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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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三話 午前中の授業からお昼休みまで

数学の授業の内容は代数。それほど難しくはなさそうだったが、数学の授業を最後に受けたのが十年前だった俺にとっては、ついていくのがやっとだった。


そのうち先生の説明を聞くのが面倒になったので、改めて自分の存在について考えてみた。


朝は、体の入れ替わりや転生の可能性について考えた。


美知子と俺の体の入れ替わりについては、朝は否定したが、ひょっとしたら俺の記憶を持つ俺の体に美知子の意識が移っているのかもしれない。


・・・そうだとしたら、俺以上にショックだろうな。


まだ十五歳なのに男の体になって、見たことのない物ばかりの未来の世界に行ったなら途方に暮れてしまうだろう。・・・今の俺が困っても、美知子の家族や友だちがフォローしてくれるだろう。しかし、俺は親と離れて一人暮らしをし、友だちもろくにいなかった。美知子が俺の体に入ったとしたら、誰も助けてくれる人がいない。悲惨だな。


俺の記憶を利用して何とか順応し、ユーチューバーとしての才能を開花できればいいが、パソコンも動画も知らない女の子だから難しいだろうな。・・・どうか、思いあまって自殺なんかしないでくれよ。


一方、美知子になった俺の頭の中に美知子の記憶があることは、俺の意識下に美知子の意識が残っていることを意味しているのかもしれない。


美知子の意識があるのに、俺の意識が美知子の体を支配しているとしたら・・・。その状況も美知子には悲劇だろう。


そのとき、俺の頭の中にもう一つ別の可能性が浮かび上がった。


実は美知子は二重人格で、俺は美知子の頭の中に作られた第二の人格ではないかと。


俺の記憶にある五十年後の平成時代は単なる妄想で、ユーチューバーが動画で金を稼ぐような妙な世界は、五十年後に決して訪れないかもしれない。


いずれにせよ、この状態で精神科を受診すれば、十中八、九は二重人格だと診断されるだろう。


そう考えると、この俺の意識が美知子の頭の中からきれいさっぱり消え去ったほうが美知子のためにはいいかもしれない。しかし、自分で自分の意識を消し去ることはできず、現時点では俺は美知子として生きるしかなかった。




数学の授業が終わると、すぐに恵子が寄ってきた。


「ねえ、みーちゃん。一緒にお手洗いに行こ?」


「え?」


俺はちょっとドキッとした。


お手洗い、すなわち女子トイレ。一般に男子禁制の場所。俺の時代に入りたいと思ったことはなかったが、入れるとなると緊張する。


もちろん、美知子の記憶にトイレに行ったことは数えきれないほどあるが、美知子の記憶と実際に俺が体験するのとでは、外国の景色をテレビで見るのと、実際に現地に行って見るのと同じくらい大きな違いがある。


そういえば、朝はいろいろ混乱していてトイレに行ってなかった。


美知子の体的にも、俺はトイレに行くべきだろう。・・・そういう理由をつけて、俺は恵子の誘いに応じた。


女子トイレは、北校舎と南校舎を繋ぐ渡り廊下の途中から横に分岐する、独立した一階建ての家屋だった。木造で、屋根は瓦葺きだ。


中に入ると洗面台・・・横に長いコンクリート製の流しに、蛇口が五個付けられたもの・・・がまずあった。


その奥に入ると、個室がいくつか並んでいた。・・・男性用の小便器がないのが異様に思える。


床はコンクリート、壁や個室の戸は木製。恵子と俺は別々の個室の前に立ち、戸をノックした。


返事がなかったので、木製の引き手を横にスライドさせ、手前に引っ張って戸を開けた。


・・・衝撃だった。


個室内の床に和式便器が設置されていた。便器には木製の蓋が乗せられている。


和式便器はまったく経験がないわけじゃなかったが、俺が最後に使ったのは十年以上前だ。


動揺したもののとりあえず個室に入って戸を閉める。そして便器の蓋を持ち上げたら・・・


ぽっとん便所、つまり汲取式だった。


便器の中央に奈落の底に通じるような穴があり、その中は暗闇だった。そしてその暗闇から何とも言えない悪臭が漂ってきた。


さすがに俺の時代に経験した和式便所は水洗式だった。この穴は、中に吸い込まれそうで恐ろしい。


便器を前にして立ちすくんでいると、後方の戸を誰かがノックした。


こちらも戸をノックし返し、中に入っていることを表明する。


待っている人がいるからあまり時間をかけられない。


俺は意を決っして一歩前に進んだ。


・・・さすがに今の俺は乙女なので、詳細は自主規制する。


さらに驚いたのは、トイレットペーパーがホルダーごと存在しないことだった。


そういえば、朝母親が武に『ちり紙』を持っているか聞いていた。


スカートのポケットを探ると、ハンカチと一緒に折り畳んだちり紙が入っていた。


ちり紙とは、俺の時代のティッシュペーパーに相当する使い捨ての紙である。品質はティッシュペーパーよりもかなり悪く、もんだりするとすぐぼろぼろになる。


いろいろ困惑したが、何とか用をすませて個室を出た。出る前に水を流さないというのも妙な気分だった。


恵子は先に出て、洗面台の前で待っていた。


「みーちゃん、長かったね。・・・ひょっとして大?」


手を洗う俺に恵子が声をかける。


「ま、まさか、そんなことないわよ」


女子高生どうしでこんな会話をするのが衝撃的だった。男子生徒のいない女子高だからだろうか?それとも恵子だからだろうか?


