花見 2
目の前に広がる桜並木に思わず感嘆の声が漏れた。
「丁度いい咲き具合だな」
リョーイチも満足そうに言いながら、眩しそうに頭上を見上げていた。
花のひとつひとつは道端で咲いていても見逃してしまいそうなささやかなものなのに、密集するとこんなにも目が離せない。首が痛くなろうがお構いなしに上を見続けた。
ずっと先までピンクのもこもこは続いていて、時折風に吹かれては花びらを舞い散らせていた。
(雨みたいで綺麗...)
人の流れを止めてはいけないので、少しずつ押し流されるような格好で進んでいたが、それも気にならない程に並木に見入っていた。
公園といえば近所にあるよく行く公園を思い浮かべていたが、ここは公園と言っても規模や趣が全く違い、遊具も何もない河川沿いに延々と続く桜並木と芝生の広場があるだけの場所だった。
普段はどれほど人が集まるのか分からないが、今は平日だというのにも関わらず多くの人で賑わい、出店もずらりと並んでいることもあって、あまり広々とした印象は受けなかった。
出店からふわりと甘い香りが漂ってくる。
「どうした、食べたいのか?」
リョーイチは立ち止まった俺の視線の先にある出店に気付いたようだった。
その出店は暖簾にベビーカステラと大きく表記されており、その甘い香りからお菓子の類だろうと容易に想像がついた。
昼を食べてから出てきたが、ここに移動してくる間に小腹が空いていた。
思わず、うん、と頷いてしまう。
リョーイチが支払いを済ませる背中を見て、しまったと思った。
何だか今日は朝からずっと浮かれっぱなしで、いつもは飲み込んでしまう我侭もぽんと口をついて出てしまう。
後悔も束の間、リョーイチが買ってくれたベビーカステラを一口摘めばすぐにそんなことも忘れてしまった。
「おいしい!おいしいよリョーイチ!」
素朴な優しい甘さと柔らかな口当たりに感動してリョーイチにも勧める。
「そうだな、おいしいな」
しばらくカステラを摘みながら歩いたが、途中で並木を逸れて芝生の広場に座った。
芝生の広場にはブルーシートを広げて飲食を楽しむ人たちがぽつりぽつりと見える程度だ。並木の下の方が圧倒的に人口密度は高かったから、そこから抜け出せて知らずに力んでしまっていた肩が少し軽くなった。
少し離れた場所から見ても桜並木は綺麗だった。
(ひと綴りになった雲みたい)
今日は快晴で綺麗な青空が広がっているから、余計に桜が雲みたいに見えた。
「晴れてよかったな」
「うん、暖かくて嬉しい。雨だったら見れなかった?」
「雨だとすぐ桜散っちゃうからな」
「え!...雨降らないといいね」
「そうだな」
最近ようやく日中は暖かく上着もいらない気温になってきていた。
今日は半袖でもいいかと思うくらい暖かい。
結局冬の寒さにはどうも慣れなかったので、ようやく気温が上がり始め冬が遠ざかっているのを感じてほっとしていた。
こんな綺麗な花が見られて、気温も快適で、なんて贅沢な一日だろうと思った。
*
夕方になると電車が混むからということで日が暮れる前に早々に公園を後にした。
マンションの近くまで帰ってくる頃には辺りは暗くなって、日差しがなくなった分気温もぐっと下がってしまった。
「ねぇ春はまだ来ない?今日は春じゃない?」
昼間の暖かさがずっと続くものだと思い込んでいたレイジは、この夜の気温差に騙された気分になったのだろう。悲しげに眉尻を下げて寒さに震えている。
「もう春だよ。ただ急に気温は変わらないからなぁ...徐々に暖かくなってくるだろ」
晩飯は温かい鍋にでもするかなとぼんやり考えながら帰路を急いだ。
ご飯が出来るまでの間、レイジは携帯電話のカメラに収めた桜の画像を見ながら昼間の暖かさに思いを馳せているようだった。
その様子に思いがけずほっこりしたので、暖かくなるのはもう少し先でもいいかもしれないなんて思った。




