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さっきまで晴れていたのに、急に雪が降ってきた。高木日向(ひなた)は驚き、ポカンと口を開けたまま窓の外を眺めた。雪は相当積もっていた。


(まだ七月だよね。)


高校一年生の日向は、休日を利用して両親とモデルハウスの展示会に来ていた。さっきまで、綺麗な女の人がモデルハウスの細部まで説明してくれていた。しかし、両親もその女の人も見当たらなかった。リビングを出て、バスルーム、和室、二階、全て見たが、どこにもいなかった。仕方なくそのまま帰ろうとすると、玄関のドアが開かない。


「あれ?なんだこれ。」


鍵はかかっていなかった。ドアの外になにかがある。力を入れてドアを押すと、ドアが少し開いた。ドアの隙間に足を挟み、更に少しずつドアを開けていく。雪は吹雪に変わり、ドアの隙間から雪がなだれ込んできた。


冷たい雪が顔や手に当たってヒリヒリした。それでも懸命にドアを押し、自分の身体がようやく通るほどになったとき、思い切って外に出た。すると、ドアにもたれかかっていた人を発見した。しかも二人だ。


「ちょっと、大丈夫ですか!?」


日向は急いで、一人ずつ、脇の下に手を入れて抱え、家の中へ運んだ。かなり重かった。二人とも全身を金属のようなもので覆っていたからだ。引き摺ると、キキーと音がした。そして、どこからともなく声が聞こえた。



ー ライフポイントガセッテイサレマシタ ー



「え?なに?」


日向は二人に呼び掛けたが、返事はない。返事はないが、二人とも確かに息はある。一人は怪我をしているのか、足から血が玄関に滴り落ちた。


(まずい、救急車だ!考えている暇はない。)


日向は救急車を呼ぼうと携帯電話を出したが、圏外だった。リビングに入り、両親の名前を叫んだが、相変わらず返事はない。


(とにかく、暖を取らないと、二人は死ぬかもしれない。)


「なにかヒーターのようなものか、暖炉かなにかがあればな。」


日向は、何気なくそう呟いた。リビングは、ソファーとテーブル意外は何もなかった。日向は諦めて玄関に戻ろうとした。



ー ピピ ー



そのとき、どこからともかく「ピピ」という電子音が聞こえたような気がした。続けて、日向の後方でパチパチという小さな音がした。


「え?」


ゆっくり振り替えると、壁側に暖炉があった。暖炉の周りの壁には薪が積み上げられていて、暖炉には赤々とした火が灯っており、かなりの熱を発していた。暖炉の上には鍋があり、スープか何かが煮える良い匂いがした。


(え?なんだこれ。ドッキリかな?そういえば親もいなくなったし。どこかにカメラがあるのか?)


日向は辺りを見渡したが、白い壁に白い天井、ガラス張りの窓、カメラなどどこにも見当たらなかった。外は、もはや吹雪で何も見えなくなっていた。


(いやいや、まずさっきの人たちを運ぼう。)


日向はそう考え、玄関に行き、二人をリビングに運んだ。そして暖炉の前の床に並べて寝かせた。頭には金属製のヘルメットのようなものを被っていたので、それを脱がせた。そのときに気づいたが、二人とも女性だった。一人は長い金髪をしていて、もう一人はダークブラウン、二人とも外人だった。二人とも肌は驚くほど白く透き通っていて、モデルのような顔をしていた。


そして、二人が脱いだヘルメットは、西洋風の兜だった。頭を覆うパーツと、鼻と口を覆うパーツは、それぞれ黒い金属で出来ており、首や肩の部分は黒革だった。


当然、身体にも金属製の鎧を装着していたが、日向一人では脱がすことはできなかった。


(布団ないかな。)


日向は鎧を脱がすことに見切りをつけ、和室に布団を探しに行った。


「布団か毛布、布団か毛布、布団か毛布……」



ー ピピ ー



今度ははっきりと電子音が聞こえた。和室の引き戸を開けると、布団と毛布のセットが三組置いてあった。確かにさっきまでは何もなかったのに。


(イタズラか?壁の収納にでも誰か入っているのかな?)


日向はフェイントをかけ、一気に収納を開けたが、何もなかった。一応、収納の天井も調べた。天板が外れるが、こんなところに隠れないだろうと思い、天板を元に戻した。


(ま、いっか。こんなことしてる場合じゃないし。もともと布団はあったような気もするし。)






布団を一組持ち、リビングのドアを開けた日向は、驚きのあまり布団を落としそうになった。意識を取り戻した金髪の人が、暖炉のスープを覗き込んでいたからだ。日向はすぐに近寄った。


「大丈夫ですか?」


金髪の人は目をパチパチさせ、表情のない顔で日向をじっと見た。女性は、背は高いものの顔立ちは幼く、もしかしたら日向と同じ高校生くらいかもしれない。


「大丈夫?痛いところはない?」


声をかけたが、目を伏してしまった。そして女性は、動かないもう一人の方を見た。


(ああ、戸惑ってるんだ。もしかして言葉が通じないのかな?)


そこで日向は一旦布団を起き、女性の両肩に手を置いた。そしてニッと笑って親指を立てた。


すると女性はしばらく考えて、口をキッと結び、顔を赤くして日向を睨み付けた。


(可愛そうに。こんなに怯えて。)


「今、布団敷きますね。」



ー ピピ ー



日向が言った途端に、再び電子音が鳴り、床に置いた布団が独りでに動きだした。そして、人が寝れるように整えられていった。敷き布団、シーツ、羽毛布団、枕、そして毛布。


最後に毛布がファサっと布団全体を覆った。


(この布団、全自動かな?モーターでも入っているのかな。)


女性は呆気に取られた顔をしていた。


(とにかく、早く布団に寝てもらおう。)


そこで、日向は布団を捲り、女性を手招きした。


女性は顔がこわばった。


(参ったな。言葉は通じていないみたいだし。英語なら大丈夫かな?)


「えーと、鎧を脱いで寝てくださいか。これ難しいぞ。て、テイクオフ、ユア、アーマー!アンド、ゴー、トゥー、ベッド!」



ー ピピ ー



再び電子音が鳴った。そしてその瞬間、女性の身体を覆っていた漆黒の鎧が、全て床に落ちた。派手な音がしたが、もう一人は起きなかった。女性は、上半身はキャミソールのようなもの、下半身はスパッツだけになった。咄嗟にしゃがみこんで前の部分を隠したが、次の瞬間、女性は布団の中に倒れ込んでいた。


(ずいぶん眠かったんだな。鎧も脱ぎっぱなしだし。)


日向が女性を覗き込むと、女性は日向を睨み付けていた。顔が赤く、息が荒い。


(熱でもあるのかな?)


女性のおでこを触ろうと、日向が手を伸ばすと、女性は日向の手を払いのけ、布団から出ようとした。


「ちょっと、安静にしないと駄目だって!」



ー ピピ ー ライフポイント ノコリワズカデス



日向の頭の中に声が聞こえた。辺りを見回したが、二人の女性意外は誰もいない。しかしその声と同時に、女性は布団の中で大人しくなった。固く口を結んで、相変わらず日向を睨み付けているものの、表情には諦めの色が浮かんできた。


(ようやく大人しくなったぞ。)






日向はおでこに手を当てた。


(熱がある!ほら見ろ!暴れるからだぞ!)


日向は女性に向かって言い放った。


「ちゃんと俺の言うことを聞かないと駄目だぞ。」



ー ピピ ー ライフポイントガナクナリマシタ ユウリョウポイントニキリカエマス

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