・・・でも、確かに大をしてもごまかせるかも。


いろいろと新鮮な経験をした女子トイレデビューだった。




二時間目から四時間目までの授業が終わるとお昼休みだ。


この女子校には給食はなく、ほとんどの生徒が弁当を持参していた。


弁当を持って来ない生徒は、購買部であんぱんやジャムパンや牛乳を買うことができた。食堂はない。


俺は美知子がいつもしているように恵子の方に机を寄せた。河野さんと淑子が弁当を持って集まって来る。今日は天気がいいので中庭で弁当を食べる生徒が多く、その生徒の椅子を借りて四人で机を囲んだ。


委員長は、いつも午後の授業の前に、先生の手伝いをしに職員室へ行かなくてはならず、ゆっくりしてられないという理由で一人で食べることが多かった。


ちなみに、河野さんを『河野さん』と他人行儀で呼ぶのは、前にも言ったようにいい意味で男前なので、『和ちゃん』とか呼べないよね、という恵子の発言からだった。


「とうとう午後は家庭科だよね。宿題のエプロン、ほんと自信ない」と、河野さんが言った。


「河野さん、ミシンの経験は?」


「さっぱりだよ〜」


「私も」と俺も言った。とりあえず予防線を張っておく。


「ケイちゃんは家でけっこう使ってたよね」


「それほど上手じゃないけどね」


「またまた謙遜してー」


そう言って俺は弁当を広げた。


俺の、つまり美知子の弁当は、縦二十センチ、横十センチくらいのアルミ製で、その八割がご飯で占められていた。ご飯の上に梅干しが一個。その他のおかずは、大根とニンジンとサツマイモを煮たものだった。


・・・美知子の好きな卵焼きが今日は入ってないな。


河野さんの弁当箱は俺と同じくらいの大きさで、赤いウインナーを炒めたものと、ほうれん草のおひたしなどが入っていた。


恵子の弁当箱は少し小ぶりで、おかずはやはり野菜の煮物だった。


・・・俺の時代のキャラ弁と比較するとかなり地味だ。まあ作ってもらっただけ感謝するけど。


俺はいつもファストフードやコンビニ弁当ばかりだった。こんな手作り弁当は本当に久しぶりだ。


田舎のおふくろは元気かな?・・・向こうの世界で俺が行方不明になって、心配かけてるかな?


ちょっとしんみりした気分になっていると、突然恵子が声を上げた。


「え〜、トシちゃん、またその小さいおにぎり一個だけ?」


淑子が小さな弁当箱を開くと、さらに小さなおにぎり・・・海苔など巻いてないご飯のかたまり・・・が一個入っているだけで、弁当箱の中はスカスカな状態だった。


「下宿変えた方がいいんじゃない?・・・とりあえずおかずわけてあげる」


河野さんはそう言って、ウインナーを一個、淑子の弁当箱に入れた。


「わー河野さん、おっとこまえ〜。メインディッシュをわけてあげるなんて、さすがね」


これは俺の本心から出た言葉だった。


「メインディッシュって何?・・・とにかく、そんなたいそうなことじゃないわよ」


「いやいや、けっこう勇気いるよね、ケイちゃん」


俺はそう言って、ニンジンの煮物を淑子にゆずった。


「みーちゃん、ニンジンだけなんて。嫌いなものをあげたんじゃないの?」


「そ、そんなことはないわよ。・・・じゃあサツマイモもあげる」


一方、恵子もニンジンと里芋の煮たのを渡していた。


「ケイちゃんもニンジンあげてるじゃない」


「私はニンジン好きだから大丈夫だよ。みんな、ありがとう」


素直に喜ぶ淑子。


「そんなものだけあげて満足しているの?」


いきなり俺の背後から声がした。驚いて振り返ると、そこに麗子が弁当箱を持って立っていた。


「私からはこれをあげるわ」


麗子はそう言って、自分の弁当箱から茶色い衣に包まれたものをはしでつかみ、淑子の弁当箱に入れた。


「え!?いいの?ありがとう!!」


喜びの声を上げる淑子。


「え?え、え、え、え、え?それ、トンカツ?」驚きの声を上げる恵子。


そう、俺の時代ならトンカツやカツ丼なんて、それほど高価な料理ではない。しかし俺は美知子の記憶をたどって知っていた。この時代ではトンカツとかステーキとか、肉のかたまりのおかずは、一般家庭ではそうそう食べられるものではなかった。


せいぜい、何かのお祝いごとで鶏の骨付きもも肉を一本まるまる炒めたローストチキンが食べられる程度だ。ちなみに俺の時代のスーパーマーケットで、鶏の足一本はけっこう安く売られている。


美知子自身は、以前店屋物のカツ丼(卵でとじた一般的なの)を一回だけ食べたことがあった。俺からするとごく普通のカツ丼だが、美知子にとっては初めて食べた極上の味だった。


俺は麗子の顔を見つめた。麗子は得意そうにふふんと笑うと、友人と弁当を広げている自分の席に戻っていった。


「麗子さんって優しいね。・・・わざわざ淑子におかずをあげるために、こっちまで来るなんて」


感動したようにつぶやく河野さん。


しかし、俺と恵子は知っていた。麗子が俺、つまり美知子にあてつけるためにわざわざ来たことを。


しかし淑子はうれしそうにトンカツの一切れをほおばっていた。


そんな淑子の顔を見ると、俺も恵子も何も言えなかった。


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