どんぐりと松ぼっくり
森の中に小さな小さな虹が出ました。
それを見たどんぐりが、虹に飛び乗りすべりました。
なかなかすべり心地が良いので、松茸に
「一緒にすべりましょう」
と、誘いました。
松茸が
「私もすべりたいが、体が土の中に埋もれていて動けません」
と、悲しそうに言いました。
どんぐりは気の毒に思って、松茸を土の中から引き抜こうとしましたが、なかなか抜けません。
どんぐりは、汗びっしょりかきながら、松茸を何とかして引き抜こうとしますがどうしても抜けません。
(困ったな、困ったな、どうしたら松茸さんを自由にして歩かせることが出来るのだろう)
と考えました。
「ああ、そうだ。松茸さんの周囲の土を掘ってみよう」
と、思ったどんぐりは、また汗びっしょりになって、土を掘りました。
これくらい深く掘ればいいだろう、と思ったどんぐりは
「松茸さん、もう歩けるでしょう」
時きましたが
「どんぐりさん、私の体はまだ、土の中です」
と、松茸は泣きながら言いました。
どんぐりはがっかりしました。
どこまで掘ればいいのだろう、泣きたいのは僕の方だよ、と思いました。
その時、人間がやってくる足音が聞こえます。
「どんぐりさん、人間です。私は人間に食べられます。だから、人間に見つかると困ります。助けてください」
と、言います。
それを聞いたどんぐりは、急いで枯葉を集め、松茸にかぶせました。
人間たちは、その松茸には気づかずに通り過ぎました。
「ああ、よかった」
松茸もどんぐりも、ホッと安心しました。
「どんぐりさん、すみませんが、枯葉を取り除いてください。苦しくてしょうがありません」
松茸は、ふうふう言いながら、どんぐりに頼みました。
どんぐりは、汗をかきながら枯葉をとりのぞきました。
松茸は
「私も自由に歩いてみたい」
と、言いましたが、どうしてやることもできないどんぐりは
「松茸さんは、土から出ると枯れて死んでしまいます。今のままの方がいいですよ」
と、どんぐりが言いました。
「どうやらそのようですね。私が土の中から出ると、カランカランに枯れてしまいますよね」
「そうです。そして、くさって死んでしまいますよ」
「私は、そのように生まれてきたのですね」
と、松茸は悲しそうに言いました。
松茸はどんぐりと、虹の上を滑ることを夢見ていましたので、すごく悲しく思いましたが死ぬよりはマシだ、と自分に言い聞かせ、涙を流しながら諦めました。
どんぐりは虹を探しますが、虹の姿は見えません。
いつの間にか虹は消えて無くなっていました。
どんぐりは、虹をすべり台にして、すべったときの楽しさが、どうしても忘れられず虹を探して、森から森へと旅をしました。
いくら探しても、虹は見つかりません。
がっかりして、座っていると滝の音が聞こえてきます。
滝の音を聞くと、どんぐりはひどく喉が渇いていることに気づきました。
音を頼りに行ってみると、滝のところに小さな小さな虹がたくさんありました。
「ああ、虹だ。それも、こんなにたくさんの虹が!どの虹に乗って遊ぼうかな」
どんぐりは、喜んで虹に乗ろうと、滝のところへ行くと強いしぶきで流されてしまいました。
やっと、出会えた虹だったのですが、目の前に見ただけで乗ることもできないで流されてしまいました。
どんぐりは、どんぶりっこ、どんぶりっこと、ぷかぷか浮きながら、流れるままに流れていきますと、鮎に出会いました。
あゆは美味しそうな餌が流れてきたと思い、どんぐりをパクリと食べました。
しかし、硬くて硬くて、食べられません。
ペッペッと吐き出してしまいました。
どんぐりは、またぷかぷかと、川下に向かって流されていきました。
松ぼっくりが、どんぐりに気づき、長い棒を持ってきてすくい上げました。
「松ぼっくりさん、ありがとう。助かりました」
「しかし、水に浸かっていたせいでしょう。ずいぶんとふやけましたね」
「長い間、水の中の生活でしたからね」
