第六話
翌朝、目覚まし時計によって無理矢理起こされ(と言っても設定したのは僕だけれど)、多少不機嫌になりながら起き上がる。すると、スマホが何やら言いたげに、通知ランプを光らせている。
『おっはよー!(やたらに元気な笑顔の絵文字が3つ)
起きてるかい? 寝坊するなよ!!
今日のテストが終わったら、晴れて夏休みだ!!!(わーい、みたいな顔文字)
そういうわけで、早速だけど、明日一緒に出かけようじゃないか!!!
横浜で、とある飲み物のフェスティバルが開催されるらしいぞ! なんでも麦でできていて……おっと、これ以上は機密情報だから伏せておこう。(にやり、みたいな顔文字)
追伸! 清水も誘ってあるからね。(にやり、みたいな顔文字再び)』
香奈から、テンションの高すぎるメールが来ていた。僕のテンションも、送信者の名前を見た時点で最高に上がり、気分が良くなった。目覚まし時計よ、汝の罪は許そう。
……でも、横浜で開催されるフェスティバルで、麦からできている飲み物を販売している、って……高校生の僕らは参加しちゃいけないやつなのではないだろうか。香奈は時々、こういう無茶苦茶なことをしたがる。なんでも「無茶は若いうちにやらなきゃね!!」だそうだが、さすがに法律には触れちゃいけないと思うのだけれど……。
『おはよ! 誰かさんのテンションMAXなメールで完全に目が覚めた。(笑っている顔文字)
横浜のビー……なんとかフェスティバル、了解。詳しくはテストが終わったら相談しよう!
清水はいてもいなくてもいいや(笑っている顔文字)』
僕は手早くメールを返し、布団を出て、制服に着替えた。心が浮き立っているせいか、いつもより体が軽い。そしてパンの香ばしい匂いのする階下へ降りていこうとした矢先、スマホがピンピロリンと鳴った。この「ピンピロリン」は、香奈が「なんか可愛いよね!!」と気に入ってくれた着信音で、それ以来、ずっと使っている。
『わたしはいつだって元気だぞ!! 私がいれば日本の気温3度は上がるから!!! もっと!熱く!なれよ!!!
ともあれ、青年よ、照れなくていいんだぞ。(にやにや、みたいな顔文字)』
朝から本当に(視覚的に)元気でうるさい子だ、とニヤニヤしていると、「ニヤニヤしてないで早くご飯食べちゃいなさい!」と、母親の声が聞こえた。メールの返信は置いておいて、スマホをスマホにしまい、僕は朝食の為にリビングに向かった。
パンをかじりつつ、なぜさっき僕がニヤニヤしていたのが判ったのか訊いてみたら、「キッチンにいたのに判るわけないじゃない。カマかけてテキトウに言ったの。……でも本当にニヤニヤしてたんだ、へえー。」と、とても腹立たしい返答が帰ってきた。エスパーかと思ったのだが、僕の母はいたって「普通」の人間らしい。
「でも、なんでニヤニヤなんかしてたの。 あ、意中の男の子からメールでも来てた? 思春期だもんね、涼介も。
あっそうだ! 彼氏ができたら、うちに招待しなさい。腕によりをかけて、おもてなししてあげるわ」
こちらも朝から騒がしい人間である。おしとやかを演じて、竹川クリスタル? なんか違うな、でもそういう感じの名前をしたタレントの真似をしながら、「お・も・て・な・し」とか言っているけれど、表情がめちゃくちゃ騒がしい。もう、香奈と互角なんじゃないかというくらいに騒がしい。
でも、騒がしいけれど、嫌いじゃない。だから、僕は、この日常を壊したくないんだ。