外伝 下巻
俺は今、この世界に来て初めて頭の中が真っ白になっていた。いわゆるフリーズというやつだ。
…リザードマンを見た時や初めて魔技を見た時、こっちの学園の授業で体験出来ることや亜人の男は一桁で大体……まあこれはいいか…とにかくそんな常識はずれの事が常識として闊歩している世界でもここまで動揺しなかった…余りショックを受けなかった…今は逆にこの世界で常識的な事が俺に当てはまらなかった事の方がショックしてる…。
「なんといいますか…こんな例は私共も初めてでして…」
「まあ、そうなのだよ、普通は……」
ああそうだよねおっさんに金髪女…だが少し冷静になって考えれば結構普通か?俺は元々別の世界の住人で魔力なんてないのが当たり前だしな、そうだ!そうに決まっている!
「普通は死人でもない限りあり得ないと思いますが、間違いないのですか? 主任?」
え?なに?俺、生きてちゃいけないのこの世界だと?
「おそらく私が今、探ってみたので間違いないね。 実際には魔力感知は魔力が微弱なお客様に対してのドバイザーを勧める時の判断の為の方法なんだが…まさかまるで魔力がないなんて……。 しかしこれで契約儀式が出来ないのも納得出来る…」
「その微弱魔力用のドバイザーでの契約は無理なんですか?」
俺が一応聞いてみた…聞いてはみたが答えは自分自身でもあらかたわかっていた…おそらくは……。
「無理でございますね…少しでも魔力がないと契約儀式は出来ません…」
やはりそうなんだな。
「兄様どうしましょう…」
「はっきり言ってこれはお手上げだろ?まさか天に魔力がまるでないとは…」
「え、え?天さん魔力がないんですか?」
…ああ無いよ!そこだけはお前以下だよ猫少女!まあ無い物をねだってもしょうがないか…。
「ふぅ……ではドバイザー契約は諦めるか…」
「確かにそれしかないがそうも出来ないのだよ天、冒険士は例外なく必ず冒険士ドバイザーを契約しなければならないのだよ」
だよなやっぱり……さてどうしたものか…
「それにつきましては私の方から皆様に提案があります」
「提案とは?」
俺はすぐに聞き返した、藁にもすがりたいとはまさにこの事だな…。
「お客様は後ろにいらっしゃる方々とチームを組んでいらっしゃるのですよね?でしたらその中でお客様と同じランクの方がいらっしゃいましたらその方がもう一台ドバイザー契約をしてそのドバイザーを制限付きで使うというのはいかがでしょうか?」
…成る程!!要は小さい子供の携帯名義や契約を親がおこないそして子供に持たせるというやり方か。……なら!…。
「ラム先輩!どうかよろしくお願いします!!」
俺はその場で立ち上がって猫少女にこれまで見せた事もない見事な礼をした。
「え?えええーー!!」
「いやラム、今の話の流れなら普通そうなるのだよ…」
「ラムちゃん、そういう訳だからもう一台契約してね?」
「は、はい!!あたし頑張ります!!」
いや、ただ座ってドバイザー契約するだけなんだが……まあそれすら出来なかった俺は何も言えないがな…。
「ちなみに制限とはどんな物なんだ?」
リーダーが中年男性に聞く、そしておそらく俺が思っているとうりの答えがくるだろう…。
「まず魔技が使えません」
ですよね〜。
「そして装備も無理ですねドバイザーからは、お金の引き出しや道具の引き出しも無理です。 出来るのはお金を入れる行為と道具を入れる行為ですね」
預けて好きな時に出せないとか定期預金かよ!
「もし出したい場合は道具ならお客様のチームの方が代わりに出す事が出来ますね、お金の場合は教会や冒険士協会でドバイザーとお客様確認の認証をして引き出せます、ただこの場合はお客様ではなく代理のそちらの方に出して貰う事になりますね」
…本当にそこだけ猫少女の子供みたいな立ち位置になっちゃったよ…。
「わかった……、それとチーム回線の事なんだが…」
確かにそれも重要だよなリーダー。
「連絡を取り合うことは出来ますが情報の共有に制限がかかります。 花村様が皆様のステータスを見る事は出来ますが花村様自身のステータスは花村様も皆様も見る事が出来ません。 そして経験値の共有も出来ませんね、花村様が倒したモンスターは花村様のみに入り皆様が倒したモンスターは花村様を除いた全員に入る事になります」
うん、まさに俺は1人ぼっちだな…。
「ちぇ、ボクは天のレベルやステータスを見るのを楽しみにしてたのに」
「実は私もですわジュリさん」
「今はそういう事を言ってる場合じゃないだろ2人とも…」
リーダーが呆れたように言う。やはりあったんだなレベルやステータス……俺も自分のレベルとステータス見たかった。
「ではそこの亜人のお客様は契約儀式に入りますのでそこにお掛け下さい」
「は、はい!よろしくお願いしますです!」
そうして契約儀式を行い15分後……
「儀式が成功しましたね。 無事に契約終了です」
「ありがとうございましたです」
…いや猫少女お前がお礼を言う必要はないと思うぞお礼を言うのはむしろ俺だ…。
「ありがとうラム先輩、 助かった」
俺はまた猫少女に頭を下げた。
「い、いいえです!天さんの役に立ててよかったです!」
「本当に感謝だラム先輩」
「では注意事項をお伝えします花村様、これで先ほど言った事はこのドバイザーで出来るのですが、これからはずっとドバイザーのロックは外した状態で持っていて下さいますか」
「というと?」
「ロックしてしまいますと亜人のお客様に対してのロックがかかってしまいドバイザーが亜人のお客様に張り付いてしまいます」
…そういえば最初にみんなとあった時にも似たよな事を言われたな、確かドバイザーは持ち主に張り付くとか…。
「ロックされていなければ誰のドバイザーを誰でも持つ事が可能ですがさっき言った制限がかかり殆どの機能が使えません」
「了解した」
「では、これで説明とドバイザー契約は終わりですが何か質問はありますか?」
「質問というより頼みがあるんだが主任さん」
リーダーが神妙な顔で言った。
「頼みとは?」
「この事は他言無用でお願いしたい。 もしこれが誰かに知れたら面倒な事になるかもしれない。」
…ああ、確かにな…この世界で生きていて魔力無しとか、変な組織から目をつけられるレベルかもな。
「承知しております…といいますか誰も信じないかもしれないですが…」
「私も未だに半信半疑です…」
係の2人はこの事を言っても信じないから言う必要がないみたいに捉えてくれてるな。
「で、ではこれで全て終了と言うことで。 皆様お疲れ様でした」
「こちらこそ色々世話をかけて本当にすみません。 では失礼します」
俺は係の2人に軽く礼をしみんなとそこを後にした。
「それにしても天に魔力がまるでないとか……本当に何者なんだ天は?」
「そんなのは俺がききたいなリーダー」
…異世界から来ましたなんて言えるか!いや恐らく言っても多分信じて貰えない…。
「まったく、童貞で魔力無しとか…天は宇宙から来たのかい?」
その問いには当たらずとも遠からずだな金髪女。
「まあまあ、とりあえず無事?かはわかりませんが、天さんはこれでFランク冒険士になれましたし目的は達成されましたね」
「あ、ああ、そうだな弥生さん…」
俺はそう言葉を返したが内心はがっかりしていた。そもそも俺はそんなに動揺したり物事に対して驚いたりしないのだがその俺が頭が真っ白になるまでショックを受けていたのには理由がある……俺は魔技を覚える事を凄い期待して、楽しみにしていたのだ!!魔技を覚えたら漫画などの技を丸パクリ出来たり、俺が編み出した技にアレンジを加えられたのに……。
本当に肩透かしもいい所だぞ…だが普通に考えれば俺が魔力がないのは必然かもな、こっちの世界は向こうと違い常にモンスターという脅威がある、だから人型達はその脅威に対抗する進化を遂げて今に至る訳だからこっちのそういう進化を遂げてない俺が魔力がないのは当然だ……。
「天さん?どうかしましたか?さっきからぼーっと…やはりショックでしたよね…?」
大和撫子が心配そうに聞いて来た。
「い、いや、ショックじゃないと言えば嘘になるが事実は変わらないからな。受け入れなくては。 それよりこれからみんなどうするんだ?」
あまり悟られない様に何時もは物事を考える様にしているんだがやはりまだ尾を引いているな、切り替えなくては。
「これから行く所は一つなのだよ」
「それは何処だジュリさん?」
「魔石製造場さ、早くリザードマンを魔石にしたいのだよ」
「切り替えが早いなジュリは……」
「さっき天も言っていたが事実は変わらないのだよ、だったら次にやる事をさっさとやるべきなのだよ!」
概ね同意だが、次にやる事ではなくて金髪女がやりたい事なのでは?
「……お腹すきましたです」
…猫少女…いや、確かに朝に村で食べてから何も食べてないから今回は仕方ないか、かなり俺の為だしな。
「では、その魔石製造場に行くメンバーと食事を取る者とで分かれたらどうだろうリーダー?ちなみに俺は魔石というやつを製造する現場を見たい」
「天の意見に賛成なのだよ。 ボクは勿論魔石製造に行くがね」
「俺も魔石製造に行こう」
「では私とラムちゃんが先に軽く何か食べてますね」
「あう〜、すみません皆さん…」
「いや、俺の為にみんなに迷惑かけてるからな謝るなら俺の方だ、すまない」
「冒険士になるなら資格を取るのは必然なのだよ天。 謝る事じゃない」
「そのとうりです天さん!」
「そう言って貰えると気が楽だな」
「そう言えばみんなに守って貰いたいことがある! 天の事はこのチームだけの秘密にしたいから他言無用だ!」
「言われなくてもわかっているのだよ淳、てっいうよりあのドバイザーの儀式をしてくれた2人も言っていたが恐らく信じて貰えないのだよ」
「兄様、心得ております」
「は、はい!!わかりましたです!!」
猫少女だけ不安だが、まあ大丈夫だろう。
「では弥生とラムは2階にあるファミレスで待っていてくれ」
ファミレスまであんのこっち!
「わかりました兄様、何かありましたらドバイザーで知らせて下さいませ」
「了解しましたです!」
いい返事だな猫少女…早く言ってご飯食べてきなさい。
「ではこちらは魔石製造だな天、これも冒険士の必ず覚えなくてはならない事の一つだからよく観察して覚えてくれ」
「了解したリーダー」
「ふっ、ふっ、ふっ、やっとこの時が来たのだよ。 さあ早くリザードマンの魔石を我が手に!」
金髪女が少し壊れたな…気にしないでおこう。
そうこうするうちに魔石製造場に到着する。
…なんというか思っていたのと違うな…。
「綺麗な所だなここは…」
大型百貨店の中にある高級ジュエリー店見たいな感じか?あれは多分全部魔石なんだろうな、もっとこう工場とかそんなのを想像したんだが。
「だろ?天!ボクはここなら一日中居ても飽きないのだよ!」
「そんなに長居してたまるかジュリ!さあ早くリザードマンを魔石するぞ」
「惇はシャレが通じないのだよまったく…」
「お前のはシャレじゃないだろ!」
間違いなく本気の目だったな金髪女は。
「と、とにかく二人とも行こう。 そういえばここに来たら一番ポピュラーなGランクモンスターが見れるとか言ってなかったか確か?」
「……恐らく見れるのだが余り見たくないのだよ……」
あれ?急にテンション下がったな金髪女。
「俺は別に平気だがやはり女性にはキツイかもな?」
「別に一匹ならそうでもないがアレはほぼ間違いなく複数で取り扱うからな…」
なんか雲行きが怪しくなってきたな、どんなモンスターだよそれ?
「まあ実物を見れば天もわかるのだよ…」
「あ、ああ…」
そんな事をいいながら俺たちは魔石製造場の受け付けについた。
「いらっしゃいませ。 本日はどの様な御用件でしょうか?」
「依頼で討伐したリザードマンの魔石製造をお願いしたい」
「かしこまりました。ではリザードマンの入ったドバイザーのロックを解除してこちらに預けて頂けますか?」
「了解したのだよ」
そう言って金髪女は自分のドバイザーを受け付けに渡す。
「お預かりいたしました。 では今から魔石製造を行いますのでしばらくお待ちください」
「あ、待ってくれ」
「はい?」
「今日、冒険士になったばかりの新人に一番ポピュラーなGランクモンスターを、見せてやりたいのだがアレは今この店にストックはあるか?」
「ごさいますよ。 今持って来ましょうか?」
「ああ頼む」
「う〜ん、出来れば見たくないのだよアレは…」
そんなに嫌なの金髪女?どんなモンスターだろ?
少し経ってから受け付けの人が大きなバケツを持ってきた。
「コレが一番ポピュラーなGランクモンスターの大ミミズでごさいます」
バケツいっぱいに30センチぐらいのミミズの死骸が入っていた…確かにこれは気持ち悪いわ。
「確かにコレは気持ちが悪い」
「天もそう思うだろ?こんな量のミミズの死骸を見て平気だとか淳の神経を疑うのだよ」
「いや別に平気とは言ったが見て気持ち悪くないとは言ってないぞ」
「私共は毎日目にしておりますので慣れてしまいましたがやはり女性のお客様や初見で見るお客様は抵抗があるようですね」
バケツを持ってきた受け付けの人が苦笑いしながらそう言った。
…ああ間違いなく普通に引かれるなこれは……何故すぐに魔石にしないんだ?
「ここは魔石製造が普通に出来るんですよね?何故すぐ魔石にせずにそのままの状態でモンスターの死骸が置いてあるんですか?」
「その事に関しては初見のお客様から良く聞かれますね」
…やはりそうだよな、この魔石製造場と言われてる所は俺の世界で例えるならまるで宝石店だ、その店に大量のミミズの死骸があったら違和感なんてもんじゃない。
「大ミミズの魔石は世界全体で一番ポピュラーな魔石なのですが同時に一番質も悪いのです。 なので魔石の状態で何もせずに置いて置くとすぐに劣化してしまうのです。 ですからお客様達のドバイザーの燃料にしたり家庭で使うような魔機器に直接にセットする時など魔石の状態でなるべく放置しない場合に、その場で大ミミズの魔石製造します」
…すぐにサビて使えなくなるみたいなもんかな?
「まあ大ミミズの魔石でなくても皆すぐに魔石製造したら自分のドバイザーに入れてしまうことが多いのだよ」
「それはやはりお金のような物だからなくさない為かジュリさん?」
「一般人は大体その理解で合ってるのだよ。 ただ冒険士みたいにドバイザーを使って戦うことが多い者たちはドバイザーの魔技触媒機能のレベルアップやMPの最大値を上げるためにすぐにモンスターを魔石製造したら自分のドバイザーの核にするのだよ!」
「俺からつけくわえると新しい機能が使える様になったり耐性の強化や自分の特性の強化もしてくれたりする」
「成る程、では魔石とはドバイザーにとって俺達で言う所の経験値みたいなものなんだな」
「そのとうりなのだよ天!!」
…またテンション上がり出したな金髪女…まあ無理もないかその話から察するに今から金髪女のドバイザーをリザードマンで作る魔石で底上げするみたいだしな。それにしても成長する機能か。端末で言うとアップデートみたいなものだな……俺の場合はいくら機能が増えてもお金と道具を入れる事しか出来ないが……くっ!羨ましい…。
「そういえばもう一つ気になったんだが何故大ミミズはこんな大量にバケツに入ってあるんだ?」
「うーん、それはリザードマンを魔石にしてからの方が説明しやすいから先に魔石製造してしまうのだよ天」
「左様でごさいますね。では先程そちらのお客様からお預かりしたドバイザーからリザードマンの魔石製造を行いますので少々お待ち下さい」
そう言って受け付けの人はバケツの大ミミズを回収し金髪女のドバイザーを持って受け付けの奥へと入っていった。
「どれくらいかかるんだリーダー?」
「恐らく5分もかからんと思うぞ?」
「ボクもそう思うのだよ」
「それぐらいで出来てしまうのか?その魔石製造とは?」
「モンスターの大きさによって違うが確か20メートル級のドラゴンでも1時間かからなかったよなジュリ?」
「それで合ってるのだよ淳、まあドラゴンの魔石製造なんてここ10年きいたことがないのだよ」
…大きさや魔素の質量で製造時間が変わるのか…まあそれでも1時間かからないなら別に気にする必要もないか…。
「お待たせいたしました、魔石製造が完了いたしました」
…早!もう終わったのか?まだ2分も経ってなくね?
「やはり冒険士協会の魔石製造は早いのだよ」
「確かにな、普通の町なら魔石製造時間がもっとかかるぞ」
ああ、そういう事…。
「早くリザードマンで作った魔石を見せて欲しいのだよ!」
「かしこまりました。 コレがお客様方が討伐したリザードマンで作った魔石になります」
…お、どれどれ……ん?随分小さいな?
「リザードマンの魔石ってこんなに小さいのか?」
そこには大体直径2センチほどの緑色の丸い綺麗な石があった。
少し大きな緑色の真珠みたいな感じかな見た目は…。
「ああ、俺も子供の時に初めて魔石を見た時は同じ事を思ったよ」
「天、コレでも大きな方なのだよ。 そしてこれがさっき天が疑問に思った事の答えなのだよ」
「成る程な、つまりあのリザードマンですらこれくらいの大きさの魔石しか作れない。 だから大ミミズ一匹じゃ全然足りないということか?」
「ご名答なのだよ! 大ミミズはデカイと言っても重さは150グラムぐらいだ、それに対してリザードマンは150キロ以上はあるからね、約1000倍近く質量が違うから1匹2匹じゃ全然足りないのだよ」
…納得しました…。
「私共がお客様の燃料として大ミミズを魔石に変える時は最低100匹は一緒に製造しないととても魔石として機能する様な物は作れないのです」
「だからここと言わずどこの魔石製造場でも大量の大ミミズは常時置いてあるのが普通なのだよ」
「そんなに沢山の大ミミズをどうやって確保してるんだ?」
「養殖してるんだよ天。 唯一の養殖モンスターと言っていいのがこの大ミミズなんだよ」
「正確には魔素の濃い所でミミズを養殖して大ミミズにして出荷すると言うのが正しいのだよ淳」
「…凄いなそれは…安全とか大丈夫なのか?」
「問題ないのだよ。一番モンスターになり易いのも大ミミズなら一番脅威がないのも大ミミズなのだよ。 元々Gランクのモンスターはいくら集まっても人型の脅威になり得ないんだ、見た目で気分が悪くなるだけで命の危機に晒される事はまずないのだよ」
「確かにミミズがいくら集まっても怖くないか…」
いや、有る意味怖いな…何より気持ち悪い…。
「もうミミズ話はこれぐらいにして早く魔石をドバイザーにセットするのだよ!」
「気持ちはわらるが少しは落ち着けジュリ」
「一応お伺いいたしますがこの魔石なら110万円でお買い上げさせて頂きますがどうでしょうか?」
高い!いや、最初にリーダー達に会った時そんな話をしたな?確かリザードマンの魔石は100万ぐらいすると…。
「売るわけがないのだよ! !一刻も早くボクのドバイザーにセットするのだよ!」
「…ジュリさん、リーダーも言っていたが少し落ち着け。 そもそも店員さんだってまず売らないのは分かっているが、一応業務として聞いてるんだからそんな剣幕で返事をするのはどうかと思うぞ?」
「天の言うとおりだジュリ。 とにかく少し落ち着け!」
「う、…確かに今のはなかったかもだな、反省するのだよ…。 店員さんすまないのだよ」
「いえいえ。 では早速お客様のドバイザーに魔石をセットいたしますね」
「よろしく頼むのだよ!!」
……こりゃ当分、金髪女のテンションは上がったままだな。
リーダーもヤレヤレみたいなジェスチャーしてるし。
「出来上がりました。 本日は他にご用件などは…」
「大丈夫なのだよ! さあ淳、天、早くファミレスに言って弥生とラムに合流して新しいドバイザーの性能を確かめるのだよ!!」
いや、ファミレスはご飯食べるとこなんですが。
「……ふぅ、確かに腹が減ったからな、天もうファミレスに向かってもいいか?他に店員さんに聞きたい事とかあるか?」
「大丈夫だリーダー、ではファミレスという所に行こう。 店員さん先ほどは大ミミズを見せて貰いありがとうございました」
「とんでもございません、こちらこそ本日はご来店ありがとうございました。 またのお越しをお待ちしております」
「さあいざファミレスに、なのだよ!」
「ファミレスか、どんな所か楽しみだ」
…とりあえず山奥育ちだからファミレスは知らない事にしておくか…実際に俺が認識しているファミレスとは違うかもしれないしな。
「あ、兄様、天さん、ジュリさんこっちです」
俺達がファミレスに入ってすぐに大和撫子がこちらに気付き声をかけてきた。
ちなみにファミレスは俺の世界とまるで一緒だった……うわ〜ドリンクバーみたいなのまであるよ…。
「も、もう食べられないです…」
いや、なんでガッツリ食ってんだよ猫少女…こういう時は軽くなんか食べながら皆揃ってから本格的に食べるのが普通でしょ?大和撫子も言ってただろ!だが正直予想道理だよ!
