子か。・・・ちょ、待てよ?


美少女のとも子。・・・美しい知子?・・・美知子?・・・まさか俺がモデルじゃないだろうな。そうだとしたらこっぱずかしい。


「景子、利子、和歌子:とも子の取り巻きの資産家の娘たち。時にさち子に辛く当たる」


これは恵子、淑子、河野さんの名前をもじったのかな?彼女らには見せられない。


俺は原稿用紙の二枚目を開いた。そこには、小説の冒頭部分が書かれているらしく、一行目に、「第一章 卯月の邂逅」という仰々しいタイトルが書かれていた。


そして、その下から原稿用紙数枚にわたって文章が書き連ねてあった。その内容は、四月初旬の情景描写だった。


俺だったら「四月の初め、桜が満開だった」のたった十三文字ですませるだろうに、桜を初めとした木々、空、町中の様子が細部にわたり丹念に描写されていた。印刷して本にしたら、これだけで数ページ分になりそうだった。


しかも、最後まで読んだが、誰も登場人物が出てこない。


文学的かもしれないが、俺の時代のラノベ読者なら、この途中で本を投げ出しているだろう。この時代なら、これで正解なのだろうか。


原稿は以上で終わっていた。まだ書き始めたばかりのようだ。しかし、この調子で書き進んでいくと、キスシーンが出てくるのはいつになることやら。


俺は原稿用紙を折り畳むと、そっと机の中に戻した。


休み時間になると、俺は原稿用紙を持って委員長のところに行った。


「これ、読んだよ」まだちょっと気恥ずかしいが、頑張って声をかけた。


「どうだった?」


「そうね、登場人物の紹介文を読んだらおもしろそうと思ったわ」


「そう、良かった」顔がほころぶ委員長。


「でも、まだ主人公は出てこないのね」そう言って俺は原稿用紙を委員長に返した。


「主人公が出てきたら、また読ませてね」


「もちろんよ。・・・美知子さんも、また手伝ってね」


また手伝う?俺はキスの体験以外、手伝った覚えはないが・・・。




昼休みが終わりに近づく頃、ブレスレットを部員たちに配りに行っていた河野さんが教室に戻ってきた。


「美知子、みんな大喜びだったよ、ありがとう」


「どういたしまして。・・・ただ、願いが叶う保証はないわよ」


「そうかい?でも、私の願いは見事に叶ったよ」


「それは河野さんの才能と努力の結果だから」


「美知子は謙虚だね。・・・でも、確かに自分自身でできるところまで努力しなきゃ、神様だって願いを叶えてくれないか。みんなにも言っておくよ」


「よろしく」


「それと、隣のクラスの子たちは、飛び上がらんばかりに喜んでたよ。あんなにもミチンガをほしがっていたんだね」


それは河野さんが手渡したからですよ。


そのとき、三瀬さんが教室の入口付近でかん高い声を発した。


「ふ、ふじのさあ〜ん」


またか、と思いつつ返事をして入口の方を見ると、水上杏子が立っているのが見えた。しかも今日は、取り巻きを十人くらい引き連れている。


しぶしぶ入口に向かう。


水上先輩は俺の手をぎゅっと握ると、感謝の言葉を述べた。


「ありがとう、美知子くん。この子からミサンガを受け取ったよ」


「どういたしまして」いちいちお礼を言いに来なくていい。それに下の名前で呼ぶな。手を握るな。取り巻きの目が怖いよ。


「ついでと言っちゃあ何だけど、君の手で僕の手首に結んでくれないか」


「・・・何を願うか考えられたんですか?」一応聞いておく。


水上先輩は俺の耳元に口を近づけた。そのとたんに、取り巻きの女子生徒たちの目がつり上がる。・・・三瀬さんの目もつり上がっているぞ。


「男にしてくれって願うのさ」小声で耳元に囁く水上先輩。


「ええっ?そんな願い、とうてい叶いませんよ!」


「僕は女だからね、この子たちを愛して上げられない」


後の取り巻きたちをそっと指さす水上先輩。どんな愛を考えているんだ!


「もちろん、このミサンガだけで願いが叶うわけじゃないだろうが、神様は気まぐれだからね・・・」


確かに、美知子の体の中に俺が転生したのも、神様の気まぐれかもしれない。


「ゆるまないよう結んでくれよ」


「わ、わかりました」


俺は本結びでブレスレットを水上先輩の左手首に結んだ。でも、水上先輩が突然男になったら、パニックどころじゃすまないぞ。


「ありがとう、美知子くん。・・・それから、彼女たちにもミサンガを作ってやってくれないか」


後ろにいた取り巻きたちがいっせいに刺繍糸を取り出す。こりゃ断れないな。


取り巻きの一人一人から刺繍糸を受け取る俺。ノートの切れ端に各々のクラスと名前を書いてもらう。


その内のひとりの女子生徒が、刺繍糸を渡す際に俺にそっと囁いた。


「ミサンガをよろしくね。でも、杏子さんにはあまり近づかない方が身のためよ」


脅迫ですか?そのつもりは毛頭ありませんが。


「わかっています。・・・一応言っておきますが、私のブレスレットは、呪いの願いは叶いませんよ」


「誰も呪わないわよ!」


十一人から刺繍糸を受け取ると、水上先輩とその取り巻きは二年生の教室に帰っていった。


・・・十一人?刺繍糸をもらった人の名前を確認してみると、ちゃっかり三瀬さんも加わっていた。


う〜ん、せっかく予約分を片づけたと思ったのに・・・。美佐子たちに手伝わせようか。


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