と、言って、どんぐりは疲れていましたので、その場にぐっすりと眠りました。
松ぼっくりも、どんぐりの横に眠りました。
仲良く眠っていましたが、松ぼっくりは、目を覚ましました。
「どんぐりさん、おはよう」
と、言って横にいるどんぐりに声をかけますが、どんぐりはグウグウ眠っています。
空を見ると、まだ、夜のようです。
空には星がキラキラ輝き、その輝きは子守唄でも歌っているかのように見えます。
十五夜お月様も
「お目目が覚めましたか?でも、まだ夜ですよ」
と、言って、にっこり笑っていらっしゃるように見えました。
松ぼっくりは、お腹がグウグウ泣き出しました。
「ああ、おなかすいた」
松ぼっくりはお月様を見ていると、お餅に見えました。
お月様のお餅を食べようと、手を伸ばしますが届きません。
「お月様、もっと、僕の方へきてください」
と、言いながら、また、手を伸ばしますが、届きません。
おなかすいたー、と言いながら、口をもぐもぐさせ、また眠りました。
きっと、お月様のお餅を食べている夢でも見ながら、眠っているのでしょう。
にこにこしながら、楽しそうな顔で眠っています。
松ぼっくりが、目を覚ました時は昼でした。
どんぐりは、よほど疲れたのか、まだ眠っています。
太陽はサンサンと輝き、秋の日差しを投げかけていました。
お腹の空いている松ぼっくりは、お月様はお餅を持っていらっしゃるが、太陽様は何を持っていらっしゃるだろう。
と、手を伸ばしますが、手が熱くなってきました。
(太陽様は、燃えていらっしゃるので、お餅も焦げて、とうてい食べられないだろう)
と、思って諦めました。
秋の日差しとはいえ、まだ暑く、川に入りたくなって、川の中にざぶんと入りました。
すると、先日の大雨で水かさが増しているので、どんどん下流へと流されます。
「ああ、私の家がどんどん、遠くなっていくよ」
と、言って悲しみました。
あたりを見ると、メダカたちが上流に向かって泳いでいます。
松ぼっくりは、泳げませんので下流に向かって、どんどん流されていきます。
「誰か助けて」
と、悲鳴をあげると、メダカたちが気の毒に思って岸まで運んでくれました。
松ぼっくりは、疲れ切っておりますので、メダカにありがとうと言えません。
岸のところで、ぐっすり寝むりこんでしまいました。
どんぐりと仲良く遊んでいる夢を見ながら、いつまでも眠り続けました。
追記
どんぐりも松ぼっくりも、長い眠りにつきました。
眠りながら土に返りますが、このように木の実も木の葉も落ちて土に返り、地球の土地が自然と無くなってしまうのを防ぐために土となります。
地球の土地が無くならないように、木の実も木の葉も眠り、土に返ることで大きな仕事をしているのです。
太陽の愛の光で、実を結び土に返る。
大地の土を守る大事な仕事をしているのですね。
これも全て人間のためにです。
枯葉一枚、無駄なものはないのです。
自然とは本当によくできている、とつくづく思います。
自然を作ってくださっている、太陽様の働きは、何一つとして無駄なもの無く、太陽様からの恵みは、素晴らしいものばかりです。
地球はなぜ回転しているのでしょう。
夜ばかり、昼ばかり、夏ばかり、冬ばかりにならないように回転しているのです。
地球の自転も公転も、太陽様の光の強弱に、助けられ回転しているのです。
引力は太陽様が強い力を出してくださっているので、地球は飛ばされることも無く回転できているのです。
太陽様の恩典がなかったら、地球も人間も存在しないのです。
太陽様の愛は深く、素晴らしい自然を織りなしてくださっています。
人間を育てるために、昼も夜も眠ること無く努力してくださっているのです。
冬は地球と太陽が一番近づきます。
夏は太陽と地球は、一番離れます。
それなのに冬は寒く夏は暑い。
どうしてでしょう。
きっと、これは冬は少しでも暖かく、夏は少しでも涼しくという、太陽様の愛の表れではないかな、と思えてなりません。