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異世界人観察日記  作者: ミチコ
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反抗期 3


(おいおいおい、少し目を離しただけでこれって)

一人反省会から現実に戻った俺が目にしたのは、商店街の出口側で不良学生に絡まれているレイジの姿だった。

商店街は百メートルくらいの距離で直線的に店が連なっている形をしているが、何せシャッター街だ。人通りがほぼ無く(すこぶ)る見渡しが良い。そんな中尾行すればすぐバレると思い、商店街の入り口付近からレイジが商店街を抜けるまでを見届けようとしていたのが間違いだった。

閉じられたシャッターには落書きが所狭しと描かれていかにもな不良の溜まり場だ。まだ明るいから大丈夫だろうと高を括っていた自分を恨む。

早足で商店街を進んだ。

近付いていくにつれて状況が見えてくる。

ちょっとヤンチャ盛りな高校生が外人風のレイジに興味をもってちょっかいをかけているらしい。

人数は見えるところに居るだけで4人。制服はこの辺りの高校のものだが、それなりに高い偏差値の高校だったはずだ。

(偏差値が高いからって素行が良いとは限らないよな。今時の若者はキレやすいっていうから気をつけないと)

喫煙や飲酒をしている様子がないことを確認しつつ、どう相手を刺激せずに対処出来るか考える。

レイジは初めこそ抵抗を見せていたが、一人に腕を掴まれるとすっかり大人しくなってしまっていた。

無駄に抵抗して相手を刺激するよりはマシだが、もっと自衛の努力をして欲しいとも思ってしまう。


レイジの表情がはっきり見える距離まで来て、考えていたことが全部吹き飛んだ。


「おい」

(ようやく)

「何してんの」

(怯え癖も治まってきていたのに)

「その手、離してくれる?」

(また逆戻りさせるつもりかよ)


最近はめっきり見せることもなくなった怯えた顔。身体は強張って視線は俯いてしまっている。抵抗を諦めてしまった顔。暴力を受け入れるしかないと思ってしまった顔。

(これが腹立たずにいられるか)

相手が逆上したらどうしようとか、複数人同時に相手は無理だろうとか、そういった保身に走る思考が全部どこかに飛んでいった。

頭に血が上るというのか、アドレナリンが分泌されているというのか、興奮状態に近い。なのに自分を客観視するだけの冷静な部分も残っている。

(折角最近は俺以外の他人にも慣れてきたってのに、こいつらのせいで台無しにされてたまるか)

俺は余程酷い顔をしていのか、不良たちは俺の顔を見たままぴくりとも動かない。

殴りかかりたい衝動を何とか押し込めたはいいが、搾り出した声は低く掠れてどうしても怒りが滲んだものになった。

「外国人に興味あるの?」

「でもコイツ日本語しか話せないから」

「もう用無いよね?」

愛想笑いのひとつでも浮かべられたら良かったのだろうけど、生憎俺の表情筋はピクリとも動こうとはしない。

(これじゃあ俺が今時のキレやすい若者だ)

頭の冷静な部分でそんなことを考えつつ、俺は手早くレイジが持っている買い物袋を奪うと、固まっているレイジの腕を取って商店街を抜けた。

不良高校生たちが追う素振りもなく呆然と見送ってくれていることを確認すると、ようやく上っていた血が下がっていく心持ちがした。



大失態だ。逆効果だ。情けないにも程がある。

一人で出来ると張り切って出ていって、結局リョーイチの手を煩わせて。

俺は項垂れていた。

(こんなはずじゃなかったのに...)

自分の見込みの甘さにげんなりする。

きっとリョーイチはもう俺を一人で買い物に行かせてはくれないだろう。それどころか一人で出歩くこともいい顔をしないかもしれない。

横を歩くリョーイチの顔をちらりと伺い見れば、先程までの怒っていた様子が打って変わって、深く考え込むような顔をしていた。

「レイジ、悪かったな」

何故か謝られた。怖い思いをさせて悪かった、と。

そして穏やかな口調で俺に言い聞かせた。

日本人は基本穏やかな人柄が多いけど、いくらでも例外はあるということ。

だから知らない人に声を掛けられたらまずは警戒して欲しいということ。

そして、これからも買い物をお願いするかもしれない、と言われた時は驚いて聞き返してしまった。

「いいの?レイジ、一人で買い物して、いいの?」

「ただし、ちゃんと行き帰りの道順を守ること」

「守る出来る!」

食い気味に返事をすれば、リョーイチは満足そうに頷いてくれた。


リョーイチが優しいというのは知っていたが、日本人の気質というのを除いても、リョーイチは特別優しい部類に入るのだろう。

その特別な優しさが自分に向けられていると思うと、何だかとてもくすぐったくなった。





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