強面保護者面
あの可哀想なほどに痩せ細った身体は、今でも細いが、それでも細身という表現で済まされる程度にまで肉がついた。これは途轍もない成果だ。努力の賜物である。主に俺の。
腕や脚が筋張っているのはしょうがないにしても、肋骨や背骨がゴツゴツ浮き出ている貧相さからは脱却したといっても良いだろう。
そして顔の方にも満遍なく肉がついてきた。輪郭はシャープだが、頬がこけているなんて言われない程度だ。
褐色の肌色が割り増しで健康そうに見せてくれているおかげもあるかもしれない。
しかし、レイジが健康になればなる程、別の問題も生じてきた。
困ったことに、レイジは美人に分類される類の顔立ちだ。
彫りの深さと綺麗な緑の瞳に赤毛、これらは外国人らしいが(異世界人だが)、なんせ身体が薄っぺらく、身長も欧米人にしては低い為に、女性と間違われやすい。髪をずっと中途半端に伸ばしているせいもあるだろう。
ハーフの女性だろうと思われてナンパされることが度々あった。
レイジはレイジで、喋りかけられてもおどおどするばかりで強気に対処するということが出来ないので、相手は調子に乗ってしまうという図だ。
こればかりは染み付いてしまった癖みたいなものでどうしようもないものなのかもしれないが、こちらとしては気が気じゃない。
少し目を離しただけでこれだ。
金を下ろしにATMへ行くからここで待ってろ、と人通りの多い通りで立たせておいただけだというのに。
チャラそうな男が一人、レイジに執拗に絡んでいる。
レイジが何か喋ったのだろう、日本語が通じることで調子に乗って喋り倒している。
きっとレイジは半分ほどしか聞き取れていないだろう。そして目線がチャラ男の手元だ。
男の手にはすぐ横にある有名なコーヒーショップのカップ。
(何を物欲しそうに見ているんだ。それはお前の苦手なコーヒーだぞ)
男が気付いたのか、コーヒーショップへ誘おうとしている。
チャラ男よ、今出てきたであろう店にもう一度入ろうというのか。
遠目でそんな様子を眺めていたが、観察もそこそこに、レイジの元へと戻る。
「待たせたな」
チャラ男にぽかん顔されても嬉しくない。
こういう時は無言でいいのである。
高身長を存分に利用して見下ろすように視線を送る。俺の目が少し細めで釣り上がっているので、初対面の奴には怒っているように見えるのである。この状況で遠慮はいらない。思いっきり怒っているように見てもらって構わない。眉間に皺でも寄せれば、こりゃもう一発触発な雰囲気が出てしまうってモンでして。
こんな顔芸もこの半年で大分上達致しました。全てレイジのお陰です。
そのせいか、地顔の時点で威圧感が滲み出てしまうという弊害が指摘されている。
チャラ男は俺の顔を見た途端に、顔を引き攣らせて下手な愛想笑いをしながら踵を返していった。
レイジが俺の顔を見て、「リョーイチ、顔、怖い」と呟いたのを、俺は一生忘れることはないだろう。
結局コーヒーショップで期間限定のフルーツジュースを買って飲みながら帰った、そんな夏の1コマ。