「もぉ、ラムちゃんたら…」
「さあファミレスに着いた事だし早く新しい魔石とドバイザーの性能を見るのだよ!」
お前はお前でブレないな金髪女…。
「わかった、わかった、とりあえずポテトとドリンクバーでも頼んでからドバイザーの性能確認とこれからの方針を話し合おう」
もう、完璧に一緒だよこの世界のファミレスと俺の世界のファミレス…。
「皆、まずは天の冒険士資格取得を祝ってかんぱ…」
「そんな事どうでもいいから早くドバイザー性能確認なのだよ淳!」
「ほら、ラムちゃん起きて」
「ふ、ふぇ?……ここはどこですか?ご飯まだですか?」
…色々ツッコミたいが……まあいいんだけどね…いや、これだけはツッコませて貰う!猫少女、お前はもうご飯食べてるからすでに!
「リーダーいいんだ……とりあえずドバイザーの性能確認をしてしまおう。 なんだかんだで俺もステータスとやらを見たいしな」
「そ、そうか?天がそれでいいならいいんだが…じゃあジュリ、天に新しいドバイザーのステータスとお前自身のステータスを見せてやれ」
「了解したのだよ!では天こっちに座って一緒に見てくれ」
俺は金髪女の隣に席を移し金髪女のドバイザーを覗き込んだ。
Lv 15
名前 一堂ジュリ
職業 Eランク冒険士
最大HP 85
最大MP 150
力 20
魔力 50
耐久 25
俊敏 30
知能 95
火耐性 火魔技Lv3 風魔技Lv1 水魔技Lv1 土魔技Lv1 生命魔技Lv2
おっ!かなり本格的だな!…こうやって他の者のステータスを見るとやはり自分のステータスを見たいな……。
「やったーー!!火耐性付いて火魔技がLv3になったーー!!」
……どうでもいいが金髪女、語尾に「〜のだよ」って付けてないんですが?アレってキャラ付けでワザと付けてたのか?まあここは空気を読んで突っ込まないでやるか…。
「ジュ、ジュリさんもうちょっと声を抑えて下さい…。 他の方々の迷惑になります…」
大和撫子、そいつはしばらくほっといた方がいい。
「リーダー、ステータスの読み方は大体予想がつくんだが普通は俺達ぐらいの歳だと平均値はそれぞれどれくらいなんだ?」
正直、成人男性の一般数値がわからないとどれくらい凄いのか凄くないのかわからないからな、リーダー達は高校生ぐらいだがおそらく平均値は余り変わらないはずだ、となればまず聞くことはコレだろ。
「やっぱり気になるよな?」
…はい気になります。
「では簡単に説明しよう。まずは1番上のLvだがこれは別に歳とかじゃなくて言ってみればその者の肉体的な成長度をしめしているな。一般の大人だと大体5〜7Lvが普通だ。次のステータスは最大HP、これは体力、生命力と言ったものだ。これがなくなると生物は死んでしまう…ちなみにこちらの平均値は40〜50程だ」
「ドバイザーでは最大値しか見れないのか?」
「ああ、見れないな。 残りいくつとかはわからない。ただある程度は自分自身でわかるがな」
「成る程……あっ、すまない話の腰を折ってしまって… 続きを頼む」
「わかった。 次は最大MPだな、コレは殆どと言っていいほどドバイザーの性能で決まる。ただ魔力の高い者は少しの補正はつくと思うが…」
「それも誤差の範囲なのだよ淳」
「だそうだ、なのでコレには平均値がない。 次は力と魔力だがこれは読んだままだな?力は攻撃力の強さ、魔力は魔技などの威力の高さや覚える技の種類などに関係している。 力は俺達ぐらい歳の男で大体13〜15ぐらいだと思う。魔力は才能の影響が大きいからこれにも決まった平均値は無いな、ちなみにだがジュリの50という数字はかなり高い方なんだ、才能がある者でも普通は40は超えない……逆に言うと才能が無い者でも0は普通ないんだがな……」
リーダーがこちらから目をそらした…わかってるよ言いたい事は!!でも仕方ないだろ?俺の世界じゃ魔力なんか無いのが普通なんだよ!
「淳!もっとボクを褒めるのだよ!」
「アレは無視して話を続けよう……」
超同意だリーダー。
「次に耐久値と俊敏だな。まず耐久値とはその者の体の強度、防御力を表していて俊敏はその者の瞬発力、スピードを表している。だがスピードを持続するスタミナとは関係ないな。 耐久値は平均値が力と同じで15前後だな、俊敏は10前後だと思う」
「ふむふむ…勉強になるな。では数値化されている中の最後の知能と言うのは頭の回転の良さという所か?」
「ご明察だ。それであっている。 ちなみにコレも才能がほとんどでLvが上がっても増えない数値だな、勿論特殊な訓練で増やす事も出来るし成長すれば自然と増えることもある数値だ。 大人だと平均50〜60ぐらいだな」
IQみたいな物か?金髪女の95とは以外に高いな。
「次はボクが教えるのだよ! まず耐性というのは…」
「大丈夫だジュリさんそっちの方は大体予想がついてる耐性はその者の耐久値以外の魔技や魔素などの属性への耐性で他の魔技の種類別のLvはその属性の強さや使える技の種類と言った所か?」
「うっ……それであっているのだよ…天は教えがいがないのだよまったく!ラムなんか1時間以上かけて説明してもちゃんとわからなかったのに…」
悪いな金髪女…実は言葉の意味はステータス画面の初見で大まかには予想がついていた。知りたかった情報はステータス各数値の一般の成人男性の平均値、つまりは基準だ。
そして猫少女と比べられてもな…。
「.zzzZ……ふぇ?あたし今誰かに呼ばれましたか?」
「ラムちゃん、もうちょっと寝るのは我慢しよ?」
お母さんと娘だなまるで……。
「他の皆のステータスも見せて貰ってもいいか?」
「それは勿論なのだよ天。 ボクだけ見せるとか不公平なのだよ!」
「最初から見せるつもりだ」
「はい、勿論です」
「…ふぇ?……は、はい!あたし寝てません!」
授業中に先生に起こされてテンパった生徒かお前は…。
「あ、ありがとうみんな…」
そしてみんなのステータスを見せて貰った。
Lv 15
名前 一堂 淳
職業 Eランク冒険士
最大HP 140
最大MP 60
力 30
魔力 20
耐久 35
俊敏 30
知能 80
剣術Lv1 火魔技Lv1 生命魔技Lv1
リーダーは全体的に安定してるな。
Lv 15
名前 一堂 弥生
職業 Eランク冒険士
最大HP 70
最大MP 110
力 17
魔力 40
耐久 15
俊敏 25
知能 120
状態異常耐性 風魔技Lv2 水魔技Lv2 生命魔技Lv3
大和撫子はステータスは前の2人に比べると劣るがそれでも一般の大人の平均値は普通に超えてるな、それにこの前も見たが大和撫子は前衛より後方から支援するタイプだ、それに知能が高いから差し詰めこのチームの頭脳って感じか。
Lv 10
名前 ラム
職業 Fランク冒険士
最大HP 200
最大MP 10
力 10
魔力 10
耐久 10
俊敏 10
知能 30
胃腸異常耐性 土魔技Lv1 生命魔技Lv1
……えっと、随分低い位置で安定してるな猫少女…いや!最大HPがかなり高いぞ!……ただ耐久値が10じゃな……ってか胃腸異常耐性ってなに?お腹壊し難いとか?それって大和撫子の状態異常耐性の胃腸のみ?そんなのがあるならお前は空腹耐性でも覚えろ!!
「いや〜ラムのステータス画面は何時見ても綺麗に揃ってるのだよ」
「で、でもラムちゃんがうちのチームで一番最大HPが高いですよ!」
「……それでも耐性と俊敏が10じゃな……」
「に、兄様!!」
「う、うう…」
……思ってる事は大体同じだよな…はぁ〜しょうがないな猫少女が泣きそうだし話を代えるか…。
「そういえば気になったんだがラム先輩は本名がラムなんだな?俺達みたいに名字と名前がわかれてないのはやっぱり種族の違いか?」
「その通りなのだよ天。 本名が名字と名前でわかれているのは人型では人間だけなのだよ」
「エルフと亜人は両方とも名前イコール本名みたいな感じだからな」
「そして王族や神様方に直接加護を受けた英雄の皆様方も名前だけですね」
「名前が被る事は無いのか?」
「王族や英雄の場合はございませんね、全て名前が管理されていますので前に登録されている名前はつけられない様になっておりますわ」
…アプリのユーザー名やメールのアドレスみたいな感じで被らない様になってる訳だ…。
「王族や英雄の場合は、というとその他の例外はあるということか弥生さん?」
「はい。ただその場合は名字の代わりに出身地や村、町の名前が名字として使われますかね」
隣町の誰々みたいな感じか。
「あたしの場合はロート村という所が出身地になりますです。 なのでラム・ロートとなりますです」
「成る程理解できた。ありがとう」
「補足するとその名前はラムという同じ名を後から付けた場合なのだよ。 ラムの場合はその名を付けたのがラムが一番最初だからその出身地が名字になるということはないのだよ」
よし、余り興味のない情報だが軌道修正は出来たな。
「そういえばこれも気になったんだがステータスってのはドバイザーが自動的に契約した持ち主の力量を読み取ってくれるのか?」
「うーん自動的というのは適切ではないかなアレは?」
「どういう事だリーダー?」
「ステータスは確かに自分が契約したドバイザーとチーム回線を繋いであるドバイザーに提示されるんだがそれをするにも少しばかり段階を踏むんだ」
「段階?」
「段階と言っても簡単な手順なのだよ。 まずステータスの読み取りをドバイザーで行いそれを記録するだけなのだよ」
「ただコレらの行動はドバイザーの自動処理ではなく俺達自身で手動で行わなければならない」
「あう〜、あたしは出来るまで3日かかりました……」
猫少女の場合はそれを覚えるのに3日かかるのが覚えが良いのか悪いのか判断に困るんだよ……まあおそらくは…
「アレを習するのに3日はかかり過ぎなのだよラム…」
…やっぱりか〜。もう俺の中で猫少女のポンコツ具合は初期のファミコンの比じゃないぞ…。
「ちなみにどんな事をするんだ?そのステータスの読み取りとは?」
「簡単な事なのだよ。 頭の中で自分のステータスを思い描くと朧げに文字や数値が出てくる、その状態で魔力を読み取り作業中のドバイザーに流せばそれらが鮮明に読み取られてドバイザーに記録され見ることが出来るのだよ」
「凄く難しかったんですよ〜……」
「いや、簡単なのだよ」
「あう〜…」
まあ猫少女に頭でイメージしながら魔力を流せとかちょっとレベルが高いかもな……ん?ちょっと待てよ?今、頭の中で自分のステータスと念じれば朧げになら数値がでるって言ったよな?ならドバイザーの機能を殆ど使えない俺でも自分のステータスが掴み程度ならわかるんじゃないか?…まあこちらの世界の人間ではない俺には当てはまらない可能性が高いが一応やってみるか………
「ぶはっ!!」
「き、汚いのだよ天!」
「す、すまない…ちょっと気管に飲み物が入ってむせてしまった…」
「大丈夫でございますか天さん?」
「ああ問題無いよ弥生さん…」
思わず口に含んだ飲み物をふいてしまった……出来た!しかもかなり鮮明にわかる……しかしこのステータスは一体何?
…まずはみんなのステータスをもう一度確認してみよう……。
リーダー
Lv 15
名前 一堂 淳
職業 Eランク冒険士
最大HP 140
最大MP 60
力 30
魔力 20
耐久 35
俊敏 30
知能 80
剣術Lv1 火魔技Lv1 生命魔技Lv1
全体的に安定しているな、同年代男性の平均値のほぼ倍以上をどれもキープしている、こういう奴はチームで器用に立ち回れる遊撃タイプか?ただ魔技、剣術ともにレベルが低い…これからの修練次第で変わってくるとは思うが。
次に大和撫子
Lv 15
名前 一堂 弥生
職業 Eランク冒険士
最大HP 70
最大MP 110
力 17
魔力 40
耐久 15
俊敏 25
知能 120
状態異常耐性 風魔技Lv2 水魔技Lv2 生命魔技Lv3
所々に弱い部分もあるがそれでも女性でありながら同年代男性の平均値を全て同等か上回っている、そして回復系の魔技が得意で知能も高い、後方支援役のチームの頭脳であり生命線だな彼女は、何気に状態異常耐性が付いているのもポイントが高いかもしれないな。
次は金髪女
Lv 15
名前 一堂ジュリ
職業 Eランク冒険士
最大HP 85
最大MP 150
力 20
魔力 50
耐久 25
俊敏 30
知能 95
火耐性 火魔技Lv3 風魔技Lv1 水魔技Lv1 土魔技Lv1 生命魔技Lv2
完璧にこのチームの攻撃役だな、山でも見せて貰ったが確実に敵を仕留める技を持っているのは察するに彼女だけだろう…これも俺の推測だが魔技系等の中で一番攻撃に適しているのは恐らくは火属性だろう、その系等が得意でしかも魔力もリーダーの話だとかなり高い様だしな、魔力が高く火属性が得意ならDランクモンスター程度なら火魔技が当たれば高確率で一撃死させると予想出来る。
問題は魔技の生成時間だが敵を確実に仕留められるならその間の時間ぐらいは他のメンバーで稼ぐのが必定だな、現に出会った時もそうやってリザードマンを倒していたしな、それと生命魔技もレベル2だから回復役も時にはやれるということか?とにかくこのチームで一番のキーマンは間違いなくこいつだろうな…性格はお調子者の小悪魔でボクっ娘というあまり定まってないキャラだが…。
最後に猫少女
Lv 10
名前 ラム
職業 Fランク冒険士
最大HP 200
最大MP 10
力 10
魔力 10
耐久 10
俊敏 10
知能 30
胃腸異常耐性 土魔技Lv1 生命魔技Lv1
………胃腸が強いチームの癒し系マスコット…何故かHPが無駄に高い…以上!
…そして俺…
Lv 100
名前 花村 天
種族 人間?
最大HP 30500
力 777
耐久 820
俊敏 750
知能 150
特性 ・ 全体防御力アップ(効果大)
魔法無効体質 状態異常無効 練気法 体内力量段階操作法 力調整法
備考
・童帝・中二病みたいな技を多数所持(笑)
………一つ一つ考察して行こう…まずなぜ俺だけ職業ではなく種族なんだ?しかも人間?ってなに?確かに俺は最近自分でも、俺って実は地球人じゃなくて他の惑星から来た戦闘民族じゃないのかと疑った事もあったが…というより何故にステータス欄で疑問符が付いてんだよ!!そこは自信持って行けよ!
そしてやはり俺はMPと魔力が0…いや、もはやステータス欄でその二項目が除外されてるんですけど!なにこれイジメ?はじめから無いのはしってたけど項目すら無いとか……と、とりあえず次だ!では他のステータスは…うん俺もしかしたら人じゃないかも…あながち人間?は的確な表現かもしれないな…何かこっち来てから身体が更に活性化された感じがするしな?実際に若返ったし…。
「どうしたのだ天?さっきからずっと険しい顔をしてるのだよ」
「ああ…すまないジュリさん。 さっき魔石製造場で見せて貰った大量のミミズの事を思い出してしまってな」
「アレを思い出していたらそれはそんな顔になるのだよ…」
「天さんも見てしまわれたんですね……あの惨状を…」
「ジュリも弥生も冒険士ならアレぐらいなれた方がいいぞ?なあラム」
「はい!ミミズは物によっては凄く美味しいんです」
「アレを食べるなんて絶対無理なのだよ!」
ちょっと今、自分のステータスの考察してるからお前らはそっちでミミズの話で盛り上がっててくれ…。
次に特性か…これは言葉通りの意味だと思うが実際に確かめる事は難しいな、そういえばなぜみんな特性を持ってないんだ?まあ後でそれとなく聞いてみるかな。
次はスキルと耐性だがなんか俺だけみんなとはニュアンス違うな……が!一つだけはっきりした事がある!スキル項目の最初に記載されてる魔法無効体質というやつは多分、魔素や魔力などが関係している魔を使った方法つまり魔技などの効力、効果や魔素などの性質を無効化する体質だと予想出来る、つまり大和撫子に山で回復魔技をかけて貰ったあの時に俺だけ傷が回復しなかったのはこの為だなおそらくは……これは色んな意味でメリットとデメリットがあるな、まずメリットは敵になる全ての者から受ける魔技や魔素変質の攻撃を無効化出来るということつまりは俺には物理系等の攻撃しか通らないと推測できる。
次にデメリットはやはり既に検証済みの回復系等の処置がまるで出来ないということともしかしたらこっちで使われてる魔石機器ですら俺が使うと無力化してしまう事か?前者はよくRPGなどで回復に使われる薬草系等などがこの世界あれば代用できると思うが……いや、この世界は魔石や魔力が一般必需品にも使われてる可能性が高いからな回復アイテムすら無効化してしまう事があるかもしれんな…まあ元いた世界でも自然治癒が普通だからそれは前と同じと考えて問題もないか?内気功での回復術も一応俺は出来るからな、ステータスに記載されてる練気法というのも気を練る事だと思うからこれは間違いなくこの世界でも出来る技なのだろう。
「ちょっと天、聞いているのか?ラムがさっきからミミズ肉の素晴らしさを熱弁して困っているんだ……何か別の話に変えて欲しいのだよ…」
隣に座っていた金髪女が小声で話し掛けていた様だな、仕方ない……
「ラム先輩、ミミズを使った料理とはどの様な物があるんだ?」
「ちょっ!」
「はい!!まずは肉をすり潰しで丸めて団子状にする……」
目をキラキラさせて熱弁しているな猫少女は……そして金髪女、すまんがまだしばらくミミズトークをしていてくれ、俺は気になる事はすぐにでも考察、出来れば検証しないと気が済まない達でな。
ではまた考えをスキル考察に戻して、次に後者の魔石機器まで無力化してしまわないかだがコレもある程度は検証済みなんだよな、結果から言うと恐らくは大丈夫だ、まずここに来るまでに乗った魔石動力のバスも普通に動いたし今俺が持っている新しいドバイザーも普通に?使えるからな…殆どの機能が使えないのに普通に使えるというのは変か……まあ画面はちゃんとに映ってるから普通だ!そういう事にしよ!
