第七話
最終日のテストは、英語と国語。
英語は、僕の苦手な英作文が最後にあって、しかもそれが20点分らしい。テーマは「世間の風潮に関して思うところを100語程度で書け」か……。僕はそれなりに世間には満足しているつもりだから、何もネタが思い浮かばない。清水いわく「こういうのは不満に思っていなくてもテキトウに書けばいいんだよ」らしいけれど、それが出来たら苦労しない。それが出来ないからこそ、こうやって苦しんでいるっていうのに……。
そんなことを考えていると時間が無くなってしまうので、とりあえずお母さんの言っていた「異常愛者を異性愛者と呼ぶことについて」というテーマで書くことにした。普段から何度もその話を聞かされているから、基本的な論点とかは自分でも把握しているはずだからだ。
I believe that so-called "hetero-sexual people" should be called "abnormal-sexual people" as in the past. First, (……)
(僕は、いわゆる「異性愛者」は、これまで通り「異常愛者」と呼ばれるべきだと思います。理由としては、まず一つに、……)
……自分で書いている文ながら、世間の目が僕のことを蔑んでくるみたいな気持ちになった。お前は病気だ、お前は普通じゃない、存在しているだけで害だ。……そんなことは頭ではわかっているけれど、僕は死んでしまう勇気がないから、仕方なく、いろいろな衝動を抑えながら、どうにか生き延びているんだ。そのうえ、こうやって世間の風潮に合わせて、自ら「異常愛者ってキモいよね、ウケる」とか嘘をついて、自分の心にナイフを刺し続けなきゃいけないんだろう。
「はい、やめ。 後ろから答案を回収してください。 枚数確認が終わるまで私語してはいけません」
英語の試験が終わった。それと同時に、時々襲ってくる何か怖い気持ちも強制的にどこかに去っていった。
次の国語のテストは、得意教科でもあったし、さっきみたいに自分と会話せざるを得ないような作文も無いので、つつがなく終了し、無事に夏休みを獲得した。
「いよっしゃ! 涼介! おれたちの勝ちだ! 夏休みだ!」
「お、勝った、ってことは、お前、苦手だった国語もどうにかなったのか?」
「うるせえ、それは気にしないんだよ。 どうせテストの点数が悪くったって死刑にはならねえから」
「テキトウだなあお前も」
清水がこっちに飛んできて、騒がしく話しかけてきた。先生が出て行ったことを確認すると、清水はすぐにネクタイを取って、乱暴にカバンに突っ込んだ。そのくせ、いつもはそれなりにきちんとした制服の着こなしをしているので、本当に要領の良いやつだな、と思わされる。
「よっす! お二人さん! 横浜のルービー祭りのこと、覚えてるよね!?」
そこに香奈が加わって、騒がしさが3倍くらいになった。
「おう、覚えてるぜ。 良いもん見つけてくれてありがとな。 明日は飲むぞ!」
「おいおい、曲がりなりにも未成年なんだから……」
「涼介くんまっじめー! いいじゃん、飲もうよ!!」
清水が、民主主義的な多数決、とかいう意味不明なことを言い出し、2:1で僕も明日は最低一杯は飲まなければいけないことになった。少数派の意見も聞かないなんて横暴だ!と抗議したが、1年くらい前に間違えて店でウーロンハイを飲んだことがあり、そのせいで酒に強いことが清水にはバレていたので、控訴は却下された。まあ、いいか。