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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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二話 ケイちゃんとクラスメイト

天気のいい日だった。


俺は自分の、いや、美知子の家の前に立った。


家の前の道路は舗装されておらず、でこぼこが多い上に、石ころがたくさん転がっていた。


俺の記憶では、町中で舗装されていない道路を見るのは初めてだった。だが、美知子にとっては見慣れたありふれた風景だった。


しばらく待っていると、女子高生が一人、手を振りながら美知子に近寄ってきた。


「みーちゃん、おはよう」


「おはよう、ケイちゃん」


ケイちゃんとは小柴恵子、美知子の同級生で、近所に住む幼馴染だ。


ちなみに美知子のことを「みーちゃん」と呼ぶのは、近所に「みっちゃん」と呼ばれてる光代お姉さんという人がいたためだった。


ミーチャンにケイちゃん?・・・ミーとケイ?


もちろん、二人が歌手になり、女性デュオとして活躍する未来はない。


ケイちゃんこと恵子は、美知子より小柄で快活な少女だった。


五月なのに武と同じくらい日焼けしていて、美知子よりは短い髪で、丸顔に丸っこい目と鼻はタヌキを連想させた。もちろん本人には言わない。


「宿題のエプロンできた?」


「まあなんとか。出来はいつもの通りだけど」


二人が通う松葉女子高校は、進学校ではなかった。


卒業生は就職するか家事手伝いで家に残る人が多く、ごく一部が大学か短大へ進学する程度だった。


そのため、勉強にはそれほど力を入れず、家庭科に重点を置いている学校だった。


入学後一か月でさっそくエプロン作りをさせられたが、エプロンと言っても胸まで覆う物ではなく、腰だけのエプロンなので、縫うのはそれほど難しいわけではなかった。・・・裁縫が得意な人には。


美知子はもともと裁縫が得意でなかったようで、手縫いをするとしょっちゅう指に針を刺した。縫うのも遅く、五月の祝日はほとんどエプロン縫いに費やしていた。


俺も裁縫の経験はほとんどない。


「そういえば、今日からミシンの実習が始まるよね」


「ミシン・・・?」


ミシンなら俺も美知子も知っている。布を縫う機械だ。どういう構造かはよく知らない。


美知子もミシンを使ったことはないが、機械なら元男の俺に使いこなせるかもしれない。


そんなふうに気楽に考えていると、恵子が芸能人の話題を振ってきた。


「あたし、お休み中に映画を観に行って、主演していた加山雄三にあこがれちゃった」


「え、加山雄三?いい年したおじ・・・さんじゃないの?」


「何言ってんの。まだ二十代だよ〜」


「そんな時代か〜」


「みーちゃん、変なこと言う」


そんな話をしながら一キロほど町中の砂利道を歩いていると、学校の校門が見えてきた。


大勢のセーラー服を着た女子高生がその校門に集まっていく。


俺自身が登校風景を見るのは久しぶりだった。あまりまじめに学校に行ってなかったが。


松葉女子高校の校舎は築四十年の木造二階建てで、上から見ると口の字形をしていた。昔の女子校の名残で、四方が囲まれ、オープンな構造になっていない。


校舎の周りには桜の木が植わっていた。既に花が散り新緑に萌えている。


校舎の昇降口に入ると、記憶に従って美知子の下駄箱のところに行き、中から上履きを取り出して靴を履き替えた。


校舎内は、床も壁も天井も、窓ガラスの枠も、すべて木製だった。かなり年季の入った色をしているが、ゴミやほこりはほとんど落ちてない。


美知子の教室は一年二組だった。教室に入ると一人の女子生徒が声をかけてきた。


「おはよう、藤野さん、小柴さん」


「おはよう、委員長」


声をかけたのは美知子のクラスの委員長をしている山際喜子だった。黒ぶちの眼鏡をかけていてややきつい印象を受けるが、気さくで面倒見がいい少女だった。


喜子の髪の長さは美知子と同じくらい。よく見ると、二重まぶたで睫毛が長く、鼻もすらっとしていて、口は小さかった。


けっこう美人だな、と俺は思った。これでもう少しメガネのフレームが細くて明るい色がついていたらだいぶ印象が変わるのに。


「おはよう、美知子、恵子」


次に挨拶してきたのは河野和子。背が少し高い子で、バレー部に所属している。性格はいい意味で男っぽく、さばさばしている。


「おはよう、河野さん」


「ねえ、宿題のエプロンできた?」と河野さんが聞いた。


「まあ、なんとか」と答える俺。


「私、寸法を間違えて、少し小さめになっちゃった。それを見た父ちゃんに、『それはお前のふんどしか?』って言われちゃった」


「きゃはは・・・あたしはよだれかけにいいなって言われちゃったよ」と恵子が笑った。


河野さんと恵子が軽口をたたき合うのはいつもの情景だ。


そのとき、突然美知子の背中に同級生が抱きついてきた。


「美知子に恵子〜、お〜はよ〜」


「ひっ!」


恵子や美知子にとってはいつものことだったが、俺自身は初めてだったので、ドキッとして思わず変な悲鳴を上げてしまった。


「おはよう、トシちゃん」と恵子。


俺はその少女の方を振り返った。


俺の体に抱きついてきたのは宮藤淑子。仲のいいクラスメイトの一人だ。


髪は肩くらいまでの長さで、頭の左右に短い三つ編みを二本作って輪ゴムでまとめていた。ぱっと見、変な髪型である。


淑子はいわゆる天然で、頭が悪いわけではないが、突拍子もない行動をして周りの人をあきれさせることが多かった。男の子っぽいとも言える。弟の武と精神年齢が近いのかもしれない。


