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異世界人観察日記  作者: ミチコ
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風邪 1


気温も冬に近付いて朝夕は冷え込む日が増えてきた。気象情報では乾燥注意報が毎日のように出ている。

それに、なんだか喉がイガイガする。

(これは、風邪の前兆かもしれないなぁ)

呑気にそんなことを思った。

しかしそれでもなんとかなると思ってしまうのは、まだ若いという過信からだ。風邪なんて滅多にひかないし、ひいても数日大人しくしていれば直ぐに元気になってしまう。健康が取柄なのだ。

ここ最近バイトのシフトを詰めているので、風邪気味というだけで休んでしまうのも憚られる。

無理をしているつもりはないが、それが祟ったのだろう。


朝起きた時、余りの身体の重さに驚いた。

脳が引き絞られるような頭痛、背中に走る悪寒。口を開こうものなら喉が引き攣れるように痛む。

これは本当に風邪の症状なのだろうかと疑ってしまうほど、今までに体感したことのない程の酷い症状だ。

駄目だ、起き上がれない。動けない。動きたくない。いっそこのまま意識を失ってしまいたい。


「起きた?リョーイチ?」

レイジが俺の様子に気付いたようだ。

「リョーイチ、いつもの起きる時間、過ぎるよ」

起き上がらない俺を不審に思って声を掛けてくれている。

返事をしようとして口を開けたが、僅かに空気を振るわせただけで音にはならなかった。

重い身体をなんとか起こして、立ち上がる。とりあえず水を飲もうと思った。

しかし目の前がぐらぐら揺れている。これが眩暈というものか。これは駄目だ、平衡感覚がまるで狂っている。おまけに関節まで痛い。これでは動けない。

俺はすぐに倒れこんでしまった。

「リョーイチ?!」

驚いた様子でレイジが駆け寄ってくる。

そうだよな、驚くよな、心配かけてごめんな、色々言いたいが、声も出なければ動けもしない。そして何より意識が朦朧として、とにかく眠い。

何とか這いながら布団へ戻って、寝る体勢を取る。

「リョーイチ、痛い?どこが悪い?大丈夫じゃない?」

(お前の朝ご飯作れないわ、ごめんな)

心配するレイジの顔を見ながら、俺は気を失うように眠った。




リョーイチが倒れた。

その事実が目の前に突きつけられて、俺はあまりの衝撃に息をすることすら忘れてしまったように固まってしまった。

前の国では、弱っている奴は大抵そのまま死ぬしかないと諦められて放置されていた。

それを救う方法なんて考えたこともなかったのだ。

(リョーイチ、は、このまま死ぬ?)

(昨日まで元気だったのに?)

(俺は、どうしたらいい?)

一拍置いて動き出した思考は、結局纏まらずに不安だけを煽って俺の手足を冷たくさせた。

苦しそうに布団に包まるリョーイチの横で、立ったり座ったり、意味もなく部屋の中を歩き回ったり。

心臓が嫌な音を響かせているのが耳の奥から聞こえてくる。

「りょ、リョーイチ、どうしたら元気なる?教えて」

自分でも驚くほど情けない声が出た。

リョーイチは苦しそうな顔を横に向けて、深く寝入っているようだった。


前の国ではそれが自然の流れだと言わんばかりに放置していたことを、今、リョーイチに対して同じように放置することが出来ない。

弱っていく姿をそのままにしておくことが出来ない。


どうにかしたいと思うのに、俺は、こういう時にどうしたらいいのかを、何も、知らない。




ふと意識が浮上して、途端に喉が渇いたと思った。

悪寒は消えたが、まだ体中に熱気が籠もっているようで頭は重いし思考も鈍い。

肘を突いてようやく上体を起こすのに精一杯で、そこから立ち上がるなんてことはとてもじゃないが出来そうにない。

「リョーイチ?!」

俺に気付いたレイジが慌てて駆け寄ってくる。

生憎だが喉がやられていて声が出ない。大丈夫だと言おうとして、大丈夫じゃないなと思い返した。どちらにしろ声が出ないので伝える術はないのだが。

水を持って来てとどうやって伝えようか辺りを見回していると、俺が寝ている布団の周りが不自然に濡れていることに気付いた。

よく見れば、水がたくさん、それはもう、ありとあらゆる器に水を汲んで、俺の周りに並べてあるではないか。

呆気に取られつつ、レイジが考えついた看病の形なのだろうと思った。

ありがたくグラスに注がれた水を飲むと、人心地ついた気持ちでまた横になった。

枕元に転がっていたスマホを掴むと、アプリを起動して友人の一人に連絡をする。

買ってきて欲しいものやバイト先への連絡をして欲しいことなどを最低限の文章にして送信ボタンを押した。頭が回らなくてちゃんとした文章になっているのかも怪しかったが、伝わらないことはないだろう、と思いたい。

このまま眠ってしまったらもう二度と目を開けられないかもしれないと思うほどに身体が重く疲れを訴えていた。

強制的にシャットダウンされる電子機器の気持ちが今なら分かりそうだ。

今にも落ちてきそうな瞼を何とか持ち堪えてレイジの方を見遣った。

たった一言でさえ声を掛けてやれないことをこんなにも恨めしく思うとは。


ただ寝るだけだって。なんて顔してんだ。





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