「おい天!話しを変えて欲しいと言ったのに油を注いでどうするのだよ!」
「ラム先輩、そういった料理は亜人達のなかでは結構好まれているのか?」
「やはり好き嫌いはありますです!だけどあたしの村では……」
「だからなんで話しを盛り上げる様な事を言うのだよ天!」
「もうミミズの話しは終わりにしましょ?ね?ラムちゃん…」
金髪女と大和撫子はうんざりした感じになっているが申し訳ないがもう少しミミズ話しをしていてくれ、ちなみにリーダーは俺と一緒で考え事でもしているのか?難しい顔をしている…これからの方針を決めると言っていたからその事についてだろうな。
さて気を取り直して残り二つのスキルだが体内力量段階操作法と力調整法これらは多分手加減の仕方だろうな…俺が全力を出せばデコピンで人を簡単にあの世逝きに出来る、これは元の世界でも同じだったがまさか常人の約50倍以上の力があるとはな。
まあとりあえずステータスの考察はこんな所か…最後にこれも俺に回復魔技が効かなかった理由と同じぐらいに確実にわかった事だが……多分俺の事見てますよね神様?というよりこのステータスは神の基準で書いたとしか思えねんだよ実際!!
最後のこの備考とかなんなの?童帝とかなにちょっとかっこ良く書いてあるけど意味同じだよね?それと中二病みたいな技って俺の闘人108技の事?あんなので中二病扱いされたら世の中の40歳未満の男の4分の1は隠れ中二病だわ!!しかも語尾に(笑)とかつけたり中二病という言葉を知ってるとか確実に神以外ないわこの俺のステータス基準を考えたの!
「天……天! 聞いているのか!もうラムのミミズ話しにはうんざりなのだよ……こんなにヒートアップしたのは間違いなく天のせいなのだよ! 責任を取って早くこの話題を変えるのだよ!」
自分で変えればいいだろうに……まあ仕方ない確かに俺が狙ってやった感じだしな、話しを変えるか。
「了解だジュリさん……あ〜ラム先輩この前、山を降りる時におぶる代わりに預かって貰った俺の道着を今渡して貰っていいか?俺もラム先輩名義だが自分のドバイザーを手に入れたからな、自分で持っているよ」
「ああ!そういえばそんな物預かってましたですね!わかりましたです天さん!」
そんな物とか…いやいいけどね…とりあえず話しをそらす目的は達成出来たし。
「ふう〜やっと終わったのだよ…」
金髪女が安堵のため息を漏らす、見れば大和撫子も同じ様にホッとしているみたいだ…そんなにやだったのミミズ話し?
「はいです天さん!でもこれって変わった服ですよね?」
「ああこれは親父に貰った物でね、山で体を鍛える時に着ていたんだ。 とにかく今まで預かっていてくれてありがとうラム先輩」
俺は猫少女から受け取った自分の道着をドバイザーに入れてみる、初めて使ったがやはり普通に道具収納システムが機能して道着がドバイザーに吸い込れる様に入っていった。
よし!やはり俺自身に使う仕様でなければ普通に使えるな。
「いえいえです! あたしの方こそあの時は天さんに麓の村まで連れてって貰いましたし」
「あの時、天がいなかったら山で野宿かもしれなかったのだよ」
「あう〜すみませんです…」
「別に気にしなくていいぞラム先輩」
前にも言ったが俺にとって猫少女をおぶる事はむしろご褒美です!
「ふぅ〜…皆、話しはひと段落ついたか?そろそろ今後のこのチームの方針を俺の方から話したいんだが…」
「なんだ淳、天と一緒で難しい顔をしていると思っていたらそんな事を考えていたのかい?」
いや金髪女、最初からここではそういう話しをするってリーダーは普通に言ってたと思うぞ?どんだけ自分のドバイザー確認したかったんだよお前は…。
「……お前は昔から自分の欲しい物が手に入るとそれに夢中になってまわりが見えなくなるよなジュリ…」
「ジュリさんは昔からそうですよね兄様…」
「とりあえずジュリさんはほおって置いて今後のチーム方針を聞かせてくれリーダー」
「……何故か急にボクの扱いが酷くなったのだよ…」
「自業自得だジュリ」
はい俺も自業自得だと思います。
「まずはリザードマン討伐の仕事の完了お疲れ様だな。 次に報酬の事なんだが…天もチームに入ったし報酬は均等に五頭分にしたいんだが皆いいか?一応さっきすでに報酬は現金で受け取っているからすぐに渡せる」
ああ、さっき振込みじゃなく現金で報酬を受け取ったのは皆ですぐに分ける為か、俺はドバイザーに入れても出す事は自分では無理だから現金手渡しは有難いが……
「勿論です兄様!」
「ああそれで問題ないのだよ」
「はい!あたしもそれでいいと思いますです!」
「いや…皆待ってくれ、あの時俺は何もしていない。そんな俺がその報酬を受け取るのは筋違いだ、せめて報酬の受け取り参加は次の仕事からにしてくれ」
そう、あの時俺は木の上からリーダー達の戦闘を眺めていただけに過ぎない、そんな俺が報酬金を受け取るのはやはりおかしい。
「全く天は本当にまじめなのだよ。 しかしあの時に天はちゃんとにボクらの力になってくれていたのだよ」
「はい!天さんは私の命を助けて下さりました!」
「ああ、それにラムをおぶって山を降りてくれた…それだけで十分だ」
「あう〜…よく考えたらあたしが一番何もしてないです〜」
……確かにそうだな猫少女、結果的に山登ってきただけだし…。
「……わかったそういう事なら有難く報酬の分け前を頂かせていただく」
俺はその場で座ったまま皆に姿勢を正して頭を下げた。
「ああ気にせず受け取ってくれ。 では今回の報酬は30万だから天の取り分は6万円な」
「ありがとうリーダー」
俺はリーダーから金を受け取り持っていた財布にしまった。
余談だが財布に入っていた金やカード類は山に埋めてきた、この世界ではただのゴミだしな…よし現在の俺の所持金は6万円だ!
「淳、ボクはいらないのだよ。 天ではないがボクは今回の仕事で手に入った魔石で十分過ぎる程に報酬を貰っている、ボクの取り分はチームの資金にして欲しいのだよ」
「わかったジュリ、お前がそれでいいならそうさせて貰うぞ」
お、金髪女珍しく大人びてみえるな。
「兄様、それでは今後のこのチームの方針はいかがいたしましょう?」
「それについてなんだが……天、お前にはしばらく盾役をやって貰いたい!」
………はい?
「ちょ、ちょっと待ってくれリーダー、盾役という事はつまりは…」
「ああ攻撃には参加せずに自分と俺達を盾で守ってくれ」
「確かに今の天ではその役しかないのだよ」
いやいやいやいや、俺が攻撃禁止?ご冗談を!確かに俺は魔力は使えないが多分ここにいる中でダントツで一番強いぞ?ステータスは今のところ色んな意味で見せられない状況だが……しかし盾役はないだろいくらなんでも!
「皆聞いてくれ、確かに俺は魔力はまるで無いが山で鍛えた戦闘術がある。 攻撃役でも十分に活躍できると思うんだが…」
「モンスターを甘く見るな天!! いくら山奥で鍛えたからと言って多分それが通用するのはFランクモンスターまでだ!魔力が無いお前を攻撃役にすることは出来ない!」
いや通用するからね多分!だってあのリザードマンでDランクでしょ?あんなの見た感じ初手で瞬殺出来るよ俺は?
「兄様は天さんの事を心配しておられるのです」
「そうだぞ天、それにボクも天を攻撃役にするのは危険だと思うのだよ」
「天さん、はじめは皆サポートからです!」
猫少女にまで諭されてしまった……いや!やはり納得できん、そんな役になったら俺は何故こいつらと一緒に山を降りて来たかまるでわからんからな。
「だがそうするとリーダー、俺にはパーティー経験値が入らないのだろ?そうなると俺は自分自身でモンスターを倒すしか強くなる方法がないと思うのだが?」
「ぐっ!確かにそうだが…天わかってくれ!俺にはこのチームの皆を守る義務があるんだ!!」
……俺が盾役になったらこのチームを守るの俺の役目になりそうなんですが…
「やれやれわかったのだよ天。 ではここはこのチームの女性陣が人肌脱ごうじゃないか?もしこれから立派にチームの盾役になってくれたらお姉さん達が女性経験の無い天にムフフなご褒美をあげるのだよ♪」
「なっ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいジュリさん!!」
「あう〜〜……あ、あたしは無理ですそんなの〜」
「おいジュリ!何を勝手な事を言っているんだ!!」
「仕方がないじゃないか?淳に弥生、ラムも?これぐらいの役得がないと経験値なしでチームの盾役になってくれとか虫がよすぎる話しなのだよ」
悪いが金髪女、そんな事で俺は騙されんぞ?どうせそういう雰囲気になってもフリだけでのらりくらりと躱すんだろお前ら?人参を頭にぶら下げて走らされるのと一緒だ!どうせ人参は一生食べらない!そんな見え見えの罠が効くのは10代の一部の頭の悪い思春期真っ盛りの男子だけだと思え!!
「いや皆、まず俺の話しを聞いてく……」
「わ、わかりました!そういう事でしたら、わ…私も人肌脱がして頂きます!!」
話しを途中で切られてしまった…おい大和撫子、顔が真っ赤だぞ…いや本気にしなくていいからあの小悪魔の言う事は!
「あ、あたしはやっぱり無理ですぅ〜」
安心しろ猫少女、俺もいくらこの歳で経験なくても嫌がる少女を無理矢理押し倒すなどあり得んから…。
「お、俺は認めんぞ弥生!!それに淑女がそんなセリフを軽々しく言うものじゃない!」
「ふぅ、淳もいい機会だからそろそろ妹離れするのだよ」
「それとこれとは話が違う!!」
いや同じだと思うぞリーダー…というかなんだか話しがそれてんだけど…。
「じゃあこのチームの方針も決まった事だし天の盾でも皆で買いにいくのだよ」
「そ、そうですねジュリさん…」
「待て弥生、ジュリ!まだ話しは終わってないぞ!!」
それ俺のセリフだからね!!
「リーダーの言う通りまだ話しは終わって……」
「やっぱりあたしにはまだ早いです天さ〜ん…」
お前はいつまでその事で悩んでんだよ猫少女!てか俺が提案した事じゃない!
「では天の盾を買いに出発進行なのだよ」
こうして俺はなし崩し的な感じで今の立ち位置になってしまった…。
「もうオークも楽勝なのだよ」
「あまり調子に乗るとそのうち痛い目にあうぞジュリさん」
「天は心配症なのだよ。 だから未だに経験がないのだよ」
…はぁ〜…。最近は断る毎に下ネタでからかってくるな金髪女は、こういう時は流すのが一番だ。どうせ変に過剰な反応をするとあっちはもっと面白がって話しをまくし立ててくるからな。
「はい、はい、そうですねジュリさん。 俺も早く経験できる様に頑張ります」
「う〜…最近、天が冷たいのだよ」
…悪いがいちいちそういうネタでからかってくる女に毎回つき合ってると疲れるんでね。
「自業自得だろジュリ。 最近お前は天をからかい過ぎだ。それに天が忠告した事も正論だしな」
「うっ、げ、現に楽に勝ったじゃないか…」
「確かに最近はEランクモンスターでは余り苦戦しなくなったがそれでも油断は禁物だということだ」
「そうですね兄様…ジュリさん自信と慢心は違いますよ?」
「や、弥生まで…わかったのだよ!もっと圧倒的に勝てばいいのだろ!」
…全然わかってないなこの金髪女は、リーダーと大和撫子もため息ついてるよ…。
「あの〜…皆さんお腹すきませんか?」
…お前はお前でいつもそれだな猫少女…さっき丸焼きにしたオークの片腕でも与えときゃ良かったかな?
「もうすぐ12時になるがどうするリーダー?」
俺はこのチームの盾役と時計係を兼任している。
…正直どちらも不本意だが俺は与えられた仕事は完璧にこなす主義だからな…。それに盾役はともかく殆どドバイザーが使えない俺は時刻ぐらいは知らせてやらんとな…。
余談だが端末のバッテリーは何故か減らない。
…こっちの世界だと電池バッテリーという概念がないから無効なのか…?
「そうだな、じゃあこの前みたいにファミレスで先に食事をとって待っている者と仕事の達成を報告しに行く者とで分かれるか」
「了解だリーダー。 それなら俺が報告しに行く。後リーダーも一緒に来てくれないか?俺1人だとドバイザーで報告出来ないからな」
「構わないぞ?では女性陣3人は先に食事をとって待っていてくれ」
「ちょっと待つのだよ。 それならボクと天が行くのだよ」
「いやリーダーと俺が行くよ。レディファーストだ」
「やはり紳士的ですね天さんは」
…いや、ただ単にこの場合リーダーしか選択肢がないだけだ。まず消去法で金髪女と大和撫子が消える。金髪女の方は言わずとしれた下ネタトークでうんざりするからだ。大和撫子の方はこの前、小悪魔にそそのかされてから俺と目が合ったり二人きりになる様な状況になると顔を赤くして意識しだすからな.…はっきりいって変な空気になって間が持たない。となるとリーダーか猫少女なんだが猫少女は……。
「ごっはん!ごっはん!」
……あれだしな…っとなるとリーダーしか選択肢がないんだよ。
「じゃあ行くか天」
「ああ行こう」
「だから待つのだよ二人とも、ボクは魔石製造場にも顔を出したいんだ。だから天とはボクが行くのだよ」
「そういう事ならリーダーとジュリさん、頼んだ」
俺は自分のドバイザーをリーダーに渡そうと取り出した。
…オークが入っているのは俺のドバイザーだからな…。
「だ・か・ら!ボクは天と行きたいのだよ。 淳みたいな年中ピリピリしてる男と歩いてもつまらないのだよ」
「誰が、年中ピリピリしてるというんだ!!」
「ほら、ピリピリしてるのだよ」
「ぐっ!…」
俺は金髪女とだけは二人で行動したくないんだが……。
「天だって内心はボクみたいな可愛くてスタイル抜群の美少女と一緒に行きたいんだけど恥ずかしくて遠慮してるのだろ?」
……前半の美少女のくだりまでは同意だが間違ってもお前と一緒に行きたいとはかけらも思わん。
「では皆、行ってくるのだよ」
金髪女は俺の腕を半ば無理矢理引っ張って連れて行こうとする。
…はぁ〜これはこいつと一緒に行くしかないか…。
「わかったから腕を引っ張るのをやめてくれジュリさん」
「も〜天は本当に照れ屋なのだよ。 内心は嬉しいくせに」
…さっさと仕事の報告と魔石製造場で用を済ませてファミレスに行こう…。
「確か4階だったなジュリさん?」
「4階なのだよ。 でもいいのかい坊や?なんなら少し皆をファミレスに待たせてお姉さんと一緒にショッピングデートでもするチャンスじゃないのかい?」
「……さっさと4階に行こうジュリさん…」
やっぱりこいつと二人で行動はするもんじゃないな…。
「天は本当に堅物なのだよ。だから……」
「俺には経験がないんですかね? とりあえずその話しは後にして仕事の報告をしに行こうジュリさん」
「むぅ〜」
そんなやりとりをしながらしばらくして俺達は4階の仕事の達成報告をする受け付けのロビーに着いた。
「やはりだだっ広いなここは…」
「確かにね、ただこれぐらいの広さじゃないと冒険士本部の受け付けとは言えないのだよ」
…そんなもんかね……ん?誰かこっちに来るな?アレは確か……
「うわ〜今日は縁起が悪いのだよ。 せっかく天と楽しくやってたのに、なんでまた亮と遭遇するのだよ…」
そう糞男だ、金髪女は露骨に嫌な顔しているな…遭遇とか糞男はモンスターか?いや、確かに余り変わらないか。
「よう、ジュリ久しぶりだな?」
「つい2日前に会ったばかりなのだよ亮…」
「つれないなジュリ、親しい男と女が2日会わなければ十分に体感時間は久しぶりだぞ?」
「誰と誰が親しい関係なのだよまったく…」
金髪女がこういう心底うざそうな顔をするのは俺の見た感じ多分こいつにだけだろうな。あと気づいて欲しいんだが金髪女、お前はさっきまでその糞男がやってるのと余り変わらない感じで俺に接してたからね?
