2
(熱がある!ほら見ろ!暴れるからだぞ!)
日向は女性に向かって言い放った。
「ちゃんと俺の言うことを聞かないと駄目だぞ。」
ー ピピ ー ショキセッテイノライフポイントガナクナリマシタ ツウジョウポイントニキリカエマス
再び、日向の頭に声が響いた。
(なんだ?通常ポイント??)
さっきから聞こえる電子音や声が、そろそろおかしいと気づいた日向は、立ち上がって声の主を探した。キッチンやバスルームに行き、あらゆる収納を開けたが、もちろん何もなかった。二階へ行ったが、どの部屋ももちろん空だ。一つだけロフトのある部屋があった。はしごを登って覗き込んだが、ロフトの上にも誰もいないし、何もない。
ロフトから降りようとした日向の足に、生暖かい何かが当たった。柔らかく、ふにふにしていた。
「ん?なんだこれ?」
「ご主人様、それは私の胸です。汚ならしいものを触らせて申し訳ございません。」
「えー!」
さっきの金髪の女性がキャミソールにスパッツではしごを登ってきていた。
(ご主人様!?まさか、俺の言うことを聞くためにここに来たのか?)
日向は驚きのあまり、すぐに足を引いたが、その弾みで足を滑らせてはしごから落ちてしまった。
「いってー!」
目を開けると、女性は日向の下に仰向けになり、こちらを見ていた。日向は女性の腹部辺りに馬乗りになっていて、咄嗟に床についたと思った両手は、女性の胸を鷲掴みにしていた。
「ご、ごめんなさい!すいません!すぐどけます!」
日向はパニクった。慌ててどけようとして、立ち上がりかけて滑って転んでしまった。そして、ちょうど女性の身体に覆い被さるように乗っかり、唇にキスをしてしまった。
「ち、違うんです!ごめんなさい!ごめんなさい!ホントごめんなさい!」
ー ピ ー デイリーポイントガカサンサレマス
(またあの声だ!)
首を振って辺りを見たが、やっぱり誰もいない。慌てる日向を、女性はスッと抱き締めた。
「ご主人様、なんなりとご命令ください。なんでもいたしますよ。」
女性は、自分の胸で日向の顔を包み込み、両手で日向の後頭部を羽のように撫でた。日向の顔に、女性のおっぱいがあたった。
「わかりました!わかったから、とりあえず手を離してください!」
ー ポイントガフソクシテイマス イマスグチャージスルカショウヒンヲバイキャクシテクダサイ ポイントガタリナケレバ、ニドトテヲハナスコトハデキマセン ー
また、例の声が聞こえた。
(なんだ?チャージ?売却?二度と離れない!?)
「ば、売却だ!売却します!暖炉で!」
日向は咄嗟に暖炉しか思い付かなかった。そして、それをどうすればいいのかもわからないが、とにかく持てる限りの力で叫んだ。
日向の下では女性がキョトンとした顔をしていた。
(暖炉、なくなったのか?布団にしとけば良かった)
日向は後悔したが、すぐに起き上がり、女性の手を引いてリビングに降りた。暖炉がどうなったのか確認に行ったのだ。
リビングには、暖炉はなくなっていたが、薪は大量にあった。部屋には余熱が残っていた。そして、もう一人の女性が苦しそうな息をした。
(これは大変だぞ!)
「ねえ、君。」
「マチルダです。」
「え?」
「私の名前はマチルダです。」
「ああ、そっか。ごめん。俺は日向。マチルダ、この子の鎧を脱がせてほしい。」
「日向様、この子に手を出してはいけません。」
マチルダはムスッとした顔をした。
「わかってる!出さないよ!」
目の前で苦しそうにしている子は、どう見ても小学生だ。
「このままじゃ危ない。暖炉がなくなったんだ。一番体温を確保できるのは人肌だ。三人で布団に入ろう。そうしないとみんな死ぬぞ!」
「わかりました。すぐに脱がせます。」
マチルダは手際よく鎧を脱がせた。少女も、マチルダと同じく、キャミソールにスパッツという出で立ちだった。
(そんなことはどうでもいい。とにかく人命優先だ。)
日向はマチルダと協力して、少女を布団に運びいれた。
少女を真ん中にして、左に日向、右にマチルダ、三人で布団に入った。
「マチルダ、とにかく身体を密着させるんだ!」
「はい日向様!」
ー ポイントガフソクシテイマス イマスグチャージスルカショウヒンヲバイキャクシテクダサイ ポイントガナケレバ、ニドトミッチャクデキマセン ー
(またか!)
