レイジの世界 S2
魔法とは一体何か。
その明確な答えを俺は持たない。
魔法使いが王都にいると聞いたことはあったが、俺が直接見たことはない。
俺なんかが見えるには立場が違い過ぎるからだ。
魔法使いは希少な存在なので、貴族と同じかそれ以上の立場になるだろう。
魔法はすごいことだし、使える人はすごい人だという認識はあるのに、その肝となる魔法というものが一体何なのかということについて言及しようとは思ったこともなかった。
噂も聞きかじったものばかりで信憑性も低いが、曰く、何もないところから水や火を生み出すことができる、曰く、足を動かさずに瞬時に遠くまで移動できる、曰く、どんな疲れや傷をも癒すことができる、など。
当たり前だとしてきた自然の在り様を引っ繰り返してしまう、そんなことができる手段を「魔法」と呼んでいるらしい、そんなぼんやりとした認識だった。
しかしリョーイチはここを魔法使いの国ではないと否定した。
捻れば湧き出る水の水源も、照明が灯る原理も、料理に使う火を生み出す仕組みも、全てここで暮らしてきた先人たちが発見し積み上げてきた技術なのだと。
皆がその仕組みを理解出来ているわけではないが、それでも何もないところから生じた、という発想はないのだという。
この世界である程度の視野を持って生活出来ている人間ならば、そんな勘違いをすることはないのだという。
だからリョーイチは、俺の元居た国と、今ここに居る国が、別世界上にある可能性を示した。
俺の「世界」というものは狭い。せいぜい視界に収まる範囲だ。だからリョーイチのいう世界という規模がいまいちピンとこなかった。
リョーイチが説明してくれても何だか実感が湧かなかったが、とにかく、あの砂の国からこの国までは、人の足はおろか、この国にあるどんな便利な乗り物を使おうとも行けない程に離れているのだということは分かった。
「こちら人間も、原理の分からないものを超能力や怪奇現象という言葉で一括りにしてしまうことがある。だから、きっとレイジの世界で理解の及ばないものは魔法と呼ばれていたんだろう。だけど人が使うものだから、使う人には原理も仕組みも理解出来ていたと思う。」
リョーイチはそう言った。続けて、
「けどその仕組みはこちらの世界には通用しないのだと、多分、思う。...だから、結論から言えば、レイジと早川を元に戻すことは出来ない、ということだ」
そう淡々と言った。
俺は、ここが魔法使いたちの国で、リョーイチが魔法使いだと疑わなかった。だから早川も簡単に戻せるのだと早合点した。あとは俺の戻される覚悟次第、とばかり思っていたのだ。
リョーイチを無駄に期待させてしまっただろうか。
見当違いなことばかり言って呆れられただろうか。
「リョーイチ、ごめんなさい...ハヤカワ、戻る方法は、できなかった」
申し訳ない気持ちで一杯でいたが、逆にリョーイチはふっと笑って
「ありがとうな、色々考えてくれて」
とお礼を言ってくれた。
俺の覚悟は空振りしたけれど、その一言で報われた気がした。
それからリョーイチは、ハヤカワのことを忘れないように、忘れても思い出せるように、部屋に早川のモノを置いて手狭になるけど許して欲しいこと、俺が忘れた素振りを見せたら思い出せるように声を掛けて欲しいこと、そうお願いをしてきた。
勿論断ることなんてしないが、そう頼むリョーイチは、ハヤカワが戻ってくるのを既に諦めてしまっているように見えて、ちょっとハヤカワが可哀想だなと思った。
でも、ハヤカワが戻ってきたら俺も戻らないといけないから、今の状況に少しほっとしてしまっている自分もいる。
俺はどこまで欲深くなるのだろう。そう思った。