家は山向こうの集落にあり、この学校に通うため近所に下宿していた。


自然のまっただ中で暮らしていたせいか動植物が好きで、町外れの田んぼの用水路からすくってきたメダカを教室の水槽に入れ、一人で世話をしていた。


一度小さい雷魚を取ってきてメダカの水槽に入れたら、翌朝メダカが全部食べられていた。ちょっとしたトラウマになった。


淑子はそれに懲りず、今度はアメリカザリガニをすくってきて水槽に入れた。


雷魚はザリガニを食べなかった。


ザリガニの方が大きいので、食べようと思っても食べられないのかもしれない。


雷魚とザリガニの水槽はクラスメイトから敬遠され、淑子が一人で餌をやったり、水を替えたりしていた。


授業中に先生が生徒に質問するとき、淑子は答えがわからないと(美知子たちと同じように)体を微動もさせずに気配を消そうとするが、答えがわかる場合は『はい、はい、はい!』と叫んで大きく手を挙げるので、クラスメイトの失笑を買っていた。


それでも根が優しい子なので、美知子たちはよく昼食を一緒にとって仲良くしていた。


淑子は下宿しているため、昼食の弁当を下宿先のおばさんに作ってもらっているようだが、あまり待遇は良くないようで、小さなおにぎりを一個しか持って来ないときもあった。


そのようなときは、美知子や恵子や河野さんが弁当を分けたので、美知子たちによくなついていた。


「お休み中に家に帰ったの?」


「うん、日曜日に一回ね。・・・休みが続いてないから、あまり帰れなかった」


この時代は土曜日も学校があるからな。淑子の帰省は大変そうだ。


「だから他の日は、近所の公園でエプロン縫ってた」


下宿にも居づらそうだな。かわいそうに。


俺は同情したが、淑子本人はけろっとしていた。


「エプロンを縫っている最中に近所の野良犬がじゃれてついてきて、エプロンがくしゃくしゃになっちゃった」


美知子たちは野良犬が近づくと、噛まれやしないかと怖れるのだが、淑子は野良犬とも仲がいいようだ。


「闘牛士よろしく、犬の前でエプロンを振ったのが良くなかったかな?」


「自分で挑発してるんじゃないの」


そのとき、談笑している俺たちの横を一人の少女が通った。


ソバージュがかった髪を肩まで伸ばしたその少女、白沢麗子は、一重まぶたのやや吊り上がった目で俺を一瞥した。


通りすがりに「ふんっ」と言われたような気がしたが、はっきり聞こえなかったので、気のせいかもしれない。


みんなは、麗子のソバージュがかった髪のことを、パーマをかけてるんじゃない?と噂していた。


本人は天然パーマだと主張し、先生にもそれで押し通しているようだ。


色白・面長で、頬にはそばかすが少しある。化粧をすれば美人に見えるかもしれないが、もちろん校則で化粧は禁止されている。


恵子も麗子に気づいて、口を閉ざした。


美知子がこの高校に入学したとき、同じクラスになった白沢麗子と初めて出会った。


新しいクラスで全員が自己紹介をしたときは、互いに特に注意を払ったわけではなかった。


ある朝、美知子が恵子の机の横に立って話をしていたとき、いつのまにか後に麗子が立っていた。


「じゃまなんで、どいてくださる?」


麗子の席は、恵子の三つ前だった。


「ご、ごめんなさい」


美知子はすぐに謝って、麗子が通れるスペースを空けた。


麗子は何も言わずに通り過ぎた。その様子を美知子と恵子はぽかんと見つめていたが、そのときはそれ以上もめることはなかった。


ところが、それからなぜか麗子が美知子にちょくちょく絡むようになった。


麗子にも仲のよい友だちが何人かいるようだが、そのグループで美知子に絡んでくること・・・つまり、俺の時代でしばしば問題になるいじめのような行為はなかった。あくまで麗子個人で絡んでくるのだ。


例えば、美知子が四月に行われた国語の抜き打ちテストで、問題文を読み違えて大幅に減点され、休み時間に恵子に嘆いていたら、通りすがりにテスト用紙をのぞき見て、「そんな問題を間違うの?もう一度中学からやり直した方がいいんじゃない?」と言って、そのまま振り向かずに自分の席へと歩いて行った。


またある日のお昼休みに恵子と弁当を食べていたときに、大好きな卵焼きが弁当に入っていて、美知子が自分の口よりやや大きい一切れを一口でほおばってもぐもぐしていたら、「お下品な食べ方ね」と、やはり通りすがりに吐き捨てて行った。


あからさまに喧嘩を売ってくるわけではないが、美知子がちょっといらつくようなことをたびたび言ってくるのだ。


言われると一瞬あっけにとられてしまい、すぐに言い返すことができなかった。そのため美知子はいつも学校からの帰り道で恵子とぐちり合っていた。


俺が少しもやもやした気持ちでいると。


「今日の一時間目は算数か。朝からきつくない?」と淑子が言った。


「算数じゃないわよ。数学よ」と恵子。


「同じようなもんだよ。数字と記号ばっかりで、暗号みたいだから」


俺は淑子の言葉に苦笑し、そのおかげで麗子のことを頭から追い出すことができた。


「ありがとう、トシちゃん」


淑子はなんでお礼を言われたかわからず、きょとんとしていた。


映画情報

 加山雄三主演/何処へ(1966年3月16日公開)


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― 新着の感想 ―
[一言] 昭和41年は父が亡くなった年ですね。もう記憶の一部のように思えます
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