レイジの世界2
あれからレイジと沢山の話をした。
夜更けまでそれは続いて、ベッドに潜り込んでうつらうつらしながら話すレイジの傍でじっと耳を傾けていた。
レイジは単語を覚えても文法があやふやな部分があり、話の内容は俺のイメージで勝手に補って解釈した。
レイジの故郷は広大な砂漠に囲まれたところにあったという。
日照りが強く、雨は滅多に降らずに乾燥する気候だった為、水場や川岸に群がるようにして集落が形成され、中でも一等大きな泉の畔には国の中心部となる都市が栄えた。
レイジはその栄えた都市、王都から来たと言った。
王都に来る前はもっと寂れた田舎を転々としていたという。
質素な家が間隔をおいてぽつぽつと散らばる程度の集落で、そこで山羊や牛のような家畜の世話をしたり、荷運びをしたり、畑の手入れなどをしていたそうだ。
しかしどの集落でも貧しさ故か、働き手の人員入れ替えの為か、レイジは家畜数頭分と交換して売られた。
売られる、という言葉選びが間違っていないか確認をしたが、レイジは数秒考えて、やはり売られるという表現をした。
ここでレイジが言った「リョーイチとレイジはびょうどうではない」という言葉を思い出した。
もしかしたら、レイジの国には身分制度というものがあり、レイジはその最下層に居たのかもしれない。
奴隷制度、という言葉を思い出す。
さてはて、日本には確実に無い制度ではあるけれど、全世界的にも奴隷制度は廃止されたのではなかっただろうか、と朧げな記憶が引っかかりを訴えた。
レイジの国には奴隷制度があるのかと聞いたが、レイジには奴隷という言葉をまだ理解出来ないようだった。
レイジの国の中で一番偉い人は、と聞いた。
王様、と言った。
次に偉い人は、と聞いた。
貴族、と言った。
その次は、と聞いた。
レイジは言葉を探しながら、物を売る人、作る人、畑を持っている人、お金を持てる人、と言った。
そして、一番下の一番偉くない人間が、自分のような人間だと言った。
自分のことを説明しようとするレイジは、言葉選びを慎重にしているせいか、それとも言いたくないことを言葉にしなければならないせいか、言い淀みつつも話してくれた。
自分のような立場の人間は、ご飯は毎日食べられないこと。いつも喉が渇いていること。夜くたくたになって眠るとすぐ朝が来ていること。失敗をすると背中を打たれて痛い思いをすること。簡単に傷付けられ、簡単に死んでしまうということ。
それらが普通の生活であるという。
レイジの国には人権という概念がないという事実に俺は頭を抱えたくなった。
レイジは、自分は最高でも山羊5頭分の価値の人間だ、と言った。
店に並ぶ商品に口をつけたらきっとこんな気持ちになるのだろうか。
自分の値段はいくらです、と。それを誇るでも卑下するでもなく、間違うこと無き事実として、己の価値を公言できてしまうということ。
それが何だか途轍もなく悲しいことのように感じた。
どうやって日本まで来たのか、と聞いた。
レイジは王都に売られてすぐに王宮に連れて行かれたという。
そこに一緒に連れて行かれた仲間たちは毎日一人ずつ消えて、最後に自分が呼び出された。
広い部屋の中央にベッドくらいの大きさの台があり、そこに上がるように指示された。
台の上に上がると周りに居た人間が歌いだし、光に包まれたと思ったらここに居た、と。
その時は酷く頭が痛んで気持ち悪くなった、とも言った。
確かに、レイジが道端に現れた時、非常に苦しそうにしていた様子を思い出し合点がいった。
いやしかし待て、光に包まれたら国外へ転移してましたって、それなんてファンタジーですか、と。
目の前から早川が消えるという現象に立ち会ってしまっているだけに、常識的な回答が得られるとは思っていなかったけども。
レイジは自信なさげに、予想を話してくれた。
王宮には「不思議な力」を使える人間が居ると聞いたことがあるので、もしかしたらその「力」でもってこの国までレイジを運んだのかもしれない、と。
「不思議な力」はレイジの語彙力ではどう表現したらいいのか分からないらしく、「なんでもできる力」「すごい力」などとも表現した。
そして驚くことに、レイジは俺もその力を持っていると言った。
それは勘違いであると即座に訂正は入れたものの、レイジは納得していない様子だった。
レイジの話を鵜呑みにするのなら、レイジのいた国は「不思議な力」、所謂魔法のようなものが存在している、或いは現代では為しえないようなことが出来るほどの科学が発達している、と考えるのが妥当だろう。
さて、ここでひとつの仮説が浮かび上がる。
レイジはこの世界の人間ではないのかもしれない、ということだ。