「ジュリじゃん久しぶり!」
「美羽久しぶりなのだよ…」
…ん?知らない女だな?金髪女とは知り合いみたいだが……なんというか残念というかもったいない感じの女だな。歳は多分、感じからして金髪女と一緒の15.6だろう。それにしては顔は幼い感じでおっとりしている。猫少女と一緒で美形というより可愛い感じだな?ただ糞男の影響なんだろうがまんま山姥スタイルだ。それで似合うやつも中にはいるがこの少女はかなり無理がある。完全に背伸びし過ぎてついていけてない感じだ。
「天、この女がこの前言った淳につきまとっていた女だ」
金髪女が小声で俺に話掛けて来た。
…成る程な彼女がリーダーに半ストーカー行為を繰り返してこっぴどく振られた女か…。
「お、そっちの彼はみない顔だね?亮、彼の事しってる?」
「……この前会った様な気がするが忘れた。確か山奥に住んでいた猿人間だったか?」
「俺の方はちゃんとに覚えてるぞ?名前は確か中村糞さんだろ?」
「違うわ!!中・村・亮だ!!」
「ふ、天と亮では役者が違い過ぎるのだよ」
…満足げだな金髪女…。
「ねえなにこの失礼な男…」
…人の事を猿人間とかいうお前の隣にいる男の方も十分失礼だと思うぞ…。
「気を悪くさせてしまっていたらすまない、なにぶん山ぐらしが長くて世間の礼儀作法に疎くてね」
俺はそう言葉では言いながらも全く悪びれもせずに山姥に自己紹介した。
「改めて自己紹介しよう俺の名前は花村天。今はジュリさん達のチームに世話になってる駆け出しの冒険士だ」
「ふ〜ん…。私は春風美羽、亮と一緒のチームでEランク冒険士。 後、どうでもいいけどその格好みすぼらしいからもうちょっとオシャレしたら?」
「美羽もやっぱりそう思うよな?ほらこれが世間一般のお前にたいする意見なんだよ!わかったか田舎者!」
……ウンコとヤマンバに言われても何も感じないな、実際。
「ん〜俺は別に動きやすければ余り服装にこだわらんのでね。 それと俺も2人を見て思ったんだが体が泥だらけだぞ?汚らしいから風呂に入ってきた方がいい」
「だからこれは人工的にわざとこういう肌の色にしてるってこの前言っただろうが田舎者!!」
「なにこいつ超ムカつくんですけど!!」
「だからお前らと天じゃ役者が違うのだよ…」
…悪いな俺はお前らみたいなのには慣れてるんだ。向こうで世界を回ってたころに今言われた事なんて比じゃないような暴言の数々を言われてきた。まあ言った相手は大体その後に後悔して泣きながら命乞いしてきたがな…。
「なんだ、自分からしているのか?だったら中村さんはともかく春風さんと言ったか?あんたは似合ってないからやめた方がいい」
…まるで幼女顔の山姥だからな…。
「普通にジュリさんみたいに自然な感じにした方が絶対に似合ってるし可愛いと思うぞ?」
俺がそう告げると山姥は途端に慌てだした。
「え、え?可愛い?そ、そうかな?確かに自分でもこのスタイルは背伸びし過ぎかもって思ってたしやっぱりナチュラルメイクの方がいいかな…」
「おい美羽!何、田舎者に丸め込まれてるんだ!今のままでも美羽は十分可愛いから大丈夫だよ!」
「ちょっと待つのだよ天!なんでさっきからモーションを掛けてるボクにはそういう事言わないで知り合ったばかりの美羽に言うのだよ!」
いや、お前に言ったらすぐに調子に乗ってめんどくさいし…てかなんでそこにお前が食いつくんだよ!
「お、おいジュリ…。お前そいつにモーションを掛けてるって……もしかしてお前ら2人…」
「ふふん、それは亮には関係ないのだよ」
「違います。 ジュリさんとは中村さんが思っている様な関係では一切ございません」
「即否定!お、おい天…確かにそうなのだがこういう時は男の方が普通は動揺したりして口ごもるものなんじゃないのかい?なんでそんなに冷静に返しているのだよ…」
……これ以上、お前に俺をからかうネタを与えるわけにはいかないんでね。
「ふ、ふん!やはりな!いっちゃなんだがお前みたいな田舎者のサルと帝国学園時代にトップアイドル的な存在だったジュリや弥生とじゃまったく釣り合わないからな」
「おっしゃる通りで」
「…なんで急に亮の意見に賛成的なのだよ…」
…別に糞男の意見に賛同してる訳ではなく一般的に見た普通な価値観が一致しているだけなんだが…。見た目だけなら金髪女はスタイルもいいし顔も超美人で学園のアイドルと言われてても、やっぱりなって感じで驚きはしない…。
…それに比べて俺の見た目は一応16だが細目の眉毛が少し太い普通の顔立ちだ。とりあえず体は筋肉質な偉丈夫だが正直この年代の子供は顔重視だからな?俺と金髪女がまるで釣り合ってないと言うのは普通の意見だ。
「…やっぱりナチュラルメイクにして髪も整えようかな?そしたら淳だって振り向いてくれるかもしれないし……」
お前はまだ淳のこと諦めてなかったんかい!…やれやれ…糞男と一緒にいるからてっきりそっちを選んだのかと勝手に決めつけていたが…これはリーダーと一緒に来なくて正解だったな。
「ねえ天ちゃん、やっぱりこの見た目だと男性に受けないかな?淳ってどんな見た目が好みだと思う?」
…天ちゃん?イキナリ馴れ馴れしい女だな。まあいいか……。
「あくまで俺個人の意見だが受けは悪いだろうな、そういう格好とメイクが似合う女性もいるだろうが春風さんはまるで似合って無い」
俺は更に続けて山姥に対して自分の意見をぶつける。
「逆に落ち着いた感じの自然な見た目の方がいいと思うぞ?おそらく淳にもそっちの方が受けはいい」
「やっぱりか〜…ちなみにナチュラルの方が淳に受けがいいと思う根拠とかあるの?」
「これもあくまで俺の予想の範囲の考察だが弥生さんがそんな感じだからだ」
…リーダーの一番大切な女性は妹だからな?ならリーダーの好みの服装も普段見慣れてる彼女と似た格好が安パイだろ…。
「リーダーも確か弥生さんに余り派手な服は来ない方がいいと言っていた記憶があるから間違いないと思う」
…まあ、ただ単に大和撫子が露出の高い服を着て他の男どもに見られて欲しくないというシスコン根性かもしれんが…。
「説得力あるかもその意見。淳はシスコンだからね。でも弥生の真似するのは嫌だな〜」
「別に好きな男の好みに合わせるだけで弥生さんの真似をしてる訳でもないだろ?それに逆に考えてみろ?もし整った服装で淳の受けが悪くても…「弥生の格好が綺麗だったから私も似た感じにしたんだ」…って言えばあのシスコンは春風さんの格好を認めるしかなくなる。もし認めなければそれは妹の格好も否定する事になるからな」
「そっか!策士だね天ちゃん!!」
……まあ格好が認められてもそれで淳が好きになるとは限らんがな。それにしても俺は何故、恋愛経験も殆どないのにこんな相談を受けて答えているんだ…?
「おい、美羽!なんでそんな田舎者と仲良く話してるんだ!!それにさっきも言ったが美羽は今のままで十分可愛いぞ!」
「そうなのだよ天!なぜ美羽といつの間にか仲良くなっているのだよ!楽しそうに服装の事とか話して…ボクの話しなんか半分以上、真面目に聞かないのにさ!!」
…お前の話しは半分以上は下ネタだからだ!それに別に仲良くしてた訳じゃないんだが?山姥が話し掛けてきたから受け答えしただけなんだが…。
「だって亮は自分の好みの格好にしてるだけじゃん。同じチームの遊や恵もやってるから私も黒くしたけどハッキリ言って淳の受けが悪いんじゃやる意味、皆無だし!」
「うっ……」
「おいボクの話しをちゃんと聞いているのか天!…ま、まさか天…美羽みたいなのが実は好みで好感度を上げる為にあんな饒舌になったんじゃ……」
…なんでお前は話しがいつも恋愛か下ネタに行くんだよ!だから俺は金髪女の話しは半分以上は流すんだっての!…はぁ、めんどくさいな…。
「それはあり得ないよジュリさん…」
「だってあんなに楽しそうにしてたのだよ!」
…お前は何故、半泣きみたいになってるんだよ…。
「はぁ…。お〜い春風さん、あんた淳の何処が好みなんだ?」
「え?顔」
…ほらな…。
「聞いただろジュリさん…リーダーは超美形だぞ?俺は淳と顔立ちの勝負をするほど自惚れてもいないし一般的な美形意識が掛けてもいない。 俺は勝てる勝負しかしない主義なんだ。よって俺がリーダーに惚れてる女を好きになる事はあり得ない」
「そ、そうか?じゃ、じゃあいいのだよ!淳が見た目だけはいいのはボクも認めているのだよ」
それは俺が金髪女にたいする評価でもあるがな。
「あんなやつの何処が良いんだよ美羽!」
「だから今言ったじゃん。顔!」
…諦めろ糞男。顔立ちでリーダーに勝つのはお前では不可能だ…。
「やれやれ、とんだ時間をとってしまったのだよ。 じゃあ気を取り直してデートの続きをしようか天」
その言葉を聞いて糞男が途端に取り乱し始める。
「なっ!ジュリ!そいつとデートしてただと!!」
「違います。 ただ単に仕事の達成報告に来ただけです中村さん」
「な、なんだ…やっぱりそうか」
「おい天!…まあ、まだ友達以上恋人未満の間柄だからね?天が遠慮がちになってしまうのも無理はないのだよ」
「なっ!いつの間にそんな関係になっていたんだよお前ら!!」
「違います。 ジュリさんとは知り合い以上友達未満の関係です。 騙されないで下さい中村さん」
「なっ!ボクと天は友達でもなかったのかい!」
「あははは、面白い奴だね天ちゃんって!」
「ひ、酷いのだよ天…。そ、それに何故さっきから亮のフォローばかりしてないかい?一体どっちの味方なのだよ天は!」
…俺は俺の味方です…。
「はっ、はっ、は〜!元気がイイね〜若き冒険士の諸君!!」
…おいおい凄い存在感だな…俺が後ろを向くとチョビ髭のダンディーな偉丈夫の男がこちらにゆっくりと歩いてくるのが見えた。
凄い存在感と威圧感だなこの男…そして多分この男が……
「元気があるのは大変結構な事だ!!儂も若い頃は……」
「…大統領こういう時はまず自己紹介から入るのがマナーかと…新顔の冒険士の方もいらっしゃる様ですし」
エルフの秘書みたいな人もいるな?金髪女と違って恐らくは純血だろうな耳が長い、見た感じ出来る秘書を絵に書いた様な感じだな、眼鏡もかなり似合っている、それにまとっている空気もかなり良いな…差し詰めAかBランクの現役もしくは元冒険士と言った所か?
「初めまして、自分はつい2日程前に冒険士になりました花村天です。 お会いできて光栄ですシスト大統領、まだ駆け出しにもなっていませんがどうぞよろしくお願いします」
こんなもんかな?一般の若手冒険士が冒険士協会のトップに会った時にする無難な挨拶は。
「いや〜先に自己紹介されてしまったね!では儂の方からも改めて自己紹介をしよう!冒険士協会会長のシストだ、こちらこそよろしく頼むよ若き冒険士くん!!」
……中身は32歳のおっさんですけどね…。
「それと大統領はよしてくれ!気軽にシストさんとかで大丈夫だぞ!」
「大統領それは問題かと……」
「硬い事を言うなマリー、冒険士協会本部では儂は一介の冒険士の一人だ!それはそうとマリーこそ自分の自己紹介をしとらんぞ?」
「こ、これは私とした事が失礼いたしました! 私は大統領の秘書しておりますマリーと申します、どうぞよろしくお願いいたします」
「花村天です。 こちらこそよろしくお願いします」
自己紹介から察するに名前イコール本名みたいだな?やはり純血のエルフのようだ。
「ジュリさん久しぶりね」
「……久しぶりなのだよ…マリーさん」
ん?金髪女と知り合いみたいだなあのエルフ秘書。
「いや〜元気があるのは良い事だがその元気を冒険士の仕事にも活かしてくれると有難い!」
…やはりアレだけうるさくしてたら注意の一つもされますよね…。
「い、行こ!亮!」
「そ、そうだな美羽…じゃあなジュリ。 それと田舎者、お前は余り勘違いするなよ!」
…逃げたな。 しかも捨て台詞がまんま雑魚や咬ませ犬の台詞だな糞男。
「天、ボクらも早く仕事の達成報告をしに行くのだよ…」
「そうだなジュリさん。 では俺達もこれで失礼します」
もう少し冒険士協会会長を観察したかったが仕方ないな……
「君達はちょっと待ってくれないか?とくにそこの若手冒険士の君は」
「俺に何か用ですか?」
「なに、大した事じゃないんだがね」
…俺の前に来たな…値踏みか?それにしてもこの距離で対峙すると更に存在感の凄さがわかるな。
多分、親父級だなこれは、出来れば手合わせしたいが向こうは戦ってくれないだろな俺なんかと。
「ふむ、君は入ったばかりのFランクだったかな?それにしてはまとっている雰囲気がどう見てもAランク級以上なんだがね…」
「!!」
…流石は冒険士のトップで世界に5人しかいないらしいSランクといった所か……闘気も覇気も殆ど出してなかったんだがな、やはりわかる奴にはわかってしまうか。
「山奥で育ちましたからね、野生的な部分で少し皆と雰囲気は違うかもしれませんね。 用はそれだけですか?」
「いや、実は君達に頼みたい事があるのだよ」
「だ、大統領!まさかジュリさん達にあの依頼を任せるおつもりですか!」
秘書エルフが慌ててるな…どうやらかなり厄介な依頼を俺達に頼むつもりか?面白い。
「シストおじさん一体ボクらに何を頼むつもりなのだよ」
「うむ、実はな…」
やっぱり大統領とも顔見知りなのね金髪女。
「待って下さい大統領!!まさか本当に頼むおつもりですか!ジュリさんや淳さん、弥生さんは一堂家の御子息、ご令嬢達なのですよ!!」
…予想はしていたがやはりリーダー達は名家の出のようだな、王族はないと思うが…だとすると貴族か?エルフ秘書がかなり慌てている…だがその考えは気に食わないな。
「マリーさんそれはボクらにたいする侮辱なのだよ!! 冒険士になった時からボクや淳や弥生はそれなりの覚悟を持ってやって来たんだ!家柄なんて関係ないのだよ!!」
「マリー、ジュリ君の言うとおりだぞ?冒険士は皆、多かれ少なかれ覚悟と自分自身の信念を持って行動している!無論儂もだ、そこに家柄や身分などは全く関係がないことだ」
「シストおじさん……」
言うとおりだな…そもそも冒険士は多かれ少なかれ命の危険と向き合わなければならない仕事だろ?リーダー達だってそれをわかっていてやってるわけだからな、危ない仕事は他に任せますとか考えるなら最初から冒険士なんてやらなければいい話しだ。
「で、ですがまだハイオークはジュリさん達には早いです!!」
「…ハイオークだって?」
金髪女の目の色が変わったな、確かCランクモンスター…リザードマンよりも上だな。
「そうだ、君達に頼みたいのはそのハイオークの討伐なのだよ。 場所も確か、君達が4日程前にリザードマンを討伐した村付近だったから地理にも少しは詳しいと思ったのだ」
「っ!やる…やるのだよその依頼!!」
「待ちなさいジュリさん!ハイオークはCランクモンスター…まだ貴方達には早過ぎるわ!焦り過ぎよ!姉さんの事を気に病んで早く上に行きたいのは分かるわ……でもそんな事は姉さんは望んでないはずよ!」
「大きなお世話なのだよマリーさん!!これはあくまでボク自身が決めた事なのだよ!母さんの気持ちはこの際どうでもいいことなんだ…ボク自身が早く母さんを助けなきゃ気が済まないだけなのだよ!」
成る程な…なんとなく察しがついたな金髪女が抱えてる問題が。
「なっ!そ、それでも私は先輩の冒険士として貴方達にこんな無謀な仕事をさせるわけには…」
「ストップだ2人とも!マリー、儂がジュリ君や天君と話しをしている…少し黙ってくれ!」
「……申し訳ありません大統領…」
なかなかいい凄味をするな、エルフ秘書を一発で萎縮させた。
「じゃ、じゃあボクらがその依頼を!」
「いや、ジュリ君も少し落ち着いてくれ、確かにマリーの意見も一理あるのだ。 だからここは一つ儂から出すテストを君達に受けて貰いたいのだ」
「テストとは?」
「簡単なことだよ」
そう俺が質問した次の瞬間、大統領は俺の顔めがけて高速のハイキックをして来た、かなり速い蹴りだな?だが……
「なっ!シストおじさん、いきなり何をするのだよ!」
「いやだからテストをすると言っただろ?」
蹴りは俺の耳元で寸止めされた…成る程これがテストか。
「で、結果は?」
俺がテストの結果を聞くと大統領は満面の笑みで…
「勿論、合格だ!素晴らしいぞ天君!」
「「なっ!!」」
金髪女とエルフ秘書が驚いている、このやりとりの意味を気づいているのはどうやら俺と大統領だけみたいだな?
