帰省3
自動改札機はあるが売店はない。小奇麗に改装されているが、物寂しさを感じる程度には田舎な、見慣れた駅の風景だった。
実家は駅から歩いて15分程のところにある。
車で迎えに来てくれると言ってくれたが、何となく顔を合わせるのを遅らせたくて断ってしまった。
レイジには申し訳ないが、暑い中一緒に歩いて貰うことにする。幸いして荷物は少なく、軽装なのでそこまで苦にはならないだろう。
閑静という表現が当てはまるのか、どこかうら寂しいこれといって特筆すべきものが周りに無い住宅街の一角に実家はある。
築年数もそれなりで、周りに程よく馴染んだ一般的な戸建てといった風貌だ。
しばらく帰っていなければ他人の家のように感じるかとも思ったが、いざ家を目の前にしてみれば、慣れ親しんだ我が家だとしっくりきて、何だかそれだけで感慨深くなってしまった。
インターホンを押せば、誰が来たのかを分かっているみたいにドアの向こうが騒がしくなる。
「りょーちゃん!おかえりー!」「おかえりい!」
この声は美月と和希だ。
勢いよく扉が開いたかと思えば、その勢いのまま突進してくる。
右腕に美月、左腕に和希を抱えると、ふんと勢いをつけて持ち上げた。
「ただいま、美月、和希。さすがに重い!」
下ろそうにも本人たちに下りる意思が無く、むしろしがみついてくるものだから、両腕で米俵でも担ぐ気持ちで抱えなおした。
二人とも小学生の高学年になったくらいだろうか。去年よりも背は伸びたのだろうが、俺との身長差を考えれば微々たる変化のように感じてしまう。しかし両腕にずっしりとくる体重はしっかりとその成長を表していた。
両肩の双子はきゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいる。
「ただいまー」
双子の声で掻き消されているだろうが、一応声を掛けておく。
「おかえりなさい。暑かったでしょー、だから迎えに行くって言ったのに」
母親が居間から出迎えてくれる。
「案外大丈夫だったって」
「そんな汗かいて?」
「これは双子のせい」
「美月和希もう下りなさい、お兄ちゃん重いって言ってるでしょ」
ぶうぶう言いながらも、双子は素直に下りてくれた。
「お友達も、上がってらっしゃい」
母親がそう玄関に向かって声を掛けるのを聞いて、レイジが玄関で立ち止まったままだったことに気付く。
「ガイコクジンだ!」
美月がレイジを指差して驚いたように声を上げる。和希は知らない人が居ると知ると、さっと母親の近くへと下がってしまった。
「レイジ、紹介するからおいで」
レイジは強張った表情で隣まで寄ってきた。
「これが母さん、こっちが妹の美月と、弟の和希。こいつは、大学の友達のレイジ。日本語怪しいかもだけどよろしく」
「よろしくおねがい、します」
「はい、よろしくね」
母親がおおらかな性格で良かったと思う。外国人を連れていきたいと言った時も、もちろんと即答してくれた。変な偏見や気遣いがなく、普通に友人が遊びに来た時と同じように接してくれるようで、それがとても有難いことのように思えた。
居間で出されたお茶を飲んでいると、慌しく階段を降りる音が聞こえてきた。
そして間髪入れずに居間のドアが開けられた。
現れたのは透だった。
真っ先に俺と視線が合ったと思う。
さすが成長期、前見たときより更に背が伸びている。髪も少し伸ばしているのか、小学生の時に比べたら随分と大人びた印象を受けた。
「ただいま」
目が合ったままだったから思わず口にしたが、すぐに目を逸らされてしまった。
「聞いてないんだけど!」
激しい音を立てて居間のドアが閉じられた。そしてそのまま玄関から出て行く音がする。
明らかに不機嫌な態度だった。
「...反抗期?」
視線を母親に寄越せば、いつものことだと笑って返された。
(しばらく見ない間に、あの透が、反抗期に...)
無邪気な双子の変わらない様子に無意識に安堵していたのだろうか、弟の変化には少なからずショックを受けた。
中学2年生ともなれば思春期真っ只中だ。反抗期に入ったっておかしくない。
(あれ、俺の反抗期っていつだったかな...)
自分の時はどうだったかなと記憶を遡ってみても、反抗期らしい時期に思い当たる節がない。母親も、俺の反抗期を経験していないのだから、透が初めての反抗期の息子という訳だ。さぞかし手を焼いていることだろう。さて、どう対処するのが正解なのだろうか。
と、そこまで親の立場で考えてふと思い至る。
(いや、俺、現在進行形で反抗期、なのかも)
高校に入ってからは早川や学校の友人と遊ぶことが中心になって家族に関心を向けないようにしていた。大学に入ってからは家には滅多に帰らなかった。
(俺は反抗期が遅く来た分拗らせているのかもな...透は真っ当に成長して欲しいな...)
出て行った弟を思いながら、反抗期息子を二人抱える両親の苦労を考えて苦笑が漏れた。




