外 S2
公園に着くと、そこは水に恵まれた豊かな土地である証拠だと言わんばかりの緑がそこかしこに溢れていた。
俺が今まで身近に見た事のある植物というのは、背が低く葉の少ない(しかも固い)木々ばかりだった。
王都には背の高いものもあったが、生茂るというよりかは、大きい葉が数枚垂れ下がっている感じで、そこまで緑緑していなかったような気がする。
こんなに地面に広い影を作るほどの葉を生やした木々を見たことがない。
動物の泣き声だろうか、複数体が一斉に鳴いているようで、ものすごい声量が辺りに響き渡っていた。
おそらく発生源は頭上だ。天を仰いで目を凝らしてみるが、葉が邪魔して発生源を見つけられそうにない。
早々に諦めて、公園の観察をする。
公園とは、広々とした敷地に木々が植わっている場所のことを指すのだろうか。
確かに自然豊かな場所ではあるが、舗装された歩道や植物の配置、手入れされている様子から人工的に作られた広場であることが分かる。
遠くに用途不明なオブジェらしきものも見受けられる。
一体公園とは何をするところなのか。
頭を悩ませていると、リョーイチはおかしなオブジェの側まで歩いていった。急いで後についていく。
色鮮やかに塗装の施されたそのオブジェは、緩やかな曲線と複雑な構造で、その用途を全く連想させない。
住むには狭く、落ち着けるようなスペースもなさそうだ。
リョーイチは近くで座ってじっとこちらを見ている。魔法使いにしか分からない感性で作られた芸術作品か何かなのかもしれない。
リョーイチは暑さに弱いのだろうか。汗をよくかいている。
ぐったりした様子で、先ほど寄ったこんびにで購入したらしい飲み物を飲んでいた。
リョーイチは俺にも同じものを手渡してくれたので、同じように飲んでみた。
いつも水や色のついた甘い飲み物をくれるからそれと同じ要領で口に含んだが、思いもしない刺激が口の中に広がり、思わず吐き出しそうになってしまった。
痛いとまではいかないが、咥内をチクチクと刺激する感覚は未知の感覚で、何とも言えずにリョーイチの方を見た。
しかし、逆にリョーイチの方が俺の様子に驚いており、そして次の瞬間には笑い出してしまった。
リョーイチは優しい。
こんな俺相手にも甲斐甲斐しく世話を焼いて、あまつさえ勉強の面倒までみてくれようとしている。
親切だし、滅多に怒らない穏やかな性格をしているし、総じて優しいと評してはいたが、なんせ表情が読み難いものだから確信が持てずにいた。
元居たところでは、顔立ちがはっきりしている人間が多く、感情が顔に表れやすい人間が多かった為、その機微を汲み取って行動に移すことが出来た。
しかし魔法使いは皆そうなのか、ここで見かける人間の大体は、基本顔のパーツが小さくあっさりとした顔立ちをしているので、正直何を考えているのか全く汲み取ることが出来ずにいたのだ。
こうしてリョーイチが笑っている姿は、とても俺の心を落ち着かせた。
リョーイチは、間違いなく、優しいのだ。
リョーイチにつられるようにして、口元が綻んだ。
それから何度か公園へと行く機会があった。
木々の上から降り注ぐ声の正体は、蝉という昆虫であること。
公園はここに暮らす人間の憩いの場であること。
不思議な形をしたオブジェは、遊具と言って、主に小さな子供の遊び場になっているということ。
最初に抱いていた疑問は次々と解決されていった。
相変わらず他人の視線を気にしてしまう俺のことを思ってか、リョーイチは夜の公園へと連れていってくれることもあった。
もしかしたらリョーイチが暑い日中を避けたかったという理由も含まれるかもしれないが。
外に出れば否応無しに他の魔法使いに遭遇してしまう。
言葉を交わすことはなかったが、視線を感じることはよくあった。
その中でふと気付いのだ。
この国の魔法使いたちは、俺の正体に、外見だけでは気付くことが出来ないのではないだろうか、と。
俺のことに全く気付いていないのか。
或いは、気付いていても確信が持てずに追求出来ないのか。
はたまた、気付いてはいるが、追求する気がないのか。
何にせよ、目下、俺の立場について言及される心配はないということだ。
俺が隠し事をしていることに、リョーイチは気付かない。
俺が嘘を吐いても、リョーイチにバレることはない。
当面の不安は拭われたはずなのに、少しも心が安らぐことはなかった。