日向は、もうなににポイントを使ったのかわからなくなっていた。確実に覚えているのは布団だった。
(布団はまずい!)
布団さえあれば、寒さは凌げる。日向は半袖のシャツ、マチルダと少女はキャミソール一枚だ。外は相変わらず猛吹雪で、もしこれがやまなければ命に関わる。
ジュウ、キュウ、ハチ、ナナ……
謎の声はカウントダウンを始めた。
「ちょっと待ってください!何を交換したのか教えてくれませんか?」
……イチ、ゼロ
その瞬間、日向は布団から投げ出された。木の床にお尻や背中、後頭部を打ち付けた。
(マチルダと二度と密着できないってことか!!)
日向が飛び出した衝撃で、少女は目を覚ました。日向は少女に近づいてみたが、少女には近づいても大丈夫そうだ。
「え!マチルダ?と、誰!? キャーーー!変態!見ないで!」
少女は日向の顔をビンタした。
「お待ちください、ニナ様。日向様は私たちの命をお救いくださったのです。」
「そうなの?だからって、こんな、」
ニナ様と呼ばれた少女は、肌着が見えないように布団を捲りあげた。
「こうしていなければ、みんな死んでいたのですよ。」
「そ、そうなの?なんか納得いかないけど。」
ニナと呼ばれた少女は、完璧に正気を取り戻した。
「一応、礼を言っておくわ。私はニナ。こんな格好だけど森の王国の王女よ。」
「王女様ですか?」
(なんだろう、この二人。そういう設定なのかな?ずいぶん手が込んでるな。)
ニナは顔をしかめた。
「足が痛いわ。逃げる途中で怪我をしてしまったみたい。」
「ニナ様、大丈夫ですか?」
「ええ、それほどひどくはないわ。寒いから痛むのかしら。熱いお風呂に入りたいわ。」
そのとき、日向は、バスルームがあることを思い出した。
(風呂!そうだ!風呂は使えるのか?)
日向は立ち上がってバスルームに走っていった。
バスルームでは換気扇が回っていた。照明も点いた。電気はちゃんと通っているということだ。
(よし、これならお湯も出るんじゃないか?)
パネルを開き、【ふろ自動】ボタンを押すと、すぐに機械の声で
「フロ、ジドウボタンガ、セッテイサレマシタ」
と聞こえてきた。その瞬間、日向は「あ!」と思った。
(この声、さっきの声だぞ!)
浴槽には熱いお湯がみるみるうちに溜まっていった。日向はパネルを見たが、風呂に関連する以外のボタンはなかった。そこで、機械に話しかけてみることにした。
「すいません。ちょっと聞きたいんですけど、今いいですか?」
ドウサレマシタカ
また声が聞こえた!今度は日向の脳内に直接響いた。
「あの、あなた誰ですか?」
ワタシハスリデス
「スリ?スリさんってことですか?」
ソウデス ナンドモイワセナイデクダサイ
「すいません。あれ、あとはなにを聞けばいいんだ?」
シツモンアトヒトツニシテクダサイ
「一つですか!?じゃあ、ライフポイントのため方、教えて下さい!」
カシコマリマシタ
スリに聞いた内容をまとめると、
①ライフポイントは様々なミッションをクリアすることで溜まっていく
②ミッションにはデイリー、マンスリー、単発、突発、色々とあるが、生き死にの「生」に関する事柄がミッションとしてカウントされる傾向にある
③ライフポイントは無限に貯めることができる
④ライフポイントを使ってできることは、居住者の生に関する事柄のみ
⑤ライフポイントを貯めれば元の世界に帰ることもできなくはない
日向は驚愕した。
「ここって異世界なの!?」