「何故、彼が合格なのですか大統領!」
「儂はな、最初から今の蹴りを当てるつもりはなかったのだよ」
そう…この大統領は初めから寸止めするつもりで蹴っていた。
「それは私もわかりましたがそれと彼の合格がどう関係しているのですか?彼はその場に立っていただけですよ?」
「マリーさんに賛同するわけではないがボクもそう見えたのだよ」
「今のテストはね、儂の蹴りに対して防御出来れば合格だったのだよ。 つまり儂の蹴りが彼に到達する前に防御、もしくはよける動作が出来れば彼の合格だったのだ」
「それだと彼の不合格では?」
まあそう見えるよな普通は、金髪女もウンウンと頷いてる…だが俺は合格なんだよ。
「普通ならそうなる、だが彼がした行動は普通ではないのだ。 彼はね、あの一瞬で儂の蹴りが寸止めされる事を見抜いてよける必要も防御する必要もないと判断して、その場に立って迎えいれたのだよ」
「「!!」」
そういう事だ、当てる気がない攻撃をよける必要などないからな。
「にわかに信じられません…」
「本当なのかい天?」
「どうだろう?もしかしたらただ単に余りにも大統領の蹴りが早過ぎて反応できなかっただけかもしれないな」
俺がニヤリとしながら茶化した。
「はっ、はっ、はっ!謙遜するな天君!儂の目は誤魔化されんぞ?だったら何故、蹴りをされても眉一つ動かさん?何故、体の軸がまるでブレていないのだ?なにより先ほどから感情の変化がまるで感じられない」
おっしゃる通りで。
「と、とにかく天が合格ならその仕事を受けられるのだよ!」
「そうなるなジュリ君」
「ま、待って下さい大統領、仮に大統領の言ったことが本当だとしてもそれだけでハイオークと戦えるとは…」
「彼がいれば問題ないと思うぞ?とにかくこの依頼はジュリ君達に任そう」
「ちょっと待って下さい大統領。その話し、リーダーや他のメンバーにも伝えてからでないとなんとも返答出来ないですね」
「なっ!お、おい天!」
「ジュリさん、これは命がけの仕事になる…違うか?従って今いる俺やジュリさんだけが命を賭けるわけじゃない!なら他のチームメンバーにも伝えて、それから皆で話し合ってから受けるか断るか決めるべきだと俺は思う」
「ぐっ!た、確かに天の言う通りなのだよ…だけど!」
金髪女、お前の気持ちはよくわかる。
俺だってそのハイオークと闘たい…だが、だからと言って勝手にリーダー達の意見も聞かずに命がけの仕事を取るのは筋が通ってない。
「いや〜すまん、すまん!天君の言う通りだね。確かに淳君や弥生君、それとラム君だったか?他のチームの皆にも危ない仕事なら話して受けるか否かを決めるのが筋という物だ!天君は若いのに儂より良く気が回るぞ」
…中身は32歳のおっさんだからね…
「いや、ちょっ!」
「ジュリさん。何も受けないとは言ってない。 正直に言うと俺も受けたい!ならやるべき事は一つだ。早く最初の要件を済ませてファミレスで待っているリーダー達を説得して皆でハイオークを討伐する準備に取り掛かろう!」
「!…言う通りなのだよ天!さっさと報告を済まして淳達の説得と討伐準備なのだよ!」
よし、少しは冷静になってくれたな。
「という訳で少しお時間を貰えますか大統領?」
「勿論構わないぞ。 当たり前の事だからな!存分に話し合ってきなさい!」
「ありがとうなのだよ、シストおじさん」
「ではこの依頼は一応、君達宛で受け付けに出しておく。 勿論もし受けない場合はキャンセルして一向に構わんからな!マリーもそれでいいな?」
「………はい…」
エルフ秘書は余り納得してない様だが気にしてもしょうがないな。
「あの、花村天さんでしたか?その…先ほどはお見苦しい所を見せてしまって申し訳ありません。 ど、どうかジュリさんをよろしくお願いします!」
エルフ秘書が頭を下げて来た、う〜ん俺は一応Fランク冒険士だから階級的には金髪女より下のランクなんだがな?だが頼られるのは悪くないな。
「出来る限りの事はしますよ。 俺はこのチームの盾役なんで皆を守る事が俺の役目ですしね」
「ありがとうございます。 でもくれぐれも無茶は控えて下さいね」
最悪、リーダー達の手に負えなかったら俺が直接倒すから問題ないがな。
「天!何をしてるんだ!早く仕事達成報告をして淳達の説得に行くのだよ!」
「了解だジュリさん」
そして、俺達は仕事の達成報告を素早く済ませてリーダー達のいるファミレスに向かった。
「駄目だ、その仕事は受けられない」
「どうしてなのだよ淳!!」
バン!とファミレスのテーブルを金髪女が両手で叩いた。
俺と金髪女は大統領の依頼をチームメンバーに伝える為に魔石製造場には寄らず、すぐにファミレスに向かいそしてリーダー達にその事を説明した。
「決まっているだろ?俺達にハイオークなどまだ早過ぎる!!」
……俺の予想通りだな、淳は自分がこのチームの皆の命を預かっているという意識が人一倍強い、だから格上のCランクモンスターなど相手にするのは持っての他だろうな…臆病とも言えるがチームの責任者なら寧ろ当然の判断かもしれないな。
「淳は何時もそうなのだよ!!臆病な決断はチャンスをのがすのだよ!」
「勇敢と無謀を履き違えるなジュリ!だったら俺も言わせて貰うがジュリは危機感が無さ過ぎる!」
「ふ、二人とも少し声が大き過ぎます…お店のご迷惑になりますわ…」
「はわわわわ…」
大和撫子は回りを気にする余裕があるぐらいは冷静か?猫少女は…良くも悪くも何時も通りだな……しかしこう言っちゃなんだが場所がファミレスだとなんか緊張感に欠けるんだよな…。
「リーダーもジュリさんも、まずは落ち着け。 それとまだ二人の意見しか聞いてないだろ?とりあえず皆の意見を一通り聞くのがいいんじゃないか?」
「ぐっ!わ、わかったのだよ…」
「…俺もそれで構わない…ではまず弥生から考えを聞かせてくれ…」
「正直に申しますと私はこの仕事は受けない方がいいと思います…」
「なっ!弥生までそんな事を言うのかい!」
「まてジュリさん、今は弥生さんが喋っている。」
相当に興奮してるな金髪女は…やはり母親の事情が関係しているのだろうな…。
「天の言うとおりだ、まずは一人一人の話しを最後まで聞けよジュリ」
「……わかったのだよ…」
「…では改めて言わせて頂きますね、私はこの仕事は受けない方がいいと思います。 兄様のおっしゃる通り、まだ私達には早過ぎるかと、それに……」
大和撫子が俺の方を少し悲しいそうな目で見てまた視線を戻した…成る程な、何を心配してるか予想出来た、これはリーダーも心配している事かもな。
「ではラム先輩はどうだ?」
「へぇ?へぇ!あ、あたしですか?」
いや、今の話しの流れだと君と俺しか意見言ってない者がいないだろうが…。
「ラムは勿論この仕事を受けても……」
「ジュリさん!」
俺が少し強めの口調で言うと金髪女は言葉を途中で止めた、意見を聞くのと言わせるのはまるで別の事だからな…。
「あ、あたしは決められませんです。 だ、だって何時も戦闘になると殆ど参加してませんし、今日だって何一つまともな事を出来ませんでしたし…」
猫少女はこの子なりに考えているんだな…確かに猫少女は言っちゃ悪いが戦闘では居てもいなくても余り変わらない……だがチームの空気を良くするきっかけを何時も作っているのは間違いなく君だぞ、チームを癒す事は戦闘で役に立つのと同じぐらいの役目を果たしていると俺は思うがな。
「ラム!それは卑怯なのだよ!受けたいか受けたくないかハッキリするのだよ!」
「ひぃっ!」
「待てジュリさん!ラム先輩のそれも意見の一つだ、それを責めるのは良くない」
「私もそう思いますジュリさん」
「ぐっ!」
相当に冷静さを失っているな金髪女は、仕方ない俺がリーダー達の説得にまわるか。
「最後に俺だな?俺はこの仕事を受けたい」
「天!」
金髪女の表情が明るくなったな、まあ反対2棄権1じゃしょうがないが…。
「て、天さんそれは……」
「天はハイオークの脅威を知らないから安請け合い出来るんだ…」
やはり反対派の二人は苦い顔になったな……さてどうやって説得するか…。
「まず俺の話しを聞いてくれ、確かに俺はハイオーク、Cランクモンスターの脅威を知らない…だが俺はシスト大統領にお墨付きを貰った、君ならハイオークが相手でも大丈夫だと」
「なっ!!」
「本当ですかそれは?」
「間違いないのだよ!ボクも天がシストおじさんのテストを合格したのを見たのだよ!」
よし、この方向で攻めるか。
「でだ、俺はCランクモンスターの脅威は知らないが大統領はCランクモンスターの脅威も、もしかしたらハイオーク自体とも闘った事があるかも知れない…その大統領がなんの根拠も無く大丈夫だなどと言うだろうか?」
「ぐっ、確かにそれは考えにくいが」
「もっと言ってやるのだよ天!この頭の固い二人に!」
いや…金髪女は頭が柔らかすぎというか考えなさすぎだけどね。
「ですが天さん!」
珍しく大和撫子が反論してきたな?やはり心配事を潰さないと駄目か。
「わかっているよ、弥生さんも…それとリーダーも俺の事を心配してくれてるんだろ?」
「っ!……はい…」
「…わかっているならなんで受けたいんだよこの仕事を…」
そう、今回の仕事で1番危ない立ち回りをしなければならないのは間違いなく俺だ、なんせおそらく金髪女が殺傷力の高い魔技を生成してる間ずっとハイオークを止めてなくてはならないからな。
「これも、根拠というより秘策がある。 オークは今まで2体倒したが両方ともに同じ癖があった多分、ハイオークもその癖というか動きが同じかも知れないと思ったんだよ」
「流石は天なのだよ!では既にオーク種の動きを見切っているという事か!」
実は今までに今日倒したのとは別にもう一体オークを倒している、だからこんなハッタリでも一応は交渉の材料になると踏んだがあの二人は折れてくれるか…。
「ハイオークがそれと同じ癖を持っているか根拠も保証ない…」
「その通りですわ天さん」
…やっぱりこの二人には通じないか。
ちなみに猫少女は既に傍観モードに入ってる、だがこれは無責任というよりも恐らく自分が話し合いを棄権した事による負い目と遠慮みたいな物だ…この場合は俺はその姿勢は正しいと思う。
「二人とも本当に頭が固いのだよ」
「ジュリ…お前の家庭の事情は理解している、だがそれで焦っても何も好転しないと俺は思うぞ?」
「確かにジュリさんの事情を察するにこの仕事を受けたいのは理解できるがな」
「?…天、なんで天がボクの家庭の事情を知っているのだよ…」
失敗した……俺とした事がかなりの失言をしてしまった…金髪女がリーダーと大和撫子を睨みつけている。
二人は言っていないというジェスチャーで首を横に振っているな、本当に今のは失言だったな…。
「す、すまない…さっきマリーさんというエルフの方にあってな、その人からリーダー達は名家の出だと聞いてな。 そういう家柄特有の事情があるのかと勝手に思ってしまったんだ」
「マリーさんにあったのですか?」
「成る程な…しかしあの人も余計な事を言うな…」
よ、よし!なんとか誤魔化せ……
「誤魔化すなよ天。 それは淳と弥生の事も指しているのだよ。ボク個人の家の事情を天が知っている事にはならない!」
くっそ!なんでこんな時だけ無駄に頭が回るんだよ金髪女は!……仕方ない、もしかしたら仕事の話しも進展するかも知れないしな…。
「ふぅ〜、先に言っておくとこれはあくまで俺が勝手に想像した事であってリーダーと弥生さんは一切関係ない」
「……いくら私が天さんに心を許したとしてもジュリさんの事情を話す事には繋がりませんわ」
「俺も言った覚えも話す気もまるでない」
「……わかった、二人を信じるのだよ。それで天は一体どんな推理をしたのだよ?」
「言わなくては駄目か?恐らく俺の推理が正しくても正しくなくても気分の良い話しじゃないが?」
そう、この事に関しての俺の推理は恐らくどう転んでも空気が悪くなる話しだ…そして多分、俺の推測は正しい…。
「聞かせて欲しいのだよ…」
「わかった、それと……」
俺はラム先輩の方に視線をやった。
「あ、あたし何か不味い事でもしましたですか?」
「天はそういう意味でラムを見たわけではないのだよ。 構わないよ天、もしその推理が正しくてもラムなら聞かれてもいいのだよ…」
「了解した…。それとしつこいようだがこれは、あくまで俺の推測に過ぎないからそのつもりで聞いて欲しい」
「わかっているのだよ天…」
他の三人も無言で頷く。
「奴隷の首輪…」
「「「!!」」」
…猫少女以外の三人が同時に顔を歪ませたな…どうやら俺の推測は正しいみたいだ。
「この話しをリーダー達に最初に出会った時に聞いた時にリーダーと弥生さんは悲しい顔を…ジュリさんは憎悪に歪んだ顔をしていた」
「「「………」」」
皆、悲しいような悔しいような顔で話しを聞いているな…だから出来れば話したくなかったんだよ…
「リーダー達はともかくジュリさんのあの感情は異常な程だった…確かにエルフの同族が主なターゲットだということで説明がつくかも知れんが俺にはもっと違う……そう親しい友人や親兄妹が被害に受けた様な……」
「天さんそれ以上は…」
大和撫子、俺だってこんな話しはしたくはないが聞いたのは金髪女だ。
「弥生いいんだ…天、続けて欲しいのだよ」
「わかった、そしてさっきマリーさんとジュリさんが話している時にジュリさんは母さんを助けたいと言っていた…。 この事から推測するにジュリさんの母君はその首輪と邪教の……被害者でまだ首輪が首に繋がったままだと思う」
「ふ、ふぇ!そ、そうなんですか?」
猫少女の問いに誰も答えないが三人のこの表情はもう答えてる様なものだな…
「更に推測すると、その邪教と関わる事になる仕事は冒険士のランクが高い、もしくはレベルが一定以上ではないと受けられないといった様な条件が二つ、三つあると俺は見ている」
「…天さんは凄いですね……」
「ああ、もしかすると天がこの中で一番、知能が高いかもな」
実際に一番高いがな、リーダーが80、金髪女が95、大和撫子が120、そして俺が150だからな…猫少女は30だったかな?…何故か何時も落ちに使えるんだよな猫少女は。
「……全部、天の推理通りなのだよ…。 ボクの母は2年前に邪教の連中に拉致されて奴隷になりかけた…。 幸いすぐに保護されたがもうその時には奴隷の首輪が付けられた後だったのだよ…」
「そうか…すまないな、傷をえぐる様な事を言ってしまって…」
「天が謝る必要なんてないのだよ。 ボクが言えと言ったんだ…。 それとこれも天の推理通りだが邪教関連の仕事はランクC以上、レベルが20以上ないと受けられないのだよ…」
「今、シストおじ様達、高ランク冒険士の方々や国の騎士団の方々が必死になって首輪の無力化や外す方法を探しています。今の私達が力になれる様な事はないと思います…いいえ、かえって邪魔をしてしまう可能性の方が高いと思いますわ」
「弥生の言うとおりだと俺も思うぞ」
「そんな事、言われなくてもわかっているのだよ!でも……」
「理解は出来ても納得出来ない、そうなんだなジュリさん?」
「言うとおりなのだよ天……」
「なら尚更今回の仕事を受けるのは必須だなリーダー、弥生さん」
「なんでそうなるんだよ天!」
「私にも意味が…?」
二人とも悪いが仕事を受ける事に関しては既に詰んでいるんだよ。
「ジュリさん、これも俺の推測だがこの場で二人が反対した場合は一人でもハイオークに挑むつもりだろ?」
「天には敵わないのだよ…。 そのつもりなのだよ!」
だろうな、そんな事情があれば当然、金髪女は一人でもこの仕事を受ける。
ハイオークを倒せば恐らくレベルも冒険士ランクも上がるかそれに近い恩赦が得られる、確実に良い魔石が手に入るしな、ドバイザーの強化にも繋がるから金髪女にとってはまさにチャンスなんだ。
「なっ!!馬鹿なマネはよせよジュリ!」
「そうですわジュリさん!!」
「リーダー、弥生さん、そうなった場合は俺は盾役としてジュリさんに着いていく」
「て、天!」
…めっちゃ嬉しそうにこっち見てるな金髪女?なんか恥ずかしいんですけど。
「天までなに言ってるんだよ!」
「悪いなリーダー、実は俺はさっきマリーさんと約束してしまってな?ジュリさんを守ってくれって」
「あ、あたしも出来る事はなんでもしますです!!」
ナイスタイミングだ猫少女!あんな話しをしたら猫少女は仕事賛成側になると思っていたよ……つまり。
「おっと、これで賛成3反対2になってしまったな?どうする二人とも?」
「…天さんって実は凄く狡猾な方かもしれませんわ…」
「俺もそう思うぞ弥生…」
狡猾は俺にとっては褒め言葉だ。
「淳さん、弥生さん!あ、あたしはジュリさんの…ジュリさんの力に少しでもなりたいんです!!」
「ラ、ラム……」
「やれやれ……仕方ないな。 わかったよこの仕事を受けよう」
「本当かい淳!」
「だから仕方がないだろ、お前ら三人でも行くっていうなら止めるより一緒に行って少しでも天と二人でハイオークを引き受けといてやるよ」
「私も何時でもすぐに皆さんの傷を癒せる様に準備してますわ」
「ありがとうなのだよ二人とも…」
「まったく…ジュリ一人ならともかく、天やラムまで受側につくと手に負えんな」
「そうですわね兄様」
そういう割りにはにはリーダーも大和撫子も何処と無く表情が柔らかくなったな?やはり空気や雰囲気を癒すきっかけを作るのには猫少女の力は大きいな。
「ジュリ、そのかわり危なくなったらすぐに撤退するからな?」
「わかっているのだよ!絶対にハイオークを倒してみせる!」
はい、いつも通りわかっていませんね金髪女は、まあ今回は俺も乗り気だから絶対に仕留めるのは賛成だがね。
「善は急げなのだよ!ハイオーク討伐の為にこの前に行った村まで今からでも乗り込むのだよ!」
「………これは、俺達でフォローするしかないな弥生…」
「……そのようですね兄様…」
……焚き付けた俺がこんな事を思うのもなんだが大変だな二人とも…。
結局、俺達は仕事を万全の態勢で臨む為に逸る金髪女をなだめて作戦を立て準備を整えてから次の日の早朝に村に向かった。
俺達は現在、ハイオーク討伐の依頼を受けた村に行くための、魔導バスの中にいる。
「ジュリさん、作戦のおさらいをしたいんだがいいか?」
俺は隣に座っている金髪女にそう言って声を掛けた。
「勿論なのだよ」
「すまない。ではまず奴を仕留める術なんだが、それはジュリさんの新しく覚えたレベル3の火魔技でいいんだったか?」
「そのとうりなのだよ。恐らく当たれば、まずハイオークでも一撃で仕留められると思うのだよ」
「射程距離と生成時間はどれくらいなんだ?」
「射程距離はまだ使った事がないからハッキリは言えないが烈火玉と殆ど同じで40〜50メートルはあると思うのだよ。 生成には恐らく魔技のレベルとボク自身のレベルから推測するに3〜4分といったところだと思うのだよ」
おいおい全部、推測かよ…使った事が無いだって?まさかぶっつけ本番で格上の相手に試すつもりだったのかよ金髪女は…こりゃ本気で俺が直接倒すしかないかも知れんな…
「ぶっつけ本番で大丈夫なのかジュリさん?」
「大丈夫ですわ天さん」
答えたのは前の席に座っていた大和撫子達だ、本当に大丈夫なのか?
「ジュリは考えなしの所もかなりあるがそれでも格上相手に油断する程、馬鹿じゃない」
「はい、私達のような魔技を得意とする者は覚えた魔技に関しては大体の情報がその時に頭に入ります」
「弥生の言うとおりなのだよ。 ボクも火魔技がレベル3になった時に大体の射程距離と生成時間、消費MPなんかは全て把握済みなのだよ」
…やはり若いなリーダー達は、大体じゃ駄目なんだよ…命が掛かってるんだぞ?俺から言わせて貰えば射程距離ならセンチ単位、生成時間なら秒単位で把握しておくのが普通の事だ、そうやって仕事の成功確率を少しでも上げて生き残る様にするのがプロフェッショナルと言うもんなんだがな。
「ちなみにその魔技は何発撃てるんだ?」
「一発しか撃てないのだよ」
おい!一発勝負かよ!え?なに?じゃあお前は使った事もなくて一発しか撃てない魔技で格上と一人で戦おうとしてたの?…リーダー達が頭を抱えるのもわかるぞ……そんな無謀な戦い方で勝てんのは物語の中だけだと思え!
「天、なんだよその呆れ顔は、ボクだってちゃんとに考えているのだよ」
とてもそうは見えんがな……。
「俺が言うのもなんだが、リーダーも弥生さんも大変だったんだな今まで…」
「わかってくれるか?今までにジュリの暴走と考えなしの行動で何回頭が痛くなったか…」
「普段はただ軽いだけの人なのですが今回みたいな仕事内容だと後先考えずに動かれてしまう事がほとんどですね…」
…大和撫子の方は結構な毒舌だな、まあ今まで散々振り回されてきたみたいだから話しに棘があるのも仕方ない事だが。
「…すぅ〜すぅ〜…zzzZZ」
猫少女は爆睡してるな、なんというか逆に凄いなこの緊張感のなさは…将来大物になるかも知れんなこの子は、ただバカなだけかも知れんが…。
「み、皆ひどいのだよ! 確かに今回は暴走気味だったかも知れないけど…」
「「何時も(だ)(です)!」」
「ぐっ……」
綺麗に意見と声が揃ったな…流石は兄妹。
「とりあえずさっきのジュリさんの決め技のおさらいをしないか?一発しか撃てないなら尚更だ」
「大丈夫なのだよ天、絶対に外さない様にするから」
お前のその自信は何処からくるんだよ?
