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異世界人観察日記  作者: ミチコ
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帰省2


新幹線のホームに比べると、在来線のホームは何だか少し物寂しい印象を受けた。

帰省ラッシュの時期を避けたとはいえ、ここまで人が少ないと地方の過疎化を実感してしまう。

「レイジ、あまりうろうろするなよ」

新幹線のホームでは人が多くて(怖くて)観察出来なかった反動か、人が少ないここでは自由に散策出来るとばかりに笑顔でホームの端から端へと歩いている。

(何がそんなに楽しいんだか)

そんなに無邪気に笑われると、今から楽しい場所に行くんだと勘違いしそうになる。

いや、実家がそんなに嫌いな訳でも、家族間に確執がある訳でもないのだが、俺が居ていい場所でないと感じてしまっているせいか、実家に近付く度に足が重くなっていた。

「リョーイチ、リョーイチ、お菓子買う?」

小さな売店に並ぶどこにでも売っていそうな定番のお菓子を指しながらレイジが尋ねてくる。

遠足気分なんだろうか。俺の財布の紐が緩んでいるのを狙ってのおねだりなんだろうか。

「いいよ。1個だけな」

財布を渡すと、嬉々としてレジへと向かった。

電車が来るまであと十分ほどあったので、冷房の効いた待合室のベンチに腰掛けて、向かいの景色を見るでもなく、遠くに広がる空へ視線を投げていた。

「リョーイチ、食べる?」

待合室には俺とレイジしかいない空き具合。

レイジは早速お菓子を開けて俺に勧めてくれたが、生憎食欲までも減退してきているのか、何かを口に入れる気にはなれず無言で辞退した。


ホームに来た電車に乗り込むと、普段乗る電車とはまた違った内装にレイジは嬉しそうに瞳を輝かせた。

さすがに無人ではなかったが、憚るほどの人目もない。

「好きに見てきていいぞ」

田舎だから停車駅の間隔も広い。勝手に降りてしまう心配がないので好きに見学をさせておこうと思ったのだが、

「いい、リョーイチの横座る」

と言って、ぽすんと行儀良く俺の隣の席へと納まった。

(緊張し始めたのか...?)

ホームをうろちょろ見て回っていた様子から、きっと車内も見て回りたいのだと思っていたが、意外にも大人しくしているレイジに拍子抜けしてしまう。

しかし外を流れる景色を楽しそうに眺める姿からは特に緊張感は感じられない。

(怖がっていないなら、いいんだけど)

あと30分もすれば実家の最寄り駅だ。

外の景色が数年前の記憶から変わっていないか間違い探しをしながら目で追っていく。

スーパーの看板の色が変わったな、とか。小奇麗な家は最近建ったのかな、あのボロい家は取り壊されたのかな、とか。よく行っていたカラオケが違う店になってるな、雑居ビルに有名な居酒屋が入ったな、とか。

意外と覚えているもんだ、と感心しながら、確実に家に近付いていることを改めて実感したのだった。



多分母親は狙ってその時期に再婚したのだと思う。

俺の思い過ごしかもしれないが、俺の進路が家庭環境的なハンデによって限定されることを避けたかったのだと思う。

「好きな高校(ところ)に行きなさい」

それは、私立でも公立でも、近くでも遠くでも、偏差値が高くても低くても、どんな専科コースでも、俺が選んだ高校ならどこにでも行かせてあげるということだった。

それは傍から見たらとても贅沢な悩みだったろう。俺は、すぐには選べなかった。今まで基準にしていたものを取り上げられて、数ある選択肢の何が最良なのかが分からなくなってしまっていたのだ。

中学2年生の後半は、それこそ何をしていたのか今でも思い出せないくらい朧気で、無気力で無為な日々を過ごしていた。

ようやく持ち直したのは3年生になってからだ。

それは早川との出会いが大きかった。

同じ学年にいることは認識していたものの、実際話したのは3年生で同じクラスになった時が初めてだった。

小さい奴がいるな、と思っていた。俺はその時にはもうクラスの列の最後尾に立たされるくらいの身長だったが、対して早川はまだ小学生の方が発育がいいだろうというくらい背も低かった。それに当時は常に俯いていて話しかけ辛い雰囲気を持っていた。

ある時、どんな内容だったか覚えていないが、少し話す機会があって、こいつ危なっかしい奴だな、と思ったのがきっかけだったように思う。

世話を焼く対象が、弟妹(きょうだい)から早川に変わった瞬間だった。

そこから気を掛けるようになって、気付けばクラスの中で一番話す関係にまでになった。

早川の変化は見違えるほどで、暗く話しかけ辛い雰囲気は、明るく社交的なものへと変わっていった。

しかしそれはお互い様で、俺も進路について前向きに考えられるようになった。

とは言っても、今思えば、選んだ高校も早川と離れたくないが為に選んだようなものだった。仲の良い友達と同じ高校に進学したい、というには少し打算があったかもしれない。


俺は、誰かに必要とされていたかった。

必要としてくれる存在が、早川しかいなかったのだ。


そして早川が居なくなった今、俺はレイジにその役割を押し付けている。



懐かしい景色を、早川と並んで見ていた景色を、レイジと今見ている。



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