帰省 S2
それから晩御飯まで双子と一緒に色んなゲームをした。
テレビゲームなど機械を使うゲームは自信がないと話したら、数字の書いてあるカードを使ったものや、専用の駒とボードを使うアナログなゲームを提案してくれて、簡単なルールのものから順に教えてもらって楽しんだ。
晩御飯にはリョーイチの家族と一緒にテーブルを囲んだ。
向かいに座ったお母さんが「お箸上手に使うのね」とか「味は口に合う?」など気さくに話しかけてくれた。俺は斜め向かいに座るトールの様子が気になってちょっと緊張していたから、気を遣ってくれていたのだと思う。
正直に言えば、ご飯の味はあまり覚えていない。
リョーイチは傍にいるのに、何だか無性に帰りたい気分だった。
リョーイチは俺を気遣ってなのか、弟妹に構って疲れたからなのか、早々に寝ようと言ってくれた。
俺とリョーイチはカズキの部屋を借りた。客用の布団が一組用意されたけど、俺がいつもベッドで寝ているからと俺にベッドを譲ってリョーイチは床に布団を敷いて寝ることになった。
やはり慣れない事続きて疲れていたのだと思う。俺は横になったらすぐに意識が沈んでいった。
朝、昨日はいつもより早く寝たせいだろうか、いつもより早く目が覚めた。
床で寝ているであろうリョーイチの様子を見ようと横を見て、驚いた。
リョーイチのほかに三人も人が増えていたからだ。
ミツキとカズキに、トールまで、リョーイチの横で寝ている。
もうミツキなんて布団に乗っている部分が無いほどだ。
いつの間にという驚きもあったが、トールはリョーイチを嫌っているのだと思っていたから、リョーイチの横で眠る姿に双子と同じように慕ってくれているのだと分かって安堵した。
一枚の布団の上で寄り添うように寝ている姿は、まさに仲の良い家族の図といった感じで、見ているだけでとても温かな気持ちが湧いてくるのが分かった。
それに少しの羨望が混じってしまうのは、最近欲張りになってきている証拠だ。
欲張ってもいいことはない、現状自分はとても幸せな状態なんだ、そう言い聞かせないと、この欲は際限なく膨らんでいってしまうもののように思えた。
まだ6時になったくらいだろうか、外は明るいが四人を起こすにはちょっと早いかもしれない。
いつもなら勉強をしながらリョーイチが起きてくるのを待つのだが、生憎ここには勉強道具を持って来ていない。
仕方なしにぼんやりとしていると、音を立てないように階段を上ってくる気配がした。
おや、と思う間もなく、男性がドアからそっと顔を覗かせた。
起きている俺を見つけて、少し驚いたようだったけど、すぐに潜めた声で「いらっしゃい」と声を掛けてくれた。
四人が寝ている姿を見ているその表情は、とても穏やかで、嬉しそうだった。
しばらくじっと見ていたかと思うと、「じゃあね」と小さく声かけてドアを閉めて行ってしまった。
後で聞いた話から、それがリョーイチのお父さんだと知った。
リョーイチとは余り似ていない感じの人だったけれど、とても柔らかい表情が印象的だった。
しばらく四人の寝姿をじっと眺めていると、最初にトールがもぞもぞと起き出した。
上半身を起こして覚醒しきらない様子でぼおっとリョーイチの方を見ていたが、俺が起きていることに気付くと驚いたようにこちらを見て、
「おは....っす」
と掠れた声で挨拶をしてくれた。
そしてそそくさと部屋を出て行ってしまった。
それから双子も起き出して、双子がリョーイチを(文字通り)叩き起こして、皆で朝食を囲んだ。
トールの機嫌の悪さはすっかり鳴りを潜めていて、和気藹々と食卓を囲む様子は、誰がどこからどうみても、仲良しな兄弟・家族の画に違いなかった。
俺だけが、まるで異分子みたいに浮いていた。
二泊して、家族に大層惜しまれながらも、リョーイチの実家を後にした。
帰り道、ユーウツだと言ったリョーイチの表情はすっきりと晴れていて、とても気分が良さそうに見えた。
きっと心配していたことが解決したのだろうと思う。
ただ、今度は俺が「ユーウツ」になる番だった。
部屋に戻って漸く一息吐ける心持ちになった。やはり楽しいことでも、慣れない外出で気を張って疲れていたのだと思う。
俺にとっての実家は、この部屋で、リョーイチといるこの空間なんだと、実感した。
そして、俺にとってはそうであっても、リョーイチの実家は別にあるのだと思うと、とても寂しい気持ちになった。
心安らぐこの空間を共有出来ていないかもしれないという不安は、どうして湧いてくるのだろう。リョーイチとの間に確固たる繋がりがないからだろうか。血の繋がりなんて気にしたこともなかったけれど、トールやミツキ、カズキを見て、心底羨ましいと思ったのだ。
自制しなければとずっと抑えていたはずの思いが、ぽろっと零れ落ちた。
「レイジもリョーイチの弟になりたい」
リョーイチは驚いたような顔をした。
そして「なんでお前がホームシックみたいになってるんだよ」と言って困ったように笑った。
ホームシックの意味は分からなかったけれど、リョーイチを困らせたのは分かったから、「ごめんなさい」と言って、もうそんな我侭が漏れ出さないように、これからも育っていくであろう我侭に固くきつく蓋をした。




