反抗期 1
過保護だ。
過保護すぎる。
俺はもうここらの道だって覚えたし、言われた商品を間違わずにレジに持って行き、金額を間違わずに支払うことも出来るのだ。
まだ読めない漢字もあるけど、それで困った時は人に聞けばいいってことも学んだ。
なのにリョーイチはまだ不安そうにしている。
「おつかい、くらい出来る」
「いや、一緒に行こう」
「ひとりで、行ける」
「でも」
「かわいいこにはたびをさせろ、レイジ諺覚えたよ。いつもリョーイチが一緒は勉強ならない」
「...」
「レイジひとりで行ける、いいね?」
そう言うとリョーイチは黙った。
俺はそれを肯定だと捉えて、リョーイチの財布を拝借してそのまま玄関を出た。
俺だって役に立てる。そうリョーイチに認めてほしかった。
本当はお金を稼げるようになるのが一番なんだろうけど、ちょっと今の俺にはまだハードルが高い。
家事だって少しずつ教えてもらっているけれど、まだ一人で火を扱わせてはくれないし、家電の操作もリョーイチが横で見ながらだ。これではリョーイチの手間が減っているとは言えない。
ちょっと執拗なくらいに過保護な扱いにうんざりしていたことや、折角覚えた知識なのだから生かしたいという気持ちが、一気に噴出してしまった。
よく行くスーパーは、コンビニまでの距離の2倍以上ある。いつも行くコンビニや公園を通り過ぎて、しばらくずっとまっすぐ歩く。その後二回ほど角を曲がるが、単純な道のりですぐに覚えた。
リョーイチが一人で買い物をするときは自転車を使うが、俺と一緒に行くときは徒歩だ。俺は自転車に乗れないし、俺に合わせてくれているのは分かるが、何だか申し訳ない気持ちになってしまう。だから買い物くらいは俺一人に任せて欲しいと思ったのだ。
お金は大事なものだけれど、こちらでは窃盗なんてことは滅多にないみたいだし、勿論俺もするつもりはない。
お店もとてもシステマチックで、決まったことさえすれば言葉が通じなくたって出来るのだ。
だったら買い物くらいは俺一人でも出来るだろうというのが俺の言い分だ。
買うものは少しの日用品と食料だ。俺一人で持てる量で収まるだろう。
一人で歩いたことがあるのはコンビニまでで、それ以降は何度も通った道とはいえ少しどきどきしてしまう。
大丈夫、まっすぐ歩いて角二つ曲がるだけだ。
自分に言い聞かせてバッグを握り締める。
最後の角を曲がり、スーパーの派手な色の看板が見えてきたところで思わずほっと息を吐いた。
平日の夕方の手前で、まだ混み合う時間帯でもない。
店内は閑散としてレジも2列分しか機能していないようだった。
入り口に山のように積んであるカゴをひとつ手に取ると、目的の物を買う為に売り場へ真っ直ぐ向かった。
日用品コーナーでトイレットペーパーと歯磨き粉を。いつも使っている袋のデザインと同じものを選んでカゴの中へ入れた。
パスタも買い物リストの中には入っているのだけど、袋の柄が似たり寄ったりで、いつもどれを買っていたのか分からない。
(長さや量はどれも一緒のようだし、一番安いやつでいいかな)
一袋カゴの中へ。
次は精肉売り場だ。途中に陳列されている色鮮やかなお菓子のパッケージに誘惑されそうになるが、買い物リストに載っていないものは買わない、と思い直して通り過ぎた。
鶏肉を買わなければならないのだけど、鶏肉とひとことで言っても部位や量によって値段も変わってくる。
さて、どうしたものか。
もっと詳しく聞いてこればよかったと後悔しつつ、普段食卓に並ぶ料理から想像できるものを選ぶことにする。
(お肉は美味しいから出来るだけいっぱい入っている方がいいよな)
少し欲が出た。グラム表記が重いものを選んでカゴへ。
買い物リストに載っているものは全部カゴへ入れた。入れ忘れがないかを確認して満足する。
レジも難なく通ることが出来た。
表示された数字通りかそれ以上の金額を出せばいいので、数字さえ読めれば簡単なことだ。
買った商品を袋に入れて、さて帰ろうと店を出たところで、ふと立ち止まる。
ここまで順調にきて気持ち的に余裕が出てきたせいだろう。
不安感より好奇心が、欲が、勝った。
折角一人で外に出たのだから、行動の幅を広げるいい機会ではないだろうか。
俺の足は来た道とは違う方角へ向いた。




