初めての冬
レイジの国は常に暑かったというから、気候の変化があまりなかったようだ。
外はすっかり冬らしい気温になり、レイジは慣れない寒さに悪戦苦闘しているようだった。
我慢強いレイジにも我慢ならないものがあったらしい。秋口までは半袖で粘っていたが、今ではもうすっかり冬服が手離せなくなっている。
朝、俺より早起きだったレイジがいつまで経っても布団でもごもごとしているのは見ていて楽しい。
「おはよう、レイジ」
「...おはよう、リョーイチ」
「まだ眠いか?」
「...寒い、だけ」
俺も寒さに強い訳ではないが、違う世界で生まれ育った人間が、日本の冬の布団の離れがたさを共有してくれていると思うと少しほっこりする。
そして固い覚悟を決めたような顔で、布団から出て着替えるのだ。
悪趣味と言うなかれ、俺はレイジが着替えるのを見るのが結構な楽しみになりつつあるのだ。
レイジは、ふん、と息を止めて寝巻きを勢い良く脱ぎ捨てたかと思うと、すぐさま冬用の長袖インナー(裏起毛)に袖を通す。
ここで背中の裾が捲れて上手いこと着れなかったりすると、すぐさま布団の中へ戻る。そこでもごもごと背中の裾を直して、また覚悟を決め直さなければならないので大幅な時間ロスだ。
しかし本日はスムーズにいったようで、次に着る服にすぐさま手をかける。
次は難関のシャツだ。ボタン数が多いのでレイジには手強い服だ。掛け違えないように慎重にひとつひとつとめていく。掛け違えてしまった時のボタンを留めなおすレイジは、悲壮感を漂わせてそれはそれは哀れだ。
早川から拝借したシャツなのでレイジにはこのサイズは少しキツイかもしれないと思ったが、インナーとして着込む分にはぴったりしていて着やすいようだ。
そして次はトレーナーだ。
レイジの家着用に買ったものだ。レイジは身体の幅はSサイズなのに丈はMサイズなので、丈に合わせて買うとどうしてもぶかぶかに見えてしまう。しかし中に着込むには丁度いいみたいなので結果オーライとしておく。
そしてレイジは更にその上に厚手のカーディガンを羽織る。
これも早川から拝借したもので、目を引く黄色ということを除けば、暖かく肌触りの良い一品である。
少し大きめのサイズなので引っかかることなく容易に羽織ることが出来たようだ。
ボタンも大きいものが三個だけなので簡単に留められる。
そして最後に、俺のお下がりのパーカー(裏起毛)を羽織る。
これは明らかにサイズが大きいが、前のファスナーをしめてしまえばレイジがどれだけ着込んでもすっかり隠れてしまう。
下は、下用のインナー(裏起毛)とジャージのズボンの重ね着、そしてモコモコの靴下だ。
これでレイジ・冬仕様の完成である。
今のレイジは少しは肉は付いたとはいえ、まだまだガリガリの域だ。
しかしこの季節沢山着込んだレイジは平均的な体型に見える。
俺だって冬には着込むが、精々3~4枚だ。それにまだ11月の頭だ。これからもっと寒くなったら何枚着込むつもりなのか気になるところではある。
そんなに着込んで暑くないのかと聞いたことがある。
「暑いは我慢できる、けど、寒いは、む、むずかしい」
とのことだった。
外に出るときはそれに更に一枚上着を足す。
これは早めにダウンコートの購入を考えねばならないようだ。
寒くなってからは公園への散歩もスーパーへの買出しも億劫になってしまっているようで、レイジは積極的に外に出たがらなくなった。
引篭もりは健康によくない。俺は積極的に外に連れ出すようになった。決して寒がるレイジを見て楽しんでいる訳ではない。決して。
「りょ!リョーイチ!レイジの息が白く!白い!白いなった!」
部屋の外に出た途端、レイジは吐き出す息が白く染まることに驚いたようだった。
「そうかー、もうだいぶ寒いもんなあ」
「すごい!なんで白いはなる?」
「寒いからな」
「寒いと息白い?」
「そうだな」
レイジは興味深そうに息を吐いては白く染まる様子を眺めた。
公園に向かって歩きながら、白い息が流れていく様を楽しそうに見ている。
寒いのが嫌いでも楽しいことが見つかれば、冬も好きになってくれるかもしれない。
「もっと寒くなれば雪も降るかもな」
「ゆき?雪、白くて丸いやつ?」
「そう」
「本でみた。本当に、空から降る?」
「そう」
「見たみたい。楽しみ!雪!」
「すっごく寒いぞ?」
「.........が、我慢する」
この辺りは余り雪が積もらない地域だ。
積もっても寒さと歩きにくさで毎回うんざりしていたが、まあ、今年くらいは積もってもいいかもしれない。