「やっぱりリーダー達が言った様に何も考えていないなジュリさんは…」
「なっ!て、天までひどいのだよ!」
「だってそうだろ?相手は格上、その相手を倒せる可能性がある技が1発しか出せない状況でなんでそんなに軽い気持ちでいられるんだ?外したりそれで倒せなかったら逃げなきゃいけないし下手をすれば仲間に死人が出るかもしれない状況なんだぞ?」
「うっ……で、でも時間が立てばまた生成出来る様になる…のだよ…」
「次の一発を撃てる様になるまでどれくらい掛かるんだ?」
「……5、6時間ぐらい……」
話しにならんな…ま、最悪は俺自身が仕留めるつもりだから問題ないがな、大統領もだからこのチームに格上の仕事を廻したんだと思うしな。
その時は皆に経験値が入らんが命には代えられん、それに俺の実力をわからせるチャンスでもある。
「もっと言ってやってくれ天!」
「はい、ジュリさんはこれを気に物事を軽く考えるのも時と場合がある事を覚えて欲しいですわ」
「ううっ…」
緊張感があり過ぎるのも体を動きを鈍くしてしまい良い事ではないが逆に緊張感がなさすぎるのも駄目だ、緊張感が無いと周囲の警戒や状況を考えると言った行動に隙が出来てしまう事があるからな。
「.zzzZZ…すぅ〜……ごはん…むにゃむにゃ」
猫少女はこの際、置いておくとしてとにかく作戦の最終確認だ。
「ではジュリさんの反省会も終わった事だし作戦の最終確認をしたいんだがリーダー問題ないか?」
「ああ問題ないぞ、天がいてくれてこういうことが出来る様になったから本当に助かってるよ」
「本当ですね兄様、天さんは色んな意味で頼りになりますわ」
…大和撫子が少し顔を赤らめて俺を見ている、そろそろ吊り橋効果の熱が冷めてくれると有難いんだが…幸いリーダーは作戦確認に集中して気づいてない、いい緊張感が出て来たな。
「皆、作戦の最終確認を行うまずハイオークを見つけたらすぐにジュリは新技の生成に掛かってくれ」
「了解なのだよ淳!」
「それと弥生は何時でも負傷した味方を回復できる様に準備して欲しい、回復魔技も出来るだけ強い物を生成してくれ」
「わかりました兄様」
「そして俺と天はハイオークの気を引き、ジュリが魔技を生成するまでの時間稼ぎと技の有効射程圏内までおびき寄せる誘導係をしてもらう」
「了解だリーダー。 それとこれは俺からの意見なんだが、ジュリさんの魔技はまだ不確定要素が多い生成時間は長く、射程距離は短く予想していた方がいいかも知れない」
「だな、この前のリザードマンの時もジュリが1分と言って実際は1分30秒ぐらいかかったからな」
「まだ根に持っていたのかい淳、対して変わらないのだよまったく…」
いや、リーダーを庇う訳ではないが実際1.5倍の時間誤差はデカイぞ金髪女…。
「事実を言ったまでだ!とにかく今回は生成時間は5分ぐらい射程距離は25〜30メートルを見ておこう」
確かにそれぐらいが落とし所だな。
「えっ!そんなに近くなのかい?」
「ジュリさん、俺もそれぐらいが妥当だと思う。 今回は特に失敗出来ないんだろ?だったら念には念を入れるべきだ」
「……天がそう言うんだったら、わかったのだよ…」
「…なんで天の言うことなら素直に聞いて俺の言うことは素直に聞かないんだよ…」
「え?だって天の方が淳よりずっと大人っぽいし言ってる事も大体は納得できるからなのだよ」
まあ中身は32歳ですからわたし。
「なっ!そ、そんな事はないよな弥生?」
「えっと……兄様もお歳の割りには大人びた所もありますわ」
それは寧ろ答えを否定しながらフォローしてるぞ大和撫子…。
「と、とにかく全員、作戦はこんな所でいいな!」
「ああ大丈夫だリーダー」
「問題ありませんわ兄様」
「腕が鳴るのだよ!」
…全員って猫少女は寝たままなんだが…いや、確かに違和感無いけどさ…実際に猫少女がやる事は殆どないからしょうがないとも思うが、皆さん気にしなさ過ぎじゃない?
『ピンポーン』
ん?なんだ?バスが止まったぞ?まだ村には着いてないが…
『ご乗車のお客様方に緊急連絡です、先ほどこの先の山道でハイオークが目撃されました。 お急ぎの所、誠に申し訳ありませんが、しばらくの間車内でお待ち下さい』
ザワザワ、ザワザワ…
「しばらくってどれくらいだよ!」
「馬鹿!ハイオークって言ったらCランクモンスターだぞ?遭遇したら魔導バスの中だって安全とは思えんから我慢しろよ」
「ママ〜…大丈夫なの?」
「だ、大丈夫よ?バスの中で居なくなるまで待ちましょ…」
……探す手間がはぶけたな。
「運がいいのだよ。 探す手間がはぶけたのだよ!」
「ジュリと意見が被るのは珍しいが確かに探す手間がはぶけたな」
やっぱり皆も同じ事を思っているな。
「ほらラムちゃん、起きて?お仕事の時間だから」
「ふ、ふぇ?…ごはんですか?」
もう恒例だな、このやり取りも……
「ああご飯の時間だぞラム先輩、今日のメニューは豚の丸焼きだ」
俺がそう言って猫少女の頭に軽くポンっと手をのせる。
「おいおい天、それは勿体無いのだよ。 でもこの仕事が終わったら腹いっぱいご飯を奢るのだよラム」
「じゃあ、俺はステーキがいいなジュリ?」
「奢るのはラムと弥生にだけだよ、何でボクが男にご飯を奢るのだよ?立場が逆なのだよ」
「まあまあ、とにかく無事に仕事を終えたら皆さんでご飯ですね」
「は、はい!あたしも頑張ります!!」
猫少女も完璧に目が覚めたか?それにしてもやはりこのチームの空気を良くするきっかけを作るのは猫少女だな、皆の雰囲気がいい感じに柔らかくなった。
「では行くか皆!」
リーダーがそう言ってバスの出口まで歩いて行く、俺達もその後に続いた。
「お客様、誠に申し訳ありませんがしばしお待ち下さい。今、外は大変危険ですので」
「問題ない、俺達はその目撃されたハイオークを討伐に来た冒険士のチームだ」
「本当ですか!!た、助かります!目撃情報によるとこの先、300〜400メートルほど行った所の道路に少しそれた山際の道に現れたとの事です」
熊の目撃情報みたいな感じだな。
「情報感謝する。 俺達がハイオークを倒したらすぐにドバイザーで知らせるから何処に連絡すればいいのかとその連絡先を教えてくれ」
「わかりました、ではこのバスの連絡番号を….」
「弥生、連絡先を登録してくれ」
「わかりました兄様」
運転手は大和撫子に連絡番号のメモをわたし、出口を開けた。
「皆様、ご武運を」
「すぐに、討伐成功の連絡をいれるのだよ!」
「油断は禁物だぞジュリ」
「わかっているのだよ!」
やる気満々だな、まあやる気がないよりマシだがな。
…やはり外に出てみるとやはりわかり易いな?さっきから猛獣の気配はしていたが、間違いなくこの先に奴はいる! 熊なんて、生易しいもんじゃないなこの気配は…楽しみだ。
「とりあえず俺とリーダーが先頭を歩こう、リーダーも武器はドバイザーから出しておいた方がいいかもしれん」
「そうだな、では俺と天が先頭で歩く、三人は少し下がって後ろからついてきてくれ! だが後ろから奴が来る可能性もある、警戒は怠らないように」
俺が前から気配を感知しているから、まずその可能性はないが、その心構えは大切な事だ。
そして300メートルぐらい道路を歩いた所で奴がいた! 既に山際から道路に出て来たようだ、道の真ん中でウロウロしているな……体長3m近くある、かなりデカイぞ!
「ジュリ!魔技の生成だ!!」
「言われなくてもわかっているのだよ!」
まだ遠いな、俺達と奴との距離は60〜70メートルは空いている、なら俺のやる事は一つだ。
「リーダー、まずは俺が奴をこっちまで誘導する、リーダーはジュリさんとラム先輩と弥生さんを護ってくれ」
「なっ!一人では危険だぞ天!」
「そうですわ天さん!」
「いや、奴の持っている長い武器だとリーダーが剣で攻撃するにはリーチが違い過ぎる、防御専門の俺が一人で様子見に行った方がいい」
そう、ハイオークは片手に5、6mはあろう太い木の棒を持っていた、つか寧ろ木だろあれ?だがあんな棒を片手で軽々と持っている辺り、かなり力が強いと見た。
「ぐっ…わかった、まずは天が様子見してくれ……ただ危なくなったらすぐに逃げろよ!」
「了解だリーダー。 ではジュリさん新型魔技の方は頼んだぞ」
「任せるのだよ天!」
そして俺はハイオークに気配を殺しながら素早く近ずいていった、いよいよCランクモンスターとの戦闘だな…。
久々に武者震いしてきたな……頼むから俺をがっかりさせるなよハイオーク!
…近ずいて見るとやはりかなりデカイな…体長2.8〜3m、体重はおそらく700キロは軽く超えるだろう…。
「ーーーー」
「天さんお気をつけ……」
大和撫子が俺に声をかけてくるのを俺はハイオークから視線を外さずに手を後ろに拡げて制した、喋りかけられたらハイオークに気づかれるからな。
よし!まだ幸い向こうは俺に気づいていない、もしくは俺に関心を示していないな?ここから俺がしなくてはならない事だが……
1.ジュリの新型魔技の射程圏内までハイオークを引き寄せる。
2.ハイオークを射程圏内に入れたらそこからジュリが新型魔技を生成するまでの時間稼ぎ。
3.もし新型魔技が外れた場合、 俺自身がハイオークの止めを刺す。
こんな所か?ではまず1を実行するか…今、俺とハイオークの距離は35〜40メートル、俺とリーダー達の距離が30メートル弱、つまり俺の立ち位置はハイオークとリーダー達の対角線上の真ん中かややリーダー達よりと言った所か…。
ここではまだ射程圏とは言えないな、奴が持っている武器の長さを考えるともう5メートルは後ろに下がらないと30メートル未満の射程はクリア出来ない。
金髪女は40〜50メートルと言っていたがリーダーの言うとおり、やはり30メートル以内がベストだろうな。
そう思い俺はバックステップで5メートル後ろに下がった……よしこの辺だな。
ガン!!!
「て、天! 一体何を……」
その場で俺は地面に向けてかなりの強さで足を踏んだ、辺りに地響きと鈍い炸裂音がこだまする。
俺はまた仲間達を後ろ手で制し、ハイオークを見つめた、これでおそらくは……
「…ブオ?ブオオオオーー!!」
俺に気づいてくれたなハイオーク、いい感じで殺気も出ている、どおやら俺を敵認定してくれたみたいだな。
「ブオオーーー!」
武器を持って二足歩行で走って来たな、正直スピードはかなり遅いが走る度に地響きがする、やはりかなりの重量タイプだな。
「ブオ!!」
よし、射程圏に入った!これで1は達成だ。
武器を使わずに走ってきた勢いで突進攻撃をしてきた、普通なら交わすが後ろに仲間達がいるからその選択は潰れる、カウンターで攻撃してもいいが俺は今は盾役だからな…しょうがない最初は盾でこいつの攻撃を受けてみるか。
俺は右手に持っていた盾を前に出して防御の体制をとった、次の瞬間…ドン!!!!
「っ!!」
「ブオオ…」
……おいおいトラックにぶつかられたかと思ったぞ、一発て鉄製の盾がひしゃげちまった。
「天!俺も加勢するぞ!!」
リーダーが俺の方に向かってきたな?でもこいつはちょっとまだリーダー達には早い……
「来るなリーダー!!こいつの動きは見切った!俺一人で十分だ!!」
大嘘だ、一人で十分というのは本当だがな、というよりリーダーには悪いが邪魔だ。
何故、マリーがあんなに反対したのかわかったわ……こいつはリーダー達には無理だ、リザードマンがDランクだったからCランクも大した事は無いと思っていたが正直強さの次元が違うな……面白い。
「しかし天!」
「天さん!今の攻撃で盾が壊れてしまっています。ここは兄様と一緒に!!」
「大丈夫だ二人とも! リーダー、俺が隙を作るから合図したらそこからこいつの顔に向かって槍を投げるみたいな感じで剣を投げてくれ!」
「くっ!わ、わかった!だが無理はするなよ!!」
悪いなリーダー、恐らくこいつにはリーダーの剣技ではダメージを与えられない…もし出来るとしたら顔に剣を当てて気を散らすぐらいだ。
「………」
金髪女は集中しているな、猫少女はこの距離でハイオークを見ているせいか恐怖で足がすくんでいる、だが変に参戦されて足手まといになられるよりかは遥かにマシだ、女性陣3人はそのままそこに居て貰えると有難い。
今、金髪女が新型魔技を生成してから約1分30〜40秒って所か?生成には3〜4分、多く見積もっても5分弱だろう…なら俺はここでこいつと2〜3分引き止めればいい事になる。
「では豚君、ちょっと俺と遊ぼうか?」
「ブオ……ブオオー!!」
先ほどの攻撃は実の所、痛み分け…というより実はハイオークの方にダメージがあった。
俺はハイオークが突進して来て、盾に当たるインパクトの瞬間に自分からも体当たりをした、相撲でいう所の立合いのぶちかましの様な突進だったからな?確かに威力はあったが頭を使っての体当たりは鉄製の盾には悪手だよ豚、鉄の塊に頭突きする様なものだからな。
まあ自分からも体当たりしたせいで鉄盾はスクラップになったからやはり痛み分けか?それにしても丈夫な奴だな…あれで普通なら頭が割れてしばらくは動きが鈍くなるか気絶するもんだが、ちょっとした脳震盪だけとはな。
「ブオオオーー!!」
今度は武器で攻撃してくるな…だが甘いよ、お前の武器は木みたいな長さと太さを持っているんだぞ?こんな超近距離じゃ意味がない何処か攻撃に入る時のモーションが隙だらけだ。
「ほれ」
ゴッ!!
俺はスクラップになった鉄盾をハイオークの顔面に投げつけた、目くらましのつもりで投げたが結構な勢いで命中したな?ま、俺の力は700以上みたいだからな?成人男性の約50倍以上の筋力は伊達ではないと言った所か。
「ブ、ブオ…」
豚が鉄盾を諸に顔面に受けて怯んだ隙に俺は奴の後ろに素早く回り込み皆には見えないように肘打ちをした。
「ブオっ!ブ…ブオーー!!」
…おい、今ので大して効いてないだと?確かに殺せないからそれなりに手加減したが常人なら確実に背骨を粉砕骨折、悪ければ死ぬ様な威力だぞ?
「……いいなこいつ…」
俺は武者震いで笑みがこぼれた……こいつになら俺の技を使える、向こうの世界では生き物では親父にしか使ったことのない技が…
「ブオー!」
こっちを向いたな豚君、どうする…今で大体、金髪女が生成に入ってから2分30〜40秒って所だ…後1分以上も俺はお預けをくらいながらこいつの攻撃に耐えるのか?今ならハイオークの影に隠れてみんなには俺が見えない……直接、俺の技で倒すか?
「天、淳!もうすぐ魔技が生成出来るのだよ! もうしばらく耐えて欲しいのだよ!そしたら必ずボクがハイオークを倒して見せる!!」
……ふぅ、仕方ないな、今回はジュリに譲るか。
「ブオオー!!!」
「悪いな、お前ともうちょっと遊びたかったが時間みたいだ」
またハイオークは懲りずに武器で攻撃に入る、だからそんなに遅くてでかいモーションじゃ俺には当たらんよ。
ハイオークが唐竹割りの構えをとって両手で木の棒を振り下ろす体制を作った瞬間に俺は、今度は奴の横に移動して脇腹の肉を思い切り掴んでえぐった、つねるの強化版みたいな物かな?勿論ハイオークは…
「ブ、ブオーーーー!!!」
凄い痛いよな?痛みで一瞬、我を忘れる程に…武器もその場に投げ捨てたな…今だ!
「今だリーダー!奴の顔面に剣を!」
「わかった!!」
ちょうどリーダーに向かって横向きになったハイオークに向かいリーダーが顔に剣を投げつけた。
「ブオ!!」
ナイスだリーダー!リーダーの剣はハイオークの右目に刺さった!顔にぶつけて気を少しそらすだけで良かったのにまさか片目を潰すとはいい仕事をするな…なら俺は!
「ブオっ!ブ、ブオブオ!」
俺は更に錯乱するハイオークの左手に回り先ほど肉をえぐってハイオークの血で血塗れになっている手をハイオークの左目に塗りたくった…これでこいつは左目もしばらくは見えない、つまり視界を失った訳だ。
「さあ、仕上げだ」
そして俺は先ほどハイオークが落とした奴の武器を拾い、奴の足の股にとうして回転させて奴の両足をロックし転ばせた。
「ジュリさん、仕込みは完了したぞ。料理の火力は強火で頼む」
俺はその場を離れてそう言うと金髪女は満面の笑みで……
「任せるのだよ天!! 準備は出来た、すぐに豚の丸焼きにしてやるのだよ!」
その言葉と共に金髪女の両手から包み込まれる様に馬鹿でかい火の玉が生成された、リーダーも慌てて弥生達の方に戻る。
「いくのだよ! 大・烈火・玉!!」
…デカイな、烈火玉は前に見た時はバスケットボールぐらいだったがあれはまるでバランスボールだな。
ドーーン!!
「ブゥーーーー!!」
っ!ハイオークに当たった瞬間、火の玉がハイオークを包みながら7、8mの火柱になった!……凄い威力だな、これは金髪女が自信満々なのも頷ける。
「……終わりなのだよ」
金髪女がそう告げると火柱は消えて丸焦げになったハイオークが横たわっていた……俺達の完全勝利だ。
「い、いい匂いです〜〜」
い、いや猫少女、さっきの俺の言葉は冗談だ…本気にしないでね?まあ確かに美味そうな匂いはするがアレは食べ物じゃないから!
