表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人観察日記  作者: ミチコ
57/74

電車1


この混雑具合はいつ来ても慣れない。

初めてリョーイチと来た時は、はぐれたら最後永遠に会うことが出来ないんじゃないかと思いずっと片袖を握り締めて行動していたくらいだ。

しかし今では看板の色と文字で目的地までの乗り場を探すことができるようになった。


ぎゅうぎゅう詰めのことをなんて言ったっけかな。

(そうだ、鮨詰(すしづ)め、だ)

電車のドアに押し付けられるようにしながら、そんなことを考えていた。

最近寒くなってきたからと思って着込んでしまったが、車内は人の熱でむんとして暑いくらいだった。

(次の、次の、次の、次の駅)

地名や駅の名前は漢字だと何と読むのか分からないものが多く、だいたい字面と順番で覚えている。

リョーイチからここまで来て欲しいと指定された駅は住んでいるマンションから数駅の繁華街だった。

電話口で、今繁華街にいるから、たまには外でご飯食べようと誘われたのだ。

最初はリョーイチは俺が一人で出歩くことに対して過剰に心配したけれど、ここ最近はそれも落ち着いて、俺が乗り物が好きだと分かるとむしろ積極的に電車に乗る機会を作ってくれた。

一人での外出も、一人で電車に乗ることも初めてではないし、少しの緊張と興奮はあるが、混乱しないだけの余裕はあった。


流れていく景色はいつ見ても、賑やかで、鮮やかで、美しい。

綺麗な家、少し雑多としたビル、背の高い木々、それよりも高い電柱、様々なものが混在してこの都市の景観を作り上げている。今その中を自分が通っているのだと思うと、感慨深いものを感じた。

その景観のバックに広がる空は綺麗な夕焼け色で、雲を鮮やかに染め上げている。

雲の形は日によって様々で、ぷくぷく膨らみ上がった雲があると思えば、薄く伸ばした線状の雲もある。

俺は夏場良く見かけた「にゅうどうぐも」という形が一番好きだが、リョーイチからあの雲はカミナリを連れて来るというのを聞いてからはあまり好きになれなくなった。遠くで見ているのが一番だ。

今日の雲はすっと切れ長で横に長く、何本もそれが横向きになって連なっていた。

(綺麗だなあ)

俺が押し付けられている側の扉は俺の目的の駅まで開かないらしく、俺は扉にへばりついて外の様子を楽しんで見ていた。

余りにも外に集中し過ぎていたからだろうか、違和感に気付いたのは目的の駅の二つ前の駅を出た辺りだった。

後ろに立っている人が、やたらと押してくる、気がする。

確かに車内はぎゅうぎゅうに詰まっているが、でも周りはなんとか一人一人自立出来ているくらいだ。そんなに俺に凭れ掛からなくても立っていられると思う。

ぐいぐい、と背中を押された。

(いや、もうこの扉以上に向こうにはいけないよ...!)

扉にへばりつくような格好になって何とか詰めようとするのだけどそれも限界がある。

しかし、後ろの人が押し付けてくる手のひらが、背中から腰辺りまで撫でるように動くと、あれ、と思った。

(この人、ただ押しているだけじゃない...?)

これ以上押したとしても俺は動けないと分かっているだろうに、その手は俺の身体から離れない。

貴重品は正面に回して抱えるようにして持っているバッグの中だ。俺の背中には何もない。

それなのにこの人は何かを探すかのように俺の背中から腰までを撫で回している。

(????)

一体何がしたいのだろう、この人は俺にどうして欲しいというのか。

後ろを振り向いて問い掛けてみようと思った時。

腰辺りを撫でていた手が(おもむろ)に着ていたパーカーの中へと滑り込んできた。

「...っっ?!」

バッグを抱えている手に力が籠もってしまう。

パーカーの下にもカーディガンとTシャツとインナーを着込んでいるが、それを捲り上げて中に侵入しようという手付きだ。

(え、ちょっと待って、待って、何)

捲り上げられまいと必死にTシャツの裾を押さえるが、バッグを持っている為片腕でしか防げない。


これはどういう状況だ。

リョーイチに電話して聞きたい。

でも電車の中は、通話禁止だ。

この非常ボタンってなんだろう。

この状況で押していいボタンかな駄目かな。

今どこの駅出たっけ、あと何駅で着くかな。

一気に色んなことが頭を駆け巡った。


服の中を(まさぐ)る手は急いているような手付きでついにTシャツの中まで侵入してしまった。

薄いインナー越しに手の温度が伝わってきた。

ぞっとした。

俺の顔は今青褪めていることだろう。

手は腰辺りでもぞもぞと動きインナーを引っ張りだしている。

このままいったら素肌が晒されてしまうのではないだろうか。


背中の傷跡まで、暴かれてしまうのでは。


俺の背中の傷跡は、唯一この平穏な日常に不似合いなモノだ。

俺を、この場に相応しくないとする、唯一の、証拠だ。

それを見られてしまうということはどういうことなのかを考えると、頭が真っ白になってしまった。



「...Are you okay?」


横から声がした。

声のする方を見ると、長身の男が俺の方を見ていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