飲み会にて
最近長谷の付き合いが悪い。
飲み会誘っても来ないし、合コンなんてもってのほか。
講義が終わったらすぐバイト行くって言って帰るし。
シフト入ってないはずの日にも駄弁らずに早々に切り上げるし。
別に連れは他にもいるから寂しいなんてことはないんだけど、人数は多いほうが楽しいと思うんだよね。
長谷はあんま自分のこと話さないから、酔った勢いとかで聞き出したら色々出てくんじゃないのって思ったら、益々これは飲みに連れ出さなきゃって使命感みたいなものまで湧いてきちゃったよね。
「で、長谷いつ空いてんの?」
「ん?」
「いや、飲み会やろって話」
「あー...」
ほらすぐ言い淀む。
「バイトばっかしてないでさー短い学生生活楽しもうぜー」
「んー」
「たまには皆で飲もうぜ。別の学科の奴らとか滅多に会わない顔ぶれも揃えてさ!」
「...そうだな...」
最後まで迷った雰囲気を出しつつも、了承を勝ち取った俺まじ皆に褒め称えられて然るべし。
近くで様子を見守っていた友人にドヤ顔で報告してやる。
その場で日時を決めて「ゼッテーその日シフト空けとけよ」と念押しして準備は万端。
さてメインが来ることが決まったら、あとはメンバーを揃えて店を予約するだけだ。
そこは数多の飲み会の幹事を務め上げてきた俺の腕の見せ所と言ってもいいだろう。
無駄に広い顔と学生向けの割安の飲み屋を熟知している俺に掛かればその日の内に全て完了させることは造作も無いことだった。
しかし予想外だったのが、長谷の女子ウケがいいことだ。
長谷が来るなら、と言って参加してくれる女子多数。それでも男子の方が圧倒的多数だったが、男子の多い学科にとっては充分華やかな飲み会になることは間違いなかった。
今後合コン開催時には長谷を呼ぼうと心に刻んだ。
さて当日。
ちゃんと集合時間5分前に現れた長谷の姿にほっとしつつ、居酒屋へ案内する。
「え、多くない?」
長谷が驚くのも無理はない。いつもは仲間内10人程度で集まる規模だが、今回はざっと見ても30人は入れる座敷を貸し切ったのだ。
「...やっぱそう思う?俺も張り切り過ぎたって反省してる」
声を掛ける内に人数が膨らみ、何を目的とするでもない飲み会に約30人もの数が集まってしまったのだ。
「ま、多い方が楽しいっしょ」
これは本心だった。
久々にお祭り騒ぎが出来るかもしれないと期待を込めつつ、乾杯の音頭をとった。
数分もしない内に最初に座った席に留まっている奴らの方が少数になってくる。
各々喋りたい者同士で集まって飲み食いしていく形になっていくが、やはり珍しいのか長谷の方に人が多く集まっていた。
「長谷が参加って珍しくね?」
「あ~長谷君参加してる~」
「久しぶりじゃね」
愛想はないが、悪い奴じゃない。言葉数は少ないが、面倒見のいい奴。多分それが皆の共通認識だと思う。
「おう」
言葉少なにグラスを合わせる長谷に、それぞれが絡み出す。
頭が金髪のド派手な奴と挨拶を交わしたと思えば、黒髪眼鏡君の零す講義の愚痴に同意し、積極的な女子の露骨な絡みを卒なくあしらって飲み食いしている。
本人は交友関係が狭いと勘違いしているようだが、意外と顔が広いのだ。
「長谷ってお酒強かったっけ?」
俺は周りに座っている奴らに問い掛ける。
「いや、シラネ」
「ん~あんま酔ってるとこ見たことないかも」
「てか酔った奴の介抱しているイメージ」
「それだ」
「酔ったらどんなになるか見たくね?」
「うわ、お前悪い顔してる~」
悪ノリしてくれる友人に感謝である。
複数人引き連れて瓶ビールを片手に長谷の元へ。
「やほー長谷飲んでるかい?」
「おう」
「違うだろ、こいつ食べてばかりなんだけど」
「ま、ま、飲めって」
「おう」
長谷は飲む以上に、食べる。
グラスを空けさせたいのに、箸を置かないせいでなかなかピッチが進まない。
少しは酔いが回ってきたのだろう。言葉数がいつもより多く、女子と料理トークを始めている。
(きっとそういうところが女子ウケするのね、うんうん)
妬むモテない男子一同を煽って長谷を酔わす!と決意を新たにする。
しかし思った以上に長谷は酒に強かった。
(あれ、これ、何杯目だ...)
腹が満たされたであろう長谷に次々と酒類を勧めるが、付き合って飲む奴が次々と撤退していく。
本人はしれっと飲んでいる風に見える。むしろ酔った奴の心配をしているくらいだ。
「長谷、酒強くない?」
「そうか?結構酔ってきてる」
「酔っ払ってる奴は酔ってないって言うモンなんだよ」
「そ、そうか」
代わる代わる誰かしらがお酌し、何人目かが撤退した頃、長谷がトイレに立ち上がる際ふらついた。
(おっと、ついに!)
戻ってきた長谷に絡む奴らも大抵酔っ払っていて何を言いたいのか要領を得ないが、返事をする長谷も生返事が多くなってきた。
「なー長谷は彼女ほしーとか思わねーの?」
周りの女子の意識がこちらを向く気配がした。
「んー.....」
「何それーバイトばっかすんの止めたらいーのに」
「生活がさー」
「苦学生は辛いよな」
「...そうなぁ」
その時机の上に置いてある誰かのスマホが震えた。
「あ、俺んだわ」
長谷のものだったらしい。席を立つのが億劫らしくその場で電話に出た。
「...うん、もう帰る...いいよ、先に寝てな」
長谷が幾ら面倒見のいい奴だからって、誰彼構わずこんな優しい声出すもんか。
(彼女いるんじゃねーか)
「悪い、俺、帰るわ」
長谷はふらつきながらも帰っていった。
その頃にはまともで居られた奴なんて数える程しかいなかっただろう。
酔い潰れた男多数と、失恋に咽び泣く女子若干名。
割りに合わない犠牲である。
俺の脱力する様子から、実はゲイで長谷狙いだったという噂まで立つ始末で、ホント割に合わないなんてもんじゃない。
後日、長谷に会った際に軽く嫌味を言ってやった。
「飲んで食わない奴は多いけど、お前は食うし飲むし、将来絶対太るぞ」
「まじか」
腹を摩りながら呆然とする長谷に少し気が晴れた。
*
久々にあんなに飲んだ。
もともとそんな強い方ではないのに、周りに合わせて飲んでいたせいだろう。
最後の方の記憶はほぼない。
周りの奴に何かやらかさなかったか尋ねたら、何故か俺に彼女がいることになっていた。
飲み会の際に近くに座っていたはずの小塚に聞くと
「お前は酔っていても顔に出さないで記憶飛ばすのタチ悪いよな」
と言われた。
しばらく禁酒しようと思った。