「……リーダー、早くドバイザーに入れよう、じゃないとラム先輩がアレを食べてしまうかもしれん…」
「そ、そうだな、早く入れてしまおう!」
そう言ってリーダーは素早く自分のドバイザーにハイオークを入れた。
「えっ!食べないんですか?」
「食べる訳がないのだよラム!!Cランクモンスターだぞ?さっき天が言ったのはそういう意味で言ったんじゃないのだよ!」
「ラ、ラムちゃん、私のチョコレートあげるから村まで我慢しましょ?ね?」
「ふぇ〜〜ん……わかりました…」
危なかった〜、本当にハイオーク食われる所だったよ! なんで戦闘終わったのにまた変な緊張感が持たせてるんだよまったく……本当に猫少女には敵わんな、いきなりさっきまでの殺伐とした空気を別の空気に変えてしまうんだから。
「とりあえず早くバスの方に連絡した方がいいんじゃないか弥生さん?」
「そ、そうでしたね! すぐにハイオークを討伐した事を知らせますわ」
「頼むな弥生」
こうして俺達はハイオークを討伐した事を伝えて運転を再開したバスと合流して仕事達成の報告をする為に村の村長の所に向かった。
「今回の一番の功労者は間違いなく天なのだよ!」
「………ん?なんか言ったかジュリさん?」
「だ・か・ら、今回の戦いの一番の功労者は天だって言ったのだよ!」
「あ〜、すまんすまん。 ぼ〜っとしていてな……ありがとうジュリさん。 ジュリさんも凄かったぞ」
「だろ?ボクもあそこまで威力があるとは思わなかったのだよ!」
「…………」
「お、おい天、聞いているのかい?」
「す、すまない…」
俺の様子を心配してバスの前の席のリーダーと大和撫子が後ろを向いて顔を出してくる。
「どうしたんだ天?さっきからなんだか上の空みたいだが…」
「そうですわね……まさか先ほどの戦闘で何処か負傷されたのでわ!」
「だ、大丈夫だ二人とも…ちょっとハイオークとの戦闘の刺激に当てられてるだけで体はどこも悪くない…」
そう、体は何処も悪くない……
「確かにアレは予想以上の化け物だったからな…」
「はい、正直に言えばもう戦いたくありませんわ…」
「何を言っているのだよ二人とも!冒険士としてのランクが上がれば必然的にCランクモンスターやそれ以上のランクのモンスターとだってことを構える事があるかもしれないというのに」
「…………」
「天からもこの二人に何か言ってやるのだよ。 ……天?」
「……ん?なんの話だ?」
「本当にどうしたのだよ天?」
「きっと天さんもお腹が空いたんですよね?」
「まさかラムじゃあるまいし、そんな事で天が具合を悪くする訳がないのだよ」
「ひ、酷いですジュリさん!」
「「「ハハハハハハ!」」」
………そうだ俺は体は何処も悪くない…ただあの戦闘で気づいてしまった…いや、再確認したと言う方が正しいかな。
「……そろそろ潮時かな……」
「ハハハ!……ん?何か言ったかい天?」
「いや、なんでもないよジュリさん、そろそろ村だから早くご飯にしないとラム先輩がハイオークを食べてしまうと思ってね」
「違いないのだよ!ハハハハハ!」
「もう!天さんまで酷いです!」
「「「ハハハハハハハ!」」」
…そう、そろそろ潮時だ…。
「お、村のバス停に着いたのだよ」
「皆、じゃあ最初は村の食事処で昼飯でも取りながら今回の反省会をしよう」
「…了解だリーダー」
俺はある決意を固めてバスを降りて村に向かった。
俺達はとりあえず先に昼食を済ませる為に村にある食事処に向かった。
「なあリーダー、村長さんにはハイオークを討伐した事を伝えたのか?」
「ああ、勿論伝えた。 もうドバイザーで報告済みだ」
「天は本当に真面目君なのだよ」
それがプロとして普通だと思うんだが…。
「ジュリさん、報告は大切ですよ?」
「そうだぞジュリ、天が真面目なのは同意だがお前はそういう事に不真面目過ぎる…」
「うっ……と、とにかくお腹が空いたし早くご飯を食べるのだよ! さっき言った通り女性陣の分はボクが奢るから!」
そういえばさっきそんな事を言ってたな金髪女は?気持ちはわかるがチームだと余りそういう男女別みたいな事をすると歪が生まれる事があるから良い事ではないんだが…。
「う〜…お腹すきました……」
…猫少女が居る限りこのチームでそういう事は大丈夫かな?
「リーダー、ここでいいんじゃないか?」
俺は食事処と書かれたペンション風の建物を指差して言った。
「そうだな、俺もここで構わない。 皆はどうだ?」
「ボクは何処でもいいのだよ」
「私もここで構いませんわ」
「早くご飯にしましょうです!!」
猫少女にいたっては聞くまでもないな…
「じゃあここで昼飯ととりあえずの反省会をするか…」
そのまま俺達はその食堂に入り各々の注文を済ませて席に着いた。
「皆!今回の仕事は本当に大変だったが無事に達成できて何よりだ!お疲れ様!」
「ああ、お疲れ様リーダー、皆」
「お疲れ様です皆さん」
「お疲れ様なのだよ!」
「お、お疲れ様でございますです!」
なんで猫少女はテンパってるんだよ……多分、飯の事しか考えてなくて急に話しを振られたからか。
「一時はどうなることかと思ったが無事に達成できて本当に良かったぞ」
「はい、兄様。 まさか今のレベルでCランクモンスターに勝てるとは正直いまでも信じられませんわ…」
確かにアレはリーダー達にはまだ早い敵だったな、いくら金髪女の新型魔技が当たれば勝ちだとしても奴を約3分間相手しなくてはならない。
その場合、必然的にリーダーと猫少女が囮役になるんだが猫少女の場合は恐怖で足がすくんでて話にならないからリーダー1人でハイオークの相手か……最初の一撃で戦闘不能か下手をすると死亡していたかもしれんな…。
俺がいなかったら恐らくこの仕事の成功確率は2割を切るだろう…命を掛けるには無謀過ぎる数字だ、マリーがあんなに必死で止めたのも先輩の冒険士として当たり前の事だな…。
では何故、大統領は俺達にあんな危険な仕事を廻したんだ?危機察知能力は俺の予想だとマリーの比ではないぐらい鍛えられてる筈だ、俺がA級以上の存在の可能性があると見抜いたからか?
いや、幾ら何でもそれは不確定要素が強過ぎるだろ?俺とあのおっさんが出会ったのはあの時が初めてだ、それなのにたったアレだけの事で若者を死地に追いやるのは冒険士のトップとして失格どころの話しではない。
「だから二人とも言ったのだよ!ボクと天がいれば大丈夫だと!」
「ジュリが言うとただ単に結果オーライの感じもするがな、とにかく今回は天に助けられたよ」
「本当に凄かったですよね天さんは……天さん?」
「……ん?あ…ああ、すまない。 ありがとう」
「またぼ〜っとして本当にどうしたのだよ天」
「いや、少し考え事をしていた…」
「何か天は、さっきからおかしいのだよ」
今のはさっきまでの考え事とは違うがな……そう、さっきまで考えてた事はバスの中で……いや、奴と戦った時にもう俺の中で決意は固まってしまったからな。
「なあ皆、ここの支払いは俺が持ちたいんだがいいか?」
「急にどうしたのだよ天?女性陣の分はボクが持つと言っただろ?」
それは男としてどうなんだと思う所があるんだよ、まあそれだけじゃないがな…
「俺はさっきの戦いでかなり個人的に動いてしまったからな?リーダーが言った言葉ではないが、結果オーライの所がかなりあったと思う……だからその謝罪も込めてここの支払いは俺が持ちたい」
「天って前から思っていたんだが本当に俺達と同い年かよ?」
違います、本当は32歳です。
「私もそう思いますわ兄様、でもそんな所が素敵です…」
「なっ!!や、弥生それはどういう…」
「どうだろう皆?それにこういう場所では本来は男側が支払う物だろ?」
俺はまたシスコン根性全開になりそうなリーダーの言葉を遮り話しを戻した、もうお前らのそのくだりはハッキリ言ってうんざりです。
「聞いたかい淳?君も見習ったほうがいいと思うのだよ、天のこういう姿勢を」
「……奇遇だなジュリ?俺も今、少しでいいから天の物事に対する姿勢をお前に見習って欲しいと思った所だ」
「ふ、二人ともその辺で…」
リーダーと金髪女が笑みをこぼしながら睨み合っている…本当に仲がいいなお前らは。
「あ!ご飯がきました!!」
……た〜んとお食べ猫少女。
「ラム先輩、聞いた通りここの支払いは俺が持つ。 もっと好きな物を好きなだけ食べて構わない」
「本当ですか!!じゃ、じゃあコレとコレとコレも頼んでもいいですか?」
「勿論だ」
好きなだけ食べてくれ……これから俺がする事へのせめてもの罪滅ぼしでもあるからな……。
「皆も好きなだけ食べてくれて構わないから」
「ありがとうございます天さん」
「お言葉に甘えるのだよ」
「天、支払いは大丈夫なのか?」
「問題ないぞリーダー、俺は今までの報酬に殆ど手をつけてないからな?盾もリーダー達がチームの資金で買ってくれたしな」
そう、俺はこれまでの依頼報酬に殆ど手をつけていない。
リザードマン1体とオーク2体の討伐で得た俺の報酬金額は合計で16万円、その金は殆ど使わずに俺の財布に入っている。
「ならいいが…」
「亮ではないが天も少しは服を変えたらどうかな?」
「前向きに検討してみるよ」
実の所、俺は自分の服を2セットしか持っていない、一つは最初から身につけてた服、二つ目は道着だ。
何故、服を買わないかというのには理由が3つある。
1つ目はこの前の世界から持って来た服は両方とも全く汚れないからだ、理由はわからないが推測するにこの世界での物じゃないから服自体の時間が元の世界に居た時の状態で止まっているのかもしれんな?現に端末のバッテリーは減らんしな、ただそれなら何故、時計機能が正常に動いているかわからんが…。
2つ目の理由は持ち運びがキツイからだ、俺はドバイザーに入れた物を出せんからな?必然的に手で持ち運ぶかホテルなどに預けるか、しなければならんからな。
そして最後の3つ目、これが一番の理由だな……俺は別に服に興味がない、以上!
「とにかくその事はまた後にして飯にしないか?皆の分はもう揃ったみたいだし、何よりラム先輩が我慢の限界にきている」
「………ダラダラダラ…」
並べられた料理を見ながらヨダレを滝の様に流してる……あんな風にヨダレ垂らす奴、初めて見たな…。
「……そ、そうだな…。 では皆、仕事の達成を祝って、いただきます!」
「「「いただきます!」」」
〜1時間後〜
「も、もう食べれないです〜〜」
……いや、確かに好きなだけ食べていいって言ったけどね、飯を俺達4人の合計分ぐらい食った後に店のデザート全部とかある意味で才能だぞ猫少女……。
「……なあリーダー、もしかしたらなんだがあの時にラム先輩を止めなかったらハイオークの片腕ぐらい本当に食い尽くしてたかもしれんな…」
「……ああ、その可能性は否定出来んな…」
「あ、淳! 絶対にハイオークを魔石にするまでラムにドバイザーを預けるななのだよ!」
せっかく倒して手に入ったドバイザーの経験値を食われたら洒落にならんからな。
「ひ、酷いですよ皆さん……ゲップ!」
「ラムちゃん、行儀が悪いですよ」
あの二人の関係もいつもと変わらんな。
「ところでハイオークを倒したんだから皆レベルアップしているんじゃないか?」
「っ!その通りなのだよ天!早速ドバイザーで確認するのだよ」
俺がそういうと金髪女は慌ててステータスの更新を始めた、それを見て他の3人もステータスの更新を始める。
お、全員ステータスの更新が終わったようだな皆、満足そうな顔をしている。
「やったーーー!レベルが2も上がってる!!」
どうでもいいが、また語尾に「〜のだよ」って付けるの忘れてるぞ金髪女…。
「俺もレベル2アップしたぞ!」
「私もです兄様」
「あ、あたしはレベルが4つも上がりましたです!!」
凄いな皆…いや、格上の相手を倒したんだからそれぐらいは当然か?どんな風にステータスが上がったかみたいが……あっ!そうだ、俺も自分のドバイザーでチームのステータスだけは確認できるんだよな?
ちょっと見てみるか。
先ずはリーダーのステータス
Lv 17
名前 一堂 淳
職業 Eランク冒険士
最大HP 165
最大MP 60
力 36
魔力 20
耐久 40
俊敏 35
知能 80
剣術Lv2 火魔技Lv1 生命魔技Lv1
やはり全体的に見てバランスがいいな、剣術Lvも2になっているし決め手には欠けるかもしれんがこのチームには金髪女がいるしな。
次に大和撫子のステータス
Lv 17
名前 一堂 弥生
職業 Eランク冒険士
最大HP 95
最大MP 110
力 20
魔力 44
耐久 20
俊敏 31
知能 120
状態異常耐性 風魔技Lv2 水魔技Lv2 生命魔技Lv3
大和撫子も全体的にかなりバランスがいい、同年代の男性の基準値を全てにおいてもう軽く上回っているな。
そして注目すべきは魔力だ、確かリーダーは魔力は才能が殆どでLvは関係ないと言っていたが大和撫子は4も数値を上げて来た、伸び代はまだまだ未知数と言った所か?
次に金髪女のステータス
Lv 17
名前 一堂ジュリ
職業 Eランク冒険士
最大HP 120
最大MP 150
力 29
魔力 50
耐久 31
俊敏 37
知能 95
火耐性 生成速度短縮(効果小) 火魔技Lv3 風魔技Lv1 水魔技Lv1 土魔技Lv1 生命魔技Lv2
前の2人に比べると一つ一つのステータスの伸び率が多いな、やはり人によってLvアップ時の伸び代はだいぶ違う…得意分野、才能というやつだろうな。
そして新たなスキルが増えてる生成速度短縮とはまさに読んで字のごとくの意味だな?効果小と書いてあるがそれでもこれからの戦いでかなりのアドバンテージになる。
最後に猫少女のステータス、実は1番興味があるな…さてLv4アップしてどうなったか…
Lv 14
名前 ラム
職業 Fランク冒険士
最大HP 350
最大MP 10
力 12
魔力 10
耐久 12
俊敏 12
知能 30
胃腸状態異常無効 胃腸消化速度短縮(効果中) 土魔技Lv1 生命魔技Lv1
………フードファイターでも目指してんのか猫少女は?だ、だが先ほどの食べっぷりもこれで納得だな。
それにしてもこの子はHPだけはダントツなんだよな?しかし他のステータスがこれじゃな……しばらくは、引き続きこのチームの癒し系マスコットキャラの立ち位置だな…。
「見るのだよ皆!スキルで生成速度短縮が追加されてるのだよ!!」
「俺は剣術がLv2になったぞ!」
「私は魔力が4も上がりました!信じられません…」
「なんであたしは意味のわからないスキルが増えてるんです? HP以外はほとんど変わりませんし…」
「いや、それだけHPが高いのはある意味で天才なのだよラム」
「う〜〜。余り嬉しくないです…」
「「「ハハハハハハ!」」」
「……………」
…楽しそうだな皆…。
「天、どうしたのだよ? また、ぼ〜っとして」
「天は自分のステータスが見れないし今の所は経験値も入らんからな?やはり思う所があるのだろう…すまんな」
「…確かに天さんの前で今みたいな会話は不謹慎でしたね…申し訳ありません…」
リーダーと大和撫子の顔が途端に暗くなった、別にその事は気にしてないんだが…。
「いや、別に気にしてないよ」
「な〜に!ボクらで天が魔力なしでも不自由しない方法を考えればいいのだよ!」
「ジュリもたまには良い事を言うな」
「はい、ジュリさんの言う通りこれから私達で天さんのサポートをして行きましょうね!」
「あ、あたしも頑張りますです!!」
「………ありがとう皆…」
そして、すまない皆……俺は今日このチームを抜けるんだ……。
俺達はその後、軽い雑談をして食事処を後にして村の村長の所に直接ハイオーク討伐完了の報告をしに向かった。
「ではまた少し待っていてくれ」
「はい、いってらっしゃいませ兄様」
「ああ、いってくるよ弥生」
そういってリーダーが村長の家に入って行った。
「ただ単に仕事の報告をするだけなのに大袈裟なのだよ、あの二人は…」
俺の隣にいた金髪女が小声で話し掛けて来た…確かに少し大袈裟かもな。
「それだけ仲がいい兄妹なんだろ?」
「まあ、弥生の方の丁寧な立ち振る舞いは家柄も関係しているけどさ、それでもなんだかんだで仲がいい兄妹なのだよ」
……やはり気が重いな…俺は今日、それを利用しようとしている…だがもう決めた事だ。
しばらくしてリーダーが仕事の報告を終えて戻って来た。
「皆、待たせたな」
「また、村長と話し込んでたのかい淳? レディを余り待たせる物ではないのだよ」
そう言っても10分ぐらいしか経ってないがな。
「仕方ないだろジュリ、今回の仕事内容は特に危険だったんだ。 話す事も多かったんだよ!それに村長さんから感謝の気持ちも貰ってしまったからな」
「お気になさらないで下さい兄様、もう今日は予定はありませんし。それはそうと村長さんから何か頂いたのですか?」
「予定はあるのだよ弥生!早く冒険士協会本部に行ってハイオークを魔石化するのだよ!」
いや、普通の冒険士なら協会本部に行ったら先に仕事達成を報告しろよ。
「その事なんだがな、今日はこの村に泊まって行こうと思う」
「なっ!なんでそうなるのだよ!まだ早い時間だろ?この前みたいに夜になってないし十分、今からでも協会本部に行けるのだよ!」
確かに今はまだ15時になったばかりで早い時間ではないが協会本部に行こうと思えば余裕で行ける時間だ、バスもまだ運転してると思うしな。
「人の話しを最後まで聞けよジュリ、それが今、言った村長さんの気持ちだ。俺達が休む為にこの前に泊まったホテルの1番いい部屋を取ってくれたんだよ、ついでに言えばさっきの食事代を出してくれたのも村長さんみたいだ」
…やはりな、さっきの食事処で支払いを済ませようとしたらもう頂いておりますと言われた。
多分、村長が俺達がハイオークを倒した後に村で食事すると予想して村の食事処全てにあらかじめ連絡していたんだろうな…ハッキリ言って余計だったよ俺にとっては…。
俺はこれから行う事のせめてもの罪滅ぼしに飯を奢ろうと思ったのに結果的に村長の金で猫少女を焚きつけて馬鹿みたいに食わせただけだったからな…まあ俺がこれからしようとしてる事は飯ぐらいじゃ到底、埋められんがな……
「それはとても有難いですね兄様。 ジュリさん、ここは村長さんのご厚意に預からないと失礼だと思いますわ」
「あそこのお風呂は気持ちいいです〜」
確かにあそこの風呂は気持ちよかったな猫少女、それにあそこのホテルならおれにとっても好都合だな…。
「ジュリさん、俺も弥生さんの言うとおりここはご厚意に甘えないと村長さんの顔が立たないと思う。 魔石製造はそんなに急がなくても明日に行えばいいんじゃないか?」
「……わかったのだよ。 今日はこの村に泊まっていくのだよ…でも明日は朝一で協会本部に行くのだよ!」
「それで構わないかリーダー?」
……明日には俺はいないがな…
