帰省4
俺の心配を余所に、レイジは双子に打ち解けた様子でボードゲームについて教えてもらっていた。
美月には破天荒な明るさがあり、和希は消極的だが相手を気遣う優しさを持っている。小学生も高学年になれば多少擦れてくるものだが、この双子は純粋なまま育ってくれているようだった。
レイジもこの二人は無害だと感じたのか、随分と熱心に二人の言葉に耳を傾けてゲームの説明を聞いている。
ただし、遊んでくれていたのか、遊ばれていたのかは定かではない。
夕飯前には父親以外の皆が揃うことになった。
透はてっきり帰ってこないものかと思っていたが、18時には帰宅して一緒に夕飯を囲んだ。
「父さんは?」
「今日遅くなるって。残念がってたわー。明日の朝出勤前に顔見せてあげて」
「起きられたら」
「起こしにいくわよ」
軽口を交わすのも久々だと思うと同時に、意外とギクシャクしないものだと、構えていた分肩透かしを食らった気分になった。
(1年会わなくたって会話の仕方を忘れる訳ないか)
しかし、目の前に座る弟、透とは一体どう会話したものか。
何を言っても反発されそうで、最初の一言を掛けるのを躊躇ってしまう。しかしそれとは反対に、双子は代わる代わる近況を口にしてくれる。
「りょーちゃん、りょーちゃん、美月は体育係になったの」「ぼくは図書委員だよ」「運動会でね、美月の組が勝ったの!美月がね、リレーのアンカーでね」「夏休みが終わったら文化祭があって、僕がスタンプラリー作るんだ」「もう今美月が話してるの!」「違う!僕が話しているから美月はしぃー!あのねりょーちゃん、美月はまだ夏休みの宿題していないんだよ」「違うの!もうやった!」「嘘!僕の写しただけでしょ」
「こら!ちゃんとご飯食べてから話なさい!遅い方に皿洗いしてもらうよ」
母親の注意で延々と口を閉じなかった二人が今度は早食い競争を始めた。
「お兄ちゃんがいるから今日はテンション高めね」
いつも以上に賑やかな訳だと母親が呆れたように言った。
双子が無言でご飯をかき込んでいる中、透がぽつりと俺に問い掛けた。
「いつ戻るの」
「明日.......か明後日、かな」
「ふーん」
正直レイジの負担になっていないかが心配で一泊だけして帰ろうかと思っていたが、明日と回答した時透の眉間の皺が深くなったので思わず延ばしてしまった。
(てっきり早く帰れって言われるのかと思っていたけど...)
反抗期の若者、何考えているのか謎過ぎる。
子供部屋は3部屋あり、昔俺が使っていた部屋は透が、残り2部屋が美月和希それぞれの部屋になっていた。
今日は和希の部屋を空けてもらいレイジと二人使わせてもらうことになった。
和希は美月と同じ部屋で寝るそうだ。よく喧嘩もするが何だかんだ言って仲がいい二人なのだ。
レイジはいつも早寝だからと言って、10時頃にはもう一緒に部屋に下がった。
「今日は疲れたろ、慣れない場所で知らない人に囲まれて大変かもだけど、もう1日頑張ってくれな」
「うん、大丈夫。ミツキもカズキも、優しいのと教えるの上手」
「そうか、よかった」
早々に消灯すると、疲れていたのだろう、すぐにレイジの寝息が聞こえてきた。
しかしそれとは別に、ドアの外からもぞもぞと音が聞こえる。
(まぁ予想はつくけど)
そっとドアが開いたと思ったら、予想通り、双子が枕とタオルケットを抱えて入ってきた。
「レイジ寝ているから静かにな」
と小声で言えば、小声で「はーい」と2つの返事が返ってくる。
何を指示する訳でもなしに、二人はそそくさと俺の左右に分かれて寝床を整え始める。
(そうだよな、昔はこうやって寝かしつけていたんだよな)
双子が小さい頃はこうやって川の字で寝ていたと思い出す。
末っ子の特権というのだろうか、双子は甘えるのが上手だったし、俺も俺で甘やかすのが好きだったから、結局母親の再婚が決まるまではずるずると添い寝を続けていたのだった。
こそこそ潜めた声で話しては、静かにさせてを繰り返し、ようやく双子が寝付いて俺もうとうととしだした頃、また似たような気配をドアの向こうに感じた。
母親が部屋に居ない双子の様子でも見に来たのだとあたりをつけて睡魔に身を任せていると、ドアが静かに開く音がして、そしてすぐに閉じられた。
てっきり一目確認して戻ったのだと思ったが、それは部屋の中に入ってきた様子で、そして俺の枕元にまできたではないか。
何事かと思い、重い瞼を持ち上げて様子を伺う。
「?!」
思わず声を出しそうになった。
枕元に透が立っているからだ。
予想外もいいところである。
「どうした」
小声で問い掛ける。
「...別に」
言葉とは裏腹に、透が立ち去る気配はない。
俺は、眠い。
「おいで」
和希を跨いで俺の右側を空けて、そこに透を招く。
透は素直に俺の隣に収まった。
透は、横になりながら、
「今日来るって、聞いてなかった」
と、恨みがましく呟いた。
(もしかしてこれが不機嫌だった理由か?)
「そっか、ごめんな」
「うん...ちゃんと連絡して...予定、空けとくし」
「...おう」
4人で寝るなんて何年ぶりだろう。
透、俺、和希、美月の順で並ぶ格好だ。もう布団なんてないようなものだが、夏場でタオルケットを辛うじてひっかけているだけでも充分眠れているので問題ないだろう。
透は早々に一人寝出来るようになったから、双子と比べたら添い寝した期間は短かったかもしれない。当時はそれなりに弟妹たちに気を配っていたつもりだったが、透は手の掛からない子だからと双子に比べて見てやれなかった部分が多かったのも事実だ。寂しい思いをさせていたのかもしれない。
(今になって気付くことも、あるんだなぁ...)
翌朝、起きたときには透の姿はなかった。
懐かしさのあまり夢でも見たのかもしれないと思ったが、朝食時に会った透は昨日の不機嫌が嘘のように普通に話しかけてくれるようになったので、調子に乗って
「今日も一緒に寝るか?」
と聞いたら、
「馬鹿じゃないの」
と返された。反抗期男子は当たりが強い。
しかし、その日の夜、双子と透が俺の左右どちらで寝るかで部屋の前で大喧嘩していたことは、帰省の思い出として胸にしまっておいてもバチは当たらないだろう。
(来年もちゃんと帰ろう)
ちゃんと、そう思えた。




