男らしさ
薄々と気付いてはいた。
最初は何でこうも絡まれやすいのか不思議だったけど、俺みたいな大人しそうに見える輩は絡まれやすいのだと思い込んでいた。
リョーイチ以外の人相手にすると、焦って上手いこと日本語を話せなくなるし。吃るし。臆病なのは自覚しているし。
悪意ある人からしたら、いいカモなんだろうと、ちょっとからかって遊ぶ相手としてはもってこいなんだと、そう思っていた。
俺ってば、女の人に間違えられてた?
これは、地味な衝撃で俺のちっぽけな自尊心を揺さぶった。
(俺、ちゃんと男なのに........)
今まで自分の身形について考えたことはなかった。
それこそ、生活する上で必要か否か、邪魔か否かが判断基準で、美醜や男らしさなんて観点が全く無かったというのが原因だろう。
(これは、勉強する必要がありそうだ)
スカートは主に女性がはくもの。
明るい色の華やかな服も、どちらかと言えば女性の方が多い。
髪が長いのも、女性であることが圧倒的に多い。
俺の感性からすれば、特に違和感がないことの方が多かった。
スカートは履かない(というかこの部屋にはない)が、前の国ではワンピースに近い服装で過ごしていたので、正直男の人がスカートを履いていても違和感はないと思ってしまう。上下を一枚の布で完結出来る服装は貧困層の中では普通であったし、身分の高い人間も、布はふんだんに使用してはいたが、形はスカートに近かったように思う。
柄の有無は男女差というより、貧富の差で大きく異なっていた。俺のような立場の人間はもちろん無地だし、一般人だと刺繍が少し入っていたくらいだろうか。あまり他人の服装を注視してこなかったのでうろ覚えだが。
今のところ、俺はリョーイチが渡してくれるサイズの合う服を着ている。
それも特に色や柄などは気にしたことはなかったが、思い返すと明るい色や華美な柄物が多かった気がする。
男であるとアピールする為には明るい色は避けた方がいいのかもしれない。
そして髪型も、こちらは確かに男性は短髪であることが多い。
あちらでは、男女関係無く長髪の人間がいた。ただ、暑さからか、短髪の人間の方がはるかに多かったが。
俺は現状肩に掛かる程度の長さだ。
切る余裕がなかったのと、結べるくらいの長さが邪魔にならなくて丁度よかったからだ。
しかしここでは女性らしく見えてしまうのかもしれない。
これはリョーイチに散髪のお願いをしなくては。
*
「リョーイチ、レイジの髪を切って欲しい」
レイジが突然そんなことを言い出した。
前髪は邪魔だろうと思って何度か切ってやったし、レイジ自身で切っている様子もあった。
しかし、後ろ髪はもう肩を越してしまっている。ヘアゴムは買ってあげていたし、本人も気にした様子はなかったので放置していたのだ。むしろレイジの居たところの文化圏では長髪がメジャーなのかとさえ思っていたくらいだ。
「どのくらい?」
希望の長さを聞くと、
「リョーイチくらい」
と宣ふ。
(いや、さすがに美容師じゃないから、無理)
咄嗟に口をついて出そうになった言葉を飲み込む。
俺は短髪も短髪。両サイド刈上げのベリーショートだ。レイジを同じようにしようと思うと、明らかに技術やら何やらが足りない。
「んん、レイジにはショートカットくらいがいいと思うけど...」
「...わかった、それにして」
レイジは不本意そうな顔をしながらも、俺が出来そうな範囲で納得をしてくれた。
最初は痛みが多く絡まりやすかった髪は、今では艶を増して柔らかくふかふかとしている。俺は得意気になって毛を梳かしてはハサミを入れていった。
しかし弟や妹たちの直毛を切るのとはまた訳が違った。
レイジの癖っ毛は思いの外強く、切る度にあらぬ方向へと跳ねて上手いこと形が整わない。
微調整を繰り返すうちに耳下の長さで切り揃えるつもりのラインが上へ上へと上がってしまい、最終的にショートボブへ。
(癖っ毛も、まぁそういう風に遊ばせているように見えなくもないよな、うん)
鏡を渡して確認して貰えば、レイジは短くなったことに思いの外喜んでくれてほっとした。
後で分かったことだが、レイジは短髪=男らしさと捉えたらしく、ベリーショートが似合う女性がいるということも、またレイジがそういう風に見えてしまっていることも、分かっていなかったのだ。
後日、滅多に言わない我侭を言ってまで揃えた暗い色の服を着たというのにナンパに遭ってショックを受けているレイジを見て、俺は何と言って慰めたらいいのか分からなくなるのだった。




