外 2
なんとか無事に買い物を済ませ、公園へと向かった。
レイジの様子を見る限り、俺以外の人間、それも老若男女問わず、恐怖の対象となっているようだった。
出会った当初の俺に対する態度を考えれば納得もするが、だからといって出会う人間ひとりひとりに慣れる為に時間を費やすことなど到底不可能だ。
(対人恐怖症のひきこもり小学3年生ってか)
その代わりといってはなんだが、車や建物、植物などは興味深そうに観察している。
部屋の窓から眺めていたものだから初見ということもないのだが、車などの乗り物に関してはもっと驚かれると思っていた。レイジの故郷は文化レベルの低いところだと思っていたが、もしかしたら車などは身近にあったのかもしれない。
「くるま」
「そうだな」
「くさ、き、き、はな」
「そう」
分かるものの名前を指差しながら俺に確認をとってくる。
「き、たくさん」
(車より植物の方が嬉しそうだもんな)
緑が多いことが嬉しいのか、近付いてきた公園の青々とした木々に目を輝かせている。
レイジは表情が出るようになったとはいえ、俺が今のところ読み取れるのは怖がっている様子、嬉しがっている様子のみだ。しかも満面の笑顔、というよりも目が輝く様子から喜んでいるのだろうと勝手に汲み取っている程度だ。
(飯食ってる時は大抵目を輝かせているから嬉しいことには間違いないだろうけど)
「こうえん」
「そう、公園」
公園に到着すると、さすがに炎天下で遊びまわる子供は少なくて、地熱がもわりと蒸発する様がただっ広いグラウンドに広がっていた。
一体公園内の木々だけで何匹の蝉がとまっているのだというほどの喧騒が上から降り注ぐ。
木陰のベンチに腰を下して一息。
(真夏の散歩は軽率だった...)
一人反省会をしている俺をよそ目に、レイジはそわそわとあちこち見回している。
遠くにまばらに人影が見えるものの、こちらまで少し距離がある。
他の人間が近くにいないことに安心したのか、思いのままに行動しだした。
レイジは公園を縁取るように植えてある生垣に興味津々といった風である。
背が高い木々を仰ぎ見たり、木の幹にそっと触れてみたりしている。
(自然大好きっ子か)
内心突っ込みをいれつつ、情操教育、情操教育、と自分に言い聞かす。
少し離れたところにある遊具にも興味があるみたいだが、俺から一定以上の距離離れるのが不安なのか、行こうとはしない。
いつもは子供たちで賑わっている遊具も、この真夏の昼間の時間帯だからだろうか、周りの喧騒から取り残されたようにひっそりしている。
「....行ってみるか?」
休日のお父さんよろしく、重い腰を上げて遊具の側までのっそりと歩く。
遊具の側にもベンチがあるのだが、あいにくそこは日陰になっていない。
仕方なく日陰になっている花壇の縁に腰掛ける。
レイジは興味深そうに遊具の周りをぐるりと、時折遊具に触ったりもしながら、そのまま一周して俺の横へと戻ってきた。
(遊びたかったのかと思ったけど違ったか)
頓着する様子もなく、地べたにそのまま座りこんだ。
「温くなってるかもしれないけど」
コンビニで買ったジュースを渡す。
触った感じまだ辛うじて冷たい。
温い炭酸ほどまずいものはない。さっさと飲み切ってしまおう。
俺が飲む様子を見て、レイジもペットボトルの口を開けた。
レイジが口に含んだ途端にむせ返したので、俺も危うく噴出すところだった。
「っな、ど、大丈夫か?!」
咳き込むレイジの背中を摩りながら聞くと、レイジは口を押さえて俺に涙目で何かを訴えている。
なんともなしに炭酸飲料を買ってしまったが、レイジは苦手だったようだ。
驚きと困惑を浮かべているレイジの様子が面白く、思わず笑ってしまった。
「ははっ!炭酸だめだったか、レイジ!」
笑う俺の様子を見て、レイジは複雑そうな顔をしながらも、口角を少し吊り上げた。
声も上げず、はにかむようにして、笑った。
こんな暑い中でも連れ出した甲斐があったものだ。
レイジの小麦色の肌は夏によく馴染む。
(これからも少しずつ外に連れていこう)
そう思わせた。
そしてこの公園はレイジの定番の散歩コースになった。