「ああ、それで構わんぞ?では今から皆、自由行動にしよう。 既にホテルの部屋は取ってくれている様だからホテルで休むもよし、何処かに買い物に行くもよしだ」
「了解だリーダー」
「わかったのだよ」
「わかりました兄様」
「あたしお風呂に入ってきます!!」
昼間っから風呂か猫少女…まあ、大概の女性は風呂が好きな生き物だからな。
「俺もホテルで先に休ませて貰うよ」
「天もホテル組かい?なんなら夜までお姉さんとデートでもしないかい?」
「……いや、遠慮しとくよジュリさん」
…こういうやり取りをするのも今日で最後だと思うと少し寂しい気もするな…
「むぅ〜〜、天はやっぱり堅物なのだよ。 ハイオークと戦ってた時はあんなに積極的だったのに」
「それが天さんですからね、ジュリさん、私が代わりにジュリさんとデートしますわ」
「……それはデートとは言わないのだよ弥生…」
「弥生が行くなら俺も行こう」
「うわ〜〜、まんま親戚の集まりなのだよ…」
「まあまあ、たまには久しぶりに3人で話すのも良いじゃないですか」
リーダー達はそんな事を話しながら村の雑貨屋の方に歩いて行った。
「ラム先輩、俺達もホテルに行くか?」
「はいです!」
そして俺達もホテルに向かった、もう猫少女ともお別れか…。
「あの〜〜、天さん…」
「なんだラム先輩?」
「なんかさっきから思い詰めた感じですが何かありましたか?」
「!!」
……驚いたな…余りそういう気配は出してなかったと思うし顔もポーカーフェースを保つ様にしてたんだが……先程のバスや食堂のやり取りで見抜かれたか?それにしても意外に鋭いなこの子は…。
「いや、大した事はないよラム先輩。 ハイオーク戦の緊張感がまだ抜けてないだけだ、俺も風呂に入ればリラックスできると思う」
「な、なら良いんですけど…」
「心配してくれてありがとうなラム先輩」
そう言って俺は猫少女の頭を撫でた。
「えへへへ〜」
……喜んでるな猫少女、でも俺は君に心配される資格なんて無いような事をこれからしようとしてるんだ……。
しばらくして俺達はホテルに着きチェックインを済ませて部屋に向かった、俺の予想通り最初にこの村で泊まった部屋と同じ部屋だ。
「やはりここか」
「わぁ〜〜、あれからまだ4日しか経っていないですけどなんか懐かしいです」
…確かにな、本当にこの5日間、色んな事があったな…。
「ラム先輩、俺はもう少しここで休んでいるから先に風呂にでも入ってきたらどうだ」
「そうですね、そうしますです!」
ああ、いってらっしゃい。
「……ふう、こんなに濃密な時間を過ごしたのは久しぶりだな…」
そう、こっちの世界に来ての最初の5日間、右も左も分からない状況で手探りの行動を余儀無くされた、リーダー達に出会って無かったら俺はきっとまだこの世界の事を殆どわからずに山で野宿して過ごしていたかもしれんな……。
本当にリーダー達4人には感謝している。
「…恩を仇で返してしまうな」
……これからする事はそういう事だ……すまない皆、しかし俺はもう自分の気持ちに嘘はつけないんだ。
奴との戦いで思い出してしまった、自分の力と技を試せる喜びを…。
「……俺も風呂にでも入ってくるか」
それからリーダー達も買い物を済ませてホテルに合流し、夜も老けて明日の予定についての話し合いを始めた。
「明日は朝一番で村をでるのだよ!」
「わかった、わかった」
「ジュリさんは早くハイオークを魔石化したいんですわよね?」
「そのとうりなのだよ!」
「では明日に備えて早く寝るか?ラム先輩ももう半分寝てるしな…」
「…う…ん.zzzZZ…ん…」
…そういえばアレを出して置くか…。
「ちょっと頼みがあるんだが、誰か俺のドバイザーから服を出して欲しいんだ、朝は冷えるかもしれんからな」
「ああ、あの変な服か?わかった俺が出してやるよ」
「兄様、変な服は失礼ですよ」
「いや俺自身も変な服だと思っているから気にしくていいよ弥生さん。じゃあ頼むよリーダー」
そう言って俺はリーダーに自分のドバイザーを渡した。
「でもやっぱり自分の持ち物を自分で出せないのは不便だよな?」
「まったくだ」
「………ほら、取り出したぞ」
「ありがとう」
「淳が言った事じゃないが本当に変な服なのだよ」
俺はリーダーから自分の道着を受けとった。
今日で彼等ともお別れだからな…一応、自分の持ち物は出して置かないとな……。
「じゃあそろそろ寝るのだよ。 明日は早いからね!」
「ああ皆、お休み」
そしてーー
さよならだ……
部屋の電気が消えて10分ほど経ったか、俺はある計画を実行する為、上に着てたシャツを脱ぎ捨て彼女のベッドに潜り込んだ。それからしばらくして……
「――い、いや〜〜〜〜!!!」
「な、何事なのだよ!!」
その騒ぎに最初に飛び起きたのはジュリ。
ジュリは部屋の明かりを慌ててつける。そしてそこで皆は見た、俺が上半身裸で大和撫子の上に覆いかぶさっているのを……
「…………天。お前、そこで何をしてるんだよ?」
淳が呆然としながら、もう一度、今度はこれでもかと声を荒げて俺に迫った。
「お――おまえはっ! 俺の妹になにしてんだよぉおおおおーーーー!!」
「ヒッ……ヒック…」
大和撫子は俺の下で泣いていた。本当にすまない…………
「いや、俺もそろそろ女性経験をしたくてな?今日はハイオーク討伐でも一番活躍したと言われたし、弥生さんにお礼を貰おうと思ってな?」
「て、テメェ〜〜〜!!!」
リーダーが俺に襲いかかるように顔面を殴る、俺はそれと同時に弥生さんのベッドから離れた。
「何を怒っているんだリーダー?そういう感じの事をジュリさんも言っていたしな?それに弥生さんも経験が無いんだろ?なら俺も経験が無いし一石二鳥じゃないか」
「ふ、ふざ、ふざけるな!!!」
好きなだけ殴れ……
淳はこちらに向かって来てふたたび俺の顔面を思い切り殴る…避けようと思えば簡単に避けられるがこの拳を避けるつもりは俺にはない…殴られて当然の事を俺はしたからな…。
「ジュリ!!お前がこいつに変な事を吹き込むからこんな事になったんた!!」
「……今回ばかりは何も言えないのだよ…」
「…え?え?」
猫少女はまだ何がおこっているのか判断できてないようだな。
「とにかくだ!!」
リーダーが弥生の所に行き泣いている弥生を抱きしめた。
「ヒック、ヒック……」
「天…俺は前に言ったよな?弥生を泣かせる様な事をしたら許さんと!!」
ああ、言われたよ……丁度この部屋で…。
「だから俺はお前を絶対に許さない!!このチームから出ていって貰う!」
「あ、淳それは…」
「ジュリ!お前にも少なからずこうなった責任はあるんだぞ?それに俺の大切な妹を襲った奴なんかと一緒に居られるか!!」
……当然そうなるよな…
「え?て、天さん出ていくんですか!?」
そうだよ、俺はこのチームを抜ける…いや、追い出される様に仕向けさせたと言った方が的確だな…本当に卑怯者だよ俺は…。
どうせこのチームを抜けると言っても皆は恐らく俺を引き止める、だったら俺が自分で抜けるんじゃなく、リーダーに追い出される形でチームを抜けた方が色々と楽だと思ったんだよ…。
嫌われて抜けた方が別れる時にそこまで辛い思いをしなくて済むからな……全部自分の都合だな…弥生にも出来れば殴って欲しいが彼女は今それどころではないからな…生まれて初めて男に寝込みを襲われたんだから…。
「…………」
俺は無言で脱いだ服を着て道着を持ちドアの方に歩いて行った…本当はここで「すまない」とか「わかった」とか言いたいが今そんな言葉を出してしまったら俺の真意が伝わってしまうかもしれんからな…ここは心の中で頭を下げさせて貰う…。
こんな恩を仇で返す様な事をしてしまって本当にすまない皆…。
「……なんで寄りにも寄って弥生なのだよ…」
ジュリがドアの横に立って悲しそうにそう言った…すまないな、お前だと「今回は許すけど次は許さないのだよ」とか言って一言で終わらしそうだったしな…もしかしたら一回ぐらいなら体を許していた可能性すらある…。
どちらにせよ淳を激怒させるには弥生しか選択肢がなかったんだよ…。
俺はドアを開けて部屋を後にした、今までありがとうな皆……さよなら…。
俺は部屋を出てそのままホテルを後にした。
「弥生さん泣いてたな……」
俺は夜空を見上げながら今、自分がした事を思い出していた。
「もっと別のやり方もあったかもしれんな……」
…何を今更言っているんだ俺は…少しでも後悔するぐらいなら初めからあんな事しなければいいのに…。
「…まずはあそこに行くか…」
俺は行き先を決めて村にあるバス停の方に向かった……ん?あれ?この気配って…。
タッ、タッ、タッ、タッ
遠くの方から誰か来たな?でも俺が感じたのはこの気配とは違う物だ……。
「て、天さん!ま、待って下さい!!」
「!!」
猫少女!追いかけて来たのか……。
「どうしたんだラム先輩、俺に何か用か?」
俺は普段通りに振る舞いながら答えの分かり切った質問をした。
「あ、あたし天さんを連れ戻しに来ました!」
「連れ戻す?俺をか?冗談言うなよ、俺は今このチームを追い出されたんだぞ?まあラム先輩は子供だからまだ早いと思うが、ちょっと男として我慢の限界だったんでね…弥生さんにお世話になろうと思ったら拒まれてしまった、あれは失敗したよ」
自分でも反吐が出そうになる演技をまた俺はしている、正直もう構わないで欲しい…。
「嘘です!!あんな事を天さんが本心からする訳ありませんです!!なんであんな芝居をしたんですか!」
「っ!!」
「いえ、本当はわかっているです……天さんはこのチームを前から抜けたかったんですよね?」
……驚いたな…いや、見くびっていたと言うべきか…。
俺がもし自分の真意を見破られる可能性があるとしたら一番は弥生の知能と思考からの推測だと思っていた、ただそれは逆にあの状況だとまずない…弥生は俺のせいでそんな事を考察できる状態じゃなくなっていたからだ…。
次に見破られる可能性は淳だ、淳もなんだかんだで知能も高い方だし洞察力もある、ただそれは冷静だった場合だ…しかも例え芝居でも大切な妹にあんな事をしたら許しはしないだろう。
最後はジュリだが彼女の場合はあの場所での発言権は皆無だ、淳も言っていたが旗から見れば彼女の今まで言動は少なからず今回の呼び水になってしまったと思われてしまうのは仕方がない事だからだ、例え俺の真意をあの時に見破って発言したとしても淳は納得しないだろう。
そしてラムは……正直に言うとまるで警戒していなかったな、そういえば最初に皆に会った時に淳が言っていたな…精神的にはラムはジュリよりも大人かもしれないと…。
「何故そう思うんだラム先輩は…」
「天さんが……あたし達のチームに釣り合わないぐらい強いからです」
「っ!」
おいおいおい、そんな事までこの子は見抜いていたのか?
「あたし達、獣型の亜人の女は危機察知能力、つまり相手の強さや脅威を見抜く力が強いんです…だから実は最初に会った時から天さんはあたし達とはレベルが違うのはわかっていたです…」
……俺は本当にこの子を見くびっていた……考えてもみればただ癒し系だからとか可愛いからだとかで多かれ少なかれ命が危険に晒される冒険士が出来る訳がない、それに淳達だってそんな理由で自分達のチームに加える訳がない…戦いにおいて相手の危険性を見抜くのはもしかしたら一番必要な能力だ、本当に俺は今までこの子の事を何も理解していなかった様だな…。
「あたし、天さんがあんまり頼りになるから今まで手を抜いていたんです…それに、天さんが皆さんと仲良くなってくれて心の何処かで今のままでも満足してくれてるって思って……全部あたしが思いやりがなかったから!」
「それは違う!」
そう、それは断じて違う!俺はただ自分の力と技を試したいという欲望で動いただけでそれには淳達に縛られるのが嫌だっただけだ、君が責任を感じる事など何もない!
「ラム先輩にだけは正直に話す…だから自分を責めるのは止めてくれ」
俺を責めるのは構わんがラムが俺の事で自分自身を責めるのは正直見てられない…はっきり言ってさっき淳に殴られたことよりよっぽどキツイ…。
「やっぱりアレはお芝居だったんですね?」
本当にこの子には敵わんな…。
「少し歩きながら話さないか?後、この事は出来れば皆には言わないで欲しい」
「……わかりました、天さんとあたしだけの秘密です」
「…ありがとう」
俺たちは村の出口にあるバス停に向かって歩き出した、どの道もう彼処には戻れんからな。
「俺はな、実はこことは別の世界から来たんだよ。 でな、そこで俺は敵なしの格闘家だったんだ」
「………」
こんな話しをしてもまず信じないだろうがな…。
「まあ、作り話しと思って聞いてくれても構わんよ。どう考えても嘘臭いし」
「信じます!だって天さんは魔力がありませんから!住んでた所が違うならその説明がつきますです!」
……えっと、本当にどうしちゃったのラムさん?
「話しを続ける…そして俺はこの世界に来て皆に会って、そして……モンスターと言う脅威が存在する事を知った…」
「……天さんは元の住んでた世界に帰りたいとは思わないんですか?」
「思わないな。正直ここは俺にとってはパラダイスだ。この世界には俺が本気を出すに値する生物がいるかもしれない。今まで鍛えてきた力や技を試せるかも……いや、試せるんだ!」
「…………」
引かれたかな?だがラム先輩、俺はそういう男なんだよ。
「村の出口だな…」
村の出口のバス停に着いた、当然バスは動いていないが俺は本気で走ればバスより数段速いからな、ここからあそこまでは走って行けばいい。
「お別れだなラム先輩…」
「……天さん…行かないでください…」
「……俺は自分の事しか考えてない身勝手で狡猾な男だぞ?さっきみたいに世話になった恩人も騙すし酷い事も平気でできる奴だ」
「違います!天さんは優しい方です!!」
優しい?俺がか?冗談いうなよ、チームを抜ける為とはいえあんな酷い事する俺が?
「違わないよ、俺は優しくなどない…」
「じゃあ、なんで今までこのチームを守ってくれたんです?なんでハイオークの討伐の時にジュリさんに味方して淳さんと弥生さんを説得してくれたんです?それに今日、天さんは村に来てからずっと思い詰めた感じでしたです…それはつまり騙すつもりだったかもしれませんが平気ではないということです!本当に酷い人はそういう事を気にしないと思います!」
……この子はやはりあのチームに絶対に必要な子だな…本人は自覚が無いだろうがその場の雰囲気や人の感情を良い方向にもっていく力がこの子の言葉にはある、戦い以外でこんなに気持ちが熱くなったのは久々だ…。
「だが、俺はもうどっちにしろあのチームにはいられないよ…」
「ヒック…ヒック、あたしも一緒に頼みますから、だから…だから!」
……俺の事を思って泣いてくれてるのか?あんな酷い事をした俺の事を思って……。
…今まで俺は何人もの人間を泣かせて来たがそれは力による絶望や恐怖、苦痛と言った感情からだ…さっきも弥生を恐怖で泣かせたばかりだというのに……生まれて初めてかもしれんな…俺の事であんなに温かい涙を流してくれた子は…。
「ありがとうなラム先輩…多分、君が初めてだよ…俺の事を思って泣いてくれた人は…」
母親ですら俺を産んで直ぐに親父に押し付けて離婚したからな…。
俺はいつの間にかラムの頭を撫でていた…。
「…ヒック…天さん…」
ガサガサガサ
……ん?この気配は…。
「ブオ、ブオ、ブオ?…ブオオーー!!」
…やっぱりさっきからの猛獣の様な気配はこいつか?元々、二体いたのかそれともまた新しく増えたのか…。
「ハ、ハイオーク!!」
そう、道路脇の茂みから今日、討伐した者と同じかそれ以上の大きさのハイオークが現れた。
「ラム先輩、離れていてくれ」
俺がそう言うとラムはすぐに俺とハイオークから距離を取った。
「ブオオーーーー!!!」
「悪いな豚…俺は今、お前と遊ぶつもりはまるでない、手短に終わらせて貰うぞ…」
「ブオー!!!」
また昼間みたいに頭から頭突きの体制で突進してきたな…芸が無い…。
シュ!!
俺はハイオークの突進を軽々と交わし、すれ違い様に右の手刀でハイオークの首を刈った、首がなくなったハイオークはそのまま反対側の道路の茂みに突っ込んで首はその場に転がった。
ボトっ!
「ひぃっ!」
…彼女には少し刺激が強過ぎる倒しかただったかな…。
「………そうだ…」
俺はポケットから自分のドバイザーを出してその場に落ちたハイオークの首と茂みに突っ込んだ首無しのハイオークの胴体、ついでに自分の財布に入っていたお札、全てをドバイザーに入れた。
「これを…」
「…え?」
そのドバイザーをラムに手渡す。
「皆に対するせめてもの償いではないが、チームの資金の足しにして欲しい…それにこれは元々、君のドバイザーだ…」
そう言って、俺は自分のドバイザーを彼女に渡すと、そのまま後ろを向きその場を立ち去ろうとする。
「ま、待って下さいです天さん!!」
「今のを見ただろ?…俺が怖くないのか?」
…何を会話してるんだ俺は…無視して立ち去ればいいだろ…。
「こ、怖くないです!お、驚きましたけど…天さんなら怖くないです!!」
……やめろよ……もう俺に構うなよ…。
「あ、あたし一人っ子で天さんみたいな甘えられるお兄ちゃんがずっと欲しくて…」
……俺も君のことを妹のように思っていたかもしれんな……ああ、胸がえぐれそうだわ……くそ!こんな風に別れたくないからあんな事までしたのに…。
「こ、これからはあたしも、もっとしっかりして天さんに甘え過ぎないようにしますです…ご、ご飯も食べ過ぎないようにしますです、直ぐに眠くなるのも我慢しますです……だから…ヒック…だから…」
…くそ…くそ!!動けよ俺の足……動けってんだよ!!
俺は自分の太ももを殴りその場を逃げる様に立ち去る。
「…ヒック…天さん!!天さ〜〜〜ん!!!」
後ろの方でラムが泣きながら俺の名前を叫んでいる。
……すまないラム…そして……
『だから言ったのだよ!ボクと天がいれば大丈夫だって』…ジュリ…。
『世の中の事はこれから覚えて行けばいいさ、俺達も協力する』…淳…。
『これから私達で天さんのサポートをして行きましょうね!』…弥生…。
……みんな、すまん。俺は今から君達とは別の道を歩む。
だがもし、もしまたお互いの歩む道が交わる事があったら……。
そのときは、今日してしまったことへの償いと、そして今日までに受けたお前らへの恩を、何らかの形で必ず返す!
そう心に誓い、俺は暗闇に支配された街道をがむしゃらに走り出した。
花村天の異世界武勇伝は、ここから始まったのだ――。
この物語の続きは、
『異世界武勇伝 〜格闘王が異世界を行く〜』
で読めます☆
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