テレビと現実と
慣れてきたとはいえ、俺はこの世界の一般常識に疎い。
リョーイチがいない間、昼間にやっているドラマを見ることだって勉強の一環だ。
そこでは男女の痴情の縺れがコミカルに思えるくらいに過剰に描き出されていて、世間ではこんなことが普通に起こっているものなんだろうか、なんて首を捻りながら見ていた。
-あなたを殺して、私も死ぬわ!
画面の中では激昂した女性が男性に包丁を突きつけていた。
(この女の人と、男の人は、付き合っていて...男側がもう一人の女の人と浮気していたのを怒っているのかな....?)
-別れたからって血の繋がりは消えないわ!
もう一人の女が窘めるようにいう。
(この人たち、兄妹で付き合っていたんだ!兄が他人と浮気しちゃったんだ!)
近親相姦は禁忌であるというこの世界の一般常識を思い出して、納得する。
(なるほど、話が分かってきたぞ)
感情移入が出来るかといったら全くもって出来ないのだが、今まで分からなかったドラマのストーリーが理解できるようになるのは嬉しいものがある。
しかし画面の中では最終的に兄が泣き崩れる妹に寄り添うようにし、女に別れを告げていた。
(あれ???兄妹なのに?あれ??)
頭の中を疑問符いっぱいにしながら、これはどういうことか戻ったらリョーイチに聞こうと思ったのだった。
*
テレビをつけていると様々な映画やドラマが放送されている。
それが洋画や邦画でも時代物なんかだと、レイジには設定から物語を汲み取ることが難しくなってしまい集中して見ることが出来ない。
だから自ずと現代を舞台にしたものを見ることが多くなっていた。
その中でも専門性が高いものはやはり理解出来ずに難しいみたいだが、普通にサスペンスなどは大筋が分かるようだ。
しかし極端な流血表現のあるもの、R指定のかかりそうなスプラッタものは苦手みたいで、好き嫌いを特に口に出して言うことはないが顔色を悪くしながら見ていることが多いので、気付いた時にはチャンネルを変えるようにしている。
感情移入をしながらの方が物語りに入り込みやすいとはいえ、レイジの場合は自分の経験に近いモノに感情移入しやすい為、見る番組を選ぶものも苦労する。
出来るだけ刺激の少ないもの、少ないもの、と探しているうちにDVDレンタルショップで子供向けゾーンに入っていたなんてことも少なくない。
でも一度、かの有名なテレビから女性が這い出てくるホラーを見せた時はけろりとしていた。
そういう点ではレイジは意外と図太いのかもしれない、なんて思わなくも無い。
俺があれはどうだこれはどうだとレイジの反応に気を揉みながら番組を選ぶのに反して、レイジは勉強とばかりに様々なジャンルを開拓していっているようだ。
「これはファンタジー?だから現実にはいない?」
「フィクション、であり、事実とは異なる、っていうのは現実にはない話ってこと?」
「この職業は本当にある?」
気になることがあれば都度俺に聞いてきたし、その内容から次第にレイジがテレビの中の話はほとんどが作り話であると分かってきたようだった。
「結婚出来ないのに好き合うことはあるの?」
「?!」
だから、そう聞かれた時は驚いた。
暗に今の関係を不毛な関係だと指摘された気もしたし、常識を知らないレイジを誑かしたと責められているような気もした。
嫌に鼓動が早くなる。
いつかレイジから「そういう好きじゃなかった」と言われる日が来るんじゃないかと内心不安に思っていたのだ。
どう説明したらいいのかと、言葉を詰まらせていると、
「昼にドラマで、兄妹で付き合ってる話してた」
レイジが補足のように付け足した。
(.........昼ドラか)
心の底から溜息が出た。
「....作り話だから、そういう設定もある。現実はどうか知らないけど...昼のドラマは設定が複雑だからお勧めは、しない」
「はーい」
テレビのチャンネルを教育番組に固定することは出来ないだろうか、と半ば本気で考える。
「でもね、でもね、好き合ってる人同士は、何もなくても手、繋いでいいんだって言ってた」
そう言って上機嫌で手を握ってくるので、治まりかけたと思った心臓が跳ねた。
きっと、レイジにテレビを見続けさせるのは、俺の心臓を強度を試すことと同義だ。
(逞しくあれ、俺の心臓)




