海
「海は、どのくらい大きい?」
レイジのこの一言で、今年初の海行きが決定した。
都心からそこまで離れていない場所で、水はそこまで綺麗とは言えないが、それでも水平線が見える程度に開けていて、手頃に海水浴を楽しめる有名な所だった。
しかし、お盆を過ぎたらクラゲが大量発生するなんて言われているせいか、はたまた強すぎる直射日光のせいか、海水浴場の人は疎らだ。
砂浜が太陽の光を反射して眩しいを通り越して最早痛いくらいだ。
海は静かで、時折この目の前の水分が蒸発したのだと思わせるような湿った風が吹いた。
涼むならクーラーの効いた商業施設で充分だし、泳ぐだけなら屋内プールが一番快適だろう。
俺は暑さに早くも挫けそうになっていたが、海のことを尋ねるレイジのキラキラ輝く瞳を思い出すと、耐えられなくは、ない。
以前から海に対する並々ならぬ憧れを抱いていたレイジにはきっといい機会になることだろう。
海を目の前にしただけでこれだ。
「水がこんなにもあるはすごいこと!」
「この水はどこから来るの?」
「くじらはいる?」
好奇心が隠せないように次々出てくる質問に俺は苦笑するしかなかった。
「近くで見てみようか」
堤防を降りて波打ち際まで近寄ってみる。
近くで見れば水は透き通ってそれなりに綺麗に見えた。
一見穏やかに見えたけれど、近くまで行けば波が打ち寄せる度に足元に水飛沫が感じられる程度には波打っていた。
レイジは砂浜の貝や小蟹に驚きながら、打ち寄せる波が足にかからない様にわたわたと歩いた。
今日はレイジの表情がよく動く。
(楽しそうで良かった)
暑さに強いレイジはあちらこちらへと忙しなく動き回った。
サンダルを脱いで海に入ってみたり、小魚や小蟹を追いかけまわしたり、防波堤の隙間を覗いてみたり。
俺はレイジが目の届く範囲から出ないようにだけ気を付けながら、砂浜にしゃがみ込んで様子を見守っていた。
しかしレイジはたまに思いもよらない行動を起こすことがある。
何を思ったか、海水を手で掬って口に含んだのだ。
「しょっぱい!」
それはもう、衝撃的だと言わんばかりの表情で、俺の方を見て、
「リョーイチ、このままじゃ飲めないよ...」
非常に残念そうに、そう言った。
俺はしばらく腹を抱えて笑った。
レイジにとって印象に残る夏の思い出になったことは間違いなかった。




